表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
SEVENTH・WORLD  作者: Question
2/12

EP1-2

その後僕は先生から今日の模擬試合の映像データと明日の予定をもらった。昇降口でもう一度先生にありがとうございます、というと僕は学校を後にし、寮に向かって歩き始めた。日もうすっかり沈んであたりもうは暗くなっていた。家に帰ると部屋の電気は全て消えており兄は本当にいないようだった。もらった映像データをテレビに転送して今日あった試合を見た。能力を手に入れると能力だけでなく身体能力も大幅に上昇する。だからコロシアムでの戦いは能力を手に入れたばかりの僕たちには人間離れをした動きが多くなったはずなのでかなりやりにくかったはずだ。オリハルコンの装備で能力の威力を大幅に減少させているとは言え攻撃も下手をすれば相手に大きな怪我をさせてしまう。そのへんは本能で生きているロッキーには簡単だったようだ。雷の小さな電流の攻撃を大量に出す。どんな小さな攻撃でもカウントされるようにできているので、それらを阻むような能力を持っていないのであればすぐに三回カウントされて負けてしまっていた。ロストーも光の矢を作り出し、同じような戦い方をしていた。そしてアリエルの場合は飛んでいた。さすがは風の王。一定の空域を支配する能力は流石なものだった。竜巻の座標攻撃は一回で五カウントほどカウントさせるので順調に勝ち進んでいた。準決勝は帝王と王族の能力の前に精霊クラスの二人は負けてしまっていた。先生が言っていた決勝戦は確かにすごかった。ロッキーから放たれた電流がアリエルに当たる直前で電流が消える。すぐにアリエルの反撃が始まる。

「切り裂けっ!!」

この号令とともに無数のかまいたちがロッキー目掛けて発射された。当たったら怪我をするでは済まない量だ。アリエルは本当に殺し合いのつもりでやっているかのようだ。ロッキーがにやりと笑う。

「さっき言ってたやつやるぞ、インドラ!!」

ロッキーがグッと足に力を込める。すぐにロッキーの体からバチバチと電流がほとばしり帯電しているのがわかった。

「ヴァジュラ!!!!」

そう言い放つと同時に帯電したロッキーの手から放たれる雷の奔流。雷はまっすぐアリエルに直進した。かまいたちも電気の力によって相殺されロッキーには当たらなかった。雷がアリエルに直撃する。一瞬画面が真っ白になった。本来なら人間はここで黒焦げになるところだがそうはならなかった。アリエルに当たる直前、体についているオリハルコンが元々持っている特性能力の力によってはほぼゼロにまで弱まる。ピー、と試合終了のホイッスルが鳴ったところで映像が終わった。時計を見るともう七時半を回っていて僕はだんだんお腹がすいてきた。食べ物なら冷蔵庫にあるがそのままでは食べられない。インスタントや冷凍食品はあんまり好きじゃない。料理すればいいじゃないかって?残念なことに僕は料理をすることができない。ひどいぐらいにできない。基本的に僕が料理をするとどんなものを作っても黒くなる。例え例えそれがシチューでもだ。このまま空腹で兄が帰ってくるまで待つのは嫌だし、かと言って食品を素材のままでは食べたくない。相当悩んだ挙句僕はひとつの答えにたどり着いた。電話でピッと番号を押し通話状態にする。相手は一回目のコールで電話に出た。電話の向こう側からいつでも機嫌の悪そうな彼の声が聞こえる。

「なんだよ、こんな時間に。今日は俺することあるからお前の相手なんてしてらんねーぞ。」

何だかいきなり電話を切られそうな勢いだったので自分が出せる限りの誠意いっぱいの声で懇願する。

「ねえ、ロストー。今日は兄がいなくてご飯のあてがないのだけれど可哀想だと思わない?」

「野菜でもかじってろ。」

ブツッと電話が切れた。慌ててもう一度かけ直す。これは僕が生きるか死ぬかの大きな問題だ。絶対にロストーの部屋で美味しい料理を食べてやる。ロストーは料理がうまい。僕が言うのもなんだが料理ならロストーの右に出るものはいないだろう。故に僕はロストーのご飯がものすごく食べたいのだ。もう一度言う。ロストーの料理が食べたいのだ!!

「うっせーな。連呼すんな、聞こえてんぞ。」

「そうだよ。僕はロストーの美味しいご飯が食べたいんだよ。」

「だから俺は今日はすることがあるからお前の分まで作ってる時間なんてないの!!」

「待って!!まだ切らないで!!今日することってE・B・Aの強化パーツ集めでしょ?晩ご飯食べさせてくれたら手伝うから!!お願い!!」

一瞬の沈黙。その後どこかで聞いたことのある声が電話路後ろから聞こえてきた。

「今日はカレーですよー。ロストーさんのカレー、すごく美味しいです~♡。」

あぁこれはレアルさんの声だな。パートナーだからきっと家にいるのだろう。

「あぁうまいな、俺なんてもう5杯目だ。なあインドラお前もそう思うだろ?」

「うむ、この世界にこんなに美味なものがあるとは・・・・・我が世界にこのように美味なるものはない、気に入ったぞ。」

ん?ロッキー達の声が聞こえたぞ?黙っているロストーに追い打ちをかける。

「あれ・・・?みんないる感じですか?」

「ちげーよ!!こいつら急に俺の部屋に上がり込んできたんだよ!!」

「ロッキーさんたちはそうかもしれないですけど私までその扱いはひどいじゃないですか~」

「そうだぞ、ロストーお前らパートナーなんだからもっと仲良くしてやれよ!!モテないぞ~。」

「なんと心の狭き男よ。」

「ほんとうっせーなお前ら!!食うときぐらい黙って食え!!」

「・・・でロストー。僕の分はないの?」

「・・・・・っ!!作ってやるから早く来い!!10分だ!!それ以上遅れたら食わせないからな!!」

ロストーは最初は断るが粘れば大体うまくいく。これは今まで一緒に過ごしてきたからわかることだった。そんなこんなでロストーの部屋でクエストの協力を条件にごはんが食べられることになったのだった。浮かれながら身支度をする。ロストーは少し離れたところの寮だが歩いても5,6、分で着く。靴ひもを靴が脱げないようにきつく結びドアを開けると暗い中の道をロストーの家へと向かって走り出した。家を出発してから二分ほど経って人気のない交差点を曲がったところだった。一人のおばあさんが木の下でなにか呼んでいる。「ミケ、ミケ。早く降りておいで。おうちに帰ろうよ、ね?」

どうやら猫が木の上に登ってしまって降りてこないようだ。残り時間はまだ結構あったし無視して通ることはできないので助けることにした。

「おばあさん。僕が連れ戻しましょうか?」

おばあさんがこっちを見る。そして僕に頭を下げた。

「よろしくお願いします。あの子は高いところが苦手で・・・降りてこられないようなんです。どうか連れ戻してください。」

任せてください、僕はそう言うと勢いよく塀の上に登った。塀を伝いながら歩き、猫のいる木の枝がある方へと近づいていく。そうすると木の枝の上で三毛猫が小さくなって震えていた。その時だった。けたたましく耳障りなサイレンが鳴った。続いて無表情なアナウンスの声が流れる。

「時空の歪みを検知。下層とのゲートの接続を確認。バスターズの出動を要請しました。ゲートの接続まであと15秒。10秒後にエネルギー障壁によってゲート周辺の区間を隔離します。周辺にいる人は直ちに避難してください。」

まずい。よりによってこの場所でゲートが開門してしまうとは。今逃げればおばあさんと僕は助かるだろう。だが猫は?おばあさんと約束した。猫を連れて帰ると。

あの時逃げていればと思う。だが一瞬の決断を必要としたこの時は僕は逃げようという気持ちよりも責任感の方が勝っていた。

「おばあさんは早く対象エリア外へ!!」

おばあさんが戸惑ったようにこちらを見る。

「でもあなたは・・・あなたはどうするの?」

「僕は大丈夫です。バスターズの応援が来るまで持ちこたえます!!猫は必ず連れて帰ります。だから早く!!」

そう言うとおばあさんは僕に向かって頭を下げると対象エリア外へと走っていった。おばあさんが走っていったのを確認して猫に向きなおる。

「絶対にうちに返してやるからね。さあおいで。」

猫は案外素直に僕の方へときた。そろそろと怯えながら降りてきた猫をしっかりと抱きとめる。温かい。

けたたましいサイレンの音は相変わらず続いている。

「エネルギー障壁を起動。一定の区間を隔離。ゲートの接続の完了を確認。5、4、3、2、1、出現します。」

ズズズ、とゲートの中から狼のような形をした魔物が6匹ほど出現した。地上と天空都市がゲートでつながってしまうことは頻繁にあることではないがあった時のためにエネルギー障壁で隔離できるようになっているのだ。中に入ってしまえば命の保証はない。急いで塀を降りる。6匹の魔物はこっちを見ていた。完全に目をつけられている。頭の中に高校生、ゲートの開門に巻き込まれ死亡。そんな嫌な感じのイメージがフッとあたまをよぎった。頭を振ってそのイメージを振り払う。バスターズが来るまで耐えればいいのだ。バスターズとは第一世界を守っている自警団のことだ。能力と第一世界の持つ科学力を駆使して戦う。昼の訓練はその資格を得るためのものだ。第一世界ではすべての学校で必修科目となっている。

あと数分で着くだろう。能力があれば持ちこたえられるがあいにく僕は今それを持ち合わせていないのだ。グルルル、6匹の魔物が唸り声を上げながらジリジリと距離を詰めてきていた。突然僕の手の中でミケが暴れだした。持っていられなくなり地面に下ろす。ミケがトコトコと路地を曲がっていった。僕は狼とほぼ同じペースで後ろに下がりながらミケが曲がっていった路地の方を見る。そうすると路地の向こう、ミケが座っているとこにもう一つゲートが開いているではないか。狼との距離を確認し一気に走り出す。ゲートの前まで来てミケを拾い上げる。狼はもうすぐまで迫ってきていた。

「ミケ。このゲートに入ったほうがいいと思うかい?」

ミケは僕の顔を見てミャア、と小さく泣いた。

「お前はいい子だね。」

そう僕は言ってミケの頭を撫でる。迫り来る狼を背にして僕は暗く何も見えないゲートの中に身を投げた。ゲートの中は不思議な感覚だった。空気は暑いのか寒いのかわからないような温度、体はふわふわと浮いて無重力空間にいるような感覚だった。遥か遠くに小さく光が見えた。

あそこにたどり着けば僕がどこにたどり着くのか分かる。魔物の巣窟と化した地上に出ればもって一日だろう。第二か第三か第七なら帰れる見込みはある・・・・どうしてあの時逃げなかったのだろう。あの時逃げていればこんなことにはならなかったのに、後悔したがいまさらしても仕方がないのでとりあえずなるようにさせようと思った。光は天のように小さかったがたどり着くまでにあまり時間はかからなかった。どんどん光が大きくなっていく。大きくなって、大きくなって・・・・・

「いったっ!!!!」

急にゲートからはじき出され地面に落ちる。その後上からミケが落ちてくる。急に落ちてきた僕たちに街中の人はとても驚いたようだ。腰をさすりながら辺りを見回す。高い。見た目は人間とほぼ変わらないが背がとても高い。三メートルぐらいだろうか。僕たちが立ち上がると人々の間から人間だぞ、なぜここへ?などと小さな声が聞こえた。しばらくするとぼくの周りの人ごみを掻き分け一人のいい体をした男がこっちに歩いてきた。その手には手錠が握られている。嫌な予感がした。ぼくは反射で一気に走り出した。ミケを胸の中に抱え、後ろをちらっと振り返る。男たちは歩幅は大きいものの走るのはあまり早くないようだった。しかしぼくを追ってきているのは一人ではなく複数人いた。大男が走りながら僕に向かって大きな声を張り上げた。

