消えたがりと夢世界
「最近の調子はどうかな?透夜くん」
「いつも通りです。」
「そうか、じゃあ学校は行けてる?」
「木曜は休みましたけど金曜は行きました。」
この精神科に通い始めて1年が経とうとしている。
でも俺の”消えたがり”の癖は治らない。
自殺願望とは少し違う。
どちらかと言えば『穴があったら入りたい』の方が近い。
消えたい。とにかく存在を消したい。死ぬことで自分の存在が消えるなら死にたい。
物心ついたときからこんなことを言うもんだから、母親はいよいよ限界を感じて高校1年生のときから精神科に通うことを勧めた。
「透夜、」
「母さん、次の診察は来月で良いってさ。」
「……来月ねわかったわ。」
母さんは基本的に不安を顔に出さない。
いつもニコニコしてる。俺がどんなに変なことを言おうと。
(そろそろ時間か…)
俺にはもうひとつ変な癖がある。
毎日ほぼ22時45、46分頃には気絶同然に眠りに落ちる。
そしてほぼ一瞬で朝を迎える。
しかし、最近どうも様子がおかしい。
時間に備えて布団に入る。フッと意識が落ちる。
ここまではいつも通り。
(……きた)
これは、たぶん夢なんだろう。
最初はよくわからない空間にいるだけだったが、最近は慣れてきて少しその空間に滞在できるようになってきた。
(たまには散策してみるか)
なんとなく気が向いて、その空間を探ってみることにした。
足がふらふらと、導かれるような感覚。
初めてなのに場所を把握しているかのように迷いなく進む。
心地よい空気に包まれて、ふらふらと、ふわふわと、そこにたどり着いた。
「よく来たのう。待ってたぞ。」
「………………え」
「お前の考えていること、見ているもの、大体分かるぞ。トウヤ。」
俺は、目の前に突然現れた真っ白な女の子から目が離せなかった。
「わしは善罪。善罪 シロ。」
「ぜんざい…?」
「いんとねーしょんが違うぞトウヤ。圏外と同じだ。まぁシロと呼んでいいぞ。齢は忘れた。そのくらい久しく待ち侘びておったぞ。……すまん。気持ちが高ぶると舌がよく回るんだ。」
「…君は誰なの。」
「だからわしは善罪シロだ。」
「いや、何者なの。」
「トウヤは何歳だ?」
「今年で17だけど…」
「じゃあシロも17でいいかのう。」
俺がいちばん気になってる質問にはことごとくスルー。
しかし、話している内容は至って普通の世間話なのに、なぜか、とても落ち着く。こんなことを感じるのは新鮮で少し戸惑うくらいだ。
(よくできた夢だな…)
感想を漏らしたところで、夢からの目覚めは唐突にやってきた。
「………あれ」
気付いたら視界には見慣れた自分の部屋。
もちろん善罪シロと名乗った女の子の姿もない。
(なんだったんだあの夢は…)
しばらく呆然とした後、考えても無駄と判断して布団から起き上がることにした。