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SEVENTH・WORLD  作者: Question
4/12

EP1-4

暗い暗い闇の中、どんよりした何かが渦を巻きすべてを満たした空間と思しきところ。その女は僕に向かって問いかけた。

「果たして、『乱壊する歯車(クロエフ・キーマー)』。あなたには生きていることと死んでいることとどちらに価値があると思うのかしら?」

「・・・・・??それは生きていたほうがいいと思うけど・・・・・。というか君は誰?」

「私のことなんてどうでもいいわ。それにしても図々しい答えね。『乱壊する歯車(クロエフ・キーマー)』。周りの人間を壊して

乱して、取り返しのつかないことにさせてそれでもなお、生に執着するというのね」

意外な返答にやっと僕は質問の意味を理解し肩をすくめてみせた。

「ん?あぁ僕の話?てっきり人間全体の話だと思ったよ。まあそれでも答えは変わらない思いますけどね。他人は他人だ。ぼくに壊されようが乱されようがそれはぼくに壊され、乱されたのが悪いのであって僕がわるいわけじゃない。自己責任ってやつだと思うんですよね。」

こうはいったが僕には周りの人間を乱したりなんかはしない。何勘違いしてるんだコイツは。息を潜めてどのコミュニティにもあまり触れないようにして生きてきたことというのに。まあ、あまりにそうしすぎてそれを理解してくれる人もすくないのだが・・・・・。

「まあ!!実に、実に『乱壊する歯車(あなた)』らしい答えだこと。だからこそ主もあなたに興味を持っていらっしゃるのね、私としては非常に面白くないことだけれど。まあ実際死んでいるか生きているかの質問なんて答えはどっちでも同じことなのだけれどね。」

なんだか僕の答えは意外と好評なようで闇から聴こえてくる声は嬉しそうな声を出した。この頃、いや

昨日からデジット先生といいこの声といい僕の知らない言葉を連発している。自慢したくはないが基本的な知識は全て僕の頭の中に入っている。(誰とも何もしないから暇だったとかそういうのではないよ??)

『主』??確かラザレスさんも人間は『主』

のなんだかかんだかって言っていたけれど・・・・・・・・・・・・・・頭の中の情報とワードが全くマッチングしない。極めて異常なことだと自覚する。そう相手が自分の知らない次元の存在であるかもしれないということも含めて。

「・・・・・・・・・・・??」

「わからなくていいのよ。こっち(・・・・)の話だから。あなたはそうやってシナリオを壊して乱して面白くしてくれればいいのよ。ついでに『這い寄る混沌(アイツ)』をさんざんな目に合わせてくれると私としても面白くなるかしらね。」

最後の方は僕に対してというよりは独り言のようなつぶやきだった。誰だよ『這い寄る混沌(アイツ)』って知らないし、相手がわかんないことを相手に確認せずに話し続けるとすごい微妙な顔をされるんだよなあ。やっとその感覚がわかった。たしかにこれはどう反応すればいいのか対応に困る。僕は話題を切り替えることにした。つまりわからない事だらけの僕からのオープンクエスチョンである。

「ところで、あなたのお名前をお伺いしたいのですけれども、教えていただけないでしょうか?」

「あのねえあなた。さっきまでタメだったくせに

いきなり敬語なんかに変えたらすぐわかるに決まっているでしょう?何のためにあなたに声しか聞かせていないのか・・・・今のあなたは夫でも予測不能な状態にあるの。万が一、いや無限に一のほうがいいわね、あちら側のどこかにアイツが情報を漏らしている

可能性があったとして、あなたが私の名前を知り、

こちら側の存在を知り、造形物どもがこちら側の価値を知ってしまったら・・・・いくらすべての事のほとんど無関心だといえど、主が『絶対領域(テリトリー)』を侵され

少しでもその重すぎる腰を上げるようなことがあればその先にはもう何も残らないわ。」

やべえ、何いってんだコイツ。いけないけない、話がわからなすぎて言葉遣いまで乱れてきてしまった。とりあえず名前を聞けないということはわかったので、僕が聞いた情報を勝手にまとめて結論を出してしまった。

「つまり、あなたは基本的に僕たちみたいな世界の住人には干渉してはいけないってことですね。」

「その意見はよく的を射ているわ。それでも貴方に

干渉した意味、ちゃんと考えてくれるといいわね。」

「特に実のある話しもなかったですけどね。」

「ふん、最後までふてぶてしいこと。じゃあ期待しているわ。あなたが頑張って少しでも世界の寿命が延びるといいわね。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

今回学んだこと。相手にちゃんと話が伝わるように話をしましょう。




「また来たね、主様。」

あぁ『主』にノイローゼになりそう。うぅ・・・・

そんなことを思いながら目を開けてみると、案の定、クシャーナだった。察するに僕がここに来るためには

意識を失っている必要があるらしい。現実ではさっき天使に吹き飛ばされたわけだから。僕の真上から僕を

じーっと見ているクシャーナは心なしか最初に来たよりも優しい感じの顔つきになっていた。

「起き上がれないからちょっとどいてもらってもいい?」

そんなやさしい感じの言葉とは裏腹に僕はどこうとしたクシャーナの両ほほを捕まえ、起き上がる様子もなくクシャーナのやわらかい頬を引っ張って遊び始めた。もちろんストレス発散などではないよ。

理由?・・・・・・・・・・さあ、そこに頬があったからじゃない?あぁもちみたい。いやマシュマロのほうがいいのか?どっちでもいいか。

「あうあう、はなひて・・・・・・・・・・・・。」

離すわけないじゃないかー。後一時間ぐらいこうしていたいなー。いやいや、一日でも一週間でも一年でもいいやー。あははははははー・・・

「って何やってんだ僕!!!!違う違う違う!!僕はけっして違う!!」

僕がロッキーと同類なわけないよ・・・。きっと疲れてるんだ。そう深く深呼吸をして・・・・・・・・

「なんでこんなことするの?主様。」

「ごめん・・・つい目の前にいたからさ。やりたくなっちゃたんだ。」

「ひどいよっ!!理由もなしに引っ張るなんて!!」

つねっていた当初は困惑気味の彼女だったが時間がたった今は相当ご立腹のようだった。確かに僕がつねったせいか怒っているせいなのかクシャーナの両頬は赤くなっていた。

「主様っ!!私はもう怒ったよ!!物を使って私に償いの意を表して!!」

物というのは食べ物のことだろう。だってあんなに

食べたいと言っていたのだから。確かに今考えてみれば大変失礼なことをしたと思う。

「じゃあ、今度好きなものを食べさせてあげるよ。

それでどうかな?」

僕がそう言った途端に彼女の顔が緩くなる。案の定というかなんというか、わかりやすすぎる。それに気が付いたのかクシャーナはぷいっと顔をそむけるとこちらの様子を窺うような様子で僕のほうをちらっと見て、期待に満ちた声でこう言った。

「じゃあじゃあ、ネンチャクウロコガエルのフルコースで手をうってあげましょう。ほんとはもっと言ってもいいけど~私は優しいからこれだけにしてあげる~。」

「・・・・・・・・・・え?」

聞き間違いかな?

「何が食べたいかもう一回言ってもらっていい?」

「ネンチャクウロコガエル。」

「もう一回。」

「ネンチャクウロコガエル。」

「もう三回。」

「ネンチャクウロコガエル。ネンチャクウロコガエル。ネンチャクウロコガエル。」

「誰にそれ聞いたの?」

一応聞いてみたけれど多分予想はつく。そう、あの塩の人。

「うーんとねえ。ラザレスがねえ。いろいろな食べ方もおいしいけど、やっぱり生で食べるのが一番だって言ってた。」

やっぱりね。そうだろうと思った。それにしても生って想像したくない。妙に光っている体にあの粘液。

鳥肌が立ってしまう。

「粘着力でのどに詰まる感じがたまらないんだって。」

殺す気か!!というかいっそのこと死んでしまえ!!のどに詰まる感じがたまらないなんて聞いたことないし、これからも聞くことはないから!!

