EP1-3
「E・B・Aの登場を確認出撃します。」
E・B・Aが揺られて動き始めカタパルトに設置される。扉が開き僕の目に青い空が飛び込んできた。
「艦内より通信あり。エリザベス・ホハート殿です。
応答しますか?」
「エリーか・・・・・・・・。つなげて。」
「・・・・・・もしもしクロ聞こえてる?」
「聞こえてるよエリー。どうしたの??」
「別に大したことじゃないんだけど・・・・・・
生きて帰ってきてね・・・・・・・・・。」
「うん。ありがとう。・・・・・・・・・・いってくる。」
そういい終わり、同時に通信が遮断されました。と
アナウンスが言った。カタパルトが動き僕の乗った
E・B・Sは急発進した。猛スピードで大空へと放り出される。下は緑あふれる大地だ。最初はいいのだが
メーターに表示された高度がどんどん下がっていく。
「った、タカさん!!これ落ちちゃいますよ!!どうしたらいいんですか!!?」
「はっはっは!!楽しいだろ??スカイダイビングだぜ!!」
「全機通信で喚くな。びっくりするだろうが。」
「だいじょーぶ。落ちたりしないから。」
「落ちる落ちるうわあああぁぁぁーー!!」
急にジーンさんや色んな人の声が聞こえる。ぱっと手元を見ると通信が全機オンになっていた。やらかした。まあいいか六人だし。
「減速と敵影接近の接近を確認。フライトシステム
を起動します。アゼブライトの反応を確認出力正常。機動を確認。」
アナウンスが言い終わるのと同時にタカさんの声が響く。
「よーっし。まずは肩慣らしといこうじゃねえか。
味方は狙うな。敵は極力殺すな。だが手は抜くんじゃねえぞ!!」
「おう!!」
「了解。」
「りょーかいです。」
「承知!!」
「わかった。」
全員の掛け声とともに僕たちは六つの方向に別れる。
敵も僕たちには気づいているようだったが進路は変えずにまっすぐ突っ込んできていた。
僕は操縦桿を動かす。狙いは僕の方へ、船にまっすぐ向かってきている四枚翼の天使だ。
「ガトリングガンの起動確認。目標をロックオン。」
同時に僕は操縦桿に付けられた赤いボタンを親指で押した。ガガガガっと音がして画面の近くを弾が軌跡を残して飛んでいく。弾はまっすぐ天使の方へ飛んでいき命中した。さすがの威力にたまが砕け散り空中でちっている。まともに当たったら即死の域だ。人間ならばの話だが。
「七割の命中を確認。敵影反応変化ありません。」
え??全部当たったのに・・・・・??敵の進んでくるスピードには全く変化がなかった。遅くも早くもなっていない。まさか一発も入っていないとは予想できなかった。
「画像拡大!!周辺のエネルギー分析!!」
「了解。・・・・・・完了。敵、前方に高エネルギーを確認。エネルギーで前方を覆い全身している模様。
高エネルギー三発を確認。回避間に合いません。」
「回避なんて必要ないよ。今日の僕は調子がいいんだ・・・・・・・・・・・・・。」
見える。弾がどこに届くのかどのタイミングでここにい届くのか。僕は剣を引き抜くと順番に飛んできた
光の矢を叩き落とした。高エネルギー同士がぶつかり合い火花を散らす。操縦桿を前に倒し僕も的に向かって前進する。剣を収め、ガトリングガンに持ち替えるとロックオンもせずに敵めがけて撃った。敵の天使は次はシールドで体を守ろうとはせず、翼で軌道を変え回避すると避き際に弓から矢を放った。二発は回避したもののあまりの近さに全ては回避しきれず一発がかすった。ズンと機体が振動する。
「ぐっ!!この・・・・・!!」
カチッと僕の中で本気モードのスイッチが入るような気がした。僕はガトリングガンを構えると一気に全速力で前進した。本来の人間の能力なら、対応できないような速度だが今の僕はそうではない。敵はまたもたまを回避しながらこちらに近づいてくる。そして近づくと同時にまた弓を引き絞る。放たれた矢はまっすぐ僕めがけて飛んできたが、そんなものはさっき体験しているので予測済みである。フライトシステムを使って体を反転させると、真上からガトリングガンを連射した。天使の持っていた弓が縦の形に変わり、すっぽりと体を覆う。盾に全弾を阻まれ、またもや僕が放った弾は虚しく空中に飛散していく。そうして引き際に僕は手に装着された熱源感知式六連装ミサイルの先程から同時進行で行っていたロックオンを終えると天使めがけて撃った。しかしミサイルはガトリングよりもダン速が圧倒的に遅い。簡単に見切られて回避されてしまった。天使は翼を広げ大きく旋回し僕の上空まで飛んでいくとい一気に急降下をかけて僕めがけて突進してきた次で決めるつもりなのだろう。僕に据えられた三本の矢がいつ放たれるのか待ちながらもガトリングガンに手を伸ばし、天使を狙う。天使は上手く弾を避けながら一気に加速し僕までの距離を詰めると引き絞っていた矢を僕めがけて放った。
・・・・・・・・・甘い。この時を僕は待っていたのだ。エネルギーパックからの供給を最大にし、光の矢の飛んでくる方向を瞬時に確認してピンポイントにエネルギーシールドを張る。高エネルギーの光の矢は高エネルギーの壁にぶち当たると爆散した。僕は片手で剣を引き抜くとすれ違いざまに天使に振り下ろした。さきほどの戦闘データより、この天使の攻撃の精度があまり高くないことに気がついていた。彼女の狙っていると推測できる計算上の視点と実際に届いているところがあまりあっていないのだ。つまり高速で移動していて物があまり見えていないようだ。加速している今などなおさらのことである。なので僕の剣など見えているはずもなく気づいたのもぼくが切る一瞬手前だった。天使の顔は最初のように無表情ではなく焦りの表情が浮かんでいた。もし気づかなかったら、真っ二つにされていたことであろう。天使は素早く弓を剣に変化させると、僕の剣と自分の体の間に入れた。
E・B・Aのビームソードは恐ろしい程破壊力が高い。
縦では破られてしまうと直感的に気がついたのだろう。高エネルギーに圧縮された剣に形態を変化させていたそれでもパワーはE・B・Aの方が強く、相手も無理な体勢だったため剣と剣がぶつかると無残にも後方へと飛ばされていく。・・・・・・・・のを僕が逃すはずがない。こんなチャンスなのだ。僕は飛んでいこうとする天使を腕で掴んで引き止めると引きよせるのと合わせて腹に蹴りを入れた。次は入った感覚。
カメラ越しだったが天使が血を吐いているのが見えていた。それを確認するのと同時にアナウンスが鳴り響き、
「敵、生命反応急激に低下。殲滅完了。ご苦労様でした。帰投を推奨します。」
「ふう・・・・・・・・・・勝った・・・・・・・
ってあれは!!」
僕に蹴られた天使がどんどん落下していく。どうやら
生命反応急激に低下というのは瀕死状態のことを指すようだ。あんなスピードで移動していたからてっきりもっと頑丈にできているのだと思っていた。操縦桿を倒し全速力で天使の下に回る。敵は敵だが相手はもう戦えないし、助けられるものを助けないのは僕の心が許さなかった。速度を緩めて優しく受け止めると
僕はガンシップめがけて飛んでいった。
「すいません。離脱します。」
そう一言通信を入れると帰投用に入口が開き中に入って着地する。中では僕たちの帰りを待っている人がたくさんいて天使をもって帰ってきた僕に疑問の声が上がっていたが今はそんなことはどうでもよかった。僕が奪いそうになった命だが僕が助けることが出来るだろう。僕はE・B・Sの膝をつき彼女を下ろすと僕もコックピットからはいでて彼女の元に駆け寄り彼女を抱え上げるとざわめく人々を押しのけて医務室へと一直線に走っていった。
「すいません!!この・・・・人じゃないな・・・・
天使診てもらえますかっ!!?」
「なんだい・・・・急に・・・・・ノックを忘れているよ・・・・・・・・・・。まあでもお説教は後でまとめてやるとしてその子は・・・・・・・・・・・
うんそれも後で聞けばいいか。とりあえずそこのおいておくれよ。後、君は出て行って。私の推測じゃあ
・・・・・というか見るからにその子は女の子だしね
・・・・・・・。まあ誰も見てないからいてもいいけど。」
「っで出てきます!!今すぐ出てきますから!!」
そう言って慌てて僕は部屋を出る。廊下に出てからふと思う。あの人は女だったよな・・・・・??
たしかエリーは艦内で女はひとりだけといっていたような気がするんだけど・・・・・・・・・・・・
「管制室より連絡。敵の撤退を確認。繰り返します
敵の撤退を確認。こちら側の被害なし。戦闘に勝利しました。」
船にズンという衝撃が駆け抜ける。タカさんが帰艦して来たようだ。
「君、終わったよ。」
急に後ろから声をかけられびっくりする。そんな僕を見て彼女は怪訝そうな顔をした。
「なにをそんなにびっくりしてるんだい。声をかけただけじゃないか。ほら早く入んな。」
手招きされて中に入ると中には四枚翼の天使が横たわっており、目は開いていて瀕死の状態からは抜け出したようだった。
「なかなかひどいケガだったよ。最近入ってきた薬がなかったら死んでたね。まあ薬さえあればこの子は
回復力は高いみたいだし、問題ないだろう。後数時間寝てればまたとべるようになる。」
天使はその話を黙ってじっと聞いていた。そして口を開く。
「人間には気を許すなと今まで教えられて育ってきました。自分の欲のためならすぐに仲間を裏切るからと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
治療のことはありがとうございました。ですがお礼を申し上げる以上にわたしがなにかをすることはありません・・・・・・・。」
だってあなたたちは人間ですから。この言葉を言う前に彼女はそこで黙ったが何となくそう言いたいのだろうなということはわかった。
「別にあんたに何かを求めて助けたわけじゃない。それにお礼を言うなら私ではなく彼にいいな。瀕死で地面に向かって落ちていくあんたを拾い上げてここまで連れてきたんだから。」
っみ・・・・・見られたのか?ぐるりと部屋を見渡すと一台のモニターが目に付いた。E・B・Aのカメラと船が通信してモニターで戦闘が見れるようになっているのだ。
「そこの殿方、ありがとうございました。」
「いや、怪我をさせたのは僕だし、僕は大したことはしてないから・・・・・・・・・・・・・・。」
その時携帯電話の着信音がした。どこだと僕はさがしたが見つからない。そうすると天使は自分の手を布団の中に入れると携帯電話を取り出した。天使なのに携帯電話使っているとかなり意外な感じがするのだが
通話中なのでそれを言うのは避けた。
「もしもしシェルファですが??あぁ、あなたでしたか・・・・・・こんなもの使うなって??だってあなたからかけてきたんじゃないですか・・・・・・・。
別に私が言っているのは屁理屈ではないと思うのですけれど・・・・・・・・・・・・・・・・え??
