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精霊少女と吸血姫

 

「くっ……不覚……っ!」

 私――シリカ・ブラッドは暗い石造りの通路の中で唇を噛んだ。

 ああ、なんであんな見え見えの罠に……。よりにもよって、優等生の……貴族の……4代目“吸血姫”の私が!

 後悔してももう遅い。

 ここは探索済みのダンジョンの隠し部屋、のはず。

 だから、なにも現れない、と思う。確証はないけど。

 大丈夫、私は優等生。ただでさえエリートな吸血鬼族の中でもエリート中のエリートの吸血姫なのよ? どんな敵も、一撃よ!

 ほら、そこに魔物がいる……。

 それを狙い……生命力を一気に吸い取る!

 目の前にその魔物が倒れる。これでこの魔物は死んだはずよ。

 こんな感じで、どんな敵も吸血鬼の力で簡単に倒せちゃうの。私は絶対に負けないわ!


 しかし、しばらくしてから、甘い判断が命取りになることを学んだ。

「ひい……っ……」

 とても大きな……普通の庶民の家くらいなら簡単に飲み込んでしまうような大きなスライム。

 生命力を吸っても吸っても……ぜんぜん衰弱しない。魔力も。

 私は純血の由緒正しい吸血鬼だから、いくらでも力を吸えるわ。

 でも、いくら吸っても減らないの。

 そんな化け物ははじめて。どうしたらいいのかわからなかった。

 とりあえず真横にある石の壁を殴って、壊す。

 “吸血姫たるもの、腕力を使って物を壊すことはしてはならない”と言いつけられているけど、このときはなりふりかまっていられなかった。

 石の瓦礫の中から、適当な大きさの破片――8歳の私の身長よりも大きい――を探し出して、スライムに投げつける……けれども、スライムはそれを「にゅるん」と取り込んでしまった。

 全然効いてない。

 それを悟った私は床にへたり込んだ。その床には水溜りが広がって行く。

 そんな……この私が……負け……?

 スライムが形を変える。

 まるで、触手のような形に、変化する。そして、私を絡めとり――焼け落ちる。

「え……?」

 まさか……誰かが、助けに来たの……?

 落ちた私を支えるのは、私と同じ位の、小さな細い腕。

 上に見える、そのかわいらしくも勇敢な顔は、少しだけ口角を上げながら、呪文を叫んだ。

「渦巻け、死を呼びし炎の竜巻! 火炎嵐(ファイア・ストーム)ッ!」

 瞬間、その言葉のとおり、火炎の渦がスライムを襲った。一瞬でスライムの影は消え去った。


「か、感謝……するわ……」

 私は恥をこらえながら目の前の少女に感謝を告げる。

「いいの。ただ助けたくて助けただけだから」

 屈託のない笑顔を浮かべながら、赤い髪の彼女は言う。

 ああ、お母様に、お婆様にも、叱られちゃう……。

(偉大なる吸血鬼の子がこんな庶民に助けられるなんて)

(情けないわ。こんなに弱い吸血鬼が、よりにもよって、この高貴なる吸血姫の血を引いているということがね)

 捨てられて……いや、口止めで殺される……? やだ……怖いよ……。

 そうすると、その赤髪の女の子が私をぎゅっと抱きしめた。

「な、なによ……」

 私は戸惑って離れようとした。だけど、彼女は放してくれない。

 やさしく包み込まれるような感覚。暖かい。

 気が静まっていく。落ち着いていく。

 頬が濡れていく。

「助けてもらったって、いいんだよ。君は、立ち向かう勇気を持ってるから」

 よく、わからない。けど、心の中の何かが解けほぐれたような気がした。

 私に、初めて“親友”ができた瞬間だった。


 ――という、三年も前のことを思い出して、微笑んだ。

「シリカ! 教室移動だよ! 起きて!」

 目の前の、赤い髪の少女――ちんちくりんな癖して、実は誰よりも強い力を持つ精霊の女の子、サラに呼ばれて、ゆっくりと身体を起こす。

 彼女と出会った日から、もう三年……思いのほか早かったな。

 そんなことを思ったら、サラに腰をつつかれる。

「なんだよニヤニヤして」

「なんでもないわよ」

「なんだよ~。あっ、さては……もうそろそろ5年生だから……」

「だからっ! なんでもないって言ってるでしょ! ……ホラ、行くわよ」

「魔法実習、今日こそ負けないから」

「望むところよ!」

 私たちはにらみ合いながら……微笑んで、二人で競うように駆けていった。


 次で今日の投稿分が終わる……ようやく……。

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