「止まれ、人間!!彼の人の命によりキサマら人間には人間であるから懲役100年の刑を受刑せよ、という罪状が出されている!!大人しく捕まって服役しろ!!」

男がこちらに向かってずんずんと突き進んでくる。

ちょっといきなりなんですかこの人?はあ?100年も刑務所入ってたら人生終わっちゃうでしょ。まずそんなことをされるいわれもない。さらに人間という人種を差別するような言動が見られた。差別は世界間で全て禁止されているから裁かれるのは奴らの方のはずだ。ただそれは正当な理由であって多分ここでは通用しない。魔物の巣に出なかっただけ良かったもののここでも捕まれば待っているのは死だ。絶対に捕まるわけには行かない。一瞬でそう判断しミケを拾い上げ脇に抱えると全力で表街道を走っていく。幸い街行く人々の中に僕を捕ようとする男たちの手助けをしようとする輩はいなかった。途中で狭い路地に入り込む。そうすると後ろの方で

「全方位から包囲して必ず捕まえろ!!」

と声が聞こえる。僕のこの判断は誤りだった。迷路のようで高い建物に周りの景色を阻まれ自分がどこにいるのかが全くわからない。つまり迷ってしまったのだ。

「いたぞ!!人間だ!!こっちに居る!!」

後ろで声が聞こえる。これでは捕まるのは時間の問題だ。ちょうど運悪く最初に会った男と鉢合わせしてしまった。男がこちらを見てニヤリと笑う。

「さあ人間、覚悟しろ!!」

男の長い腕を交わし元来た道を脇目も振らずに走り出した。息はもう上がってきていたが限界ではなかった。高校で運動しておいて良かった。本当にそう思った。なんでこうなった!!?走りながら僕の頭の中で

目まぐるしく思考が広がっていく。背の高い人間たち、

文明が確立しているところから多分この世界は第四世界のロストウィークであろう。「彼の人」・・・・・・先程男が放った言葉の中に

他の男たちが僕を見つけたらしくこちらに向かって歩いてくる足音が聞こえる。もうこれ以上走れない。僕の足はもう限界だった。絶体絶命だと思ったその瞬間

「こっちよ、早く!!」

大きな声が聞こえ、僕を手招きしている人影があった。僕よりも背が低くフードを深くかぶっている。多分人間だ。走り出した彼女のあとを追う。彼女は古い建物の扉を開けるとその中に消えていった。僕も慌ててその建物に入る。そして仰天した。古い建物の中に入ったはずなのに出てきたのは草原だった。少し離れたところに街が見える。あれ僕がさっきまでいた街だろうか。その頃街の男たちは消えたふたりを探し回っていたが一向に見つからず地面を踏み鳴らした。

「くそっ、逃げられた。時空の歪みを把握して逃げたな・・・・・・!!」

仲間の男が戻ってきたところで彼は男達に問いかけた。今までは疑問に思ってすらいなかった疑問だった。

「我々はなぜ人間をおいかけまわっているのだ?別に彼らはなにかしたわけではないではないか。」

男たちは呆れたという顔をした。ひとりの男が口を開く。

「彼の人がそうおっしゃられているのだ。何か知っているのだろう。彼の人に間違いはない。」

男にそう言われ彼は青い空を見上げた。そして一人つぶやく。

「あぁそうだな。間違いではないのだな。」

男たちが探し回っている頃僕は草原に吹く風を感じ座って火照った体を冷やしていた。先程僕を助けてくれた、女の子がゆっくりと僕に近づく。お礼を言おうとしたがその前に女の子は僕の喉元にどこからか出したナイフを押し当てた。そして女の子は僕にナイフを突きつけたままもう片方の手でフードを取った。中から現れたのは金髪で青い目をした僕と同じくらいの年の子だった。女の子が口を開く。表情はまだ硬いままだった。

「まず確認だけどあなたは人間?それともこの世界の住人?」

ナイフが喉に当たらないように慎重に答える。

「は、はい。人間です。さっきこの世界に飛ばされてきました。」

「自分が人間であるという証拠は?」

やばい。学生証などの身分を証明するものはロストーの家でご飯を食べるにはいらないと思って全ておいてきてしまった。どうしようと一瞬困ったが何よりも自分が人間であるという事を証明できるものがあるではないか。そう、自分の手の甲に刻まれた刻印だ。能力は人間しか手に入れることができないので刻印は人間しか持つことができない。よって刻印を持っていることは自分を人間であると証明できるのだ。女の子に見えるように手の甲をかざしナイフを気にしながら説明する。

「この刻印とさっき人間と言われて追い掛け回されていたことで証拠にならないかな。」

女の子のナイフを持つ手が少し弱まる。だがまだナイフはしっかりと喉元に据えられたままだった。

「OK。あなたが人間だということは大体わかったわ。それじゃあこれが最後の質問。あなた第一世界に帰りたい?」

首を縦に振ったら多分死ぬので口だけを動かして答えた。

「うん。帰れるものなら今すぐ帰りたい。」

女の子が僕の首からナイフを離した。そしてローブの中にナイフをしまうと僕に向かって手を差し伸べた。

僕は差し伸べられた手をしっかりと掴んだ。地面に片方の手をしっかりと付き体を持ち上げる。女の子が僕の方にしっかり向き直った。

「さっきまでは驚くような事してごめんね。あなたが本当に人間かわからなかったものだから・・・・・

でももう大丈夫!!私たちがあなたをちゃんと第一世界に返してあげる。」

よかった。しっかり帰れるようだ。ただ気になるのは

先ほどの男たちのこと、それらが崇めていた神についてだった。まあ成るようになるだろう。今考えても仕方ないだろう。前を歩く女の子に声をかける。

「あの、あなたはいつからここに?あと名前を教えてくれませんか?」

女の子が振り向く。少し苦笑をしていた。

「やだなあそんなにかしこまらなくてもいいよ。これからは行動を共にする同士なんだからね。あたしはここの時間だと2年くらい前にここに来たの。名前は

エリザベス。あなたは?」

「僕の名前はクロエフ。クロエフ・キーマー・・・・」

と言いかけたところで僕の胸の間からミケが顔を出してミャアと泣いた。ミケを指差す。

「それでこいつがミケ。運悪く僕と一緒について来ちゃったんだ。」

女の子がわあ、と声を上げる。猫は好きみたいだ。ミケの方もエリザベスの事を好いたようだった。エリザベスか・・・・・言っちゃ悪いけど言いにくいな。

「ねえエリザベス。呼びにくいからエリーでいい?」

女の子がミケを抱き上げながら呆れ顔をする。

「あなたねえ、別にかしこまらなくてもいいとは言ったけど、まだあって間もないのに略称、ついでに命の恩人に対してタメ口ね・・・・・いい度胸してるじゃない。」

「ご、ごめん!!別にそういうつもりじゃないのだけれど・・・・・ダメかな?」

エリーがミケの頭を撫でながら僕の方を見る。

「別にいいよ。この子に免じて許してあげる。じゃあ私もあなたのことはクロと呼ぶわね。」

文句はないわよね、とエリーの目が言っている。

あんまり友達はいないし、少数の友達にもクロエフと呼ばれているので少し変な感じはするが嫌な気分ではなかった。笑顔で返す。女子に対してこんなにナチュラルに話せたのは初めてだ。

「うん、いいよ。好きなように呼んで。」

「じゃあクロ。しっかり私についてきて。今から仲間のところに案内してあげる。」

のろのろと歩く僕の手をひきながらほら、早く、と言われてエリーにつられて二人草原を走ってゆく。僕は今、生まれてから感じたことのないほど楽しい気分になっていた。学校のような変化のない毎日とは違ってまだ来て間もないがここに来たことは僕にとっては世界が広がりとても刺激的だった。冒険、アドベンチャーというものはこれほどまでに楽しいものなのだろうか。ふとエリーの走る姿を見てなんだか見たことがあるような気がした。顔の感じや声が誰かと似ているような・・・・・が、よく思い出せなかったので気のせいにすることにした。何もない草原を走り抜け森の中に入る。森はたくさんの木々で覆われていてたくさんの生き物がいた。この世界では僕の世界とは物の大きさの違いが大きいようだ。木は大きさが定まっておらず数十センチのものもあれば数十メートルに達する気もあった。森の生き物たちも個体によって大きさが異なっていた。エリーと歩きながらどんどん森の奥に入っていく。森の中は静かで暇になってしまったのでこれからのことをエリーに訪ねてみた。

「ねえエリー。これから仲間に会いにいくって言ってたけど仲間ってどういう人たち?」

エリーがこっちを見て顎に手をやってからうーんと考えている。

「絶対にわかっているのは全員が何らかの不祥事でこの第四世界に来てしまって帰れなくなったことで、たくさんいるからそれぞれの人たちがどうやってここに来たのかは全部はしらないなあ。だからみんながどういう人かっていうとわからないけど私が過ごしてみてみんないい人たちだったからそんなに気にすることないよ。みんな目的は同じだしね。」

そうか結構数はいるみたいだ。帰れないのは人間という種族だけではないようだ。街であった男たちは人間の中に不穏分子がいるといっていた。多分それは彼女らのことだろう。つまり怪しいことをしていなければ捕まりはしないがその代わりに自分の世界へと帰ることができないのだろう。だから彼女たちの仲間は行動を起こしているのだ。時空神ディスティニーは神々の中でもずば抜けて他種族への差別意識が強い、とどっかで見たことがある。特に人間が大嫌いで会議などでも度々衝突することがあったらしい。その彼のことを考えれば自分が嫌っている人間の言う事を聞くなど以ての外だろう。よく分からずにエリーの仲間の作戦に参加することになったが最悪は戦闘ということもあり得る。とはいえ時と空間を操る能力を持つディスティニーを相手に人間が戦うことは不可能だ。時を止められ一瞬のうちに息の根を止められて終わるだろう。人間と神では身体的にも能力的にも天と地ほどの差がある。何か人間嫌いの彼を納得させるような方法でもあるのだろうか。そんなことを考えながらエリーについていくと前方に大きな洞穴が見えた。もう森は最初のような明るい感じではなく背の高い木々が太陽の光を遮ってしまっていた。地面に微かに漂う霧が僕の恐怖心を駆り立てる。エリーの仲間はあそこに居るのだろうか。エリーに尋ねてみる。

「ねえ、エリー。この森の随分奥まで来たけどあそこに見える洞穴の中にいるの?」

それを聞いたエリーがこっちを見て笑った。なんで笑っているのかわからないので首をかしげる。エリーは一通り笑い終わったあと口を開いた。

「はあ~、面白い。最初にここに来た人はみんなそういうんだよね。確かにこんなところまで来ると不安になるよね。違う、違う。私たちのいるところはもっと第一世界に馴染み深いところだから・・・・・

お、もうすぐ付くよ。ここが私たちの拠点。」

エリーについて走って行くと、洞穴の近くに先程までの光も刺さない密林とは違って、太陽の光の射す開けているところがあった。その中央には大きめの泉もある。そして一番目についたのは異様にごついフォルムをしたガンシップ三機。僕の世界では普通に空を飛んでるが、あまり近くで見たことがないのと周りが自然だらけであることからガンシップがあることにすごく違和感を覚えた。ガンシップのほうに向かって歩いていくに連れてだんだん中からいろいろな話し声が聞こえてきた。エリーがガンシップの扉の前に立ち指紋認証スペースに自分の人差し指を押し付ける。お馴染みのアナウンスの人が