人間??いますよ。・・・・・・いいえ。そんなことをする人たちではないと思います。はい・・・・・・・はい分かりました。それでは。」
「誰だったんだい?すごく親しいというわけじゃなさそうだけどね。」
「今のは仲間です。私が見つからないようなので電話してきたみたいですね。ついでに言っておくと私に関係する人間の中では親しい方だと思いますよ。」
声に抑揚がなさすぎて全く親しい風には聞こえない、
と僕は思ったが出会ってからずっとこの調子なので
普段からこうなのだろうと思った。どちらかというと
今重要なのは彼女がこのあとどうするのかということだ。
「仲間の方とは何かこのあとする約束でも?あなたもいつまでもここにいるわけにはいかないでしょう?」
と僕が問いかける。
「いいえ。人間が近くにいるなら早々と消してしまえと言われました。まあ今の状態ではとても無理ですけれど。あと携帯なんてものを使うなと言われましたね。
向こうからかけてきたんですけど。」
ハハハハと医療室に笑い声が響いた。なんというか、みんな苦笑いだった。意外なのは天使なのに携帯という人間が使っているものを持っていることだった。
案外僕のイメージと実際はかなり違うのかもしれない。
「ところで携帯持ってるんですね。しかも結構最近のタイプの・・・・・36日ぐらい前でしたっけ、発売されたの。」
「えぇ、いくら人間が嫌いといえども人間が作ったものはかなり役に立ちますからね。ほかにもいろいろ持てますよ。」
「お仲間とやらもその携帯を使ってたのかい??尋常じゃないくらい人間を毛嫌いしていたようだけど」
「人間=人間の作ってくれたものではないようですね
便利に使えるものと私情は区別しているみたいです。
本人は認めようとしませんけどね・・・・・・・。」
彼女がそう言い終えるとがらっと医務室のドアが空く。かなりごつい体の男がそこにはたっていた。手にはアサルトライフルが握られている。
「天使はどこだ!!!!怪我をしているようじゃねえか。今から拷問にかけて情報を吐かせてやる。散々人間をコケにした罰だぜ。」
扉を通ることができないのではないかというほどに
からだのおおきい第四世界の住人にも劣らぬ大男が
息を荒くし目をギラギラと光らせて部屋に押し入ってくると直ぐにベットの上に座っている天使に
目をつけた。
「・・・・・・見つけたぞぉ天使ぃ・・・・・。」
「ひっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
僕の後ろで小さな声が聞こえる。おびえている。
怖がっているのが分かる。僕は両方の拳に力が入るのを感じていた。E・B・Aに乗って彼女を救った時と同じような感覚だ。僕が男に何か言う前に医者の彼女が大男の前に立ちはだかった。彼女の背はあまり小さくはないがさすがに2メートルを越える筋肉の塊みたいな男を前にしているとかなり小さく見えてしまうのだった。
「なんだいあんた急に入ってきて勝手なこと言ってんじゃないよ。病気も怪我も万国共通。私は医者だ。
この部屋で勝手なことは許さないよ。」
そう言われた男は見るからに険悪な顔になった。自分よりも小さい女の人に自分の邪魔をされているのが気に食わないのだろう。僕はまだ動かなかった。
「フン、いつも引きこもって何もしなえくせにこういう時ばっかり医者面するんじゃねえ!!どうせ引きこもってんのも技術が足りねえからだろ、このヤブ医者がっ!!すっこんでろっ!!!!」
男は腕を振りあげるとどんと腕で彼女を押しのけた。押しのけられた彼女は棚に突っ込んでしまった。うっと声を上げた彼女の上にたくさんの薬やら本やらが落ちてくる。危ないと思った僕は咄嗟にそこらへんにあったテーブルを掴むと彼女の頭の上に持ってくる
落ちてくるものの軌道を変えて当たらないようにするのでせいいっぱいだった。足は石になって固まってしまったかのように動かない。助けたいのに、救いたいのに、守りたいのに、男と手に持たれた銃に対する恐怖が全ての感情を凌駕してしまっていた。男はベッドの脇の方に行き彼女を連れていこうとしている。
「さあ来い天使!!!!楽に死ねると思うな!!
絞れるだけ絞ってから殺してやる。」
天使の彼女は恐怖で震えながら目に涙をたたえていた。視線は僕に向けられ必死に助けを求めている。さっきまでは大きく伸びていた四枚の羽根は気持ちと連動しているのか小さく小さくなってしまっていた。
彼女の口は小さく動き僕に必死に何かを訴えていた。
恐怖で声が出ないのかもしれないが僕にはしっかり聞こえていた。「助けて」と。何をこんなところですくんでいるんだ僕は、カッコ悪い。目立つのは嫌い。怖いのも嫌い。痛いのも嫌い。苦しいのも嫌いだし。人と話すのも嫌い。人に見られるのも嫌い。だけれどカッコ悪いということは大嫌いだ。伸ばした男の腕が彼女の触れる瞬間、いてもたってもいられなくなってやっとこみ上げてきた恐怖を押し殺し弾けたように動き出した僕の腕が男の腕を掴んでいた。
「すいません・・・・・・彼女に手出しは無用でお願いしたいんですけど・・・・・・・・・・・・・・。」
「あぁ!!?なんだてめえ??小さくて細すぎたせいでよく見えなかったぜ、ハハッ。んん?よく見りゃあ昨日の新入りだなお前。新入りが先輩様にでけえ口叩いてんじゃねえよ。どけ!!この役立たず!!」
そう言って僕の腕を振り払おうとするが男の手は動かない。僕の手はがっちりと男の手を捕まえていた。
僕の顔には冷たい冷たい笑みが浮かんでいた。
(後でそう聞かされた。実は穏便に解決しようと笑おうとしただけなのだが、恐怖のせいで上手く笑えずこうなってしまったのだ)やはりこの男は自分の主張が通らないとかなりイライラするタイプの人間らしい。
額には血管の青筋が浮かび上がり今にも破裂しそうになっていた。殺されるかもしれないという最悪の事態が頭をよぎり、男と目を合わせないようにした。
そうでもしないと足がすくんで腰は抜けそうだった。
「なんだてめえ!!早く手を離せ!!てめえごと殺してもいいんだぞ!!」
ジャキっと空いた片手の方で僕にアサルトライフルの銃口をこちらに向ける。殺気の込められた銃口がこちらに向けられる。僕は怖いと思う気持ちこそあれどもそれを表には全く出さず、怖気付かなかった。恐怖を押し殺すように口が動き出していた。
「・・・・・・他者を傷つけることがあなたの正義ですか??怪我をしているものをいたぶるのがあなたの正義ですか??もしそうだというのなら僕はそれを許さない・・・・・・・・!!」
「っは!!偽善だな。お前とこいつはさっきまで殺し合ってたじゃねえか。そこまで言うなら守ってみろよ。それは力のあるやつがいうことだぜ??ハハハハお前の細い腕で何ができるんだか。」
何もできないと思っている顔。見ているだけで腹がったてくる。僕は大人しくはしているがプライドが安いわけではない。ましてや今の自分の体の状況で。
そう言われた瞬間僕は抑えていた腕の手を離すとアサルトライフルの銃口に両手を回し、本気で力を込めて捻じ曲げた。ぐっちゃぐっちゃに、跡形もなく。
メキメキと音を立てて潰れていく銃口をもう一度握りつぶすと男に向けて口を開いた。
「彼女は僕が傷つけた。そして僕が救った。今ここにいる彼女の命は僕のものだ。それに手を出そうというのなら、容赦はしない。」
「なっ!!!!!銃が・・・・・・・・・・・・・!!
なにしやがったてめえ・・・・・・・・・。」
男がそう言った瞬間僕は銃口をねじ切り床にポイと投げ、拳をグッと握り構えた。男が後ずさりしながらたじろいでいる。
「どうしますか?銃と同じ運命をたどりますか?
そうでないならすぐに部屋を出ていってください。
・・・・・・・僕は今、すこぶる機嫌が悪い。」
「ちっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
男はひとつ舌打ちすると紙くずみたいになったアサルトライフルの銃身をひろうとすごすごと出て行った。緊迫していた空気が解けて僕はふう、とため息をついた。実際のところとても怖かった。口だけが勝手に空回りして言葉をまくし立てていた。結果オーライだけど。医者の彼女に手を差し伸べて助け起こす。彼女を椅子に座らせると、不意に
「いつから私の命はあなたのものになったんですか??」
と声をかけられた。無論僕が体を張って守った天使の彼女である。顔はいつもの通り無表情だったけれど未だに羽は引っ込んだままで目にも涙が残っている。
「・・・・・・・あれはあの男をを騙すというか
まあ要するに君に手を出すなってことを強調してたんだよ。別に本気で言ってたわけじゃないよ、君の命は君のものだしね。」
「・・・・・・・・・・そうですか。」
「じゃあ僕は行くよ。タカさんに話は通しといたほうがこのあとこういう輩がこないとも限らなかいから。」
彼女に背を向け部屋を出ていこうとするが出ていこうとした時、手を掴まれた。ゆっくりと振り返ると
僕の手を彼女の両手が包み込むようにして掴んでいる。
「少しだけこのままにしてもらっていていいですか?」
タカさんへの報告は別に急いでいることではないので何も言わずにうなづく。彼女の手から体温が伝ってくる。それはぼくたちと同じように血が通っているということだ。
「嬉しかったんです。本当は敵の立場で、殺されてもおかしくないのに。」
そういながら彼女の背中の羽が段々と伸びていき、さっきぼくと戦っている時ぐらいまで大きくなった。
ふんわりとして真っ白な綺麗な羽だった。不意に彼女は布団の中に手を突っ込むと携帯を取り出し僕に携帯を見せた。
「私の携帯のアドレスです。あなたのもください。」
ロストーの家に行くときに携帯を持っていたのでこっちにも携帯を持ってきていた。この世界の中なら
携帯は使うことが出来るがゲートで隔たれた第一世界とは通信することはできない。
「別にいいけど・・・・・・はい。」
僕も向こうの世界から持ってきた携帯を取り出しアドレスを交換する。これで兄さん、姉さん、ロストー、
ロッキーに並び五人目の登録者である。ついに僕の
片手の五本指を全て使ってアドレスの数を数えられるのか・・・・・・・・・・・・。どれどれ五人目はいったいどんな感じなんだろう。登録者の情報を確認する。使用時間720時間・・・・・・。まあまあ普通の使用者といったところだろうか・・・・・・・・ん?あれ?発売されたのが36日前なのに720時間って一日20時間ぐらい使ってない??そんなことはないはずと思っても一度見てみるがやはり時間に変わりはない。ついでに
使用者の名前が「シェルファだよヾ(*´∀`*)ノ」となんだかちょっと痛い感じだった。今まで見ている感じの物静かな感じとはかけ離れていた。
「さて何か試しにメールを送ってみますね。」
ピロリンとメールの着信音がする。言葉を発してから約三秒ほどだ。打つの早すぎでしょ。
「件名;何色?
本文;パンツ」
「なんてこと聞いてるんですか!!?教えませんよ
!!?」
「ちゃんとメールで返してくださいよ。何のために今こういうやり取りをしているのですか。」
「ご・・・・ごめん。」
そう言われて教えられないとだけ書いて送る僕であったが、あんなことをいきなり聞いてくるのが悪いんだと思う。
「件名;Re Re Re 何色?
本文(´・ω・`)」
いやそんな顔されても困るんですけど。当の本人は
普通に無表情だからほんとにどうリアクションしていいのか全くわからない。僕は話題を変えるべく
今日の朝何食べた?と送った。ピロリン
「件名;(人´∀、`〃)。O○(オイチイ♪)
本文 ネンチャクウロコガエルの天ぷら。」
タカさーーーーーん!!ここに食べられる人いますよ、美味しいですってよ!!ピロリン
「件名;嘘に決まってるでしょヽ(*´з`*)ノ
本文 食べたりしたら死んじゃうし(笑)」
なんでエイドさんはほんとに生きてるの!!?ロッキーみたいな感じが半端なく感じるんですけど。たしかロッキーは・・・・・・いろいろ食べてたなあ。
ピロリン。
「件名 続き(´-ω-`)
本文 良薬は口に苦し、劇薬は口に美味し
という言葉にあるとおり味はおいしんだってよ??」
知らないし、聞いていないし。というか後半に聞いたことないことわざが混ざっているんだけど・・・・・・・・。
ピロリン。
「件名;ところで実は・・・・・・・
本文 朝からまだ何も食べてない。(´・ω・`)」
へえ、ふーん。なんか嫌な予感がするなあ。あぁ今すぐこの部屋出ていきたい。あぁなんだろう、僕の心がけたたましくサイレンが鳴ってる気がする。ピロリン。
「件名;まだ?
