嵐を呼ぶ少女
彼女らは、転入してきたその日、学園を変えた。
学園の校門に入った二人は、一瞬で注目の的となった。
一人は、肩まで伸びた、美しいウェーブのかかった金髪を持つ強気そうな少女。
もう一人は、首のあたりまで伸ばされた短めの銀髪、少女というより可愛らしい少年を思わせる様な優しげな少女。
二人ともこの世に数十人といないような美貌の持ち主であると、通りがかった人間は言う。
その朝、その二人は手をつないで教室に入った。
「自己紹介して……」
教師が言い終わるのを待たず、ウェーブのかかった金髪の少女が言った。
「わたしの名はリリス! 元上きゅ……」
「リリスちゃん、それは言わない約束だったでしょ!」
何かを口走ろうとしたリリスを、短めの銀髪を持つ少女があわてて止める。
「お、おう。ごめん、ノア」
「うん。それでいい」
そして彼女も前を向き、自己紹介をする。
「ボクはノア。リリスちゃんの彼女です!」
ノアがにこやかに告げたそのとき、教室内は一瞬凍りついた。
この世界でも、やはり同性愛はマイノリティだ。それに対する差別や偏見もまだ厳しい。
なので、隠さずに、むしろ公表していくというのは、普通ならとても難しいことなのだ。
それなのに彼女は言った。それも笑顔で。無邪気に。
「先生、座席は?」
リリスが聞くと、呼ばれた教師はあわてて指示する。
二人はその席に座り……ちょうど隣同士になったから、といってキスをした。
美しく可愛らしい少女同士の、甘い、ただただ甘いキス。
その教室にいた人間は皆、それに見惚れたのであった。
それからすぐに、二人は有名になっていく。
立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は……百合の花。無論、ダブルミーニングである。
そのありえないほどの可愛らしさ、ところかまわず咲く百合の花。さらには――
「じゃあ……この問題がわかる人~」
『はいはいはーい!!!』
「……なら、そこの……金髪のほうの転校生!」
「はい! 魔術とはそもそも――(以下略)」
「もういいから! 正解だから! というか僕自身も覚えてないところまで! もうやめてくれ!」
永く生きたことによる、そのとんでもない知識量で教師たちを翻弄したり。
「ノアくん! パス!」
「ありがとう! 一気に決めよう!」
「ちょっ! ノアくん速いよ!」
「じゃあ、シュートしちゃうよ!」
「うあぁ! こんなの受け止められねぇ!」
「やった! ゴールだよ!」
『きゃ――っ! ノアくんすご――い!』
「……Bチーム、これで12点目っと」
冒険者経験から来る、同年代にしては圧倒的な体力を使って体育の授業で大活躍したり。
普通のなろう系俺TUEEE小説さながらの勢いで、二人は有名になり、それに伴って……
「ねえ、わたし、あなたの事が……」
「すき、なのよね」
「女の子同士なのに……変かな」
「変じゃないわよ。リリスさんとノアさんを見てれば、自然とわかるわよ」
「だよね……! 付き合って!」
「もちろん、いいわよ」
学内ではこんな微笑ましい光景や――
「先輩! 何してんすか! やめてください!」
「暴れんな……暴れんなよ……」
「タドコロさん!? ちょっと、まずいですよ!」
「――お前の事が好きだったんだよ!」
「先輩……」
こうして最後には二人で幸せなキスをして終了する、漢たちの純愛物語なんかも展開された。
マイノリティが払拭されていったのだ。
リリスとノアの二人が魔術学園小等部全体のアイドルと化すまで、さらには高学年に同姓異性問わず、カップルが急増していくまで、一日もかからなかった。
**********
「そんなことになってるって風の噂で聞いたんだけど……ホントかな?」
アリスが聞く。
聞かれたリリスが夕食の飲み物として出した牛乳を鼻から噴き出した。
「……げほっ、げほっ。そんな馬鹿な! わたしたちが学園でアイドルと化している!? そんなの知らない!」
「まあまあ、リリスちゃん。他人からどう見られてるかなんて、自分たちにはわからないものだから。何人か、僕らのことを可愛いって思ってくれている人がいる、ってだけじゃん」
「何百人単位でだぞ?」
「うわぁ……。それは考えたことなかったな……」
ノアが苦笑いしている。
一応ノアの義兄とリリスの弟子を兼任している(らしい)俺としては嬉しい限りだが……反面、少しだけ切なさを感じた。これが独占欲というものだろうか。
「そういえば、ユウはどこですか?」
あ、そういえば、姿が見えないな。学校も行ったはずなんだが……校内では姿を見なかった。一体どこに行ったのだろう。
**********
「次のターゲットは……そうか」
目にかかった黒い髪を夜風になびかせながらその男は呟く。
彼は何もないところに右手を出し、目を閉じる。
すると、次の瞬間、青い稲妻が、差し出した右手の周りに光る。
それはどんどん大きくなり、そのうちにポリゴンのような物体が少しずつ出現していく。
ポリゴンのような物体は少しずつ形を変えていき……一分ほどで小型の吹き矢セットが現れた。
彼はそれを構え、ふっと発射。
それは目の前を歩いていた男に当たり……その男は、吹き矢に塗られていた即効性の毒によって、すぐに苦悶の声を出し、30秒ほどで死亡した。
ジュンヤは「ターゲットは死亡」とだけ呟き、夜の闇に消えていった。
ちなみに、殺された男は指名手配中の殺人犯だったという。
次回予告!
あ、そういえば、この作品が別の小説投稿サイトに転載されてるらしいよ!
ノベルアッププラスって言うサイトに、1からリメイクされて連載中、とのこと!
でもこっちでの更新もまだ続けていくつもりみたい! すっご~い!
でも二週間に一回は流石にすくな(粛清)
次回、「噂と喧嘩」!