「指紋認証を確認。続いて網膜認証、どうぞ。」

と言った。エリーが次は目を近づける。

「網膜認証の一致を確認。エリザベス・ホハート様でよろしいですか?」

エリーがうなづく。

「うん、よろしい。とりあえず扉を開けてくれる?」

「了解しました。扉を開錠します。」

プシューと空気の抜ける音がして扉が開く。扉が開いたことでさっきまで聞こえていた話し声がより鮮明に聞こえるようになった。中からドンチャン騒ぎが聞こえる。話していたのではなくて騒いでいたようだ。

一人の頭にネックウォーマーをつけた男がこちらを向いた。

「おお、エリザベス。買い出しはもう終わったのか。今日は随分と早かったな。っていうかそこの子は誰?」

男がそう言った瞬間に僕の方に視線が集まる。あぁ苦手だ本当に。一度も話したことのない人に、しかも大勢のそういう人たちに見られているとだんだん胃が痛くなってくる。エリーが自慢げに説明を始めた。

「こちらはクロエフ・キーマー。街で衛兵に追われているところはたまたま見かけた私が助けてあげたの。彼は人間でさっきここに来たばかり。元の世界に帰りたいと言ったから連れてきたの。」

ほら、挨拶しなさい、とエリーにつつかれ僕も自己紹介を始める。

「え、えーっと、さっきいってもらったように第一世界から来ました、クロエフ・キーマーといいます。友達の家に行く途中でこの猫と一緒にゲートに巻き込まれました。ついさっきまで追いかけられててエリーには本当に助けてもらいました。」

真ん中に居るボスらしきネックウォーマーの男が僕をじっと見る。一瞬の空白。その時僕のお腹が鳴った。ハッとしてお腹を押さえる。まだ夕飯を食べていない上に先程追い掛け回されてかなり運動したので僕はすごくお腹がすいていた。それが愉快だったのか機内は笑い声で包まれた。ネックウォーマーの男が必死に笑いをこらえながら僕に話しかけてきた。

「やっべえ、腹いてえ。俺の名前はタカって言うんだ。タカ・ヴァルキリアス。それでこっちがエイドと

ジーン。ほかにも説明しなきゃならんことはあるが

とりあえずメシを食え。腹減ってんだろ?」

そう言われこくこくとうなづく。さきほど紹介してもらったエイドとジーンというふたりがご飯を運んできてくれた。エイドはかなり痩せがたで、ジーンはどちらかとう言うと少し太めだった。お腹が減りすぎていたせいかもしれないが出してもらったご飯は今まで食べた中で一番おいしかったと思う。空腹はだんだん満たされてゆきやっと冷静に自分の立場、置かれている状況を考えることができるようになった。第四世界ロストウィークは時間と空間の歪んだ世界。こちらでの一秒がほかの世界では百年だったり、逆に百年を過ごしたとしても一秒しか立っていないということもあるのだ。あるビルの扉を開けると遥か上空につながっていたり、さきほどエリーが僕を助けてくれた時のように一時的にいろいろなところにつながるところもある。この世界の扉というものは空間を区切るためのものであり、必ずしも出口が自分の想像したものと同じということはない。ただ一つ言えることはできるだけ早く元の自分がいた世界に帰ることだ。今ロッキーとロストーがどうなっているかわからない。そんなことを考えながらふとエリーの方を見る。よく食べるなあ。僕よりも食べているんじゃないだろうか。横顔を見る。やっぱり似ている。誰かに。・・・・・ん?そういえばさっきここに入るときにエリザベス・ホハートって言っていなかったっけ。ホハート・・・・。僕はやっとわかった。アリエルに似ている。顔はあまりにていないが目や髪の色、何よりもまとっている雰囲気のようなものがすごく似ている。アリエルは妹がゲートの開放に飲み込まれてしまって連絡が付かないと言っていた。僕の通っている学校は小、中、高、大の一貫校なので同じ学校なら見たことがあるはずなのだが・・・・・・。そう思ったところで僕は重要なことを思い出した。アリエルは中等部三年からの転校生であった。だがはいってきたときは一人であったからその前にもう妹はゲートに飲み込まれていたと考えるのが自然だろう。もし本当にエリーがアリエルの妹であるならばここと向こうの時間軸はあまり変わっていないと言える。訓練の時にアリエルに名前を聞いておけばよかった。いや今ここで聞けばいいではないか。エリーに問いかける

「ねえエリーって兄弟いるの?」

エリーが飲み物を一気に飲み干しグラスをドン、と机に置いた。本当に仕草に女の子らしさが足りない。

「姉が一人いるよ。でも連絡つかないから今どうなってるかもわからないしどちらかというと時間軸が違うから生きているかどうかも怪しいの。」

多分ここまで辻褄が合っているということはエリーの姉というのはアリエルに違いないと思った。少し間をおいて話し出す。

「もしかしてその姉の名前ってアリエル・ホハートって言ったりする?」

その名前を言った瞬間にエリーがガタッと音を立てて反応した。

「ど、どうしてその名前を知ってるの!!」

思った以上の反応にたじろいでしまう。

「い、いや別に同じ学校ってだけだし、彼女が妹を探してるって言ってたんだけど似てるな~って思って・・・・・。」

エリーがさらに近づいて来る。もう目と鼻の先ぐらいの距離だ。

「クロ!!あなたの今の歳を教えて!!」

慌てて指を折って自分の年齢を確認する。

「え、えーと今は十五で今年十六、高校一年生・・・・・。」

あまりに近づきすぎていてしかも女の子にこんなに迫られたことはないのでとても緊張した。エリーをよくよく見てみると結構可愛い。アリエルもそうだがエリーも負けていない。性格には少々難があるが。この

気まずい空気が流れたのを止めてくれたのはタカさんだった。

「おいおいまさか出会ってから数十分でカップル成立ですか~?なんなら席を外そうか?」

タカさんのそのセリフに合わせてヒューヒューと周りが野次を飛ばした。そのことに気づいたエリーがばっと僕から離れる。その頬は真っ赤になっていた。僕も少し遅れて頬に血が昇るのを感じた。エリーが少しうつむきながら僕に謝った。

「ごめん・・・・つい熱くなっちゃって・・・・・

自分が元々いた世界の情報が聞けるなんて初めてのことだったから・・・。」

そうか、ここにいる人たちは自分たちの世界が今どのようになっているか何も知らないんだ。何年間も

ほかの世界のことが聞けなかったらこうなるのも納得で出来る。その時急にタカさんの顔が僕の前にニュっと出てきた。あまりにびっくりしすぎて僕はひっくり返りそうになったが頑張ってこらえた。タカさんがエリーのほうを向いて話し始める。

「なあお取り込み中悪いんだけどよ、エリー、お前妙に今日は買い出しが早いと思ったら何も買ってきてねえじゃねえか!!!!」

エリーが口を尖らえて反論する。

「しょ、しょうがないじゃない!!時空のねじれから買出しに行ったらちょうどクロが追いかけられてて救うためには一回逃げるしかなかったのよ!!!!」

エリーの意見も最もだ。僕が言えることではないがあの状況からすぐ街にもう一度行くのは気が引ける。タカさんもそれはわかっているようでうんうんと頷く。

「あぁわかってるよ。わかってる。救ったことはとても素晴らしいことだ。だけどな食料や生活必需品がないと俺たち全員が困るんだ。それはわかるよな?」

タカさんがこちらを向いてニッコリする。すごーく嫌な予感。手渡されたのはローブとバッグ。嫌な予感、的中。僕はエリーとともに買出しに行かされたのであった。これから少しの間でもここで過ごすのであるから街のことは知っておけということらしい。タカさんに聞いた話ではこの下層で気をつけなければいけないのは僕のことを追い掛け回した警官たちだけらしい。それ以外の住人たちはそこまで僕たちに対して敵対心というものは持っておらず話せばいたって普通に返してくれるらしい。つまり警官に見つからないように買い物をして帰ってくればいいのだ。用意してくる、行ったエリーを待つあいだ暇を持て余していた僕は手頃なサイズの石を取ると思い切り湖のほうに向かって投げる。石は大きな弧を描いて湖の真ん中のあたりに水しぶきを上げて落ちた。出てきたエリーと買い物をするため一緒に街の方に向かって歩き出す。僕は先ほど手渡されたローブを身に付けバッグの中身を確認した。中には紙が一枚とお金が入っていた。紙に書かれている買ってくる物リストを見るとほとんど食べ物ばかりだった。

「エリー、ひとつ聞いていい?タカさんたちはどうやって元の世界に帰るつもりなの?時空神ディスティニーは僕たちを捕まえようとしているんでしょ?」

エリーがローブを身につけながら答える。

「まだクロには言ってなかったよね。時空神

ディスティニーがひどい人間嫌いだってことは知っているでしょ?あの神に対する説得は不可能と考えたほうがいい。じゃあどうするかはわかるよね?」

「そ・・・そんな!!無茶だ!!神を相手に戦うなんて神クラスの能力の保持者がいるなら話は別だけどただの人間僕たちが勝てるはずがない!!」

エリーは僕の言ってることを特に重大には捉えていないようだった。

「じゃあ聞くけどクロ、神と戦ったことはある?

神という括りにあるだけでもう絶対に勝てないと思ってない?第一もうこれ以外に方法がないの。じゃないと私たちはもう一生元の世界には帰ることができない。」

エリーがさらに続ける。

「もう一つ。別に戦って勝たなくてもいいの。

ディスティニーが私たちにしていることは世界の間で固く禁じられていることだから。誰かが一人でも元の世界に変えることが出来ればほかのみんなも元の世界に帰れる。そしてディスティニーは世界裁判所で裁かれる。神だって罪を犯せば例外じゃない。だからひとりでも元の世界に返す、それが私たちの作戦。どう?わかった?」

なるほどそれならある程度は可能性がありそうだ。しかし生存率という面で見ると僕には結構不安があった。

「わかったよ、エリー。じゃあ町に行くついでにその作戦の詳しいことについても教えてくれない?」

街が遠くに見えてきていた。僕はここから歩いて20分ぐらいだろうと思いそういった。エリーがローブについたフードを深くかぶる。

「いいよ。でももう街につくから簡単に説明するね。まずこの下層。ここにはもっとむこうに中層行きのエレベーターがあるの。最初はそこをせめて占拠して中層にガンシップで到達。そこから中層中央にあるタワーを目指していってタワーの頂上でガンシップから降下、周辺にいる神兵を片付けて上層のディスティニーが治めるエリアに行って誰かひとりでも帰る。この世界にいる神兵は下級のエンジェルとアークエンジェルぐらいだから私たちの装備があれば問題ない。

ディスティニーについてはよくわからないから問題とするならそこだね。あ、ここだよ。」

不意にエリーが草原の何もないところを指さした。僕は意味が分からずエリーにも同じ顔で首をかしげた。

「あれ?さっきここは通ったはずだけど・・・クロ

覚えてないの?」

「思い出した!!そういえばさっき警官から逃げているとき建物の扉からいきなりここに来たよね。」

エリーがうなづく。

「そう。この世界は時空が歪んだ世界。だからゲートの他にも時空が歪んでいるところがあるの。扉や門、いわゆる境界線や区切りと思われるものには気をつけて。物を投げてりして確認してみて。面倒くさいと思うかもしれないけどたまに一方通行だけの歪みがあったりするから、生きて帰りたかったらちゃんとやってね。」