はあ、とため息を一つつく僕。ラザレスさんはどれだけの間違った情報をクシャーナに教えているんだろう。これは訂正するのがめんどくさい。かと言って

本当にあのカエルを食べて喉に詰まらせてもらっても困る。どうしたものか。

「ねえ、クシャーナもっとおいしいものを食べさせてあげよっか?」

もっとおいしいものを食べさせると言ってあのカエルから興味を話す作戦。

「ふーん。主様なんでも良いって言ったのに、そういうこと言うんだー。ふーん。」

「う・・・・・・・・それは・・・・・・。」

僕を見る視線が一気に冷めたものに代わっていく。

この視線は苦手だ。期待がなくなっていく目。いっそのことあのカエルは食べられないと言っておこうか。いやラザレスさんが先においしいなどと吹き込んでしまった以上完全に拭い切るのは無理だろう。小さな禍根はのちに大きなひびとなって取り返しがつかないこともある。僕の頭の中でいやな過去の記憶が短い映像となって流れた。思い出したくもない。僕の胸の中で大きな影が、闇がうぞうぞと動いた。

「どうしたの?気分が悪いの?ねえねえねえ?」

先ほどとは違った

「ごっごめん!!だいじょうぶだよ!!クシャーナに何を食べてもらおうか考えていただけでね?」

「ムムム、主様がそこまで熟考するなんて・・・・

一応聞かせてよ。場合によっては検討します。」

「うーん・・・・クレープとかケーキとか?

アイスとかもいいんじゃない?」

(アングル的にはロッキーが喜びそうだな・・・・)

そう聞いた途端むっとした表情に豹変する。まずい!!?これは地雷だったのだろうか。

「私は騙されないっ!!なっ生クリームとかイチゴとかぜーったい憧れたりなんかしてないんだから!!食べたいなんてこれぽっちも思ったことなんかないんだから」

そう言いつつも頬を赤らめ上目使いで僕をじっと見つめている。む?これはうわさに聞くツンデレというやつなのか?それにしてもなぜこのタイミングで・・・・・?しかし視界の端に映った高く積まれた本の山、その頂上にほこりをかぶっていない本。「第一世界のスイーツランキング最新版」「男性を確実に落とす!!ツンデレの極意!!」を見た瞬間一発で理解した。

「でっでも主様がそんなに私に食べてほしいんだったらたべてあげる!!」

「うーん50点かなあ・・・・・。」

僕的にはクシャーナいつものほうがいいというか・・・。

まあでもこれはケーキとクレープで手が打てそうだ。

一件落着。よかった、よかった。

「で、クシャーナさすがにもう向こうに返してくれないかな。結構時間経ってるしみんなの事心配だし・・・・。」

そういえばクシャーナの力があれば第一世界に帰れるんじゃないだろうか。だが戦いはもう始まっている。

その中でみんなを五分以内に返すのは無理な話だろう。そう、皆を返すという条件が付けばの話だが。

エリーと僕だけならいつでも帰ることができる。ただ

それはエリーが許さないだろう。仲間思いの優しい子だからね。やはり戦わないといけないのだろう。

「ねえねえ聞いてる?時間は今止まってるんだよ?」

僕は余り身長の高いほうではないがクシャーナはその僕でもすっぽり覆ってしまえるぐらい際立って小さい。

「時間が止まってるって?僕が意識を失ったところで止まってるっていう事?」

「ううん、主様が呼んでくれるまでは私はここから出れないけど、主様の意識がない間はこっちに来れるの。

でも主様強くなって自分でそうしようとでもしない限りそうならないからこっちに無理やり呼んだの。そしたら時間が止まっちゃった。」

「いや止まっちゃったって・・・・・・でもそれなら

僕が撃墜されたところからまた始まるってことだよね?大丈夫かな僕の体・・・・・・。」

「そう!!それだよ主様!!ずっと気になってたんだけどなんであんな重りを付けたまま戦ってるの?

筋トレ?それともあのマゾってやつなの?」

クシャーナが指差した方向にあったのはまあそういう本。僕はその本をさっととると下の階のほうに投げてしまった。

「クシャーナ・・・・・読む本は考えないとね。」

だが言われてみればそうだ朝試したときのあの感覚。

集中していれば人外レベルの力が出ていた。つまり

重り、鎧を脱げば防御は下がるものの速く移動できるようになることだ。

「クシャーナ変なこと聞くけどあの重りがなかったらどれくらい強いと思う?」

「うむむむむ・・・・何にもなしが一番強いと・・・

思う。」

「そう・・・・。ありがとう。じゃあ僕はそろそろ行かせてもらうよ。僕が戻れば時間はまた動くんだよね?」

「うん。主様、主様がこれから戦う相手には主様の味方の人では勝てないと思う。そして主様の力だけでも皆を守ってではきっと勝てない・・・。だから困ったときは迷わず呼んでね?力になるから。」

僕は何も言わずにただうなづくと最後にクシャーナの柔らかい白い髪を撫でた。優しい子だ。僕は自分のことで頭がいっぱいなのに、クシャーナはちゃんと人のことを思いやれる。

「じゃあケーキとクレープ楽しみにしててね。」

僕の体がまた浮き上がる。生ぬるい空気が肌に触れ

意識はまた僕の体へと戻っていった。







「いてて・・・」

僕がおぼえている限り最悪の目覚めだった。やはり夢なのか、クシャーナと会った時のことはまだぼんやりとしている。朝大体の身体能力は試したけれど、やはり装備、つまりは防具を全部外したほうが強いとはいってもなかなかその気にはなれない。まあこれから戦う相手にとってはそんなものは気休めにしかならないのかもしれないけれど。無事を知らせようと思って確認してみたところE・B・Aの通信系の機器は全て壊れてしまっていた。というか機体すらもいまや見るにも耐えない無残な姿をしている。当然と言えば当然のことなのだが、クシャーナは時間が止まっていると言っていたというのは真実だがすべてではない。そう機体が地面についているという事は、時間が止まっているのは僕がクシャーナのところにいる間のみのことのようだ。そんなことはどうでもいい。早くみんなに追い付かなければ、僕が本気で戦えば犠牲者は少なくなるはずだ。少なくとも僕はいま人ならぬ力を持っているのだから。体を持ち上げてコックピットの中から出ると一番薄いアーマーの状態に、最初に持っていた剣だけをもち僕は思い切り地面を蹴った。前方に皆の姿は見えないがただし最上階へと昇るエレベーターのほうでは黒煙が上がっていた。天使たちの姿も見渡す限り見えない。つまりは全滅したか、最上階(うえ)に上ったか。それにあの六枚翼の天使も気になる。あの強さ、一筋縄ではいかないだろう。走っていてすぐに気づいたことだが、アーマーがない時のスピードはアーマーを着込んでいるときよりもあからさまに速かった。この煙を突っ切ればもう目の前にはエレベーターがある。その時僕は何かに躓いて転んでしまった。勢いでそのまま前方に転がって行ってしまう。恐ろしいスピードで走っていたがためになかなか止まらなかった。いや後の僕ならきっと止まってほしくなかったと思うだろう。なぜなら・・・・だってそこには希望という言葉のひとかけらさえ存在しなかったのだから・・・・・。

