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無気力な生活を送る日々

 また明日な

 

 もう、何度この言葉を聞いたことだろうか。ベッドで仰向けになりながら藤本亮太ふじもとりょうたはつぶやいた。いや、正確には聞いてはいない。亮太は学生時代を幾度となく思い返しその度に友人達の声を自らの脳で再生しているのである。

 

 学校からの帰り道の何気ない会話、友人と一緒に夜遅くまで遊んだゲーム、中学、高校と必死になった部活動、受験期には友人と励まし合いながら勉強し国公立の大学に入学した。その大学も2年前には卒業している。

 

 世間一般であれば大学を卒業した後は定職に就きそこで社会人として懸命に働いているか、大学院に行き学問の研究を行っているか人が多数だろう。実際、亮太の友人たちも就職活動を行い定職に就いたもの、大学院にいき勉学に励んでいるものが多い。

 

 亮太も周りに流され就職活動を行った。その結果、定職には就いたものの、わずか3カ月ほどで仕事を辞めた。会社説明会の時に受けて抱いた理想と現実とのギャップが大きかったのだ。加えて共に入社した同期達がやる気に満ち溢れているなか大した信念もない自分が申し訳なくなったのである。会社を辞めた後はバイトで生計をたてていた。

 

 特にやりたいこともなく、夢もない。あるのは周りの友人たちに対しての劣等感と現状に対する焦燥感だ。亮太は学生時代を引きずるかのように日々バイトを行っていた。

 

 大学生時代は仲の良い友人たちと飲みに行っては夢を語り合っていた。研究者になりたいもの、起業したいというもの、海外に進出したいものと色々な夢の話を聞いた。亮太にも夢がないわけではなかった。漠然と人の助けになることがしたいと考えていた。しかし、それ以上自分の夢を明確にすることができなかったのである。

 

 現状の自分が誰かのためになっているとは考えにくかった。自分がいてもいなくなってもこの世界は何も変わらない。そのような考えがここ最近は頭の中をぐるんぐるんと回っていた。そんな時亮太は現実を逃避するかの如く過去の思い出にどっぷりとつかるのである。

 

 今日も1日前、1週間前、1カ月前、1年前と変わらない生活を送るのかと思うとため息がでる。バイトをして休んでそしてまたバイトをして、ルーティンワークのように同じことを繰り返している生活には嫌気がさしている。しかし、自分にはこの現状を打破するための力がない。

 

 そんなことを思いながら今日もバイトに出勤する準備を始めた。バイトには原付バイクで通っている。学生のころから使用しており、数万キロ走った原付バイクだ。最近は少し調子が悪く、バイトに通勤するまでの道のりにしか使用していない。

 

 バイトまでの道のりは複数ある。最短距離の道、少し長めの道、景色のいい道などがある。亮太はいくつかの道のりを頭の中に思い描きながら日々の気分によってルートを選んでいた。気分といっても基本的には最短距離でバイトに向かう亮太だがその日は違った。

 

 「今日は長めの道かな」


 バイトまでの道のりの途中で事故にでもあってしまわないかという微かな願望を込め、亮太は予定よりも早く家をでた。そして、いつものように学生時代を思い返していたのである。




 中学生時代、亮太には好きな人がいた。亮太より1つ年下の女の子である。名前は宮野真希みやのまき。亮太と宮野の両親も古くからの付き合いで家が近く、通っていた学校もすべて同じであった。

 

 年齢は違えど亮太は後輩よりも幼馴染に近い感覚を抱きながら彼女と接していた。幼少時とはいえ亮太は彼女に恋をしてた。近頃は亮太自身、部活動を行っているため小学生時代と比べて遊ぶ機会は減っていた。亮太は話しかけたいという思いはあれどお互いに学年が異なるため容易に話すことはできなかった。


 宮野はおとなしく自己主張をあまりしないタイプであったが、時折見せる笑顔に亮太はだんだんと惹かれていった。どうすれば彼女と接する機会を増やせるか、そう考えていた矢先である。


 「部活を引退した時に、宮野と一緒に帰ればいいんじゃない?」

ぼーっと宙を見ていた亮太はあわてて振り向いた。そこにいたのは同じ部活動の部員で友人でもある石田正人いしだまさとだった。

 

 「びっくりした。よく俺の考えていることがわかったな」

 亮太は崩れた姿勢を立て直しながらいった。 

 

 「そりゃあそうだ。先週、お互いに好きな人を言い合ったじゃん。それにどうやって宮野と距離を詰めようかっていってたしな」

 

 そういうと石田は笑いながら肘で亮太を小突いた。どうやら悩んでいることが顔にでていたらしい。

 「あったなそんなこと、あれ結構恥ずかしかったんだぜ」

 「それはお互いさま、俺も佐藤さんが好きなこといったし」

 石田は少しにやけながらいった。

 

 「それでさっきの話しの続きなんだけど、部活を引退した後なら宮野と一緒に帰れるだろ。そこで距離を縮めたらどうだ?幸い宮野は部活していないみたいだし」

 

 「お前、佐藤さんとは何の進展もないのにいいこというじゃん」恋愛経験ゼロの石田にしては悪くない提案だ。亮太がそう思っていると石田はすかさず「うるせえよ!」とツッコミを入れた。

 

 「俺と佐藤さんはこれかだっつうの」

 強がりながらいう石田を見て亮太は笑った。

 

 「いや、ありがとな。おかげでここから先どうすればいいか少し見えてきたわ」

 「これぐらい大したことないっての。ほら、部活行くぞ」

 「ああ、そうだな」

 

 石田はすでに教科書をしまい込み、鞄をもっていた。亮太も自分の教科書とノートを鞄の中にいれ、腰を上げた。教室はすでに数えるほどしか人は残っていない。

 

 「とりあえず、宮野とは部活を引退してからだな」教室の扉をあけながら亮太はつぶやいた。部活を引退すれば宮野と接する時間が増える。そう思うと、亮太は引退試合が待ち遠しくなった。教室を出て、部室に向かう途中に石田が口を開いた。


 

 「あ、念のため言っとくけど、早く宮野に会いたいからってわざと試合に負けるのはなしだからな?」

 



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