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準備――処刑の死闘


「ん……、ここは?」

「病院だ。大丈夫か? ノア」

「僕は一体なにを……ひゃっ! な、なんだこの服!」

 数分後。ノアが目覚めた。こちらは正真正銘、ノアである。

 そして、めちゃくちゃあわててる。そんなところもかわいく見えてくる。俺ってもしかしたらシスコンの才能あるかも。

「ぼ、僕が寝てるとき何があったの!? まさか……お兄ちゃん?」

 俺は全力で首を振った。

「僕みたいなかわいい妹が目の前にいて何もしないはずがないって思ったのに……」

「自分で言うかそれ」

「え? 僕のことかわいいって思ったの? えへへ……」

「ち、ちが……」

 程よく男の子っぽい口調……以前より思考が女の子(本来の性別)寄りになっているような気はするが。

「お、目覚めたのか、ノア……」

「リリスちゃん! 会いたかったッ! 大好きッッ!!」

 リリスの声を聞いてすぐに抱きつきに行くあたりやっぱりノアなんだな、と再確認する。

 というか、リリスとくっつきに行かなかった時点で不自然だったんだよな。ノア(inシルフ)。むしろ、ここ最近ではそれぞれが一人でいるほうが不自然に感じてきた。


 彼女らがいちゃいちゃオーラを放っていたところで、シルフの声が聞こえてきた。恐らくもとの精霊体に戻ったのだろう。声だけが聞こえた。

「え……あの子達まるで恋人のようにいちゃついているんですけど……」

「なに言ってんの? いつからかは知らんけど、二人は付き合っているんだよ?」

「へ~。……いや納得しかけたけど、おかしいから! あの二人女の子同士でしょ!?」

 俺が答えると、シルフは驚いたかのように喋った。なので言い返してやった。笑顔で。

「女の子同士でもいいじゃないか。愛だよ、愛」

「なにこいつ怖い!」

 笑顔で話しているのに怖いとは何事か。まあいいか。


 さて。どうにか準備が完了した。したのだが。

「う~ん、どうやっても小汚いね~」

「それ俺に向けて言ってる? だったら怒るよ? さすがに俺にも堪忍袋ってもんがあるんだからね?」

 すごい失礼なチェシャに対して俺は抗議した。

 チェシャが洋服のコーディネートなどをしてくれたのだが、俺が(人並を外れているわけではないが)微妙な感じにブサイクなので、礼服的なものが軒並み似合わないらしいのだ。

 ちなみに、ノアのほうはドレスよりタキシードのほうが似合っていた。小学校の卒業式に挑む男の子みたいでまた(女の子とは違う趣で)かわいい。

 その他、特筆すべき点はない。女の子たちはみんなかわいいし。というか、ムスコさんが元気になってきた。


「う~ん、これくらいだったらどうにかなるか~……」

 そう言ってチェシャが出してきたのは、どこか、というより完全に、俺が異世界に来るときに着ていたのと同じようなブレザータイプの制服だ。さすがに聞きたくなった。

「どこで手に入れたんだ? そんな服」

「マッチョウさんにもらった~。あいつはもう着ないだろうから~って」

 と思ったら本当に自分のだったのか――! 全く描写されていなかったからどうなったのか不思議だったんだけど! まさかチェシャの手にわたってたとは!

「な、なんでもらったんだ?」

「コスプレ~」

 この世界にもコスプレなんてあったんだな……。

 こうして、どうにかして礼服を着た俺たちは一路王宮へと向かったのだった。

 

 あの人の案内で、迷わずに王宮まで来た俺たちは。

「ここに来るのも二度目だね……うぷっ」

「ノア、負けるな。いまのお前は男の子なんだしよ」

「うう……」

 ノアの高級品酔いに対処していた。王様との面会の前にどうにかしなくては……。

 

 さて。

「入れ」

 と、女騎士の声。

 前と同じようにして部屋に入ると、やはり、目の前の玉座には老人が座っていた。

 魔道王国アレスの国王である。

「あなた方は……確か……前にも来た……誰じゃったっけ」

 おいおい、自分で呼び出しておいて忘れるなよ……。

「しかし、このたびは大義であった。礼を言わせてもらう」

 いや~、それほどでも……あったな。最終的に死に掛けたし。

 もちろん、声には出さない。前に来たとき、声を出しただけで殺されかけたもんな。同じ過ちは二度と起こさぬ。

 しかし、その誓いはあっさりと崩れ去ってしまった。

「うむ、これならば軍に入れても問題はあるまい」

「どういうことだ!? ……ですか!?」

 つい、声を出してしまった。

「口を慎め平民! 王に向かってなんと言う口の聞き方! 今すぐ処刑する!」

 そばに仕える女騎士が声を荒げて剣を出す。

「待ちなさい」

 それを王が止めた。

「まず話を聞こう。発言権を与える」

 これで話してもいい……ようだ。俺は疑問をぶつけた。

「ぐ、軍って、どういうことですか?」

「ああ、あなた方には兵士としてこの国に貢献してもらいたいのじゃ。そのために“学校”に入ってもらう。いい提案じゃろう?」

 俺はばれない程度に顔をしかめた。

 なんと傲慢な! みんなが自分のことを好きだと思い込んでいるのか!? そんなこと、あるわけねえじゃん。

「俺は、冒険者です。つまり、自由。誰かに指図されるいわれはありません」

 ここで生まれ育ったわけじゃねーし。愛国心なんてありはしねーし。

「ここの兵士になるつもりはありません」

 拒否してやる。俺はもう誰かの犬なんかじゃねーんだ。

「そうか……」

 王は寂しげにつぶやく。期待してたようだが、悪いな。

「王になんて口の聞き方だ! もういい、ぶち殺してやる!」

 女騎士がかんかんに怒って剣を抜き、こちらに向かってくる。

「……」

 俺は驚くほどに落ち着いていた。

「死ね――ッ!」

 剣を振るう女騎士。

 俺は後ろに下がり、それをかわす。

「何だと!?」

 これくらいなら避けられる。それくらいの実力はつけてきたつもりだ。

 この程度の相手になら攻撃を当てることもできる。あわよくば倒してしまうこともできるだろう。

 だが、そうはしたくない。指図は受けないが敵に回すのはもっといやだ。


「じゃが、助けてもらった礼はしたい。あなたは何を望む?」

 王が目の前の死闘を気にせず言う。

 俺は女騎士の攻撃を避けつつ、思考をめぐらせる。

 まだこの世界について知らないことが多すぎる。

 もう元の世界に戻ることは望んじゃいないが、代わりに、この世界のことはもっと知ってみたい。

 あと、リリスのこともある。

 彼女は悪魔に狙われている。それはか逃げるために旅をしているのだ。

 この世界のことを学べて、さらに悪魔を退ける程度の力を持つところ……。

 数秒だけ考えて、答えた。

「じゃあ……ッ、礼として……、学校に……っと……、通わせてもらえますか……?」


 それを言うと、王が命令した。

「……レフ、攻撃を止めよ」

「しかし……ッ」

「落ち着いて話もできぬ」

「……はっ!」

 女騎士は不承不承といった感じで剣を下ろした。

「まず、その理由を教えてくれないか」

「この世界を知りたいから、です。俺の……俺たちのまだ見ぬ世界を知るため。そして、強くなりたい。もう誰にも負けないような……全てを守れるような力がほしいからです」

 ありふれているだろうが、それが俺に言える最良の答え。

 王は、しばらくしてから答えた。

「わかった。数日後に使者を遣わそう。詳しいことはそのときに相談してもらう」

「はい。お願いいたします」


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