穴だらけのアルドロスにE・B・Aの僕のと同じような無残な残骸。そして決定的なのはそこらじゅうに転がっている人。人人人人、そこらじゅう人だらけ。

それをまるであざ笑うかのようにただ無表情でその天使はそこに立っていた。いや嘲笑ってはいなかったのかもしれない。だって無表情なのだから。人間などには興味がないのだから。その顔からは何一つ読み取ることができない。ただそこにはなぜか僕にだけ向けられる殺意があった。そして僕を覆う狂気は強くなっていった。

「・・・あなたはそこらのよりは少々強いように見受けられますが・・・・・・・・どうしますか。ここら辺のとお仲間になられますか?それともあちらのほうがよろしいでしょうか。」

何言ってんだこの野郎。僕は腰にぶら下げた剣を取り出して構えた。こんな単純なこともわからないのか。

愚か、愚か、愚か・・・・・・・・・・・・・・・・・

僕の狂気が心を覆う。あぁ、あの時と一緒だ。視界が次第に歪んでいく。僕がてめえに倒されに来たって?僕がてめえと戦いに来たって?そんなわけねえだろう、馬鹿が。僕はてめえを殺しに来たんだよ。
















そこから何があったのかはよく覚えてない。ただ気づくと僕はまだ息のあるエリーを抱えてエレベーターに乗り最上階へと向かっていた。幸いエリーは大したけがではなく気を失っているだけだった。まるで外から自分を見ているような不思議な感覚で何があったのか思い出せずにぼーっとしていると不意に僕の腕をつかむものがあった。

「・・・・・・・・・・・・クロ・・・・なの?」

気を失ったと言っても相当なダメージを受けたのか

まだ片言で意識も薄い。

「ごめん、エリー・・・・。守るって約束したのにちゃんと守ってあげられなかった・・・・・・・。」

「いいんだよ、そんなもの。これは私の実力不足が

原因だし・・・・・・でも助けに来てくれたのはうれしかったかな。」

「必ず、必ず君を連れて帰る。君を待っている人がいるからね。」

「・・・・・・ありがと。」

エリーが持っていた通信機器はまだ普通に動いて、

それで生きている人がいるなら連絡を取ってみたところ、あの天使の猛攻を潜り抜け最上階にたどり着いたものたちがいるようだ。まだ仲間が集まるまで皆身を隠しているようだ。僕は告げられた場所にまだ自分で動けないエリーを連れて向かっていった。最上階はさっきまでの激しい戦いとは打って変わって物音一つしていない。それが不気味なのだ。予想から反するという事は、すなわち完全に相手の意図を見失ったという事だ。・・・・・とりあえず合流しよう。話はそれからだ。あたりに気を配りながら僕はエリーを連れて音をたてないように移動すると、集合場所へと向かっていった。集合場所にいたのは最初とは異なって

疲れきった顔をした数十人だった。ターネットさんが

看護にあたっていたがけがをしている人がほとんどだった。奥のほうには、タカさんたち三人がいる。

やはり強者。あの激しい状況を切り抜けてきたのだろう。

「よお、クロエフ・・・・・・。いけると思ったんだけどな・・・・・。ラスボスの前まで行くだけでこの様だぜ。言ってなかったが俺は能力もちなんだ。

それでも・・・・能力を使っても自分の身を守るだけで精いっぱいだった。だれも守ってやれなかったし。

救ってやれなかった。」

ジーンさんとエイドさんもそうだったのだろう。ずいぶんと浮かない顔をしている。

「いいんですよ。タカさん。それでいいんです。みんなこうなることは覚悟していたはずだし、まず自らの身を守れなければ他人助けることなんて不可能ですから。」

「でも・・・・・俺が!!!これは俺が提案したんだ!!

もとの世界に帰ろうって!!!!俺が誘ったんだ!!何もせずひっそりと暮らしていればまだあいつらは全員いきていたはずなのに・・・・。」

そういうとタカさんは頭を抱えてうずくまってしまった。あたりがしんとしてけがをしている人のうめき声だけが響いている。

「冷たいかもしれませんが・・・・過ぎてしまった話です。どうしようもありません。きっとタカさんからその罪の意識は一生消えないでしょう。タカさんが自分で自分を許すまでは・・・・ですが罪という点では僕のほうが重い・・・・・・。エリーが傷つけられて初めて気づきました。」

そういうと僕はタカさんに背を向けると最上階の中心のほうへと向かって歩き始めた。

「おいどこ行くんだ!!準備をしてから皆で行かないと・・・・・」

「それでは間に合わない人がいます。」

「なら俺も・・・・能力はまだ使える!!」

「・・・・・だめですタカさん。あなたの精神状態では今能力を使えば暴走どころか堕落する危険があります。そうしたらだれにも止められません。」

「一人で勝てるのか!!?相手は神だぞ!!」

僕は振り向いてもう一度タカさんに向きなおった。

僕のことを仲間として本当に心配してくれている

タカさんの姿がそこにはあった。しかし仲間を失った

ダメージが大きいのか前よりも少しこじんまりして見える。僕は後悔していた。なぜみんなが死んでしまう前に自分の力を使わなかったのか、エリーが傷つく前に自分の力を使えなかったのか。そしてそれ以上に

神に天使にそして自分に僕は怒っていた。もう迷惑はかけられない。誰も死なせない。迷ってる暇はない。

「決着をつけてきます。」

僕はそう一言タカさんに真正面から一言いうと集合場所を後にした。僕はかなりの罪悪感にさいなまれていた。アーマーを着込んでいるから外から見ると一見わからないのだが撃墜されたこともあるのに全くの無傷なのだ。けがで苦しんでいたみんなを見ると自分が本気でやっていないのではないかと思ってしまう。

実際クシャーナの力は使っていない。ラザレスさんとの約束もあるし何よりも五分という時間制限を聞いた後ではもし使うとしてもなかなか使うタイミングを見つけることができなかったのだ。ラザレスさんには悪いが今回はクシャーナの力を借りなければならないだろう。実際に神がどのような強さで時空神ディスティニーがどのような能力を持っているのかは僕には不明だが織天使(セラフ)を従えるような実力ならば僕は全く太刀打ちできないだろう。当然僕はクシャーナの能力を聞いた以上は把握していないのでぶっつけ本番になるわけだがしょうがない。自分の右手の上に

刻まれた刻印をゆっくりとなぞる。

「我、契約により汝を召喚す。現れたまえ。」

「ケーーーッキ!!!!!」

来た。夢で見ていたのと同じ姿だ。

「あれえ?ケーキどこ?主様、ケーキ・・・・」

きょろきょろとあたりを見回すクシャーナ、当然ケーキは普通落ちているものではないのであるはずがないのだが、知らないのだろう。クシャーナはだいぶ知識が偏っているというか、常識があまり当てはまらないようだ。

「クシャーナ・・・ケーキの前にちょっと手伝ってもらっていい?」

「えええぇぇぇ~~~~!!!!」

あからさまにがっかりとした表情を見せるクシャーナ、話している暇はない。僕はすっと指を二本立てた。

「おいしいもの二倍。」

「なにすればいいのっ?」

いいのかこれで・・・・・?