本文 察して?(*´・д・)?」
・・・・・・・・案の定だ。
「件名;Re まだ?
本文 嫌です。」
「件名;・・・・・・・
本文 ・・・・・・・」
なんだ三点リード?だめだ何が言いたいのか全然わからないなあ。ほんとに全然かけらも伝わってこないよ。じっと彼女はこちらを睨んでいたが僕は目をそらしてわざと気づいていないようなふりをした。そのまま流れで部屋から出ていこうとする。ドアに手を伸ばす。その時声をかけられた。
「何か食べたいです。外に行くつもりなら、持ってきてください。」
「口で言うの!!?メールでって言ったのに!!?」
「だんだん面倒になってきました。というかそれ以上にお腹が減りました。」
「えぇー・・・・・でもですねえ僕はここに入りたてでですねえちょっとそれは無理かなーみたいな?」
「はあ?仲間なんでしょう?食べ物ぐらいもらえると思うのですが。」
「問題はそこじゃないんです。話したことがない人に
話しかけるということに問題がある!!」
「コミュニケーションが取れないんですね(笑)」
「ぐっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「あんたら・・・・・・しっかりとしたものじゃなければ食べ物はあるよ。」
医者の彼女もさっき受けたダメージから回復してきているようだった。差し伸べられた救いの手を僕は直ぐに取ることに決め天使の方を見た。相変わらず
無表情のままであったが
「・・・・・意気地なしですね。」
と小さい声で言ったのを僕は聞き逃したりしなかった。まあ別に聞いたところでどうこうということではないが。・・・・・・事実だし。そんなこんなで
栄養補助食品を用意してもらうと彼女に手渡した。
「あの二人とも、名前を教えてもらえますか?
僕はクロエフ・キーマー。第一世界出身の普通の
高校生でしたがゲートに飲み込まれてここにきました。」
あえて普通という単語に力を込めておいた。なんでかって?なんでだろうね。
「あぁそいうえば名前をまだ言ってなかったね。私はターネット。あまりというかほとんど部屋から出ることがないのでこの船でも私のことを知っているのは数人だよ。これから忙しくなればいやでも知られることになるだろうけどね。よろしくクロエフに天使ちゃん。」
「私は教えたくないです。あなたたち人間ですから。というかもし教えたとしても呼ばないでください。私も呼びませんから」
うわあ、傷つくなあ。なんというかどういう感じに人間が嫌いなのか全くわからない。つまりどこまでがよくてどこまでが悪いのかの一線がよく見えないのだ。名前を教えるのと
メールアドレスを交換するのでは明らかに前者のほうが軽いと思うのだが。
「分かりました。ターネットさんに・・・・・・・
なんて呼べばいいですか??」
呼ぶなと言われてもそれでは全く会話が成立しない。無理がある。無表情な彼女の顔が少しだけムッとした顔になる。
「本当に察しが悪いですね。ちょっとしたツンの要素を入れたつもりでいたのですが・・・・・・・私がうますぎるのか、あなたが悪いかですね」
「なんだか僕だけ被害を被ってる気がするんだけど」
天使の彼女はそうですね、人間ですし、とさらっと言い放った。関係なくね?
「まあ要するに名前で呼んでくれということです。
私の名前はシェルファといいます。中位三隊、ヴァーチャーの天使です。」
あ、ヴァーチャーなんだ。てっきりパワーだと思っていた。翼の数が同じだからあまり見分けが付かなかった。
「パワーだと思った、というような顔ですね。まあ無理もありません。私はまだパワーからヴァーチャーに上がりたてですから。ところで私から一つ質問です。初めて会った時から感じていましたがあなたは人間にしては体内のエネルギー量が多すぎます。あなたは『何』ですか?」
「??何って見た通りのままだと思うよ。」
と言いつつもぎくりとして背筋がつい伸びてしまう。冷や汗がどっと出てくる。普段僕は人にあまり隠し事などしないのでバレていないのか非常に心配だった。もし説明を迫られたらどうしていいのかわからない。クシャーナのことは出せないのだがそれだと自分が人間だという証拠を姿見以外は証明できていないことになる。
というか姿見などインドラがやってみせたように上位の存在ならば自由に変えることだって可能なのだ。
「追加効果だろうね。それは、契約を結ぶと相手の
身体能力などが一部契約者にも反映される。それは
契約者の相手の力が強ければ強いほど上がって行くからこの子の場合はそれなりに強い存在が契約を結んでいるんだろ。」
ターネットさんがそうなんだろ?とこちらに視線を向けてくる。が、ここでうないづいてしまうとエリーに言ったことと矛盾してしまうので僕は首を横に振り、準備してあった嘘の訳を話した。開発中の薬でこういうことになっているのだと。
「そうなんですか。人間はどんどん新しい物を作っていきますね。」
「向こうじゃもうそんなところまで手を出してるのかい。私がここに来た時は、まだまだそんな話は夢物語だったんだけどね。」
といって二人共納得はしてくれたが嘘を言ってる僕としてはあんまり気分がよくない。デジット先生が
本気で取り組めばできないことはないのだろうけど
残念なことに先生は人間自体の強化ということに関しては全く興味を持っていない。「どうせ能力を手に入れれば強くなるんだ、必要ないだろ」と言って。
なので先生は外側を作ることにご執心である。つまり先生が開発したDECCSだ。DECCSのおかげで僕たちの生活が確立されているといってもおかしくない。
何度も言っているが僕たち人間という種族は単体だとそれほどまでに軟弱なのだ。これ以上言うと自虐的すぎると思うので控えておく。後ろの扉がかすかな音ともに開いた。またもや大きなお客様のご来客かと思いきや今回は小さなお客様だった。僕が向こうの世界から連れてきてしまった、猫のミケである。ミケは僕を見つけると足の近くまでやってきて座り込んだ。
手の届く位置にいたので頭を軽く撫でてやった。
「クロエフさん、クロエフさん。」
上からシェルファの声が聞こえた気がしたが、彼女が僕を名前で呼ぶはずがない。きっと幻聴だろう。実際僕は名前で呼んでもらうことを期待していたし、そのせいだろう。
「クロエフさん。クロエフさん。」
全く・・・・・・・・・・・・まだ聞こえるよ。こんなに幻聴がひどいなんてデジット先生と会話しているとき以外に出たことないのに。ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、ピロリン、
凄まじい速度とけたたましい音で携帯のメールの着信音がなる。メール着信時刻はすべて一緒。差出人はシャルファだった。
「件名;かわいい(ノ)`ω´(ヾ)
本文;猫!!ねこ!!ネコ!!」
と全ての内容が統一されており、ふっと視線をあげるとシェルファは珍しく物欲しそうな顔をして座って毛づくろいを始めているミケを見つめているのだった。幻聴ではない。シェルファは僕の名前を読んでいたのでった。呼ばないんじゃなかったのか、プライドはどうしたんだろう。次にシェルファは僕を見据える。その目がミケを渡せと言っているのは一目瞭然だった。それに羽も
さきほどより大きくなっていてそわそわ落ち着かないように動き続けている。僕は足元にいるミケを両手で抱き上げるとシェルファのいる布団のところまで運んでやった。シェルファは嬉しそうに目を細めると
今までとは想像もできないようなニッコリとした笑顔になった。というのも束の間、ミケを抱いてなで始めたとたんだんだんとデレデレとした笑顔に変わってしまい、僕もちょっと引いてしまった。いいや、正直ドン引きしてしまった。ミケもミケでシェルファにどんどん擦り寄るものだから、どちらも止まるような様子はない。少し経ってからシェルファは自分がそんな顔をしていることに気づいたのか、シェルファの表情が急に消え、責めるような視線で僕をキッと睨んだ。しかしミケを撫でる手は相変わらず止まらぬままである。理不尽だ。いきなり殴ってきて殴った理由が殴りたかったからと同じぐらいだと思う。何が人間ですからだ。天使で可愛いからってなんでも許されると思うなよ。とか心の中で一応向けられた視線に対して反撃を試みたもののもちろん心の中なので相手になど届くはずなどある訳もなく、僕が悪いわけではないのになんだか後ろめたい気持ちになってしまった。
にらみ合いに敗北した僕は助けを求めるようにターネットさんの方へと視線をずらしたのだが、熱心に読書をしており、僕のSOSには気づいてくれそうになかった。もう一度チラとシェルファの方に顔を向けるとまだ僕の方を睨んでいた。相変わらずミケを撫でる手は変わっていない。重要なのはそこじゃなくてもう一度目が合ってしまった時の気まずさであってどうしようもなくなって僕は作り笑いを顔にひっつけると、ついにシェルファにペコペコと頭を下げた。いや僕は悪いのだから謝ってなどいない。視線と無言の圧力に僕は完全にK,Oされたのは事実だが最後は止めのアッパーで頭が上下に揺れただけだ。決して可愛さに負けたのではないし謝ったわけではない。戦略的撤退だ。そう僕は自分の心に言い聞かせるとそそくさと部屋を出ていった。とりあえず視線という放射線のごとく恐ろしいものは間に何かを挟めば防ぐことが出来るので僕は扉の向こう側へと周り被爆するのを避けたのだった。とりあえずふたりをおいて出てきたものどうしたら良いだろうか。さっきの大男の件もあるので安心してはいられない。タカさんに話を通すとしても天使じゃあどう話を進めればいいものか。とりあえずホールの方へ行ってみるか。ホールへと歩き始めたのと同時に僕は後ろから声をかけられた。
「お~い、クロエフ。俺がいるのはそっちじゃないぜ?」
見るとタカさんがドアの横で壁に背中をつき腕を組んでこちらを見ているではないか。全然気付かなかった。
「すいません。見えませんでした。」
「何!!?・・・・・・・いやそれは嘘だな。この存在感バリバリの俺が近くにいることに気がつかないわけがない」
体から何出してんだって思ってしまった。まあ何んも感じなかったけど。
「じゃあ訂正します。すいません。見たくありませんでした。」
「うぐっ!!今のセリフで結構傷ついたり・・・・・。」
「自殺するなら手伝いますよ?」
「そうだな気晴らしにお前でもここから落としてみるか。」
ハハハハハハハハハ。なんていう他愛もない会話をしてから本題に入った。
「ところで艦内で噂になっているんだがお前が天使ちゃんを落としたっていうのがな、どうなんだよ、クロエフ??」
タカさんの顔が少しにやけているように見えるのは気のせいだろうか。
「まあ落としたといえば落としましたよ。一発K・Oです。案外難しくありませんでしたね。」
「っそ、そんな簡単に堕ちるもんなのか!!?くっそー羨ましいいぃぃぃぃーーーーーー!!!!」
タカさんが上を向いて天井に向かって吠えている。
???何だ???話が噛み合ってないぞ。そんな気がするのは僕だけか。戦いに勝ったことをそんなにタカさんが羨ましがるとは思えない。
「お前が天使ちゃんをお姫様抱っこしながら駆け抜けていったというのを聞いてヘタレチキンのクロエフがそんなことをできるはずがないと思っていたのに・・・・・・ついに本性を現したなこの悪魔め!!」
凄まじい剣幕で僕に向かって怒鳴ってくる。やっとなんでタカさんのテンションがこんなにも高いのかわかった。タカさん可愛い女の子の恋愛ネタじゃないと
こんなテンションにならないもんね。
「ヘタレチキンは余計なお世話です。そんなこと自分でもわかってますから。あと意味が違います。」