一方通行って中に入ったら餓死するってことだよね・・・。そこまで考えて僕は身震いした。

エリーが僕の背中をバシッと叩いた。

「情けないなあ、男ならもっとしゃきっとしなさいよ。」

「大丈夫、大丈夫。両方のポケットにたくさん石を詰めていくから。」

「あのねえ、町に行くんだからそんなに心配しなくていいんだけど・・・まあいいや用心するに越したことはないしね。じゃあ日没までにそこに書いてある物を買ってここに集合ね。」

さっさと行こうとするエリーを僕は引き止めた。

「え、一人?一人で買い物するの?」

エリーは当然と言わんばかりな顔をした。

「当たり前じゃない。二人でいて両方捕まっちゃたら話にならないでしょ。地図はバッグの中に入ってるから大丈夫だよ。じゃあくれぐれも歪みと警官には気をつけてね。」

反論する暇もなく、エリーはさっさと行ってしまい、僕はひとり取り残された。そしてエリーを追うようにして歪みの中に飛び込んでいったのだった。歪みを抜けてみるとさっきの街になっていた。背中に背負っているバッグに手を回し中身を確認するとエリーの言ったとおりに地図がはいっていたので自分の買うもののリストと照らし合わせて位置を確認する。位置を確認した僕は買い物をすべく歩き出したわけだがそれにしてもこの街の人たちは大きい。ただ体積がとても大きいというわけでもなく縦にひょろ長い感じだった。大きいと目立つと思うが逆に小さすぎる僕の場合も結構目立っていると思う。とりあえず警官にだけは合わないようにしなければ。そう考えた末に僕は人気のあまりない道を通っていくことのしたのだった。最初に行かなければならないところはあまり遠くなく、人気のない道を足早に駆け抜けると店の看板を確認して僕さっと入った。そして僕には少し段差がきつい石造りの階段を地下へと向かって降りていった。下についてみると所狭しといろいろなものが置いてある大きな場所に出た。そこの真ん中にある受付らしいものに座している老人に声をかけた。

「あの・・・・・武器商人のライザさんはいらっしゃいませんか?」

といった瞬間に老人はばっと起き上がって杖を手に取ると僕の方に向けた。ジャキンと何かが装填される音がする。僕に向けられているのは杖の先ではなく仕込み杖の銃口だった。老人がかなり警戒した様子で口を開く。

「おい若造。今ワシのことを老耄扱いしただろ?」

「してません。断じてしてません。絶対です。武器商人のライザさんについて聞いただけです。」

こんなひどい聞き間違いがあるだろうか。その瞬間杖でドンと胸を突かれた。一瞬撃たれたのかと思って胸に手をやる。まだ穴は空いていなかったので安心した。

「いいか、若造。この街で武器商人のライザというのはワシしかいない。今回は初めてだから許してやるがつぎまた同じような事を聞くことがあったら風穴開けてやるから覚悟しとけよ?」

ものすごい形相で上から睨まれては僕はもう「はい」という他ないのだった。ライザがまた椅子に腰掛ける。「で、用件はなんだ。武器のたぐいなら大概はそろっているぞ。」

「タカ・ヴァルキリアスさんの依頼で来ました。

DECCS用の浮遊鉱石アゼブライトとガンシップ用のアゼブライト、それからオリハルコンの超合金ブレードのタイプAからDまでのものをください。」

言い終わってから自分で気づいた。僕はこれ持って帰れるのかと。明らかに人間一人で持てる量ではないと言う事を。老人が立ち上がる。座っていたから分からなかったが彼は立つと身長は5メートル近くあった。

「奴め、ついに行動する気だな・・・・よし、待っていろ。いま品物を持ってくる。」

どうして持って帰るか考えていた30秒間の間に彼は戻ってきて机の上に小さなキューブ上のものをコト、と置いた。そしてまたさっきまで座っていいた椅子にどっさりと腰掛けた。

ライザがキューブに向かって指をさす。

「これが品物だ。キューブの中の超歪曲空間にお前が言ったものが詰まっている。重さはほとんどないから安心しろ。」

あぁ、そういうことか。オリハルコンは本当に軽いけれど数十本も持てるわけないからね、そう一人で納得した。

「ありがとうございます。確かに受け取りました。」

バッグの中のお金を引っ張り出しながら恐る恐る

ライザに聞いてみる。

「あの、こういうのってどうやって仕入れているんですか?第四世界にも他の世界との交流があるんですか?」

ライザが下げていた顔を上げじろりとこっちを睨む。

「ほう、それはアンダーグラウンドに首を突っ込みたいということだな?いい度胸だ若造。だがマフィアの管理するグレーなゾーンに入り込もうとすれば消されるぞ?」

そう脅され慌てて両手を振った。

「いや、別にそういうつもりで聞いたわけじゃないんです。ただそういうラインがあるならこっちに取り残された人たちをむこうに戻してやれるんじゃないかと思って行ってみたんですが・・・・」

「ふむ、まあそれは一番生存確率の高いやり方かもしれんな。だがお前の考えには一つかけているものがあるぞ。利害の関係だ。お前の考えには人命第一で利害の内容が全く考慮されていない。考えてみろ、もしその作戦を取ったら損をするのは誰だ?考えるまでもないな、それはアンダーグラウンドの連中だ。流通のラインが明るみに出れば奴らは客から信頼を失い、ついでに客も失う事になる。つまり大損をすることになる。そんなことになれば報復は必須だな。」

報復という言葉を聞きゴクリとつばを飲む。ライザが話を続ける。

「まあそういうことでその方法はできないってことだ。やるなら正当に見える方法でやってくれってことになる。この手の商売の客はショーがないと買い物をしてくれないからな。お前らが戦って帰ることは信用の向上につながっているんだ。」

戦いをショーとに使われることには少々腹が立ったが武器がなければどうしようもない。

「ですが武器はどこから調達したのかとういうことにはなりませんか?世界裁判所はそんなことを見逃すほど甘くはないと思いますが?」

「まだまだ未熟だな若造。そんなものは公然の秘密とういうやつだ。もし世界裁判所がアンダーグラウンドを検挙してみろ。戦争になるぞ。そうなればマフィアも当然動くだろうしな。」

マフィアはそんなに恐ろしいほど強いのだろうか。

先ほどの説明から行くとマフィアは凄まじい勢力と聞こえているのだが。

「神でもそう簡単には沈められないのですか?各個体の強さでは圧倒的だと思いますが?」

「神の中にはまだ他種族を差別しているものが多い。ディスティニーだってそうだ。自ら手を下したりはしないだろう。世界騎士団が代わりに戦うだろうな。

だがいくら聖属性の武器を持つリーダー率いるエリート集団といえど甚大な被害を被ることになる。

マフィアには非合法的に集められた魔属性の武器が大量にあるからな。そうなるのだったら金で解決したほうがましだろう?おっと話しすぎてしまった・・・・。さあようが済んだのならとっとと帰れ。ここはいつまでも長居するところではない。」

そう一言言うとライザはまた机に座ると紙に何かを書き始め、自分の仕事をしているようだった。僕は邪魔をしないようにそっとローブのフードに手をかけると深くかぶった。しかし出ていこうとした時にライザに呼ばれた。

「若造。お前の名前と歳は?」

ライザの方へ向き直り自分の名前をいう。

「僕の名前はクロエフです。クロエフ・キーマー、15歳です。」

そう言うとライザはまた机の上に目を戻したが一瞬戻す前に目が合い、その時彼の目には懐かしさのようなものが感じ取れた。

「そうか。生きて帰れよ。」

僕はありがとうございます、と一言だけ言ってお辞儀をすると階段を登っていった。しかし災難に会うのはこの直後だった。階段から上がってきた道に出てきた僕は思い切りちょうどそこを歩いていた人にぶつかってしまったのだ。慌てて謝る。

「ごめんなさい。ごめんなさい。喧嘩売ろうとかそういうつもりじゃなくて前を見てなかったんです・・・・。」

男は一昔前のような服装をしていた。一通り謝ってから顔を上げる。表情から察するに穏やかな感じがしたので大丈夫かなと思った。よく見ると彼は両方の目を閉じていた。見えないのだろうか?

「まあ気にするな。こんな物は只の見せかけでしかない、私にとってはあろうとなかろうと関係のないこと・・・・・。ところで君、人間だね?」

一瞬何を言っているのか理解できなかった。一瞬の間を置いてやっと僕は理解した。心を読まれたのだ。

「な、なんで!?僕は一言も話していないのに・・・

心を読むことができるのですか?」

「いや、そういうわけではないが・・・。ただ何となく君がそう思っていることを感じ取れた。まあ私のことを知りたいと思うのは生きていれば当然のことだが君が知るにはまだ早すぎる。生者は人生の味だけを知っていればいい。死の味は死者のみが知るものだからね。」

一体何を言っているのだろうか。不思議な人だ。関わらないほうがいいだろう。直感的にそう感じた。

「はあ・・・・・じゃあもっと人生を楽しみます。

それでは、さっきはあたってしまってすみませんでした。」

そうしてさっさと去ろうとした。変な人とは早く離れたい。早く次の所に行って買い物を終えて早くエリーと合流しなくては。しかし歩きだそうとした瞬間、男に手首を掴まれた。そしてそのまま道の路地に連れ込まれた。

「何ですk・・・。」

言い終える前に口の前に人差し指を立てられる。僕はそこで黙った。耳をすませるとだんだん前に聞いた事がある声が近づいてきていた。ドスドスと足音が近づいてくる。その姿は忘れることはない、青い服に長い黒い帽子、3mを超える身長。少々トーンのおかしい口調が聞こえてきた。

「この周辺ではこの頃人間が頻繁に出入りしているらしい。調査するぞ。お前は向こう、私はあっちを調べる。さあいけ。彼の人を脅かそうとする人間は許さん!!」

僕と男は警官が行ってしまうまでじっと動かなかった。警官が言ってしまったのを確認してホッと肩を落とす。目の前には目の閉じられた顔があった。

「やはり君は人間か。これは、これは、面白いものにであったな。」

そして男は僕の掴んでいた右手を上げた。刻印の刻まれた手があらわになる。男の顔が無表情から少しだけ驚きのような表情を見せた。そして僕の手を下ろすと顎に手をやった。どうやら僕は助けてもらったようだ。

「ありがとうございます。今のは・・・・・ホントに助かりました。」

「まあ気にするな・・・・・・。そうか、君がそうなのか。ふむ、こんなところで出会えるとは。世界の全てに感謝しなくては。今日という日になんと名前を付ければ良いのか・・・!!・・・たまには散歩はしてみるものだな。そうだ、ここで立ち話をするのもなんだろう。助けたお礼だと思って少々付き合い給え。」

「・・・・・・・。」

こいつ絶対やばい。人通りが少ないとはいえこんなこと大声で言うのか。もし僕だったら恥ずかしくて死んでしまう。もう一緒にいること自体が羞恥系の拷問だ。僕の頭の中でそういう警報がけたたましくなって咄嗟に逃げようとしたが、僕の手首を持っている力は意外に強く、すぐに引き戻されてしまった。

「どこに行くんだい?私達が行くのはそちらではないよ。君は見た目と違って案外せっかちなのかな?」

「・・・・・・・。」

どうしたらこの人から逃げることが出来るか数秒間悩んだがこの状況では特に 打開策も見つからず諦めた。彼に手を引かれ少しアンティークな店に入ると僕たちは外から見えない少し奥の席に座った。彼は店員にコーヒーを二つ頼むと僕のほうを向いた。