「とりあえず僕と一緒にここまで来た人たちがこの世界から出るまで僕と一緒にいて欲しいんだ。」

「えっと、じゃああの人達は片づけたほうがいいのかなあ?」

指をさしたほうには天使たちが階段の前で構えているのが見えた。

「まあ、通らなきゃたぶん行けないだろうし、いないほうがいいよね・・・。」

「どーんと私に任せなさい。主様。召喚術式展開。

『堕落の巨人(ギガント・ナアダ)』よ、わが主の障害を排除せよ。」

クシャーナの足元で複雑な円形の術式が展開すると

突如として僕たちの真上に全身が真っ黒な巨人が現れた。皮膚が上から下まですべて黒い巨人。ただの巨人に似ているがこれはいったいどの種だろうか。と

思ったのは巨人が足を一歩踏み出すまでだった。

足が地に着いた途端、赤黒いオーラが巨人の足から

吹き上がる。僕はこれを本で見たことがある。全身が真っ黒というのは撤回だ。胸部には大きな赤い(コア)がむき出しになっている。堕落種だ。

原因は全く分かっていないが、一定以上の強さを持つものがなる可能性のあるものとしか言いようがない。

しかし精神状態が不安定で能力を行使する場合に発生することが多いらしい。

ステータスが異常なほど上昇し、自我を失い、手当たり次第にすべてを破壊するモンスターとなる。それに加え、種としての特性をほとんど失い、堕落種のみの

特性が現れる。巨人が上に手を振り上げ、対する天使たちの手には光でできた槍が出現する。力任せの一撃と、最高位の天使の術式によって作られた光の槍では

さすがに堕落種(ナアダ)であっても勝つことはできない。両者の攻撃がぶつかった瞬間、爆風とおなかに響くドンという衝撃が来る。生身の人間が到達する領域ではないことは頭でわかった。光の槍は巨人の腕を貫き、巨人の腕は粉々に破壊された。赤黒い粒子が空中を舞う。

全部で六体いた天使は巨人の腕が破壊されたのと同時に他の腕、両足、頭、最後には(コア)を光の槍で貫いた。

「クシャーナ・・・・。やられちゃってるんだけど

・・・・。」

そういったがクシャーナはあまり興味のなさそうな顔をして

「主様、わかってるくせに。」

といった。確かに知っているがこの目で見たことはない。空中に漂っていた粒子が(コア)が破壊された場所中心にして集まり始め赤い(コア)が再生し、(コア)を中心にして

巨人が再び出現した。これが堕落種に見られる最大の

特徴の一つだ。どの部分が破壊されようが捉えどころのない粒子となってまた集まって再生する。ただ核が

破壊されると、すべてのステータスが微妙に低下していくことがわかっている。

「わが名はクシャーナ、わが名において発動せよ『終焉』(アポカリプス)。」

僕はびっくりしてしまった。クシャーナが自らの力を発動するとは微塵も思っていなかったのだ。声もでず

呆然とクシャーナのほうを見ると、もともと白いのに

もっと白くなっていた。巨人と対照的な純白、僕が

学校で出会った時に見た光と同じ色だ。

「『万物想像』(クリエイト)」

彼女はそう一言いうと巨人のほうに掌を向けてふっと息を吹いた。巨人の足元に術式が現れると巨人から

放たれる赤黒いオーラが更に禍々しいものに代わり

そのオーラをまとった腕を巨人は振り上げた。天使たちの表情にまだ変わりはない。その様子をじっと見つめている僕にぽすっと寄りかかってくる小さな存在があった。緑の瞳にかすかに疲れの色がうかがえる。

「主様の体を借りないとやっぱり力を使うのは難しいかな。」

そういったクシャーナを僕は自分の腕の中に抱えるともう一度巨人の腕と光の槍が激突する。次は違った。

禍々しいオーラは光の槍を飲み込み、天使をいとも簡単に押しつぶした。整った階段が粉々に破壊され地響きのような音が鳴り響く。天使はいまだ無表情を装っていたが、巨人に突き刺そうとした自らの槍がオーラに阻まれ消滅したときには動揺の色が走った。呆気にとられた一体の天使を巨人の腕が襲い、また一体、また一体と、残った天使たちは反撃を試みたがそのままなすすべもなく全滅した。

「クシャーナ、もうひっこめてもいいんじゃない?

このままだと何するかわからないし・・・・」

召喚によって呼ばれた者は召喚者と主従の関係にあるのが普通で、巨人も先ほどから動かずに待ってはいるが、暴走や堕落の状態ではでは制御しきれない時もある。

「あれ・・・壊さないと。」

クシャーナはそう言って中心部にある宮殿を指差した。

「なんで?何かあるの?」

「うん、大掛かりで厄介そうな術式ができてる。壊しといたほうがいいと思う。」

うーん僕には全くそんなものは分からない。やはり

できることとできないことがあるみたいだ。僕が返事をする前に巨人が動き出した。いつもの通り腕をはるか天空に向かって突き上げる。オーラの大噴出とともに振り下ろされた腕は宮殿を屋根から破壊はしなかった。屋根に腕が到着する瞬間、巨人の腕が消失したかと思うと胸の目の間に巨人の腕が現れて巨人は自らの拳で自らの核を打ち砕き消滅してしまった。

その数秒後再び再生する。しかし明らかなほどに

その体積は激減していた。

「時空系の術式・・・・。」

クシャーナがそうつぶやくのと同時に巨人の前に

影が現れた。

「『時空の門』(ラウムゲート)同時開門。『撃天雷轟』(ブリッツスパーク)!!」

ほとばしる白いく太い電流が巨人の前にいくつも展開した術式から巨人の体にのびてまたコアごと破壊した。あまりの明るさにあまり目を開けていられない。

「・・・・すごい。術式ってあんなにたくさん出せるんだ・・・・。」

僕の腕の中でクシャーナがもぞもぞと動いた。

「違うよ主様。あれは実質二つの術式使ってるのと同じだよ。」

クシャーナがそう言うのと同時に巨人が三度復活する。しかし体積はもう元の半分以下にまで減っていた。

宙に浮くその人物は巨人を見下ろしていった。

「ふん、貴様ごときに使うのには少々もったいないような気もするが・・・せっかくだ。使ってみるとしよう。」

巨人はその腕でつかもうとするが身長がたりなくて届いていない。

「究極術式展開、『時空の大螺旋』(ラウル・スパイラル)。」

巨人は掴むことをあきらめひざを曲げる。が、その前に術式は展開していた。

「歪め。」

空を仰ぎながら放ったその一言とともに術式の中心に吸い込まれるように巨人がだんだんと崩壊し最後には跡形も残らず吸い込まれて消滅した。それを見て

彼は大きくうなづいた

「ふむ、素晴らしい、うまくいったようだな。後は

・・・ここに何の用かな?人間。」

僕の横に術式が展開し彼は僕の横に来た。

「あなたは時空神ディティニーでいいですか?」

その人はとても細くきれいな容姿をしていた。男とも女ともとれるような感じだ。

「いかにも。それでこの場所に何の用かな?」

愛想のない淡白な返答はあまり歓迎されていないことを示していた。

「・・・単刀直入に言うなら最上階に来ている人間全員を元の世界に返してほしい。」

「よかろう。さっさとゲートを使って元の世界に帰るがいい。」

ディスティニーは余りにも素っ気なくそういったものなので僕は予想と反して呆気にとられてしまった。

「・・・なんだその阿呆のような顔は、さっさとその小さいのも他のも連れて帰るがいい。あまりこの場に

長居してくれるな。不愉快だ。」

「・・・・・。」

いまだに今までのディスティニーがとった行動と今の行動のつじつまが合わずにフリーズしてしまっている僕。何がどうなってこうなったのかわからない。

「どうした、貴様。天使たちがここまで貴様らを案内したはずだ。ならば我々にはもうすることはない。ゲートは一階の奥に開いている。」

その言葉から僕の怒りは燃え上がった。

「あれが案内?ふざけないでください。案内されるのになぜ仲間を大勢失わなければいけないんですか。

それともあれは第七世界式の案内の方法ですか?もしくはあなたが昔にそうやって案内することを習ったんですか。それとも単にあなたが責任逃れするために天使たちに責任を押し付けて・・・。」