「何!!?そうなのか・・・・・よかった、よかった
もしかして廃れチキンのお前に天使スマイルを独り占めされたのかと思ったぜ。」
「僕はまだみずみずしさあふれる高校生です!!あとあんまり笑うタイプの子じゃないからタカさんが期待している天使スマイルは見られないと思いますよ。僕はもう見ましたけど。」
見ましたけどのところを強調するのは言うまでもない。タカさんはそれを知ると顔の色が赤くなったり青くなったりしていた。
「ところで、だ。クロエフ。ホントの本題なんだが
あの天使ちゃんどうすればいいと思う?俺は面倒事になる前に開放してやりたいと思っているがここにいる連中の中には交渉に使えと行っている奴も少なくない。まあ決定権は全てお前にあるからな。クロエフが決めてくれ。なるべく早く頼むぜ。あと天使ちゃんの笑顔の写真も撮っといて。あ、こっちが最優先事項だからな。じゃあ俺はほかにもすることがあるから。あぁそうだ、クロエフ。女の子はまもってやってナンボだぜ??」
そう言うとタカさんは僕の反応を待つこともなく
走ってホールの方へ行ってしまった。責任押し付けて逃げやがった。許さん・・・・・・・・・・・・・・
僕もタカさんと同じように壁に背中をつけて腕を組み目を閉じて考え事をした。どうしたものか。個人的には全快したらすぐにでもシェルファを帰してあげたいのだがみんながいるのではそうもいかない。僕の信用度はただでさえあまり高くないのにさらに落とすことになりかねない。それだけは避けたい。だって無事で第一世界まで帰りたいからね。結局考えても僕は自分で結論が出せなかった。シェルファを引き渡せば僕にとっては楽な話なのだがなにか心に引っかかって嫌だった。自分でも理由なんてわからなかったけどとにかくその選択肢は嫌だった。誰かに相談するか
・・・・・・・・・いや相談できるような人なんて
今の僕には・・・・・・・・・・・・・・・・。一人
いる。そのことに気づいた時には僕はもう連絡のコールをかけていた。エリーなら。僕の力になってくれるかも知れない。
「クロエフ??聞こえてる??おーい。」
おっともう電話がつながっていた。ビデオ通話の向こうでエリーが怪訝そうな顔でこちらを見ていた。僕は慌てて反応する
「えっとエリー?ちょっと相談したいことがあるんだけど・・・・・・・・・・・いい??」
「別にいいけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それより、帰ってきて連絡の一つもないってひどくない??何時してくるのかなとずっと待ってたんだけど。」
「う・・・・・・ごめん帰ってきたあと直ぐに急用ができちゃって・・・・・・・・。相談っていうのもそのことなんだけどね。」
「そう。そういうことなら今回は許してあげる。
で、今どこ??すぐ行くから。」
「えっと医務室の前の廊下に今いるところ。」
「わかった。ちょっとまってて。」
エリーが僕のいるところまで来るのに2分とかからなかった。
「よっと、クロエフ。待った??こんなところに医務室があるなんて知らなかったよ。」
正直びっくりしてしまった。エリザベスは二年間はこちらいたはずだから医務室の場所ぐらい知っていて当然だと思うのだが。まあそれだけ森の中で過ごしている間はけが人が出なかったということだろう。
「ときにクロエフ。私への連絡を後回しにしてでもやらなければならなかった急用とは??」
「あぁそのことなんだけどね。戦った相手の天使が
地面に落ちそうになってたから拾って戻ってきたんだ。だから僕がどうにかしないといけなくてね。」
「拾ってきたんだ。へー・・・・・・・・・・・。」
「??なにかおかしなことでも??」
エリーは一度大きく息を吸うと僕に人差し指を突きつけこう言い放った。
「うちは天使は飼えません!!元いた場所に戻してきなさい!!」
僕は両手を合わせて懇願する。
「えぇーちゃんと責任もって面倒見るからお願いしますよー・・・・・・・・・・・・・。」
決まった。見事に決まり文句を言い切ったぞ・・・・・・・・・・ん??あれ??僕何してるんだろ??なんかいろいろと違くない??僕は両手を合わせエリーに対して下げていた頭を上げる。
「エリー、天使は飼うものじゃないよね??」
「うん、買えないよ。できるとしたらエンジェルトレードだね。」
顎に手を当てかっこよくエリーは決めてみせる。
「エンジェルトレードってただの人身売買じゃん。
というか売り買いの要素混ざってるし。」
「あはは・・・・・・・。いやあそれにしても天使ね
・・・・・・敵を助けるなんてクロエフは何を目指してるの??」
「別に目指してるものなんてないけど・・・・・・
あのままじゃ死んでしまうと思ったからから助けただけだよ。」
「そうなんだ。随分とお人好しだね。いや、甘ちゃんっていうのかなここは。この中にいるんでしょ??どんな子?見てもいい?」
「別に見るのを止める権利は僕にはないから普通に入ってくれて構わないと思うのだけれど、どんな子って言われると・・・・暴言は履かないけど、愛想がないみたいな感じ?」
あ、でも今はミケとゴロニャンしてるからデレ顔なら見れるかも・・・・・・。と言う前にエリーは医務室の扉をもう開けてしまっていた。僕もエリーの上から部屋の中を覗き込む。最初に目があったのはターネットさんだった。
「おや一人増えてるね。見たことのない顔だ。クロエフ君の仲間か何かかい?」
「いえ、二年前からこの船にはいるんですが・・・・・
あなたは・・・・・・・・・?」
「私はターネット。一応この船の医療という立場につかせてもらっているけれど、なにせ部屋から出る機会が少なくてね。一部の人しか知らないんだよ。これからはよろしく。」
「これからはよろしくお願いします。」
そう言うとターネットさんは直ぐに読書を初めてしまった。視線をベッドのほうに向けると、シェルファが確認するように僕たち両方を見つめていたが、僕を見る目はさっきよりもきつくなっている気がした。・・・・・・・・・・・・・・ゴロニャンしてなかった。ミケはのんきにシェルファの上で眠りこけている。
「クロエフさんそちらの方はどなたですか??」
シェルファが威嚇するように質問をしてくる。
背中の羽が逆だって大きくなっていた。エリーのことを警戒しているのか、先ほどの失態についてまだ僕のことを起こっているかだろう。多分後者だと思うけど。
「私はエリザベス。エリザベス・ホハート。好きなように呼んでくれて構わないよ。あなたは?」
「シェルファといいます。見たとおり天使です。」
あれ、僕と話すときはあんなに渋ってたのにエリーの時は案外すぐだったな。
「なにをジロジロ見ているんですか。クロエフさん
あれ以上はもう見ることはできませんよ。というか
もう二度とこっちを見ないでください。汚らわしい。」
シェルファはそう言うと、不機嫌そうに少しむくれて
ぷいと顔を僕から背けると四枚の翼で自分の体を包み込むようにして覆ってしまった。それを確認したエリーがニンマリとした顔で僕を見てくる。その笑顔が何を意味しているのか僕にはすぐわかった。いつでも人の顔色を伺いながら今まで生きてきたような僕である。エリーが僕の耳元で囁いた。
「クロエフ。あの子に一体何したの??かなり拒絶されてるじゃん。」
「実はミケと楽しそうにじゃれあってるところを見たらこうなっちゃったんだよね。」
そう言うと僕はちらとシェルファの方を見た。ぴくりと翼が動いたのを僕は見逃さない。僕とエリーの会話はちゃんと聞こえているようだ。
「えっ!!そうなの。この子無表情だからそういうものには全く興味ないように見えるんだけど・・・・・
意外だね。」
「そうなんだよ。僕もはじめはそんなことまるっきり
考えていなかったんだけど、猫を手渡す時の瞬間なんてほんとすごかったよ。破顔一笑なんてレベルじゃなかったね。壊顔一笑の方がふさわしいと思う。ほんとにそれぐらい。満面の笑みを通り越してオーバーリアクションもいいところだよ。」
ピクピクっと翼が揺れる。多分もう少しだな。分かりやすい。
「それに猫をなでている時のあのデレ顔はすごかったよ。あれはもう・・・・・・・・・・・・・・・・」
「っや、やめてくださいいっっっ!!恥ずかしいいいっっっ!!」
急に翼をばっと広げるとシェルファが姿を現した。ついにシェルファの翼の堅い守りが解けて涙目になりながら僕たちに向かって訴えて来る。わかるよ。自分のことをこそこそと話をされることがどれだけむず痒い思いをするかということを。シェルファは両手で羞恥で赤くなってしまった顔を覆ってしまっている。
肩を震わせているのは泣いているのだろうか。
「あ~あクロ。泣かせちゃった。言ってもいいことと悪いことがあるんじゃない?」
エリーがわざとらしく口を手に当ててこっちに向かって話しかけてきた。エリーめ・・・・・・そんな性悪女だとはこれっぽっちも思っていなかった。なんだか話を振られてやったのに僕が全部悪いみたいになってるじゃないか。まあでも僕が悪いのか。僕があんなこと言わなきゃこんなことにはならなかったんだから。僕はシェルファを覗き込むように見て声をかけた。
「・・・・・・・・・・・・シェルファ?」
「・・・・・・何ですか?廃れヘタレチキンで変態のクロエフさん?渾身の謝罪だけなら受け付けますよ
・・・・・ぐす。」
「聞いてたの!!?」
「早く土下座で謝ってください。もうひとつの選択肢は首を括ることです。」
「・・・・・・土下座・・・・・。」
少しためらったらギロリとすごい目で睨まれた。そんな目で見たって僕は土下座なんかしないぞ。男の
DOGEZAはとてつもなく重たいんだ。(本に書いてあった)簡単にするわけにはいけない。
「土下座はちょっと・・・・・・・・・・・」
ギロリ。・・・・・・・・・・どうしよう。
「何か食べたいものない?」
ギロリ。・・・・・・・・・・・・。
「ミケとじゃれる?」
ギロリ。・・・・・・・っだ、だめだ!!こんな視線、とてもじゃないが耐えられない!!戦術的撤退・・・・・・ってあれ??体が動かないよ??よく見るとエリーの手が僕の方をがっちりと捕まえていて逃げられなかった。首だけを後ろに回すとニッコリと微笑まれた。裏切ったな。
「しぇ・・・シェルファ・・・・・・・。」
ギロリ。
「しぇしぇしぇのしぇ~シェルファの最初の文字から連想したよ・・・・・・あはは・・・・・なんちゃって・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「す、すいませんでしたぁぁぁーーーーー!!僕が悪かったです!!そう僕が!!」
土下座した。本日二度目の敗北。シェルファを貶めてからわずかページにして三ページでの急速な逆転劇をしたのではなくされてしまった。お手上げ。完敗。
一発K・O。即終了。
「クロエフさんの渾身の土下座しかと見ました。神に代わって天使の私が許してあげます。それにしても
よかったですね。今しなかったら世界中の天使が悪魔のような顔をして地獄の果てまで追いかけてきますよ、天使なのに(笑)」
いや(笑)って無表情で口で言われても全然笑えないんだけど・・・・・・・・・・。というかこっちの守りはまさか複数なのか。恐ろしい。
「というか、エリー。僕はまさかエリーがこんなに
性悪だとは思ってなかったよ。」
「はて?なんのことかな、身に覚えがないんだけど。」
「僕の肩抑えてたじゃん。」
「それはクロが逃げないようにするためだよ。小悪
だからね。まあ直ぐに信用しちゃいけないってこと。
たとえ考えがあるように私が笑ったとしてもね?
