決闘と友情
「おはよう、お兄ちゃん」
挨拶しながら起きてきたノアに、俺は「おはよう」と言って返す。
「友達は出来たか?」
「ま、まあね」
そう言って濁すノア。
俺だけは孤独か……、と一人物思いに耽っていたら、ノアが聞いてくる。
「そう言うお兄ちゃんは?」
……。
俺は笑顔で答えた。
「俺に出来ると思うか?」
「思ったからきいたんだけど」
ああ、うん。認識の違いか。
「……出来てないよ」
俺は正直に答えた。
「なんか、意外」
「どうしてだ?」
不思議そうな顔をするノアに俺は問いかける。
「だって、お兄ちゃんって……なんだかんだ、優しいじゃん」
「そうか?」
自覚はないが、もしもそうなら……優しいだけじゃ足りない、ということか。
自分で言ってて少しいやになるが、俺は人をひきつける才能は皆無だと思っている。そんな才能があれば、もっとたくさんの仲間がいるのだろう。
そう考えると、今の暮らしは奇跡なのかもしれない。
「きっと、出来るよ」
そう言って微笑む目の前の少女も。
俺はただ一言だけ、言った。
「ノアだって、きっとできるさ」
ノアは少しだけ驚きつつも、また微笑んだ。
**********
朝食。
「そういえば~、クラスの女子がね~、ジュンヤのこと~、『ヤバいくらいかっこいい顔してる』って~」
「え? うそだ」
「ほんとだよ~。ジュンヤはもっと自分に自信を持ったほうがいいよ~」
「そ、そうか?」
「……実際そんなにかっこよくないけど~」
「なんだよそれ!」
そんな、他愛もない会話をしていた。そのときである。
いきなり、窓が割れた。
そして。
「うっ……!」
俺の頭に何かが刺さった。
一瞬気が遠くなったものの、すぐに持ち直し……。
「痛っ!」
生死の狭間に立たされていたことを実感した。
これだったらこのまま気絶したほうがよかったかも……はっ、いま何を!?
「回復……これ、矢文だね」
ユウが引き抜いて、さらに回復魔法をかけてくれたみたいだ。
「ちょっ、貸して!」
俺はそれを半ば奪い取るように見て、驚く。
そこにはこう書かれていたのだ。
“決闘状”
**********
「何のつもりだ、これを送りつけて」
廃墟街の大通りにて。
俺は決闘状の送り主に向かって叫んだ。
「何のつもりも何もないだろう。ただ、あんたと戦いたかっただけさ」
「じゃあ、なんでだよ」
「なにがだい?」
目の前の怪しげな女と、彼女が率いる、大量の、臨戦態勢のチンピラたちに向かって、叫んだ。
「こんなに大量の仲間を引き連れて、何が決闘だよ。一対多とか……ただの集団リンチだろうがよ!」
「ふふふ、それがどうしたんだい? タイマンだとはどこにも書いてなかっただろう?」
「チッ!」
俺は舌打ち。
「ただ、アタイの子分の礼がしたくてねぇ」
「……あの決闘状、“復讐状”の間違いだったんじゃねーのか?」
「それがどうした?」
皮肉をぶつけてみても、さらっとスルーされる。
この女、強い……。
「さあ、戦いを始めようか。行くぞ、子分たち!」
『オ――――!』
迫ってくるチンピラたち。
俺は恐怖に負けず、チンピラたちをなぎ倒していった。
「はあっ……はあっ……。やるな、お前……」
「はあっ……はあっ……。あんたもな……」
俺は太い木の枝を片手に、女は古びたベルトを片手に、それぞれ息を荒くしていた。
周りには動けなくなったチンピラたちの死屍累々とした姿。
それを横目に、俺と女は睨みあう。
「あんた、名前は?」
「岩谷純也だ。お前は?」
「ネーゴ・ストラビア。覚えておくぜ、ジュンヤ」
「ああ、こちらこそ。ネーゴ」
俺たちには、ある一種の友情のような物が芽生えていたのかもしれない。
口角を上げながら、俺たちは武器を構え――。
「コラァァァァ! 何をやっている――!」
厳しげな女声。それだけでわかった。
『デストロイヤーだ……』
デストロイヤーこと、レニウム先生。
半ば反射的に危機感を覚える。
「ネーゴ!」
「おう!」
もはや言葉なしでも通じ合っていた。
俺たちは走った。
路地裏まで逃げて――捕まった。
その後、厳重注意を受け、釈放されたときには、もう空はオレンジ色に染まっていた。
「綺麗だな」
「なにがだ?」
「夕日だ」
廃墟街に戻り、ビルの谷間から見える夕日を見る。
「……正直さ、ここまで本気で戦えたのは、あんたが初めてなんだ」
「ネーゴ……」
「だからさ、今度また戦ってくれないか?」
俺は少し間を置いて、答える。
「ああ、わかった。約束だ」
笑いながら、俺は拳を差し出した。
ネーゴは、一瞬きょとんとした顔をして、すぐに微笑み、俺の拳に拳をぶつける。
それから、二人で笑いあった。
日が暮れるまで。夕日が沈むまで。
ずっと、ずっと。
次回予告!
偶像に友達などいない。いや、できることはない。
皆から崇められ……遠くで見つめられるだけ。
偶像は反感を買う。
新しければ新しいほど、人気であればあるほど……また、狙われてしまうものなのだ。
次回、「力ある者の宿命」