「ここのコーヒーは私のお気に入りでね、たまに飲みに来るのだよ。そのたまたまの日が君がここにいる日と偶然重なったわけだ。素晴らしい確率だとは思わないかい?海に投げた砂の一粒が海の上をはねて自分の手元に帰ってくるような確率だよ。」

「そ、そうですかね・・・・。」

かなりあいまいに返事になってしまった。それでも

この人が悪いのだ。よくわからなことを言うのだから。

しかし僕のそっけない返事を気にする様子もなく彼は穏やかなままの顔で言った。

「問題ない。いま君がわからなくても近いうちに分かる。その時になれば私が何を話していたのかも君は理解することができるだろう。」

そう言い終わるのと同時にコーヒーが運ばれてきて僕はミルクと砂糖を少し入れるとコーヒーを飲んだ。特に美味しいとういうコーヒーではないなと思いつつ彼の方を見るとぎょっとして吹き出しそうになった。コーヒーが埋まるくらいの白い粉。

「そんなに砂糖を入れるんですか!!?」

と、咄嗟に言ってしまった。まわりを見れば店員たちも恐ろしいものを見る目で彼を見ていた。しかし彼は何を言っているのかわからないという顔をしたのだった。この人本当に目が見えないんじゃないかと思い始めたとき彼が口を開いた。

「何を言っているんだ君は?これは砂糖ではない。

塩だ。」

そう言いながら彼は白い粉の入った瓶をくるっと回すと僕に見せた。大きく刻まれた「SALT」の文字がそこにはあった。

「あっ、なんだ、塩だったんですか。てっきり砂糖かと思ってびっくりしましたよ。」

「まあ気にするな。見間違いぐらいざらにあることだからね。私はそれを咎めたりはしないよ。」

相変わらず店員の視線が気になったがとりあえずもう誤解は解けたはずなので僕はまたコーヒーを飲み始めた。ささっと話を済ませて早くこの人から離れたい。なので、僕の方から切り出した。

「それで、僕に何かようでもあるのですか?」

彼はコーヒーを飲みながら眉ひとつ動かさず答えた。

「特にないよ。まあ気にするな、君をここに連れてきたのは私の気まぐれだ・・・・・。ただ君は自分がどのような状況に置かれているのか把握しているのかなと思ってね。まあでも先程までの会話からだと君はまだ何も知っていないようだ・・・。彼女は一体何を考えているのだか・・・私には理解できないよ。」

「彼女って誰のことです?」

「それは君にその刻印をさずけたものであり、君のパートナーであるものだよ。」

ガタっと身を乗り出す。声もいつもより大きくなっていた。

「知っているんですか!!?誰なんですかあの人は?」

僕がいきなり声を大きくしたのを見て彼は呆れ顔をした。

「全く本当に何も教えてないのか、彼女は・・・・・・・・・あぁだんだん説明するのが面倒くさくなってきたな。」

「えぇー!!?じゃあ彼女がどういう人かだけでも・・・・・」

「面倒くさい。男ならそれぐらい気にするな。」

「気にしますよ!!そこは一番重要ですから!!それじゃあ名前だけでも・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「答えるのも面倒くさくなった!!?」

「ZZZZZZZ・・・・・・。」

「寝た!!?」

そのあとはどう話しかけても揺すっても寝ていた彼だったがあきらめて僕がコーヒーを飲んでいると急に寝るのをやめて席を立った。

何かを感じ取ったかのように彼の顔が一瞬こわばる。

「どうかしたんですか?」

僕の身の回りには特に変化はないように感じた。

彼が右手を出すとその手の中に錫杖のような武器が出現した。彼の声は低く、重々しくなっていた。

「どうやら感づかれたみたいだ。心地いいぐらいの殺気を感じるな。まあ気にするな。君は彼女に会うまでは能力を多分使えないだろうから私の後ろに隠れているといい・・・。もう、来るぞ。」

言い終えた瞬間と同時に店の壁を破り何かが僕たちのほうに向かって突進してきた。それが僕たちに向かって黒く輝くものを突き出した。それが剣だとわかった時には彼はもう剣を弾き返して、僕の腕を掴み店の外に出た。そこに立っていたのは黒い甲冑を身にまとい漆黒の剣を構える戦士だった。見覚えが有る。たしか教科書に載っていた。神兵の中の一つベルセルクだ。軍神マルスの祝福を受けた無人の鎧。敵と認識したものにはマルスのように殲滅し尽くすことから別名バーサーカーとも呼ばれる。しかしベルセルクは第七世界の警護にあたっているもののはずだし、こんなところに来て手を貸すようなことはないはずなのだが・・・。

僕の前に立っていたかれが口を開く。

「暴走状態になっているね。なぜかはわからないけれど私たちが標的のようだ・・・・・。うーん。戦うなんて久々なことだ。肩慣らし程度にならなるだろうか。」

ベルセルクが漆黒の剣を構える。鎧の兜の奥底から見える赤い光が強く光って揺れたかと思うと、一瞬で僕の目の前まで距離を詰めてきた。しまった。この距離では回避が全然間に合わない!!しかし間髪を入れずにベルセルクの前にニュっと錫杖が出てぼくがそれを確認した時にはベルセルクは遠くの建物の壁にまで吹き飛ばされていた。

「遅すぎるな。アレも君も。特に君は圧倒的に遅いね・・・・・それにしてもまだまだ君は弱いな・・・・・それでは壊れてしまうかもしれない。まあそれは私の心配することではないか・・・・・・。あちらもまさか目標を君だけにしているとは・・・・。私は無視されることがあまり好きでなくてね・・・・・・・・・・。」

錫杖についた埃を払うような仕草をしながら彼はポツリといった。彼は僕から離れると僕に背を向けた。遠くの瓦礫の山からはまたベルセルクが起き上がり戦闘態勢に入ろうとしている。

「君はもう行きたまえ。ここはわたしが始末しておく。彼女はあまり気が長くない。早く行ってやるといい。では、またいつか会おう。」

さっきからの一瞬の出来事の連発で僕はしっかりと返事をすることができなかった。そして僕は彼に背を向け走り出した。

 彼はクロエフが走り抜けていったのを確認するとベルセルクに向き直った。

「今の彼には多分効かないだろうけど直視して万が一のことがあったら私もそれなりの覚悟がいるからね・・・・・・。さて・・・この町は結構好きだったのだが・・・仕方ない、これが最大の譲歩だ。せめてなかったことにしよう。ねえ君私が彼と一緒にいる間私はちゃんと普通に見えていたかい?」

「・・・・・・・・。」

ベルセルクが剣を構え飛び出す体勢になる。彼は錫杖を手の前に出すと唱えた。

「答えはなしか・・・。無視されるのは嫌いなんだといったのだけれど・・・・・。まあ気にするな。君には私を冒涜した代償を償ってもらうだけだから・・・・・。正気を保つことが難しいからあまり使いたくはないが・・・・・・。我が名はラザレス、我が名におけるすべての権限をここに収束し発動せよ。『グラウンド・ゼロ』」

閉じられた目を開く。ラザレスにまとわりつくように何かが流れ出す。空気が一瞬凍りつきそれが解けたときにもう街はなかった。

「ククク・・・・クハハハハハハハハハハハ!!!」

すべてを見下すような、それだけで背筋が凍って足がすくんで動けなくなるような、『死』を体現する彼の高らかな笑い声だけが廃墟の中響いていた。

 クロエフは先ほどの彼に言われてエリーと合流するために走っていた。

 そういえば彼の名前聞いていなかったな、などと思いながら走っていると急に背筋にゾクッとするものを感じた。一瞬振り返って確認したい衝動に襲われたが僕はなんだか振り返ってはいけないような気がして振り返ることなく走り続けた。一回見たことのある大通りに出る。エリーとの待ち合わせ場所はもうすぐだ。その瞬間またさっきのように背筋に走る寒気が僕を襲い、空気までもが凍りついたかとうように感じた。一瞬のそれが引いたあとには僕の目の前には人通りの多い大通りではなく建物の風化した誰もいない大通りがあった。辺りをぐるりと見回してみても同じように風化した建物があるだけで人はおらず僕は何がなんだかわからなかった。バッグの中から地図を取り出してみると行った時には書いてあったこの町のところが空白になっていた。少し経ってやっと状況が飲み込めるようになり、最終的にこの街はなくなったのか、元々なかったのかという結論にたどり着いた。僕の記憶に間違いがなければこの街は消えたのだ。街だけでなく存在ごと。なぜ僕だけがここに残っているのかはわからないが多分そういうことだろう。エリーにあったら聞いてみよう。エリーは町のはずれの遠い所に行っているはずだから街の消滅にはきっと飲み込まれていないはずだ。そう自分に言い聞かせながらも実は不安でぼくは町の外れに向かって走り出した。

町のはずれまでは地図が消滅していることもあり行くのに少々時間がかかったがちゃんとたどり着くことができた。扉を勢いよく開け中になだれ込むようにして入った。息を切らしながら店の中を確認する。そこには金髪の女の子がちゃんといた。エリーがまだ生きていたことを確認して一気に力が抜けて床に腰を下ろすと僕は顔を上げた。

「よかった、エリー。君まで消えてしまったら僕はどうしようかと・・・・。」

エリーは僕を見て驚いているようだった。

「何言ってるの?私が急に消えるわけないじゃない。

さっき外に出て行って帰ってきたと思ったら・・・・まるで恐ろしいモノを見たような顔をしているけど大丈夫?」

僕はエリーの会話の意味不明な部分に首をかしげた。

エリーの方を見ても僕に答えを求めているようだったので確認してみる。

「さっき外に出ていったって僕たちもともと別行動でしょ?」

そう言うと店員とエリーは顔を見合わせて笑いだした。

「別行動って一体どこに行くのよ?さっきから言ってることがおかしいよ。もしかして頭おかしくなっちゃたの?」

エリーの返答に僕の表情が凍りつく。おかしい。なぜなにも覚えていない?いや覚えていないというよりも事実がねじ曲がってしまっているかのようだ。さっきの急に街が廃墟に変わったことや地図から書いてあったはずの街の情報が消滅してしまっていること、

エリーが僕が覚えていることを一切覚えていないということ・・・・・。一体何がどうなっている?じっと考え込んでいるとポンポンと肩を叩かれた。

「クロエフったら・・・・。なにを考え込んでるの?さっきから読んでも返事がないけど。」

ハッとして我に返ると目の前にエリーの顔があった。

目が合って一瞬間が空いたあと少し赤くなってしまった。ちらっとエリーの方を見るとエリーの頬も少し赤くなっていた。

「ご、ごめんちょっと考え事をしてて・・・・。で何か用?」

と言った瞬間にオデコをピンと弾かれた。

「何か用?じゃないでしょ。食料を手に入れたから帰るよって言ってんの!!」

エリーはいつもどおりの調子に戻っていた。帰り道廃墟となった街を見ながら僕はエリーに尋ねた。

「ねえここって昔は街があったの?」

「多分ね。昔過ぎて地図にも載っていないし・・・でも建物の跡があるから街だったんじゃない?」

やはり僕が覚えていることと違う。

「もうひとつ聞いていい?今日僕たちは食料と武器を調達しに来たんだよね?」

エリーが一瞬空を見る。

「えー・・・っと武器は多分足りてると思うし今日タカさんに買ってこいって言われたのは食料だけだと思うけど?」

僕は慌ててさっきもらったキューブを取り出してみるとキューブはちゃんとあった。中身がちゃんとあるかは保証できないが僕が体験したことが夢ではないことがわかった。一番引っかかるのは僕だけがこの場で起きたことを覚えているということだ。街という存在ごと消して歴史から抹消したのか・・・・。しかしそんなことが可能なのだろうか。もしそれが能力によるものならば反則級の能力だ。キューブを手のひらの上で見つめているとエリーがそれを僕の手のひらから奪い取っていった。

「キューブじゃん、これ。拾ったの?何が入ってるんだろう。」

エリーがキューブに何が入っているか確かめようとしたので慌てて止めようとする。僕の記憶が本当にあっているのならばそのキューブの中には大量の武器が入っているのだ。キューブを彼女の手から奪い取り、

空間歪曲が解けていないことを確認するとホッとした。エリーを少し怒ってやろうと思って振り返ると、エリーはしたり顔で僕を見ていた。

「こんなところで開けるわけ無いでしょ。キューブがどれくらい危ないかってことはわかってるんだから。でもその反応を見ると中にはとても大事なものが入ってるの?」

少しニヤニヤした顔でエリーが僕を見てくる。

「いやあ別に大事じゃないけどエリーが怪我したら困るなあって思って・・・・。」

というとエリーの顔は赤くなっていた。どうしたのだろう?