あ、私のことはこれからも信用してくれて構わないけれど。」
信用が何物にも代え難いことを今すぐ教えたい。
「ところで本題。この天使ちゃんにどうやって無事に逃げ出してもらうかだっけ?」
「そうそのことなんだよ。自分の都合のいいようにしか考えていないけれど、僕のここでの立場は非常に危うい。僕が彼女を最後まで守ったみたいな感じになるのは嫌なんだ。」
「・・・・・・・・・そんなことを普通に言えちゃうのがホントに残念だよね。黙ってればいいのに。ねえ
天使ちゃん?」
「激しく同感です。」
僕何か悪いこといったかなあ。まあわかんないからいいや。
「まあ、クロが非常に残念なのは置いといて。クロの言ってる通りにしたいなら、私は天使ちゃんに逃げられたってことにするしかないと思うんだよね。」
「逃げられた・・・・・・・・・?」
「そう。逃がしたのではなくて逃げられた。私たちが
天使ちゃんを逃がしたのではなく、天使ちゃんが自ら逃げてしまったことにしてしまえばクロにはなんの罪もないでしょ?」
「確かにその方法なら・・・・・・・・でもやっぱり
手伝ったんじゃないかって疑われると思うんだよね。」
「はあー、ほんと廃れだのヘタれだのはともかくどこまでチキンなんだか・・・・・・・・・・アリバイが欲しんでしょ?いるじゃんここに多分圧倒的に信用度の高い人が。」
エリーがすっと指をさした方向にはターネットさんの完全に僕たちの今までのいきさつを無視して読書を続ける姿があった。
「艦内では知らない人が多いみたいだけど、タカさん、エイド、ジーンさんは知ってると思うんだ。そしてこの三人は信用が高く、その人たちもターネットさんのことはきっと信頼していると思う。これなら大丈夫でしょ?」
なんでエイドさんだけ呼び捨てなんだ。羨ましいなあ。
「なんでターネットさんが信用が言い切れるの?実際話してるところなんて見たことないし。」
「わかってないな、クロ。これこそ女の勘というやつだよ。」
まだ後ろに子がつくけどね。でもそれ以外に方法がないのならもう一度信用して任せてみるか。
「シェルファはもう飛べるようになってるの?まだなら後どれぐらいかかりそう?」
「怒ったり、喜んだり、辱められたり、勝利の優越感に浸ったりしたのでもう飛べます。」
あきらかに嫌味で言ってるよね・・・・・・・・・・。
というか精神的な問題だったんだ。どこの本にもそんなこと書いてなかったのに。エリーが手のひらを合わせ大きな音を出した。
「よっし、それじゃあさらに面倒事になる前に終わらせてしまいますか。」
僕とシェルファはうなづいた。
「私はあんたらのために何をすればいいんだい?」
ターネットさんがいつの間にか読書を終えこちらを向いて話しかけていた。協力してくれるみたいだ。
エリーは医務室の扉があかないようにして、あかないことをもう一度確認すると話し始めた。
「天使ちゃんが逃げるのを私たちは助けるけれど
ターネットさんには私たちが助けていなかった、
助けるという行為事態が絶対に不可能であるという事実の証人になってもらいます。じゃあまずはルートの確認。この船に外に通じる出入り口は四つあるけど普通の入口はホールを通らないといけないから却下。
ひとのめにつきすぎる。だとするともう一つは格納庫。
ハッチを開けてそこから出るしかない。」
「ハッチはホールを通らなくてもここからいけるけど僕たちが人の目に付いちゃうんじゃない?それじゃいくらターネットさんがアリバイ通りにしてくれても矛盾しちゃうよ。」
そう言った瞬間エリーが僕に向かってなにか黒い物体を投げつけてきた。咄嗟にキャッチしてみるとそれはDECCSのヘルメットだった。
「格納庫だったらかぶってても問題なし。これなら
直接確認されない限り見つかっても大丈夫でしょ?」
「ねえこれシェルファもかぶってくんだよね?」
「当たり前だよ。そうじゃないと逃げられないからね
って、あぁそうか、そういうことじゃないか。」
チラリと僕らふたりはシェルファの方を確認する。
シェルファ少し引き気味な表情をしたがうなづいてくれた。
「それが最善の手というのですから、私も少しぐらいは我慢します。これ以上貴方たちに迷惑をかけることは私の望むことではありませんから。」
不思議なことにこういう場面では絶対に入れてくる人間ですから。が入らなかった。シェルファが伺うようにそっと手を挙げた。
「ミケちゃんだけなら第一世界に返してあげられますがそうしましょうか?いいえ、ぜひそうしたいです。そうさせてください。」
僕とエリーは顔を見合わせて羽を大きくしてそわそわさせながら真面目に頼み込んでくるシェルファを前にして苦笑すると
「いいよ。よろしく頼むね。」
といった。その後僕たちはそれぞれのやることを決めてさっさと作戦に取り掛かることにした。全員がDECCSの基本アーマーを着た。これでヘルメットをしてしまえばもう誰なのか全くわからない。いや体型でなんとなくわかるけど断定はできないって感じかな?
「クロエフさん。似合ってますか?何か変なところがあったら教えてください。」
「いや・・・・・・・・・・・・DECCSの基本アーマーのスーツに似合うとか似合わないとか、ないと僕は思うんだけど・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
すごい目で睨まれた。
「似合ってると思うよっ!!」
「そうですか。それなら良かったです。じゃあ作戦の方お願いしますね。」
三人ともDECCSの基本アーマーを身に付けヘルメットをかぶった。これなら外見から判断されにくい。
僕たちは医務室の前の廊下を音をあまり立てないようにして走っていった。人の目に付かないようにモノの陰に隠れてやり過ごすこともあったが、ジェスチャーをうまく使って無事に三人とも見つからずに格納庫の前まで来ることができた。格納庫の中を覗くようにしてみてみるとE・B・Aの破損部分の修理のためなのかかなりたくさんの人が動き回っていた。
「エリザベス・ホハート様より通信です。おつなぎしますか?」
「あぁ、よろしく。ずっとつないだままにしといて。」
承知しました。と機械的な声が響いた。
「クロエフ。見えてると思うけど思ったよりも人が多いね。ハッチの開閉ボタンがあるとこにもたくさん人がいすぎて、押せそうにないよ。このままの姿で行ったら絶対怪しまれるし、でも見つかるのも時間の問題だよね。」
「うん。何かしら一瞬でもいいから彼らの注意をひけるものがあるといいんだけど・・・・・・・・・。」
「どうしたんですか、クロエフさん何か問題でも?
先程から一歩も動かずにじっとしていますけど。」
勝手に通話がシェルファとオンになっていた。
「よく使い方がわかったね。シェルファ。僕は通話をオンにした記憶がないんだけどね。」
「これくらいはわかるとかそういうものではないです。いわば出来て当然というのでしょうね。あと勝手にどうやって繋げたかは企業秘密なのでお教えできません。」
へえ・・・・・企業秘密か、いいや。後で自分で調べて見よう。
「エリー。作戦があるんだけど・・・・・・・・・
いい?」
「何?時間がないから手短にね。」
「E・B・Aの起動の権利は僕が持ってるんだよ。欠陥がある状態で起動しようとすると警報がなる。そうすればみんなそっちに行ってしまうと思うんだよね。」
「・・・・・確かにそれはいい案だと思うよ。だけど
必ずしもまだ破損してるとは限らないし、第一クロが起動したってことがバレちゃうじゃん。」
「僕が見たところこのE・B・Aは最新のモデルじゃないんだよ。二世代ぐらい前のモデル。最新のモデルは大幅に改良されていて完璧に近いんだけど、前の世代は誤作動する数が最新のやつよりも圧倒的に多いんだよね。だからそれで上手くごまかせると思う。」
「とすると問題は破損が歩かないかってことだよね
・・・・・・・・・。でも順番的にクロのが最初に修理されるでしょ。帰ってくるの一番早かったし。」
「それは今から行ってこっそりネジを一本抜いてみようと思ってる。」
「なんだか、最初は渋ってたのになんだか随分と
積極的だね。どうしたの?」
「別にどうしたってことはないんだけど。」
とは言いつつもこのような状況になって少しワクワクしてしまっている自分がいた。こういう緊張感は苦手なはずなのに楽しいのだ。案外僕は人とコミュニケーションをとるのは嫌いでも緊張感に弱いとかそういうのはセットになっていないようだ。
「じゃあシェルファはここで待機。ハッチが開いたら僕たちのことは気にしなくていいからすぐに外の出て逃げて。エリーは警報が鳴ったらすぐにハッチの開閉ボタンを押せるところまで移動しといて。じゃあ僕はネジを抜きに行くから。」
僕はそう言うとものとものの間を少しづつ移動しながら自分が乗っていたE・B・Aのところまで行った。
エリーが行っていた通り僕のE・B・Aはかなり前に整備が終わっていたようでどこにも壊れているところはなかった。そっちのほうが都合がいいといえばそうなんだけど。僕はE・B・Aの足のボルトを手で回して一本抜いてしまった。ボルトは機械を使って閉めているので本来ならあかないがいろいろと身体的な機能が飛躍的に上昇してしまっている僕である。
パンチで木に腕がそのまま埋まってしまうような人である。指の力もなかなかなものだった。緩んだネジを回して抜くとずっしりと小さいのに重量感があった。僕はそれを見つかりにくいような所に置くと耳に手を当てた。
「エリー、シェルファ。聞こえてる?僕の方はもう準備終わったけど準備は出来てる?」
「問題なし。あとはクロの合図を待つだけだよ。」
「こっちも見つかってません。大丈夫です。飛ぶ準備も出来てます。」
「じゃあ合図は警報で。シェルファ。無事に逃げ切れることを祈ってるよ。」
「天使ちゃん元気でね。また逢えるといいんだけれどね・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「エリザベスさん、一つ言っておきますが会おうと思えばいつでも会えますからね?呼んでくれれば私が行きます。メールアドレスはクロエフさんから聞いてください。クロエフさんにはもう教えてありますから。」
みんなが準備できたことを知ると僕はE・B・Aから離れ違うE・B・Aのところまで行き格納庫の中を歩いている人から見えない位置に座った。僕はE・B・Aのほうに手を向けると起動と発進の指令を出した。
同時にけたたましい警報が鳴り響く。人がいるのに
急発進しようとするのもそうだし、何よりボルトが一本抜けてしまっているのがコンピューターの安全の確認の検査に引っかかってしまっているので当然のことだ。E・B・Aの方へと集まってくる足音が響いている。誤作動か!!?とかとりあえず止めろ!!などの大きな声が聞こえている。その直後、さらに警報に警報が重なった。ハッチが開いたのだ。外気が入ってきて冷たい空気が入り込んでくるのがアーマー越しでも感じ取ることができた。
「ハッチの開放を確認しましたが、多数の熱源を確認。
緊急停止します。周辺の人は退避してください。
繰り返します。ハッチの開放を緊急停止しハッチの閉鎖を開始します。周辺にいる人は至急退避してください。」
「シェルファ!!急いで、早くしないと閉まっちゃう!!」
「わかってます。お二人方本当にありがとうございました。私の治療してくださった方にもそう言っていたと伝えてください。」
そういうなりシェルファは風が吹き荒れるのをものともせずに、風の向きに逆らって走っていった。
DECCSの背中から光り輝かく四枚の翼が伸びてきて
今までで一番大きく見える。力強くシェルファが一度羽ばたくとふわりとシェルファの体が浮き外の方へと向かって進んでいく。
「クロエフさん。一つ言い忘れていることがありました。クロエフさんはさっき私が逃げるという表現をしましたが、ここから別に私はここから逃げるわけではありません。いわば戦略的撤退というやつです。
クロエフさんが使っていたように。」
「バレてたの!!?」
「顔を見ればわかります。すごいわかりやすいですし、
何よりあなたは・・・・・・・・・・・・・・・・。」
人間ですからね。シェルファがそう言うとそれっきり完全に連絡が切れてしまった。disconnectの文字が僕のモニターに表示される。見事に言い逃げされてしまった。向こうの世界に帰ったら、とりあえず猫の可愛い画像の迷惑メールを大量に送りつけてやろう。
シェルファを脱出させる作戦は大成功だった。みんなの中に少し疑いの心があったようだが、みんな機械が使えるからひとりでやったということで一応納得してくれたらしい。幸い僕たちも誰にも目撃されていなかったのでターネットさんがアリバイを守ってくれたので無罪で終わった。これで真実は闇の中に消え
惜しいことをしたなあぐらいにしか思われない事件になって僕たちのちょっとした冒険みたいなものは幕を閉じたのだった。
なんだか物語が終わってしまったかのような感じになってしまっているけれどまだまだ続くよ。僕たちがそんなことをしている間に次の作戦である上の階に行くためのタワーの間近まで来ていた。窓から見れば朝森の上から見たものをすごい拡大してみた感じだった。どこまであるのかと上を見ようとするけれど
遥か高くまでそびえ立っていて頂上などどこにあるのかわからなかった。
「艦内に連絡。あ~艦内に連絡。適当な階にもうすぐ入るから、各自DECCSの装備の確認しといたほうがいいと思うぜ。後E・B・Aに乗る奴は格納庫に全員集合。話がある。以上、終わりっ!!」