僕が立て続けに言葉を並び立てたところでディスティニーの腰から抜かれた細長い剣が僕の口に触れるか触れないかぐらいの距離に近づけられた。左右対称の美しい目がすっと細められ僕をにらみつける。

「いったん黙れ、人間。先に言っておくが私は

全知でもなければ全能でもない。つまりだな、お前が何を言っているのか全然わからないのだ。もっと詳しく説明しろ。」

そういうとディスティニーは腰に剣を納めた。僕は

タカさんたちから知った情報と自分の目で見た情報をまとめて説明した。僕が話し終えるとディスティニーはアゴに手をやった。

「ふむ、貴様が私に迫ってきたのはそのようなわけがあったのだな・・・・。ひとつ、いや二つだな、いう事がある。我々神と天使という種族に他者を案内するのにいちいち小競り合いを起こすような文化はない。もう一つは、私は二年前から外部との一切の通信を絶っていた。つまり人間をしいたげるような命令は出していない。」

「なら何で・・・。」

「天使たちの勝手な行動と思いたいところだがなんだかいやな感じがするな・・・。」

急に僕にずっともたれかかっていたクシャーナが僕の袖を引いた。

「主様あそこ見て!!誰か立ってる、近くにいるだけですごいいや感じ・・・。」

ディスティニーはばっと後ろを振り返ると建物の屋根の頂点に居座る黒い存在に目を向けた。それは僕たちが気づくのを待っていたみたいでよく通る声で僕たちに話しかけた。

「よおぉ、時空神様にぃ、乱壊する歯車ぁ。」

ディスティニーの顔に動揺の色が走る。彼は腰の剣に手をやると大きな声で怒鳴り返した。

「誰だ!!貴様は!!名乗れ!!」

そいつはてをひらひらと僕たちに振るとこう尋ねた。

「さあてぇ俺はいったい誰でしょう?ほい、ヒント一。」

そういうのと同時に彼が顔をかくしまた露わにするとそこにはさっきまでの彼の顔ではなくディスティニーの顔があった。

「あっはっはははは!!わかる?わかるかぁ?」

ディスティニーは腰の剣を引き抜き構えた。

「それは『仮面』の能力・・・!!超人か・・・」

それを聞いた彼は両手で大きなバツを作った。

「ぶっぶー!!惜しい残念!!『仮面』じゃあないんだなぁこれが。そいつは俺が喰っちまったからな。

じゃあヒント二、これなーんだぁ?」

そうして彼が胸のあたりの服を開けるとそこには真っ赤な核が、堕落(ナアダ)の核があった。ディスティニーの声が裏返った。

「堕落種!!?そんなはずがない!!堕落種に他種族とのコミュニケーションがとれるわけがない。

墜ちたものは闇にすべてを飲み込まれているのだ!!・・・貴様は何者だっ!!」

彼の周りを赤黒いオーラが覆い瞳の色も変わっていった。

「はぁい時間切れ、ヒントは二つまでって決めてんだわ。」

そう言って彼は掌を合わせた。同時にディスティニー

が展開したものよりもはるかに複雑で巨大な術式が展開した。あまりのスケールに僕たちは動くことができなかった。

「俺の名はジャック。堕落(ナアダ)を統べる王の一人さ、だからさぁこれは俺たちからのプレゼントってことになるなぁ。」

術式が赤く光り輝きだす。

「究極術式展開。『闇の大災害』(ダーク・カタストロフ)全てを喰らえ。」

術式からあふれ出した何か良くないものが地面に広がって瞬く間に侵食していく。クシャーナが僕の袖を

思い切り引っ張った。

「主様早くここを離れないと!!」

ディスティニーもそれを促した。

「早くゲートから他の世界へ行くぞ人間!!」

それを聞いて僕はたじろぐ。

「えっ・・・でもまだみんなが・・・」

「そんな悠長なことを言っている場合ではない!!

事態は急を要する、急がねば誰も助からんぞ!!」

僕は刹那の思考の後、答えをはじき出した。

「僕がここを食い止めます。あなたは僕の仲間を

連れてゲートから先に・・・!!」

「食い止めるだと・・・・貴様・・・・・・・・

わかった。」

ディスティニーはそういうと剣を地面に突き刺した。よく響き渡る声が第四世界中に響き渡る。

「今を持って時空神ディスティニーは第四世界ロストウィークの統治権および第四世界ロストウィーク全体を完全放棄することを宣言する!!」

剣を引き抜き腰に収めるとディスティニーはこちらを向いた。

「では第七世界で会おう、・・・貴様、名はなんという?」

「クロエフ・・・クロエフ・キーマー。」

そのままディスティニーは術式を発動させて移動していった。僕はクシャーナのほうへと向きなおる。

「クシャーナ、能力を借りるよ。」

クシャーナはにっこりとほほ笑んで僕のほうを見た。

「お好きにどうぞ、私の一番大切な人。」

そんな状況ではないというのに顔が熱を帯びているのがわかった。それを隠すように僕は刻印の刻まれた

右手を前にさしだし、大きな声で唱えた。

「我が刻印は証、我が身は器、結ばれし契約において

発現せよ『終焉』(アポカリプス)!!」

まるで束縛から解放されていくかのようにゆっくりと僕の体が重力から解放されていく。僕とクシャーナが一つに重なるとゆっくりとまた僕は立っていた場所に戻った。頭にクシャーナの声が響く。

「主様、わかってると思うけどなんでもいいから

剣を出して。」

それは確かに不思議な感覚だった。本来わかることのないはずなのにクシャーナが剣を出せと言ったことに何の抵抗もなく受け入れることができたからだ。

つまりそのことは僕の知識となってしまっているのである。僕は頭に浮かんだ言葉たちをそのまま口に出した。

「『万物創造』(クリエイト)・・・『ソード』。」

どこからともなく現れた無数の黒い文字たちが僕の掌の上に集まって形を成していく。その一秒後には僕の掌の上には一本の黒い剣が出現していた。見覚えのあるようなないようなその剣を僕は目の前に構えた。やるべきことはわかっている。

しかしながらクシャーナの力を借りたからこそ、僕の前方で手を合わせ薄ら笑いを顔に張り付けて無言で僕を見つめている彼が、その存在がどれだけ異質なものかという事がよくわかった。

「『絶対命令』(コマンド)座標設定、出現範囲拡大。効果範囲逆転。」

「究極術式展開、『聖光五芒星』(スターダストスフィア)」

光属性に分類されるこの究極術式は絶対防御の壁を使用者の周りに展開する術式である。その時には地面に剣を突き刺す必要がある。なぜかはこの術式の作成者のみが知っている。比較的他の究極術式に比べると安易に発動することが可能だ。とはいえ防御力というのは使用者の力量に依存する。僕はクシャーナの力を使ってこの術式の発動する座標を入れ替え、また発動する範囲を侵食されている場所に限定し、効果範囲を外からの攻撃無効ではなく、内側からの攻撃無効に変化させたのだ。つまり術式ごと彼を中に閉じ込めたのだ。普通なら僕の力が切れるまで出ることができないが、僕はクシャーナという到底人間程度の存在では受け止められないほどの存在を体の内に抱えていることになる。それだけで僕の体は消耗していくのだ。制限時間は五分。そうは言っても五分立った瞬間に僕は三日三晩動けなくなるのだ。だからその時間以内にケリをつけなければならない。もう一つの不安は彼が僕の術式を突破した時だ。彼が発動している術式だけなら食い止めることはできるが、彼が直接攻撃してきた場合きっと破壊されてしまうだろう。少しの音も立たずただ時間だけが過ぎていく。それはとても不気味に思えた。しかし変化は突然に現れた。球体の一部が黒く染まりだしたのだ。もはや物質とはいう事の出来ない術式でさえも侵食していくのだ。