「顔が赤いけど熱でもあるの?」

「な、何でもない!!別に心配してくれて嬉しかったとかそういうのじゃないから!!」

僕はキューブをもう一度僕のカバンの中にしまいなおすとリュックを背負った。

「そう。何でもないならいいんだけど・・・・。」

キューブは事実がねじ曲がっているであろう今、みんなに見せるのは得策ではないだろう。覚えていれば話は別だがそうでなければ混乱を招くだけだ。まだ持っていよう。僕とエリーは廃墟の中に入っていくと空間のねじれから草原に戻った。帰る道は来た時とは全く変わっておらず、異変があったのはあの街だけだったようだ。ガンシップの中に戻るとタカさん達が待っていた。

「おう、お二人さん行ってきたか。よし食料も揃ったことだしそろそろはじめるか。みんな準備しろ!!」

もう戦いに行くのだろうか。あまりに急すぎる。

「タカさん、もう行くんですか!!?作戦とか僕全然聞いてないんですけど・・・・・。」

「違う、違う。作戦を決行するのはあさってだ。今からはその演習だ。クロエフお前DECCSやったことあるよな?」

「はあ、一応やってはいますけど・・・・」

「よし、それなら問題ねえ。みんなチーム分けするぞー。クロエフもとりあえずログインしろ。話は向こうでする。」

そう言われるがまま僕は端っこの方にある機械の中に横になった。目をつぶってログインするとよく聞く機械の動く音がして僕はヴァーチャルの世界に入っていった。目を開けると基本フレームの状態で広場みたいなところにみんなたっていた。

「よーし、みんな揃ったみたいだな。じゃあ今日も始めるぞ。食料争奪戦。勝ったチームから好きなものをとって食べてよし!!いつもみたいに3つに分かれるぞ。俺とエイドとジーンのところに均等になるように分かれてくれ。今日からはクロエフも入るぞ。経験者らしいから容赦はしなくていい。ルールも一応説明しておくと武器は限定、俺たちが今持ってる兵装で戦ってもらう。形式は殲滅戦形式だ、時間制限は無し。じゃあ行くぞ!!」

僕は人ごみの中からエリーを見つけ出すと駆け寄っていった。

「エリー!!せっかくだから一緒のチームになろうよ。」

「いや。」

即答されて僕は固まってしまった。否定されるのが早すぎて僕はがっくりと肩を落とすと戻ろうとした。

後ろからエリーの声が聞こえた。

「嘘だよ。いいよ、一緒のチームで戦おう。」

「よかった。もしかして嫌われてるんじゃないかと思ったよ・・・。何だか一緒に戦えるって楽しみだね。」

「別に私はそういうのでクロと組んだわけじゃないからっ。絶対に足引っ張らないでよね!!足引っ張ったら次からはもう組まないから!!」

ビシッと指を指されてたじろいでしまう。

「わ、わかった。足は引っ張らないように極力気をつけるよ。ところでタカさんとエイドさんとジーンさんは強いの?」

エリーにそう言うと呆れたという顔をされた。

「あのねえ、あの人たちは第一世界では有名な部隊の部隊長やってた人たちなのよ?戦って見ればわかるけどすっごい強いんだから。」

有名な部隊か・・・・。どの部隊だろう・・・・。

そうしてチームを分け終わった僕たちは戦闘準備に取り掛かった。僕はエイドさんのチームだった。

装備を換装すると基本的な装備になった。剣のみなど偏っているわけではなく、グレネード、近接格闘武器、

中距離武器とバランスよく持っていた。装備を調整し終えてすぐガイドの声が聞こえた。

「戦闘を開始します。戦闘開始まで残り10秒、今回の戦いは殲滅戦形式です。戦闘開始。」

と同時に僕は仮想世界の地面に降り立った。周りを見渡すと同じ装備の人がウジャウジャいる。その中からエイドさんらしき人の声が聞こえた。

「作戦は特にないけど独断行動は控えめで。三人ひと組ぐらいで戦うといいかな。俺は食べ物のことで負ける気はないからみんなよろしく。じゃあ行こう!!」

僕はエリーと組んで二人で行動することにした。

ステージは石造りの洋風でアンティークなかなり大きめの宮殿みたいなところだった。開始30秒ほどであちらこちらから爆音が聞こえる。もう戦闘が始まったようだ。三つの勢力の数がだんだん減っていっているがどのチームも大差がなかった。僕とエリーは建物の壁のところに身を隠すと通信を取った。

「エリー、今からは前に出るから僕が前でエリーが後ろを守って。」

そう言うと元気な声が聞こえてきた。

「りょーかい✩背中は任せて!!」

建物の壁から身を離して前進して行くと前方に三人組の姿がレーダーに反応した。二対三か・・・・・・。

あまりよくないな。先ほどのレーダーで敵も僕たちに気づいている。ジリジリと距離を詰められているのがわかった。

「ちまちまやってんじゃねえ!!」

突然そう言うセリフが聞こえてきたかと思うと窓から飛び込んできた一つの影が瞬く間に前方の三人のアーマーを全損した。その影はレーダーで僕たちに気づいたのか僕たちの方に向き直る。

「よお、クロエフじゃねえか。新入り君の力、試させてもらうぜ。」

声でこの人がタカさんだということは直ぐにわかった。そしてそういうがいなかタカさんは僕たちに向かって直進を開始した。こんなあからさまな戦い方があるのだろうか。トラップがあることは考えていないのだろうか。無論僕たちにそれをする時間はなかったのでタカさんの読みはあっているのだが。僕も応戦するために剣を構える。が、しかし、思いっきり腕を引っ張られた。

「なんで戦おうとしてんの!!?勝てるわけないでしょ!!」

エリーに腕を掴まれた勢いで僕たちはタカさんに背を向け走り出した。

「あっ、待て!!逃げんな!!」

と言うタカさんの声が聞こえた。タカさん・・・・これは逃げたんじゃないです。戦略的撤退だと思います。多分。タカさんから逃げ・・・・・戦略的撤退によって味方が多い方へ走りながらエリーに尋ねる。

「あの人簡単に逃がしてくれそうにないと思うんだけど。」

しかしエリーは大丈夫と一言言っただけだった。そうは言っているがレーダーには僕たちを追う姿がちゃんと映し出されている。フィールドのはじの方まで来て不意にエリーが立ち止まった。それに釣られて僕も立ち止まったが、エリーは後ろ手に指をさして進めと言っていた。もう片方の手にはグレネードが二つ握られている。まさか一人で戦うつもりじゃないだろうか。そう戸惑ってしまっているうちにタカさんに追いつかれる。

「お前らそろそろ観念しろよ。どうせ逃げたってこんな狭いところじゃ逃げきれねえぞ。」

タカさんが剣を構える。僕も剣を構えようとしたが

エリーがそれを止めた。

「ここは私に任せて。クロは先行って。」

「でも・・・・・・エリーは・・・・・。」

「時間がないから早く!!あんまり長くは持たないから・・・・・・・。」

エリーの気迫に負け僕は二人に背を向け走り出した。

これじゃ前と同じだ。ロストーの「お前らじゃあ俺には勝てねえ!!」という言葉が僕の頭の中で蘇る。

「また逃げるの?」そう誰かの声が頭の中に響いてきた。これは自分の声だ。そして事実をしっかり確認した。逃げているのだ僕は今。エリー一人をおいて。

そう思った瞬間僕は再度ターンをして戻った。タカさんの方から笑うような声が聞こえる。

「おぉ、エリー彼氏さんが戻ってきたぜ。せっかく逃げるチャンスだったのにあいつ自殺したいのか。」

まず彼氏じゃないし。自殺するつもりもない。エリーから驚いた声が聞こえた。

「なんで戻ってきてんの?せっかく逃げるチャンスだったのに・・・・・・。」

そう言いながらエリーは手に持った二つのグレネードを空中に放り投げ腰についたハンドガンを取ると二つのグレネードを打ち抜いた。グレネードから目の前が真っ白になるほどの煙が出る。それと同時に強力な妨害電波によってレーダーが効かなくなっていた。

エリーは体勢を低くして身を守っていた。エリーが投げたのはジャミンググレネードとスモークグレネード。僕にとっては好都合だ。腰の剣に手を伸ばし引き抜くとエリーの上を飛び越えて煙の中に突っ込んだ。

「ちょっとクロ!!?」

という声が聞こえたがもう遅い。直後視界が真っ白になる。レーダーは効かないので先に敵を見つけられたほうが圧倒的に有利だ。その時僕は自分のすぐそばに自分以外の足があることを確認した。背筋に寒気が走り本能的に背中を仰け反らした。そして僕の上を剣が通り過ぎて・・・・通り過ぎなかった。

すぐ近くまで接近していたタカさんの剣はまっすぐ僕に向かって振り下ろされていた。かろうじてタカさんの剣と僕の体の間に剣をいれ即死は避けることができた。タカさんの剣から放たれた重々しい一撃は僕をはさんでも建物の床を突き破った。煙とともに僕とタカさんは下の階に落ちる。タカさんはその時に僕の持っていた剣を弾いて、剣はどこかに飛んでいってしまった。もう一度タカさんが剣を振り下ろそうとする。

「未熟だな~。」

そう言われて少しムッとしたがそんなことをしている場合ではない。ごろりと横に転がって剣を回避すると僕は腕の力だけで飛び上がった。背中のもう一本の剣を引き抜く。剣と目の前にいるタカさんにだけに集中する。周りの音がだんだん消えていく。しかしタカさんは戦おうとする素振りもみせず肩に剣をかける。

「なあクロエフ。お前も向こうじゃ強い奴らと戦ってきてんだろ?ならわかるはずだ。戦場において各個のレベルが高くなれば高くなるほど・・・・・。」

その先は言われなくてもわかった。一体一の戦いは少ない。基本的に味方も敵もフォローが入る。そんなものは上級者の中では既知の事実であった。レーダーは未だ回復していない。エリーのジャミングが裏目に出たようだ。不安を煽られ咄嗟に目で後ろを確認するが誰もいない。いるはずがいないのだ。後ろに通路は無いのだから。