艦内アナウンスでタカさんからの指示が出た。一旦医務室に戻ってきて休憩していて、実際のところ結構
精神力を使ったのでもっと休んでいたかったがそうもいかないようだった。だるい体を本当にだるそうに持ち上げて行きたくないオーラを前回にしていたのに医者のはずのターネットさんは全く助けることをしてくれず最終的にはエリーに部屋から追い出される形で格納庫に行くことになったのだった。来る時に見てこの船に積まれているE・B・Aの数は四機。タカさんと僕で一機づつで残りもう二機あるのでもう二人とは初対面になりそうだ。・・・いあやだなあ。
これ以上新しい人と話してたら精神力吸い取られすぎて干からびちゃうよ。格納庫に行くと今日朝僕を起こしてくれた人と初めて見る人が二入で話をしていた。どちらも同じぐらいの背の人で今日お越してくれた人の髪は普通に黒いが、もうひとりの初めて見る方は黄緑をすごく薄くしたような、言うなれば抹茶ラテ
みたいな感じの髪の色をしていた。どちらも僕に気づくのは同時で僕は相手が気づいて視線をこちらに向けたのとほぼ同時にぺこりと頭を下げた。
「よう、今日の朝の新入りじゃねえか。お前がE・B・Aの操縦してるなんて知らなかった。朝は随分と
疲れているようだったけどもう大丈夫なのか?」
「えぇ、お気遣いありがとうございます。朝よりも
だいぶ調子は良くなりました。それで・・・・・・
そちらの方は??」
「俺の連れだ。」
「私はこいつの先輩だ。」
ぼくの質問に対してほぼ同時に返事が返ってきた。
二人共ムッとして互をにらみ合う。
「俺のほうが年も上だし、第一E・B・Aの操縦に
お前を推薦してやったのは俺だぞ。よって先輩なのは
俺の方でお前は俺の連れだ。
「私はあなたよりも先にこっちの世界に来て長くここで過ごしている。それにE・B・Aの操縦を任されたのはあなたの推薦のこともあるが99、9%は自分の実力で得たものだと思ってます。よって私のほうが先輩であなたが私の連れであるべきじゃないですかね?」
「このやろう・・・・・・!!演るか!!?」
「いいですねこの際どっちが強いか白黒つけたほうがよさそうですしね。じゃあ勝ったほうが先輩で
負けた方はその連れってことでいいですよね?」
「あぁ、構わない。お前のそのすました顔を歪めてやれると思うとうずうずしてくるな。さあやろう。今すぐやろう。」
今から勝負するの!!?というか僕をはさんで喧嘩するのはやめてほしい。右からも左からも音が聞こえてきて頭が痛くなりそうだ。
「仲が悪いのもその辺にしとけよ、お前ら。これからは協力しないと生き残っていけねえんだからよ。」
頭をガシガシと書きながらのタカさんご入場。
「それにクロエフはまだ高校生だぞ?その前でなんで大人が喧嘩してんだ。みっともない。」
「すいません、艦長・・・・・・・・・・。でもこれはコイツが俺のことを先輩なのに敬わないから・・。」
「はあ!!?それはあんたの方でしょ??私のほうが先輩だし!!」
ぎゃー、ぎゃー、とまた大きな声で言い争うが始まった。タカさんの血管がピクピクしている。大爆発
直前の予兆を僕は感じ取ると僕はさっさと逃げといた。
「大体お前は俺に対する感謝の気持ちが足りないんだよ!!」
「だーかーらっ!!あんたのどこに感謝しなきゃいけないの!!?・・・・・・・・・・・ひっ!!」
おぉ見事に大爆発三秒まえー。もうあの人たちは逃げられないね。二、一、零。ドッカーン。
「・・・・・・・・・・・・おいお前ら。さっきから
仲が悪いのも大概にしてこれから一緒に戦うんだから仲良くしろって言ったよな・・・・・・・・??」
「っは、はい!!言われました・・・・・・・・・。」
二人共返事が一緒でおなじような表情をしてる。
なんだか怯える子犬みたいになってるな。ははは
人が怒られてるの見るのってなんでこんなに楽しんだろう。不思議だな。その後タカさんの怒号が飛んだ。
「仲直りのっ!!あーくしゅっっっっっっっ!!!!!」
「ハイ!!!!!!!!!!!」
「もう二度と喧嘩しないって誓えるか!!?」
「ハイ!!!!!!!!!!!」
「これからは仲良く一緒に飯を食えるって誓えるか!!?」
「ハイ!!!!!!!!!!!」
「一緒に呼吸を合わせて戦えるって誓えるのか!!?」
「ハイ!!!!!!!!!!!」
「今日一緒に寝るって誓えるか!!?」
「ハイ!!!!!!!!!!!・・・・・・・・・・・
ってええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!!!!」
最後のを聞いたら二人共勢いで返事をしていたから
真面目な顔で声を発していたタカさんの地雷に見事に引っかかってしまっていた。
「っか艦長!!それは無理です!!心の準備がっ!!」
いや心の準備の問題なのか・・・・・・・・・・?
「だめだぞ??お前ら行ったことはしっかりと守らなきゃあ??なあクロエフ??」
僕に振るな。
「時と場合によるんじゃないでしょうか。嘘も方便
といいますし・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「そうは言っても俺の前で誓ってたんだからな。もちろん嘘ってことはないよなあ。」
「艦長人の耳できたことだから証拠にならないと俺は思います!!!!!!!!」
ピッ。ザザザザ・・・・・・・・・・・・・・
「今日一緒に寝るって誓えるか!!?」
「ハイ!!!!!!!!!!!!!」
ピッ。
「声紋の解析かけてみようぜ、クロエフ。」
だから僕に振るな。困っちゃうじゃん。
「あぁそうだな。それならこのあとの戦いでもし
いい成果を出せた奴がいたらこれをそのままそっくり渡してもいいかもな。」
ガシッ。二人の間から強く何かが組まれたような音が聞こえた。
「まあこの話は置いといて。今回の作戦、前衛二機
で後衛二機なんだけださあ、どっちやりたい??」
「ハイ!!!!!!!!!俺に前衛やらせてください!!!!!!!!!!!!!!」
「ハイ!!!!!!!!!私にやらせてください!!!!!!!!!!!」
「クロエフはどっちやりたいんだ??」
僕に問いかけるタカさんの後ろの二人に頼み込むような視線を向けられる。僕としても前衛をやりたいというような理由はなかったので譲ることにした。
「僕は後衛でいいですよ。」
「そうか。それならオレも後衛でいいな。じゃあ前衛は二人に頼んだぜ。以上、終わり。」
「艦内に連絡。目標座標地点到達まで残り約5分。艦内にいるものは至急降下準備へ、E・B・A搭乗者は
カタパルトへの移動を開始してください。」
そのアナウンスが響いたあと艦内はとたんにうるさくなった。みんなが一斉に移動を始めているからだ。
「クロエフ。お前のDECCSはもう出来てるから急いで取りに行くぞ。にしてもお前あんな数のグレネード
どうするつもりなんだ?」
「投げます。」
シュッシュッと手首のスナップを聞かせて投げるような動作を見せた。
「いや・・・・・・それはわかってるけどよ。」
じゃあなんで聞いたんだ。グレネードに投げる以外の使用方法があるとしたら、僕が学校でやっていたように時間差で爆発ぐらいなんだけど。僕がクエスチョンマークを頭の上に三つほど並べていると、タカさんは
慌てたと呆れたみたいなものが混ざった感じだった。
「戦法は人それぞれだもんな。聞いた俺が悪かった。
昔、超人のやつにもおんなじようなこと言って怒られたっけな。」
懐かしそうにしているタカさん。数秒間そのままでいると急に我に帰ったようで
「おっと感傷に浸っている場合じゃあねえ。クロエフ、
早く取りに行くぞ。」
そういい、僕とタカさんは出来上がっている僕のDECCSを取りに行った。僕のDECCSの装備はE・
B・Aに乗る分なかなかに軽いもので、グレネード
12個とマシンガン。それにビームブレードではなく
少し小さめのビームソードだった。
「この装備でいいんだよな?クロエフ、サイズもちゃんとお前に合わせて作ってある。」
「もちろんいいですよ。タカさん。忙しいのにこんなにしてもらってありがとうございます。」
「まあお礼は戦いで返してくれ。無茶はしなくていいけどな。」
その後、僕はDECCSの装備に換装を終え、E・B・Aの方へと走って行った。道中には、同じような感じの装備の人はいても全く同じような人はいない。人それぞれの個性を最大限まで発揮できるのがデジット先生が作った、DECCSなのだ。まあ今の僕にはあってもなくてもあんまり変わらない気がするのだが。
実際着てみて、そうだった。防御は高くなっているかもしれないけど、正直言って動きにくい。強い能力者がなぜDECCSを着用せずに戦っているのか少しわかったような気がした。僕の兄、姉ともにDECCSを使っていない。どちらも動きにくいと言っていたのが
僕はやっといま理解できた。DECCSで上昇させられる身体能力よりも能力発動時の身体能力が上回ってしまっていると、DECCSはただの重い荷物になってしまう。今の僕は確認できない以上能力者かどうかは分からないが、とりあえず分かっていることはDECCSの身体能力を上昇させる力より、素の力のほうが上回ってしまっているということだ。まあでも
E・B・Aの方が今の僕よりは上なので、E・B・Aに乗れる今はあんまり関係ないだろう。手首のディスプレイを見ると、全員の隊の配置が表示されていて、
エリーは補給、支援の隊で僕からもあまり離れていなかった。格納庫に走っていくと整備の人たちに頭を下げながらE・B・Aの方へと走って行って腕の力を使ってするっとコックピットに入った。
「E・B・Aクロエフ・キーマー機、起動。」
「お待ちください・・・・・・・・・・・・
クロエフ・キーマー様と認証確認。E・B・A起動します。」
目の前に格納庫が広がる。
「E・B・Aクロエフ機、カタパルトへの移動を開始します。」
「出撃準備が整いました。出撃まで残り一分。各自準備をしてください。」
E・B・Aがゆっくりと動き始め、通路の方へと進んでいく。通路につくとゆっくりと地面の上に下ろされた。
「戦闘を開始します。繰り返します。戦闘を開始します。ミサイル発射まで残り十秒。出撃まで残り二十秒。」
少ししたあとにどんと音がして、僕はそれがミサイルの、戦闘が始まる合図なのだと思った。
「フライトシステム起動。アゼブライト出力正常。
カタパルト発進。」
ガチンと何かが外れたような音とともに凄まじい速度で僕は大空へと飛び出した。さっきのようなことにならないように上手く高さを調節する。安定してから周りを見回すと塔の壁が一部壊れて煙を上げていた。
E・B・Aがその中に何機か入りそれに続いて。ガンシップが入った。
「タカさん僕たちはどうしますか。一緒に入ったほうがいいですかね?」
「いや、煙が晴れてからでいいだろ。そうしないと
レーダーも撃てないからな。」
煙はなかなかなくなる様子がなく、それがミサイルの威力がどれぐらいのものなのか物語っていた。
「リーダーより各機、今から作戦を開始する。隊列を崩さす侵攻開始。」
リーダーというのはタカさんのことだ。タカさんは
通信でそう言うとレーダーを一発撃った。このレーダーは一時的な敵の人数や場所しかしれないけれど、軽いしどこでも撃てるのでなかなかいいものだ。ヴァーチャルの中でも使っている人が居る。
「こちら02。レーダー確認。敵影を確認、敵影数・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47。うち高エネルギー反応20、ベルセルクだと思われる。」
「リーダーより各機報告ご苦労。E・B・Aはベルセルクと戦闘に入りそうなものの援護、残りのものは計画通り進行。」
「了解。」
そう言うと僕はガトリングガンを手に持ち、塔の穴のなかへと進んでいった。塔の中では既に戦闘する
体勢がとっと乗っており、敵がきたら今にも始まりそうな空気だった。レーダーには相変わらず動かない
点と動いている点があった。動いている点は27、
なぜかと言われれば僕はちゃんと勉強しているので
お答えすることができる。本来ベルセルクは軍神
マルスの加護を受けたただの鎧であるため、敵がいなければ動くことはない。つまり現在ベルセルクと直接
会っていないこの状況なら、ベルセルクが動くということはまずないのだ。
「リーダーより各機。E・B・A10機前進、強襲隊前進。続いて重撃隊、支援隊、前進開始。」
「こちら03。敵を直接確認。戦闘を開始する。」
「了解。戦闘開始!!!!」
その声とともに銃声やら爆発音が聞こえてくるが
レーダーを見ると、実際の戦場は見えていなくても敵のエネルギー反応が弱くなり、動かなくなったところを見ると戦いは有利に進んでいるようだった。ゆっくりとではあるが僕たちはどんどん前進していた。ただ
気がかりなものがひとつ。ベルセルクのエネルギー反応がさっきよりも大きくなっている気がする。ベルセルクについて僕の頭が記憶のページをめくり始めた。
たしかマルスよりベルセルクを動かすエネルギー的なものは安定して供給されるのでエネルギーの反応が大きくなったり小さくなったりすることはない。
ただし例外はつきものだ。ベルセルクには敵を認識し
起動するまで若干のタイムラグがある。その時間は
およそ二分。今は戦闘を開始してから、一分半ほど。
今なら・・・・・・・・・・・まだ行ける。もしかしたらここでは犠牲を出さずに進めるかも知れない。
「こちら04。ジーンさん、エイドさん!!!!