「クシャーナ。術式は後どれだけ持ちそう?」

「むぅ、これはあんまりよくないかも・・・・。」

術式が音を立てて崩れ落ちた。途端に侵攻を阻まれていた黒の領域もあっという間に拡大していき、僕の足元にまで広がった。

「ちゃちいなあぁ、なんだこれ、ガラスかぁ?なあ

教えてくれよ、歯車君よおぉ。」

僕は黙ってしまった。今や無意味となった剣を地面から引き抜く。彼からはどす黒いオーラが立ち上り、さっきまではなかった角が額に二本生えていた。

「なんだよ・・・・。まだ覚醒したばっかじゃねえか

がっかりさせんなよ、」

彼は本当に落胆しているような顔でこちらを見た。

僕の頭の中にクシャーナの声が響いた。

「主様、もうすぐ時間!!後・・・避難も・・終わったみたい。」

そう言われても僕は動くことができなかった。何かを知ることができるような気がした。僕の頭の中に蟠っている謎が解けるような気がした。

「つーかさぁ、なんでお前が守ってんの?」

「主様!!早く!!もう時間がないよ!!」

唐突の質問に僕は全く意味が分からなかった。もはやクシャーナの言葉は僕の頭の中には入ってこなかった。彼の言葉だけに僕の耳は吸い寄せられていたのだ。彼のその言葉では全く文章になっていない。その文章じゃ・・・

「主語が足りねえってか?違えよ、そういう意味じゃねえよ、問題なのは『守る』、『護る』ってことさ。」

そういわれた後僕の視界がかすみ始めた。もっと聞きたかった。クシャーナの声が相変わらず頭の中に響いていたが最後に彼が放った言葉だけが僕の頭に鮮明に残った。

「お前のそれはよぉ、『壊す』為だけに与えられたものなんだぜ、忘れんなよ、お前は・・・いや俺たちは『壊す』為だけに生まれてきたんだ・・・。」









うっすらと目を開けて一番に思うことはやはり彼の言葉であったがなぜだか夢のようでもあった。謎は深まる一方だった。あの言葉、そしてなぜ僕が豪華なベットに右に猫と純白の天使、左に純白の少女に挟まれて寝ているかという事だった。二人とも幸せそうに寝ているがこのままにするわけにもいかないので僕は体を起こした。能力の過剰使用のせいなのか少し頭痛がする。僕が起きたことで二人も起きた。シェルファはうーんと大きく伸びをするとミケを抱いて僕を見た。相変わらずの無表情だ。

「おっと、ミケをかわいがるついでにあなたの見舞いをしに来たらうっかり寝てしまいました。」

何の変化のない表情のまま彼女は言う。あぁ、僕の看病はついでなんだ・・・。その後シェルファは何かに気付いたのか、キッと僕をにらんだ。

「寝顔見てませんよね?見てたら殺します、今すぐ。」

「見、見てないよ・・・。うん・・・」

「ならいいです。まあ私に殺されなくても死にますけどね、あなた。」

え?能力の過剰使用が命を削るという事なのか、そんな・・・一回の使用でそんなことになってしまうとは

・・・・それは杞憂だった。違うという事は僕が反対の腕の袖を引っ張られたことでわかった。僕は振り向いた瞬間思い切り頬にビンタをくらった。目の前で

星が飛んだがクシャーナによるものだとすぐ気付く。

小さな女の子とは思えない馬鹿力だった。

「ぬ~し~さ~まっ!!めっ!!」

反対側の頬をビンタされた。さすがにこれ以上はやばい。

「い・・いひゃいよ、くひゃーな・・・。」

頬が痛くてうまくしゃべれない。クシャーナの頬はまるで風船のように膨らんで赤くなっていた。

「何が痛いなのっ!!私が主様のためを思って

注意したのにっ・・・」

そういうとクシャーナ僕に思い切り抱きついてきた。

さっきと変わらず、すごい力だったがいやではない。

というかここまで心配をかけてしまったことがとても申し訳なかった。

「クシャーナ・・・。ごめんもう二度とこんなことは

・・・。」

「どうやって責任を取るつもり!!?」

「・・・・え?・・・・・」

抱きついたままでクシャーナが僕のセリフを遮って

言った。

「主様、そういうのは言葉じゃだけじゃなくて行動で示さないといけないと思うんだよ?」

「・・・・・・・・・・・・・・・えっと僕は何をすれば・・・・。」

「う~んそれは主様の気持ち次第だなぁ。楽しみだなぁ。むふふ・・・。」

クシャーナはさらに僕に抱き着いてたので、」僕は困ってしまってシェルファのほうへ視線を移した。相変わらず無表情なのだが明らかなほどの軽蔑の視線が痛い。

「思い切りが悪い人ですね。あきらめなさい。後、私の言葉が足りませんでした。あなたが死ぬのではなく死ぬのはあなたの財布です。」

死刑宣告を受けたような気分だった。唐突にクシャーナから手渡しされたチラシには食べ放題の文字、ペンで囲まれたVIPの二文字、値段を見て愕然とした。第一世界セントラルの超高級レストラン。夢であってほしかった。それはもはやチラシなどではなく、死刑宣告を記した紙だった。その時ベッドのわきのカーテンがすっと開いた。僕があった時とは違う服装のディスティニーが顔をのぞかせる。

「起きたか。それならば今日は私に少し付き合って

もらいたいのだが・・・・と言おうと思っていたが

ずいぶんと顔色が悪いな、やはり今日はまだ寝ていたほうがいい。」

気分は全然すぐれないが特に体調に異常はないので

僕は

「あ、大丈夫です・・・。行きます。」

と答えた。

「クロエフ、貴様が大丈夫だというのなら、ぜひ私についてきてもらおう。現場に一番近い所にいたのだからな。ではそこにある服に着替えて食事をとったら

一階に来てくれ。出発は一時間後だ。」

そう言って背を向け立ち去ろうとするディスティニーを僕は呼び止めた。

「あの・・・・・聞いてなかったんですけど、どこに行く予定なんですか?」

ディスティニーはくるりときれいに回転して僕のほうに向きなおった。

「我々がこれから目指すところは世界最高裁判所だ。

何せ第四世界ロストウィークがあのような有様になってしまったのだ。私には重罪の疑いがかけられている。そして貴様はその一部始終の多くを知っている。

だから重要参考人として裁判所のほうから要請が来ているのだ。」

世界最高裁判所という言葉に思わず僕の体がぴくっと反応してしまう。まだ現場に到着してすらいないのにもう掌に冷や汗を感じてしまっている。ディスティニーはそれに気づいたのか

「別に心配することはない。自分が見聞したことを

そのままそっくり話せばいい。詰問されるわけではないのだからな。それでは私はもう行くぞ。」

そういうとディスティニーはカーテンを開けて出て行ってしまった。ふう、とため息をついて起き上がろうとすると僕の上でクシャーナが動いた。僕をじっと見つめる翡翠の瞳。

「主様、危険なところに行くの?」

僕はクシャーナがベッドから落ちてしまわないように気を付けながらクシャーナの下から抜け出しベッドから降りた。

「クシャーナ。僕は別に危険なところに行くわけじゃないよ。というか何かあったら世界一安全な場所だろうね。」

世界最高裁判所の裁判には原則として各世界の代表、並びに必要な役職の者すべてが参加する。誰もかれもが種族を超え、名の知れ渡った有名人たちだ。もちろんあの教師失格も来るだろう。僕は置かれた服を一度来てみた。あまりの派手さに自信の姿を鏡で見て引いてしまった。こんな恰好をするのはディスティニーかそういった服装が好きな女子ぐらいだろう。少なくとも僕には似合わないし、着る気もない。近くのクローゼットを開けるとちょうどいいサイズのスーツがあったので僕はそちらに着替え、置いてある朝食をとった。(僕が食事をしている間、クシャーナとシェルファはミケとともにじゃれていた。) 