「甘い。経験が全然足りない。そんなんじゃ戦場で生き残れねえぞ!!戦場で信用していいのは自分の腕だけだぜ!!」

そう言いながら間近に接近したタカさんの大ぶりの剣を回避する。そのスキを狙ってタカさんの脇腹に剣をお見舞いしてやろうとしたが足が動かなかった。

前につんのめってバランスを崩した僕の体を一回転して戻ってきたタカさんの剣が一刀両断した。僕は負け負けた。目の間にDEADが表示され画面が赤くなる。カシューと音がしてカプセルが空く。バーチャル世界から現実へと意識が引き戻された。ガバッと起き上がる。既に撃破されてしまった人たちもいてみんな中継モニターで戦っている人の戦いを見ている。エリーもこちらに戻ってきていた。カプセルから起き上がるとエリーの方に向かって歩いていく。

「エリー・・・・。ごめんせっかく逃げるチャンス作ってくれたのに・・・・・。でもエリー一人ではおいていけなくて・・・・・。」

「別に怒ったりはしてないよ。守ってくれようとしたんでしょ?・・・・・・ありがとね、ちょっと嬉しかった。」

安堵のため息をつく。良かった。怒られたらどうしようかと不安になっていたが肩の荷が降りた。エリーが続ける。

「つ、次はちゃんと守ってよね。期待してるから・・・・・・。」

「じゃあ次からも組まないとね。よろしくエリー。」

「まっまだちゃんと認めたわけじゃないからね!!そうこれはまだ仮登録・・・仮登録!!っていうか早くこっちのモニター見なさい!!今日も三人の三つ巴になってるから。」

いつか本登録になるまで頑張ることにしよう。本画面に目をやるとタカさん、エイドさん、ジーンさんが向かい合っている。ジーンさんはライフルを二丁持っている。

本来ライフルは片手で撃つものではなく、両手で打つものだ。そうでなければ標準がずれてしまって全然的に当たらない。対するタカさんは剣、エイドさんは特に何持っていなかった。え?僕たちの大将武器持っていませんけど??

「エイドさん武器持ってないように見えるんだけど・・・・・・・・??」

「ははは、クロエフは面白い事を言うね。エイドさんはいつも武器持ってないんだよ。必要ないから。

基本的にいつも殴る蹴るだしね。まあでも持ってるには持ってるかなあ??使ってるの見たことないけど。」

急にモニターで爆音が轟く。何事!!?と画面を見るとタカさんとジーンさんだった残骸が画面に広がっている。エイドさんは右腕を失っていたがアーマーはまだ残っているどうやったか見逃してしまったが勝ったようだ。モニターを見ていた人たちの間からオォーと歓声が上がる。その後大将を失った二軍は劣勢になり僕たちが勝った。カシューとカプセルの開く音が聞こえみんなが出てくる。エイドさんは自分の右腕があるか慌てながら確認していた。

「俺の右腕は無事か無事か!!?おぉ無事だ問題ない。良かった~飯が食えなくなるんじゃないかと思ってびっくりしたよ。」

「別に右腕なくてもメシは食えるだろ。つーか実戦であんな真似はするなよミサイルのゼロ距離発射なんて次は腕じゃすまねえかもしれねえぞ?」

タカさんがそうエイドさんに警告するがもうエイドさんの興味は食べ物のほうに移っており、上の空だった。

「はいはいわかりましたよ。次からは・・・・・・・うわああ俺これにするわ!!」

反省の言葉を途中で中断してエイドさんは食べ物を見つめている。

「人の話を聞いてんなら最後まで反応しろ!!全く・・・・・・・・じゃあ約束通り勝った奴らから好きなものとってけ。先に言っておくが作戦決行は明日の朝だからな。ちゃんと寝とけよ。」

ベッドに入っていろいろ考える。このベッド自分の家より気持ちいいとか。そんなことはどうでもいい。作戦決行は明日か・・・・・・・。僕にとってはまだここに来てから一日も立っていないけれどここにいるみんなにとってはずっと待ち望んだことだったんだろうな。自分のもといた世界との時間のずれを気にしながら生活するのはとても不安なはずだ。僕だって一日しか立っていないとは言え、第一世界で一日しか立っていないとは言い切れない。帰ってみてロストーやロッキーがおじいさんになっているかもしれない。それはそれで面白いかもと一瞬思ったが考え直す。みんなと世代がずれていると僕は知っている人がほとんどいない世界でこれからの人生を送ることになるかも知れない。そうなったらコミュニケーションを自分から取ることが苦手な僕にとっては地獄だ。そんな事を考えると不安になって眠れなくなってしまった。ミケは僕のベッドの横に敷かれた布の上で気持ちよさそうに寝ている。僕は当分寝れそうになかったのでミケやほかの人たちを起こさないようにちょっと外に出てみるとあたりは真っ暗で何も見えない。が空には無数の星が輝いていた。正確には星とは言えないのだが・・・・・・。入口から外に出てみると外に少し明かりがあった。そっと近づく。ちょっと覗いてみるとランプの横で空を眺めている人物がいた。それを確認すると、僕は忍び足で戻ろうとしたが、失敗して大きな音がした。相手がその音に気づいてこちらを振り向く。

「誰!!?」

顔は見えなくても声でそれが誰なのかはわかった。

「僕だよ、エリー。ちょっと外で気分転換しようと思って・・・・・。」

「なんだクロか。驚かさないでよ。急に後ろでもの音がするからびっくりしたじゃん。」

その後ぼくは許可を取ってエリーの近くに座った。ランプの光以外は何も見えないが、今はそれで十分だった。

「いよいよさ・・・・・。明日だよね・・・・。元の世界に帰れたらって考えるとすごく胸がどきどきするんだけど。あいつらはすごくいいやつだから。なんか寂しくも感じるんだよね・・・・・・。」

「うん。そうだね・・・・・・。」

僕の数百倍長くここにいた彼女の言葉にはぼくはそれしか言えなかった。ただ僕には言いたいことがあった。

「エリー。ただ一つだけいい?僕が知ったような口をきくのは自分でもおかしいとはわかってるけど明日の作戦では絶対に犠牲になる人が出る。相手がいくら序列の低い神であるといっても神であることには違いないからね。もし・・・・だれが犠牲になっても

エリーには立ち止まらずに前に進んで欲しい。」

「わかってるけど・・・・・それは私が決めることだよ。クロにとやかく言われることじゃない。どうしてそんなことを今?」

「それはエリーが大切だから・・・・・・。誰よりも確実に絶対に助かってほしいと僕が思っているからかな・・・・・・・。」

エリーの顔が急にボッと赤くなった。明らかに動揺したような感じになる。

「ばばばばっかじゃないの!!?今そういうこと言うの!!?えーっとその・・・あの・・・・・今のはいわゆる告・・・・・というかなんというか・・・・・急すぎて・・・・・・・。」

エリーはそこで黙ってしまって顔を下に向けている。僕の頭の上にはきっとクエスチョンマークが浮かんでいたことだろう。

「どうしたのエリー。僕がエリーのことを大切に思うのは当たり前のことだよ。」

「あ、当たり前・・・・!!?も、もしかしてこれが一目ぼれってやつなの!!?えーっと・・・・あの・・・・その・・・・・私にはまだ恋人になる準備が出来てないというか・・・・・・・。」

僕は何を言っているのかわからないという様子で首をかしげた。

「恋人??・・・・・・だって僕たち友達でしょう??エリーは僕の始めての女の子の友達だよ。女子とはあんまりいい思い出がないからエリーと仲良くなれて本当に良かった。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ありゃ??なんでエリーがいささか怒ってるように見えるんだろう??なんか怒らせること言ったかな??

「・・・・・クロ、あなたは頭はいいらしいけどもっと言葉の使い方を誤解しないように選んだほうがいいと思うよ・・・・・・。というか誤解を招くからやめなさい!!・・・・・・・・ちょっといいムードだったのに・・・・。」

「ん??何か言った最後の方よく聞こえなかったけど・・・・誤解というのは僕がエリーが大切だって僕がいった部分??別にそこはそのままの意味だから直さなくてもいいと思うよ?」

「・・・・・そ〜じゃなくてっ!!・・・・・・・・・」

僕はエリーがなにを言おうとしているのか必死に理解しようと思ったが全然わからなかった。女の子って複雑な生き物なんだとつくづく思った。僕は頭にクエスチョンマークをさらに何個か浮かべエリーにもう少し説明を求めることにした。

「・・・・・・・・・・・・・・????」

エリーが少し頬を膨らませる。頬が少し赤くなっていた。不覚にも少し可愛いと思った。

「わからないならもういいっ!!いつか絶対クロが言った通りにしてやる!!だから明日はちゃんと守ってよね!怪我させたりしたら許さないから!!」

そう言ってエリーは船の中に走っていってしまった。ランプを置いていってしまったようだが届けるのは今はなんだか気まずい雰囲気になっているから明日でいいだろう。僕はつぶやいた。

「本当に言った通りの言葉なんだけどなあ・・・・・。

どうしてだろ?」

「エリザベスとクロエフでは話が食い違っていたんだと思うぞ。というか言葉の解釈の違いか・・・・・。

いやお前が鈍感過ぎるだけだな。言葉が直球過ぎる割には・・・・・・・・・。」

完全に独り言だと思っていたので突然の返答に焦った。岩の上のランプを乱暴に取り上げて後ろにかざす。声と話し方で何となく分かっていたけれど一応の確認だった。人間違いなんかしたら死んでしまうし。

まあ後ろに居たのは予想通り、いや案の定・・・・意味一緒か・・・・・の人がいた。

「驚かさないでくださいよタカさん!!一体いつからそこにいたんです!!?」

「そうだなあ。お前が舌を舐めずり回しながらエリザベスに思いっきり後ろから襲いかかろうとしてぐらいからか??」

「してません!!」

「おっと違った。それはお前じゃなくてあいつだったな・・・・・。」

え・・・・?今あいつって言った??というかそのあいつって誰だよ!!この船不安ばっかりじゃん!!なんかみんないいやつとか言ってる人いたけど!!

「今のは冗談だ。もしそんなことをする奴がいたら生きてるよりも苦しい拷問でいたぶっていたぶって殺してやる・・・・・・。」

うわあこの人顔が・・・・・ランプで浮き上がってるせいか・・・・・いいやそれにもともとの強面と色々とが重なって超極悪人面になってる・・・・・・・・。

「そうだな・・・・・例えば毎日の飯に一匹づつそのままではとても食えないようなおぞましい生き物を混ぜてやる・・・・・・・・・・・・・わからないように。」

「極悪人ぽくて意外と陰湿!!?」

「何だとっ!!?失礼な奴だな!!・・・・・・・・殺人だけはしたことないぞ??」

「他にはしたのかよ!!!」

何なんだ??殺人の前の微妙な間は!!