じゃなかった。02、04に連絡。ベルセルクのところに急いでください!!!!今なら簡単に破壊できます!!!!!!!!」
「どういうことだ・・・・・・・・・・??」
「そうなのか!!?」
「信じていいんだな??クロエフ・キーマー。」
「俺は高校生の真っ直ぐな心を信じる!!!!」
「お願いします。残り20秒です。お願いします!!!!!!!!!」
「・・・・・・・・わかった。お前を信じる。任せろ。」
「クロエフ、これ終わったら一食おごりな!!!!」
「エイド!!高校生にたかってんじゃねえ、みっともない。」
「うっせえロリコン、行っくぜええぇぇぇぇ!!」
二機のE・B・Aで驚く程の速度でエネルギー反応が消えていく。これがエイドさんとジーンさんの本気だとわかると感心してしまった。
「リーダーより04、クロエフよくわかったな。
オレでもベルセルクに動かない時間があるなんて知らなかったぜ。」
「まあそれはなぜか秘密にされていることでもありますからね、知ってなくてもしょうがないと思います。
ただ僕の担任の先生がそういうことを簡単に話してしまうような人なので、ベルセルクのことも知ってたんです。」
これは嘘ではない。デジット先生は口が滑ったとかいうのをはるかに通り越したレベルで秘密のことを話してしまう。というよりは秘密にしたがっていることを簡単に話してしまう。おかげで何度か痛い目にあっているがそのおかげで僕が得をしていることもある。
もちろんベルセルクのことも最初はデジット先生が
「そういえばさあ、この前第七世界に行ったとき見たんだけどベルセルクってずっと動いているわけじゃなくてさあ、動かしたり止めたりできるらしんだよね。
ついでに動かすのに二分ぐらいかかるんだって。まあ
マルスだってエネルギーは底なしじゃないもんねえ。」
とか話し出してクラスないがそれは言ってもいいのかという疑問で微妙な空気感になった次第である。
(その後なぜかわからないが結構絡まれた。)
「おーい、クロエフ聞こえてるか?なんで一人で話してんだ?」
「あ、いやちょっと読者の方々に説明をと思って
・・・・・・・・・・。」
「ドクシャ?それうまいのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そのくだり二回目だし。ていうかそんなこと言ってる暇はないのではないだろうか。
「03より各機、ベルセルクの殲滅を完了。繰り返す。
ベルセルクの殲滅を完了。敵影なし。こちらの犠牲もなし。」
パーフェクト・ゲーム。聞こえはしないがみんなの中から歓声が聞こえたような気がした。
「リーダーより各機、03報告ご苦労。これより
第二段階に移行する。上の階より時空の歪みを通り
計画通り進行する。」
「了解。」
「(*’v`*)ゞYES.+゜」
「(`曲´╬)誰だ!今ふざけた奴!!返事が軽いわ!!」
言っておくけど僕じゃないよ。そのまま僕たちは上の階へと上がると
時空の歪みから中階層へと上がった。出てみれば
最下層とあまり変わらぬ景色が広がっているのだが
よく見ると全然違う。簡単に言うと不思議な建物が多かった。ドアが大量についていたり、ありえないバランスで建物がちゃんとたっていたり、浮いていたり
その中でも中央には時計の歯車が大量に組み合わさった巨大な塔があるのだった。視線を下に戻すとさっきよりも小型のガンシップ、それに僕が知っているの中では一番頑丈だったはずの装甲車があった。名前は
たしか装甲強化型アルドロス改良型だったはず。
第一世界の武器関連ではかなり大きいガルフィス社の現在の最新のモデルだ。
「04よりリーダー。タカさん、これはどうやって
・・・・・・・・・・・・?」
「それがちゃんと思い出せねえんだよ。誰かに準備してもらったってことはわかるんだが大事なところが抜けて誰なのかわかんねえ。多分お前には心当たりがあるんだろうけど言われてもピンと来ないだろうな。
多分ラザレスの能力で俺が知っていたそいつは存在しないことになってる。」
「そうですか・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「まあ気にすんな。誰か思い出せなくても感謝はしてるし、おまがどうこう思うことじゃねえ。」
タカさんになりに僕に気を使ってくれたみたいでいつもより優しく感じられた。ライザさんに僕はいいことを教えてもらった。この脱出作戦の裏には裏社会の
者が関与していること、僕たちのこの戦いは彼にとっては披露宴というかパーティーの余興みたいなものなのだ。僕はそのままE・B・Aを進めて小型のガンシップに乗り込むと格納庫へと機体を進め、膝をついた。コックピットの外から光が差し込んできて僕は
眩しすぎるその光を手で遮りながら格納庫へと出ていった。僕が降りていくとE・B・Aに乗っていたみんなも降りてきていて集まり始めていた。タカさんが
みんない話し始める。ディスプレイにこの中階層の
立体的な映像が浮かび上がった。
「おっし、みんな集まったな。こっからが大変なところだ。最上階に行くにはこの階の中で一番でかい
街の中心まで行かなくちゃいけない。この階には天使がいるしさっきみたいに上手くはいかないだろうな。
こっからはE・B・Aは盾役にもならなきゃならなくなる。自分の命は自分で守れとは言うけどな、それでも俺たちは心を共にした同士だ。仲間だ。守れるなら
守ってやってくれ。頼む。」
「まかしとけ。」
「わかった。」
「分かりました。」
「了解です。」
「承知しました。」
etc・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「館内に連絡。作戦第二段階へと以降を確認しました。
ガンシップ搭乗者、アルドロス搭乗者ともに固定砲台へと移動してください。作戦開始までのこり五分。」
アナウンスが終わったあとタカさんがパンとひとつ手を叩いた。
「よし!!気を引き締めていこうぜ!!」
僕たちはみんなうなづくと固定砲台の方へと向かって歩みを進めていった。歩いていると見落としていたのか僕へのコールが鳴りっぱなしだった。Fromは
エリー。何かあったのだろうか。ディスプレイの通信をオンにして僕は顔を近づけた。
「クロエフです。エリー、どうかしたの??」
「ん?あぁクロエフ、別にどうかしたってことはないけどあの約束は忘れてないよねえ?って思った。」
「えーっと、第一世界に帰ったらなにか奢るんだっけ
??」
「そんなことは話題にすら出てきた記憶がないんだけど・・・まあそれも追加しようかな。」
しまった。墓穴を掘った・・・・・・・・。じゃあこれならどうだ。
「えーっと、たしか戦いが終わったら一緒に一晩添い寝するんだっけ??」
「するか!!」
怒られました。結構本気な感じで・・・・・・・・・・。
「誤魔化さないでよ。もう・・・・・・・・・・。」
「ごめん、ごめん。わかってるよ。ちゃんと守るから。
僕は空の方に行くから陸を行くエリーのことを援護できるかわかんないけどね・・・・・・・・・・。」
「何?私が危険な時はいつでも呼べば助けに来てくれるんじゃないの?」
「・・・・・・・・エリーは僕のことを一体何だと
思ってるの?」
そう問いかけたのと同時に体が浮き上がるような感覚がした。ガンシップが飛び上がったのだ。つまり
いま作戦の第二段階が始まったということだ。エリーと会話をしていても緊張で体が少しこわばった。
「そうだね・・・・・・クロのことをなんだと思っているのかと言われると中々難しいな。うーん
・・・・・・・・犬・・・・・・・かな。」
▽o・ェ・o▽ワン!!・・・・・・・・・・・・・
じゃないでしょ!!そんなこと今まで生きてきて
一度も言われたことないよ!!?