食事を終え僕たちは一階におり玄関に行った。

ディスティニーは僕の服装を上から下まで見ると

「私が選んだ服ではないな・・・。まあいいか。

ではそこの二人と獣、我々が帰ってくるまで好きなところに行っているとよい。お供に誰か行かせよう。

クロエフ、貴様はこっちだ。」

そういうとディスティニーはそういうとさっさと玄関から出て行ってしまった。クシャーナが僕の袖をひぱったので僕は少し屈んで耳を近づけた。

「主様、何かあったらすぐ呼んでね。」

見上げる瞳に何かグッとくるものがあったが僕はそれを抑えて言った。

「ありがとう、クシャーナ。でもきっとそんなことにはならないから、心配しないで遊んでいいよ。」

「うん!!何かあったらラザレスが行くからだいじょーぶだね!!」

え?あの人が来るほうが逆に危険な気がするんだけれど、かつて存在したはずのあの町で感じた背中に走るいやな感じは明らかに僕が命の危機を感じた瞬間だった。僕はあいまいな笑顔をクシャーナに返すと

シェルファとクシャーナを後にして玄関から出ると

玄関の前に停めてあった黒塗りの車に乗り込んだ。

効率化が極限までに進んでいる第一世界ではもうほとんど見ないタイプの古い車だが、乗り心地は全然

悪くなかった。ディスティニーが車の中の机の上に

資料を滑らせ、僕に渡した。

「一応だが今回の裁判の参加者のリストだ。事が

最大級だからな・・・全員総出だ。各世界代表に

第七世界騎士団、第三世界の憲兵団、第二世界の軍隊に第一世界の警備団とそれに今回は超元の神々が一柱『深淵』が参加する。もう一度言っておくが聞かれたことだけに素直に答えてくれればいい。よろしく頼む。」

僕は渡された資料に載っていた名前をざっと見るとぱたんと閉じた。問題はほとんどない。そう数個の

不安さえなければ僕はこの裁判を何の苦労もなく

切り抜けることができるだろうと確信した。

だがこのフラグを回収するように数個の不安は次々と僕に災難を振りかけてくるのだった。

車に乗ってから約10分、裁判所と思われるところに到着すると僕たちは車から降りた。第一世界のように

メディアなどは全くいない。それが逆にこの裁判所の厳かさを際立たせていた、そして何よりも災難に会うまでのカウントダウンはもうすでに始まっていた。ドアを閉めディスティニーの後について中にそそくさと入ろうとした。後少しというところで後ろから肩をつかまれた。全身の毛が一気に逆立つ。しかし振り返ってそこに立って行ったのは見知らぬ女性だった。

「貴殿はクロエフ・キーマー殿とお見受けいたします。

貴殿はこの裁判においての証言をしてもらいますので、つきましてはあちらのドアを通った後にある

部屋で待機していただけますか?お時間になりましたらお連れいたします。」

よかった・・・・助かった・・・・。内心そう思いながらほっと胸をなでおろし、ディスティニーとそこで別れて僕はドアを開けると向かいの部屋までの廊下を歩いた。ドアノブをゆっくりと開けて中をのぞき

誰もいないことを確認すると、僕は部屋の中に張ってドアを閉めた。ほっと溜息をついて椅子に座ると

ゆっくりとあたりを見回す。第一世界とはまるで違って第二世界の材木を使った繊細な作りの家具ばかりだった。僕の家と比べるとものすごくおしゃれだった。

無機質な金属の家具ばかりなのだから仕方ないと言えば仕方ないが何の音もないまま数十分が過ぎたところでやっと僕のいる部屋のドアがノックされた。

「クロエフ様、お時間ですのでご同行お願いいたします。」

僕は無言で席を立って迎えに来た人の後ろに着いた。

長い廊下を歩いていくと最初は遠くに見えていた小さな扉がどんどん大きくなってついたときに気付いたのは扉がどの種族でも通ることができるようにあなっていたことだった。僕を連れてきた人が大きなドアノブに手をかけると手前に引いた。ギイ、とドアの

きしむ音がして、扉が開く。

「お入りください、クロエフ様。」

一歩踏み込んでみれば空気が変わったことにすぐ気付いた。いるだけでの存在感、ビリビリと空気を伝って僕に伝わってきた。僕はまっすぐ中央へと歩み出た。

「まず、確認いたす。クロエフ・キーマー殿。第一世界所属、種族、人間でよろしいかな?」

周りから囲まれる位置に立った僕の正面に座る眼帯を付けた老人が僕に話しかけた。いや、老人などではなく僕はその神が主神オーディンであることは知っていた。

「はい。」

と一言答えた言葉はあっという間に吸われるように巨大な建物の中に消えてしまった。

「よろしいかな、お二方。」

オーディンが僕から視線をずらし確認する。

「第一世界代表、アールガン。これを真実であると証明する。」

そしてもう一人もこたえる。

「種族、人間代表、デジット・クレイム。これを真実であると証明する。」

ここまではよかった。確かに人に囲まれた挙句、いろいろな感情が混ざり合った視線を送られることは僕にとって耐えがたい苦痛であることは言うまでもない。しかし、事件(それ)はもっと最悪だった。お話ししよう。

「間違いないようじゃな、では本題に入るとしようか

・・・・クロエフ殿あなたを今日ここに呼んだのは

第四世界が滅ぼされた時点で、最もその理由に近い所にいたと思われるからじゃ。」

「ちょっと待ったああああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

オーディンが言い終わるのと同時に聞きなれた声が

響き渡った。事件の元凶、つまるところ僕の粗暴で乱暴で横暴な姉である。僕のこの人前で緊張することをのぞいてもおとなしい性格は姉が反面教師となって形成されたといっても過言ではない。いや、きっとそうだ。周りからクスクス、と小さな笑い声が耳に届いてそれが僕の姉に向けられたものだとしていても僕にとってはあまり気分のいいものではなかった。緊張しすぎてその笑い声ですらも自分のように聞こえて心に突き刺さる。心臓がバクバクしている。

「何の用かな、お嬢さん。否、第七世界騎士団

三番隊隊長、ステラ・キーマー殿?」

オーディンがあきらかなにあきれた口調で姉に尋ねる。

「いいか?第一世界出身だの人間だのはどーでもいいんだよ、まずあたしの弟だって言え!!バカモンが!!」

小さな笑いから一転ざわざわと周りが騒がしくなって僕に視線が注がれる。最悪だ、ほんっとに最悪だ。

「彼女のもうしている事は本当かね?クロエフ殿?」

「あの・・・本当にどうでもいいんで・・・・・・

・・・・早く質問していただけますか?」

全員黙れと思いながら言ったらこの祈りはなかなか効果のあったようで入った時の静寂が戻った。

「まずはあなた自身のことから聞かせていたただきたい 契約者とその能力を。」

僕は答えた。

「能力名はわかりません。 能力についてもよくわかっていませんが 未使用状態でも、つまり契約した時点で加算される強度のみで上位天使と対等に戦えます。」

周りがざわめき僕を見つめる奇異なものを見るような視線と嘲笑の中オーディンは僕に向けて何かを放った。僕はとっさに身をかわし飛んできたものを避けるとそれは僕を通り抜けて床に当たり盛大にはじけ散った僕はとっさに身をかわし飛んできたものを避けるとそれは僕を通り抜けて床に当たり盛大にはじけ散った。