「だまんないでよクロ。別に犬って言ったのは見た目とか性格とかからじゃないからね??もっと単純。クロって呼び方なんか犬っぽいじゃん?」
ドヤ顔でそんなこと言われても困るんだけど・・・・。
単純すぎて全然気がつかなかった。クロね・・・・・・
別に犬じゃなくても使えそうな感じがするけど。
「それで・・・・・・・・・最初なんの話をしてたんだっけ??」
「クロが私と一晩一緒に添い寝する話じゃないっけ??」
「そんな話はしてないよ!!?」
「あはは・・・・・その私を守るって話、出来る時だけでいいからね。自分の命は自分で守ることが鉄則だし、何よりクロがそれでやられたらいいことないから。」
「わかった・・・・・・。じゃあまた後でね。」
通信を切ると僕は固定砲台が備え付けられているところまで来ると暗い部屋の中の中央にある椅子に深々と座った。部屋のスイッチが入って視界が明るくなって外もカメラで見えるようになるとその景色を見て僕はとてもびっくりした。遠くから眺めていてもここはすごいと感じていたが、じっさいもっと近寄ってみると迫力を感じた。下の階層よりも人通りも多く
とも賑わっていた。僕としてはちょっと下に行って
いろいろと珍しいものがないか見てみたい気分だったけれど今はそうはいかない。いつかここにも自由に来ることができるような時が来るだろうか。
「リーダーより艦内に連絡、もしもガンシップが危険だと思ったらE・B・Aに乗ってくれて構わない。今回ばっかりはこっちのほうが危険だ。天使に狙われる率も高い。落とされることはないにしても、命はどうかわからないからな。自分で判断してくれ、以上。」
艦内放送が終わったあと僕はタカさんに通信を入れた。もちろん今の放送についてである。
「タカさん、ガンシップの方が狙われやすいというのは・・・・・・?E・B・Aがこっちに居ることは大きさ的にわかると思うんですが・・・・・・・・・
同じ轍を踏むようなことはするでしょうか。」
「クロエフの言ってることにも一理あるんだが考えてみろ。ディスティニーの立場とこの状況を。」
「確かディスティニーはこの第四世界を謎の襲撃者から防いだんでしたっけ?」
「そうだ。つまりやつは第四世界においては第四世界の住人から崇め祀られる立場にある。それに俺たちが戦う天使達はディスティニーの声をそのまま反映してるような感じだからな、下で戦闘をして街が大幅に
破壊されてみろ。俺たちが悪いとはいえ犠牲が出れば
信用は失う。だって謎の襲撃者を簡単に片付けたんだ。
人間相手なんて楽勝なはずだろ??」
「だからE・B・A乗ったこのガンシップを狙ってくると・・・・・・・・・・・・・・。」
「あぁ制圧しに来るだろうな。E・B・Aはそれぐらい強いもんだ。」
「そういうものでしょうか・・・・・・・・・。」
「まあ俺はそう思ってる。でも何かあってもどうにかなるだろ。そうだクロエフ。自分の身が危険だと思ったらいつでも離脱していいからな。」
「大丈夫です。僕はもう高校生ですから、大人です。」
「・・・・・そうか。期待してる。じゃあな。」
あえて逃げるではなく離脱という言葉にしてくれたのは僕に気を使ってくれたのだろう。変なところで
優しい人だと思った。僕はまだ不安だった。それは
天使と戦うということ自体ではないのだけれど、僕が
不安になっているのは天使たちが本当に僕たちを狙ってくるかということだ。
「高エネルギー反応接近確認。各員戦闘準備。敵影数20高度400、うち帝王クラス以上と思われるエネルギー反応1、十分に警戒してください。」
高度400!!?低すぎる僕たちの乗るガンシップは高度は2000を超えているはずだ。不安が的中した。天使たちは完全に装甲者の方を狙っている。
ディスティニーの人間嫌いは自分への信仰などはるかに凌駕するものだったのだ。帝王クラスの反応、
ディスティニーではないという直感が僕にはあった。
というか差別意識の強いディスティニーは街の被害のことは許すとしても自分から下りてくるということはまずありえないだろう。・・・だとするならば、
天使の中でも神に近い存在、上位三隊のうちセラフィムかケルビムだ。ずば抜けた速度でぐんぐんと装甲者の方へと近づいていっている反応を見てエリーが危ないと僕の頭の中で警鐘がなった。しかし警鐘が鳴り始める前に既に僕は格納庫の方へと走り出していたのだった。
「ガトリングガン及びミサイルの取り外し、エネルギーライフルに換装。完了。E・B・A04クロエフ機
発進します。カタパルト準備完了。フライトシステムを起動。アゼブライトの出力正常。発進。」
さすがに何回もこのような手順で出撃しているので
流れ作業のように僕は一気に天空へと飛び立った。
「リーダーより04。クロエフ!!後先考えずに飛び出るんじゃねえ!!とりあえず今はもう二機装甲車の援護に付けるが・・・・・・・・・・・・・・・
頼んだぞ。」
「はい。了解です。」
「04よりアルドロス1、アルドロス2、アルドロス3、上空より援護する。」
僕の視界でライフルの先に光が吸収されるかのように光が集まっていく。
「エネルギーパックよりエネルギーライフルへエネルギーをチャージ。フルチャージまで残り5秒。」
エネルギーライフルのチャージが終わる。ライフルといってもスナイパーライフルみたいなものでフルチャージならばかなり遠くまで飛ばせることができる。
「高度を維持。カメラをスコープに切り替え。
目標ロックオン。発射。」
溜められた青い光線は待ってましたとばかりに
目標めがけて飛んでいった。
「命中確認。敵影三機反応消失。」
全然言い訳にはならないとはわかっていても
エリーの命を守るためなら・・・・・・・・・・・
別に命を奪っても僕は何も感じることはなかった。
彼女は二年の間待ったのだ。自分の世界に帰るため
ただひたすらこのときを待っていたのだと僕は思う。
そして誰にもそれを阻む権利はないと僕は考えた。
無論神であろうとも。それでも邪魔をするなら、
彼女が帰ろうとするのを阻むのなら、僕は友達として
できる最大限のことをする。
「エネルギーフルチャージ確認。敵ロックオン。発射。」
次の弾は命中する直前で右に急にそれた。それたといっても曲線で曲がったわけではない。カクンと何かにはじかれたように曲がった。レーダーにエネルギーの反応がとてつもない数で表示された。一瞬壊れたのかと思ったが自分の目で下を見ればレーダーで表示された通りに無数の光の矢が僕に迫ってきている。
失礼かもしれないが、いやきっと本当に怒るとおもうけどシェルファの時など比にならない。10倍いや20倍ぐらいの量だった。視界が光の矢で白く染まってゆく。
「回避行動。ルート表示。」
操縦桿を力いっぱい傾けて機体を反転させ光の矢を回避する。当たったら木っ端微塵どころでは済まない。
消滅してなくなってしまうだろう。
「フライトシステム出力ターンダウン。アゼブライト
出力抑制。下降開始。ブースター点火。連射式
エネルギーライフルへ装備を変更。」
敵を惹きつけるため僕は高度をどんどん落としていった。アルドロスはまだ一つも落とされてはいない。
さすがは最新モデル。エネルギーシールドの密度も高く名前に恥じない防御力だった。
「08より04三枚翼との先頭は回避したほうがいい。正直E・B・A単騎じゃとても相手にできない。」
「04より08わかってます。あくまで惹きつけるだけです。アルドロスが安全圏まで行くまで続けます。」
「それは危険だぞ!!さっきの光の矢を見ただろう。
そんなに近づいてはとても対処しきれないはずだ。」
「大丈夫です。敵の光の矢はあくまで手から現れている魔法陣の中を直線に飛んできます。距離300以上を保ちつつエネルギーシールドを展開すれば0.5秒ほどシールドが破られるまで時間があります。それなら回避は可能です。」
「なんで0.5秒の隙間があるなんてわかるんだ。」
このマヌケな質問に僕は一瞬あっけにとられてしまった。
「先ほどの光の矢のデータより、光の矢の初期のエネルギー量をエネルギーの減少量を元にして出してE・B・Aのエネルギーシールドの強度、シールドのエネルギー変換速度と比較して出したんですがついでにての魔法陣が出現してから若干のタイムラグがあります。それも合わせると回避に取れる時間は1秒ぐらいですね。多分学校でやったと思うんですけど・・・・・・・・・。」
「違うぞ04。いやクロエフ君。俺がそう言ってるのはそういうことじゃない。もっと先に見ることがある。
相手は天使の中でも最上級のやつらだ。たった一回のデータでそれがあいつらの全力だと言い切れるのか?威力を上げてきたらどうする?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「君の分析能力はとてつもなく素晴らしいものだ。
30すぎのおじさんには全くその計算はわからない
だが長く生き多分これだけはちゃんと言える。」
「ですが・・・・・・・・・僕は・・・・・・・」
「・・・・・・止めても行くんだろうね、君は・・・
・・・・・・画面の右の下にセンサー一覧がある。
その中のサーモグラフィーを選ぶんだ。能力を発動するとき天使の場合は手にエネルギーが集中する。その中でちゃんと光の矢に変換されなかった分が熱に変換されるんだ。そのエネルギーを見ればもっと早く
予測することができるだろう。」
「・・・・ありがとうございます。」
「例はいいよ、別にそれより無茶はしないでくれよ。
タカに怒られちまう。」
僕はサーモグラフィーのセンサーを起動して色を薄くして自分のカメラに合わせた。たしかに拡大して見ると矢や天使の手は温度が高く表示されていた。
僕はそのまま高度を下ろしてエネルギー反応の高い天使から距離を300ともう少しとってところにで
アゼブライトの出力を上げて停止した。
「04よりアルドロス、シールドは後どれぐらいもちそうですか?」
「アルドロスより04、もうあまりエネルギーが残ってない。最悪ここで出撃しないといけないかもしれない。あの強いのさえどうにかできればうまくいくと思うんだが・・・・・・・・・・・・・・・。」
「強い反応さえ押さえればどうにかできるんですね?そのまま乗っている人を安全に届けられるんですね?それなら僕が時間を稼ぎます。早く街の中央まで走ってください。多分あまり長くは持ちませんから。」
そうして通信を終えると僕は天使に向き直った。カメラ越しだがよく見えている六枚の翼。僕はそれがどのくらいの地位にたつ天使なのかすぐわかった。その翼の数と大きさが強さを物語っていた。あれは上級三隊最上級セラフィムに違いない。神には分類されないものでありながら最も神に近い存在。しかし、そんな存在が相手に対峙していても僕に完全に勝機がないわけではなかった。無論生身なら話にならないのは何度も言っているが、そしてこれはあまり言いたくないがデジット先生が作ったこのE・B・Aは信用することができるのだ。本人は別だが。いやそれじゃ足りない。真逆だ。許さん、あの男。まあそれはそうとして倒せるかどうかはわからないが動きを止めるのは可能だ。さっきのチャージ式のエネルギーライフルではあの天使は弾を逸らせて回避したのだ。真正面から相殺したわけではないということからエネルギーライフルの出力を持ってすれば防御を破ることは可能だということだ。
「追加装甲を解除。アゼブライト反応上昇。0に設定。
ブースター起動。チャージ式エネルギーライフルの
安全装置を解除。出力限界値が上昇しますがオーバーチャージによって爆散する可能性があります。注意してください。」
僕が狙うのはゼロ距離からの狙撃。威力にして簡単に
説明するなら僕が昨日いた街ぐらいならまるまる消せるぐらいのもの。そんなものをゼロ距離で発射すれば僕も当然被害を被るのだが、いや命さえもほぼ失ってしまうことは確定した運命だろう。でもそれでエリーをほかのみんなを守ることが出来るのなら、別に僕はそれはかっこいいことだと思う。誇っていいと思う。
「システムを全てマニュアルに切り替え。ブースト
出力上昇。フルスロットル!!」
自分でも馬鹿だと思うぐらい真正面から、銃を構えた姿勢で僕は六枚翼の天使めがけて突っ込んでいった。
目の前で光が炸裂し視界が真っ白に染まったあと無防備な僕の機体は砕け散った。無情にも非常にもエネルギーの障壁に完全に阻まれて。凄まじい振動をもろに体に喰らって薄れていく意識の中モニター越しで六枚翼の天使が僕を見下ろしていた。否、その視線は僕ではなくその先へと、つまりアルドロスへと向かっていた。だがもう機体も僕の体も動かない。それでも腕を上げようとしたところでそこでぷつっと僕の意識は途切れてしまった。