「この裁判所の中では嘘をつくことは許されない。彼が嘘を申していないことは今私の攻撃をかわしたことで証明された。異論のあるものは審議の後にせよ。」

オーディンがそう言うとまた静けさが戻った。

「一つ聞きたいのだが、今オリハルコン等の能力阻害系の金属は身につけていないかね?」

僕は首をかしげると

「この服についてないのならつけていません。」

と答えた。オーディンは僕から視線をずらしディスティニーへと目を向ける。

「どうなのだ、ディスティニーよ。貴殿が彼に貸した服にそのようなものはついているのか?」

ディスティニーの表情はピクリとも動かない。今見てみるとまるでシェルファのようだ。

「そのような事実はない。衣服に能力阻害系の金属はついていない」

「先ほどからの言動の意図がわからぬぞ。結局のところ何が言いたいのだオーディン。」

と が尋ねる。それを聞いてオーディンは大きく口を開けて笑った。

「はっ!私が何を言っているかだと?それはな、彼がかなり上位の能力者だということだ。それも我々が想定していた最大値よりもはるかに上を行くな。」

そう言うと僕の斜め後ろに座っていたフードを被った人が席を立って外に出て行った。推測するにオーディンたちはどうやら僕に何かしていたらしい。

「では次は敵のことについてお聞きしたい。知っていることをすべてここで話していただきたい。」

僕はこの裁判で自分が不利になるのは嫌だった。いや僕ではなくてみんな同じはずだ。だからクシャーナが堕落種を生み出したことは言わなかった。

「名はジャック。自らを堕落種(ナアダ)の王と呼び、その口ぶりから考えられるのは、敵が複数いること、これから何かしようとしている事です。」

「ふむ、ジャックか・・・堕落種の王達がまた動き出したか・・・あなたの知っていることは以上でよろしいかな?」

「はい僕が知っていることは以上です。」

「ではクロエフ殿は裁判が終了するまでそこの席にてお待ちください。」

「では次だ。被告人ディスティニー前へ出よ。」

さっきまでの僕への野次馬などの比ではなかった。

罵りや怒号が僕の体を揺らした。

「貴様には身分の証明などいらぬまた弁明も聞かぬぞ!事実の全てを話せディスティニー!そうすれば貴様の罪も幾らかは軽くなろう。」

「は、重々承知の上でございます。 オーディン様

先日の事件以前の二年前より私は自室へとこもり時空系統の術式について研究をしておりました。その間自治は配下の天使達に任せ、その間にジャックがひそかに計画を進めていたものかと・・・。」

「つまり二年間気づかなかったのだな?外の変化に何一つ!!」

オーディンの拳が怒りで震えた。同時に裁判所の壁も

カタカタと小刻みに揺れた。

「貴様の術式は非常に便利なものだ。だから今までは目をつぶってきたところはあったが・・・何もかも

ほったらかしにした挙句、世界を一つ丸々失ったのだぞ!!?」

それが掛け声が引き金となって一斉に野次馬が沸き上がる。

「ああなってしまってはもうどうしようもないことだというのは誰にでもわかることではあるが・・・

あえてお前に尋ねよう。今後どうするつもりでいるのだ?」

「私が研究している間に作った術式『時空の大螺旋』(ラウル・スパイラル)これで時間を事件の前まで戻します。その後早急に対処を。」

ディスティニーの声が少し低くなって聞こえた。

「それは対象の時間を操るものだが、お前は世界を対象にできるのか?」

「無論、私の力では到底不可能なことではありますが、

クロエフの力を借りれば可能かと思われます。」

「どういうことだ。申し上げよ。」

「私が最上階にいた者を避難させている間、彼が

ジャックの術式を止めていたのですが、術式の効果範囲を自在に操ることができるようです。それを応用できれば可能かと。」

「どう思われますか?ジェノン殿。」

ジェノン、第三世界の統治者であり、唯一協力的な

上級をはるかに超える神々の一人である。

「発想自体は悪くないんだけどな・・・。それはだめだ。確かに終焉の力を借りて、その術式を発動させれば、すべての者が干渉を受けるだろうけど、完全とは言えない。特に上級を超える者たちはな。記憶が残るかもしれねえ。そしたら今回以上の惨事だぜ。

まあそれ以前にそれは『全知』 が許さないと思うけどな。」

「ジェノン殿、『全知』とは一体?」

「知らなくていい。言葉で説明できるようなもんじゃないからな。」

ジェノンがいったんその場の空気をリセットした。

「とにかくだ。少しづつ取り返していくしか手はない。

それか第四世界に蔓延した堕落種(ナアダ)の王たるジャックをたたくかだな。ディスティニーお前には第四世界

奪還の作戦のリーダーを命じよう。自分の手で第四世界を取り戻せ。それでいいな?皆の者。」

ジェノンはそれ以上は何も言わなかったが、他の者に

有無を言わせぬ圧力があって、議会の結論それで決まった。

晴れて僕は第一世界に帰ることができたのだった。

四日間音信不通だったので無事で帰ってきたときにはロッキーとロストーは喜んでくれた。(ロストーにはその後一時間ほど小言を言われた。)

皆は僕のペット探しではなく、どうやら僕探しをしてくれていたようだった。

おばあさんの家を調べてミケを返しに行こうとすると、シェルファが相当頑固に嫌がったので、おばあさんに訳を話してミケは譲ってもらった。エリーも学校に入ると、数日でクラスに馴染みこんだ。僕とは大違いだ。小さなパートナーと家に帰った時には何とも言えない懐かしさを感じた。自分の家にこんなに愛着を覚えたのは初めてのことだった。これにて一件落着。

僕にも平穏ないつもの生活が戻ってきたというわけだ。今日も天気は快晴だ。なのに、なんだか空気が

湿っているというか、どんよりしているというか

いやな感じがしているのは僕の気のせいだろうか?


To be continued

おまけ

~クロエフの日常~

とある日の授業中、

「えーですからこの結果を出すためにはこのプロセスが非常に重要でしてね。次のテストで出しますのでよく覚えておいてくださいね。」

今日は補講だ。横にロッキー、後ろにロストーが座っている。突然ロッキーが僕の肩をつついてきた。

「なあなあ、クロエフ。プロセスってなんだよ?

意味わかんねーんだけど、うまいのかそれ?」

「えー、おいしいかどうかはわかんないけど・・・

なんだったっけ?」

「過程だろ?覚えてとけよそれぐらい。」

後ろからロストーの声が聞こえた。

「そっか、かてーっていうんだな。・・・・

ん?そういやクロエフ、プロセスチーズってあるよな?」

「うん。それがどうしたの?」

「いや、だからプロセスのほうが、ナチュラルより

かてーだろ?つまりかてーちーずってことじゃないのか?」

「あぁ!!確かにそうだね!!昔の人も語呂合わせで言葉とか作っちゃうんだね!!びっくりしたよ!!」

「ふっ・・。また俺によって世界の謎が一つ解決されてしまったな・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

クロエフは机に向かって板書を取り始めた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ロッキーはつまらなさそうにペン回しをしている。

「いや、ぜんっぜんちげーから!!!!」

ついに耐え切れなくなってロストーが突っ込んだ。

大体こんな日常である。


今度キャラ紹介します。

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