「そうだな・・・・・・。さっきの拷問は既にやったことがあるぞ??見るからにおぞましい生き物を・・・・・・ネンチャクウロコガエルって言うんだけどな・・・・・・それをうまそうに調理してだな・・・・・まあ」

タカさんの歯切れが悪くなる。何か後ろめたそうな感じだった。

「・・・・・・多分美味しくできたんだ。その作ったやつをエイドがたくさんうまそうに食ってた・・・・・・。」

「いいじゃないですか、おいしく食べていたのなら。

案外気持ち悪い生物が高級食材と似たような味の時ってありますもんね。」

「・・・・・次の日エイドと料理が御蔵入りした。」

「料理に何入れたんですか!!?というか料理を御蔵入りさせたら腐りますよ!!」

「じゃあ箱入りにする・・・・・・」

「大切にしまってもダメですから!!」

「え??でも、もともと食べる気なんてなかったし毒あるし・・・・美味しくなさそうだし・・・・・。」

「今すぐ料理とエイドさんに謝れ!!」

全く・・・・・・。食べないのに料理作ってたのか。

はっきり言ってうらやましい。僕なんて料理を作ろうとしても不思議な物体にしかならないのに・・・・・。

「ハッハッハッ。クロエフは思ったよりも引っ込み思案より明るいほうが素みたいだな。明るいほうがいいと思うぜ。俺は・・・・・・・・・。そうだ。殺人ではなくても殺神はあるかもな。あわよくば・・・・・・・いやもののついでになるけどな。」

もののついでで神が殺されてたまるか。神は神。どれだけ行こうが落ちぶれようがそれは変わらない。

「殺せる自信があると・・・・・・?」

「目で殺せるぜ?」

そう言ってかっこよく決めているタカさんを僕は呆れ顔で見る。

「悪い今のは冗談だ・・・・・というか結構ストレートにくるな・・・・・・・まあでも俺だって一応は能力者だし・・・・・・・・。少しくらいなら自身はある。でもそれは一番の目標じゃないからな・・・。あくまでも俺たちの目標とするにはこの世界から脱出して元いた自分の世界に帰ること。神殺しは目的じゃない。」

だからついで・・・・・・なのか。

「まあ・・・・神であろうとなんだろうと帰ることの前に立ち塞がるような奴がいるならそいつは倒して通らなきゃいけないけどな・・・・・。」

「ところでタカさんと第一世界の時間軸のズレはどれくらいです??ここに来てからもう長いんですか??」

「あぁ長いと思うぜ。かれこれもうここの世界で十年ぐらいは過ごしてる。エイドとジーンも俺と一緒だ。時間軸は俺はすごいずれちまっててな・・・・・・向こうじゃ俺は5000年前の人間だ。まあダーク・ネストの生き残りだ、俺たちは。」

「・・・・・・・・そうなんですか・・・・・・。」

「あぁ、だから俺は何が何でも元の世界に帰らなきゃなんねえ。死んだ仲間のためにもあの時の事実を寸分違わず伝えるために・・・・・・・。」

「何か間違っているところがあるんですか??歴史に。」

「ハッハッハ。クロエフ、違うかだって??違うさ。全然違う。今の教科書を見ると反吐が出る。神が人類を救った!!?それなだけがあるか。地上に出現した魔物の力は神二人と少しの新兵の力だけで抑えられるようなもんじゃねえ。ほかにもいるのさ無力すぎた人間を救おうとして戦った奴らが・・・・・・。」

「詳しくおしえてくださいっ!!お願いします!!」

「はは・・・・・・随分と勉強熱心なんだな・・・・。

いいぜ教えてやる。戦いの中俺たちとともに戦った英雄達・・・・・・・。戦いが終わった今はどうしているのか知らないが・・・・。俺があったことがあるのは『覚醒人』、『超古代兵器DIVA』『深淵』『死』・・・・だ。」

「前の二つと『死』は聞いたことがないですね・・・・・・・。

『深淵』というのは上級神のタルタロスですよね??・・・・・。」

ランプの光が風も吹いていないのにゆらゆらと揺れている。

「あぁそうだ・・・・。タルタロスは凄かった。敵ではない俺たちでも間違って近づけば命はなかっただろうな・・・・・・・。後の三つは知っていなくて当然だ・・・・・。『死』はともかく神々は戦いの中人間たちに恩を売り、頭が上がらないようにするため人間から派生して人間を救った奴らのことは消そうとしたんだ。だから彼らは自ら行方をくらませ表舞台に出ることはなくなった・・・・・・。そりゃあ、大抵の強い奴らはみんな戦闘狂みたいな奴らばっかで周りなんか見ちゃあいなかったけどよ、別に悪い奴らじゃなかったさ。」

いつも明るくふるまっているタカさんの顔がこの時だけは暗く沈んでいるように見えた。

「そうなんですか・・・・・・。いかれた強い奴なら僕も今日一人見ました・・・・・・。あれは人間の動きでも反応でもなかった・・・・・僕は目で追うこともできませんでしたよ。」

あ、あんまりこれは言わない方が良かったかな・・・・。

まあでも、既に言っちゃたし・・・タカさんもあんまり気にしてないかな・・・・・。ところが以外にタカさんは僕に食らいついた。

「見たのか!?今日!!?教えろ!!どんなやつだった!!?。クロエフが覚えているならおれは多分そいつの正体が分かる。昔かなり踏み込んで調べたからな・・・・・・・。」

そうだ・・・!!僕はずっと彼が誰か気になっていたのに最後まで聞き出すことができなかったのだ・・・・・。そう思うと彼が何者なのか強く知りたいという気持ちが心の奥底からまた浮かび上がってきた。タカさんなら教えてくれるかも知れない、僕はそう思って話し始めた。

「特徴は・・・・・ちょっと古い擦り切れた服で僕の記憶の中だとあのような服を着る種族は知りません。

あとは始終ずっと目をつぶったままで戦う時はどこからともなく錫杖のようなものが出現していました。・・・・・・。」

そう言ってからタカさんの方を見ると少し険しい表情をしていった。

「『始終目をつぶっていた。』・・・・・『手に錫杖』・・なあクロエフもしかしてだがそいつは初めにクロエフに対して『知る必要はない』とか言わなかったか??ついでに口癖は『まあ気にするな』だ。」

「・・・・・・はい。言われました・・・・・・。口癖もその通りです。丁度会った時に僕は何も言ってないのに心を読まれたのかのように『知る必要はない』と、そう言われました。」

「・・・・・・なあクロエフ。俺にまだ言ってないことないか?俺はそいつには心当たりがある・・・・。

そいつの能力についても・・・・・・・。」

まだ言ってないこと・・・・・・それはあの街のことだった。あの時背中に寒気が走ったのと同時に一瞬で目の前の景色が風化した。地図からは街の存在が消え、みんなの記憶からも消え、街があったということしかわからなくなっていた。僕を除いて。

「あ・・・・・あります。実は・・・・・・・」

その後僕は自分の身に起きたことを全て話した。

タカさんの険しい顔つきはそのままだった。

「そうだったのか・・・・・・・。あの廃墟は俺たちの知っている街だったんだな・・・・・・・・。今お前の言ったことで確信が持てた。クロエフが会ったそいつは上級神の一柱『死』を体現するラザレスだな・・・・・・・。」

「『死』を体現するラザレス・・・・・・・・・・・・・。」

タカさんのこえが低くなる。よく見るといささか震えているようにも見えた。僕にはそんな風には見えなかったけれど・・・・・・・・。背筋の寒気の時に感じた恐怖はともかく話してみれば普通のいい感じの人だった。

「俺から言わせりゃあ、あいつは一番イカれてる。戦う相手を虫けら程度にも思ってない、圧倒的な力だけで散らせていく・・・・・・・・。狂気の塊みたいなやつだった・・・・・・。ダークネストの時一度だけ見たことが俺にもある。奴の能力は範囲内のすべてのものに真実の死を与える。つまり存在ごと世界から消し去ってしまう能力・・・・・・。範囲は無限。やろうと思えば世界をまるまる消すことだって可能だ・・・・・・・・。まあ見たつっても俺には何がなんだかわかんなかったけどな・・・・・。直接そいつから聞いた話だ。別にあの時はあんまり信じてなかったけどな・・・・・・・・。で俺から疑問なんだが

なんでお前は近くにいたのに存在を消滅させることもなく記憶を失うこともなくここに帰って来れたんだ??」

・・・・・。そう、それなのだ。その疑問は僕も正に疑問としていることだった。

「能力の無効化・・・・・・。同等、もしくはそれ以上の能力の保持によって発生する。クロエフお前には手の刻印が有る・・・・・・もしかして・・・・・・お前は・・・・・・。」

ゴクリ、と僕はつばを飲む。

「『空から美少女』的な・・・・・・・奇跡体験的な??・・・・・・・・・・・・・。」

「は?今なんて?」

「いや、だからお前は空から美少女が降ってくるがの如く奇跡的な体験をしたんだと・・・・・。」

タカさんの顔はいたって真剣であったのであった。

「ちょっ・・・・ふざけないで真面目に考えてくださいよ!!一瞬何言ってるかわかんなかったですよ!!」

「いやあ、ちっちゃい女の子っていいよな。神秘に溢れてる感じで・・・・・か~わい~いよな~。」

僕の言ったことは完全に無視。

「というか、なんか話題変わってますけど!!?」

「うるさいぞクロエフ・・・・・!!このロリコンが!!」

「それ僕じゃなくてあなただ!!」

「ンッフッフ。I want be少女。」

「せめて少女になりたいのか、美少女が欲しいのかははっきりしてください!!」

「ばかだな、クロエフ。両方に決まってんだろ。」

「それじゃあ、ゴスロリじゃなくてゴツロリですね(笑)」

「てめっ・・・・・・・!!」

ついでに笑い方もキモいです。とかそんなやりとりを何回か続け、やっとタカさんは収まった。毛布を自分の体に巻き直しながらまた話し始める。

「でもお前の身に起きたことを理論的に説明するのであればお前のパートナーは『死』のラザレスと同等かそれ以上存在だということになるぞ??」

「・・・・・・そうですよね・・・・・・。現実的にはありえない話ですよね・・・・・上級神の一柱がたかだか一人の人間と契約を結んで自らの力を落とすわけがないですよね・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

どうだかな・・・・・・・・。」

タカさんの返事はかなり曖昧な返事だった。

「今日はもう遅い。明日は大事な日だ。そのことは全部終わってから考えるとして・・・・・もう寝ろ。明日に響く。」

「・・・・・・・・・・・・はい。今日は色々と教えてくれてありがとうございます。・・・・・・あ、そうだ、これを・・・・・・・・。」

そういって僕はポケットの中をあさり手のひらですっぽりと収まるキューブ状のものを取り出した。

「これ、街がなくなる前のタカさんに頼まれてもらってきたものです。推測ですけどキューブは空間が異次元空間なので『死』の能力の干渉を受けなかったんだと思います。」

タカさんはそれを受け取った。ぎゅっとそれを握り締める。なかに何が入っているのかは話しておいた。

「クロエフ・・・・・・・・これをくれた人はなんか言ってたか?」

「その人には「生きて帰れ」、と言われました・・・・・・・。」

「・・・・・・そうか・・・・・・・・。」

このあと僕らはあまり話をせず互いにおやすみといっただけだった。寝床に入って横になる。僕の家よりも寝心地がよく感じるのはこのベッドがいいやつなのだからなのだろうか。それとも僕がとても疲れているからなのだろうか。そんなことはともかく寝るまでにそう時間はかからなかった。

『起きよ』

急にそう言われて目が覚めた。辺りを見回すが何も見えない。いや何もないと言ったほうが妥当だ。見渡す限り白一色の世界。右も左も上も下もはっきりとしない。

『そうである。ここは亜空間なる場所。そのような概念は存在せぬ』

また直接頭に語りかけてくるような声がした。だが学校の時は女の人の声だったが今は男の人の声だった。『なぜ僕はここに??さっきまでベッドで寝ていたはずなのに・・・・・・・・・。』

『貴公を呼ぶ者がいた。だから私がお前を呼んだ』

またどこからともなく声がする。未だに声の発生源は確認できない。だんだんぼくは不安になってきた。

『っだ、誰ですか??ぼくはここにいます!!あなたはどこですか!!?』

『亜空間にそのような概念は存在しない。貴公の言う「ここ」が「どこ」の指す座標であり、また私のいる

「どこ」もまた「ここ」である。』

あたりをもう一度見回してみるが目の中に入ってくるのは白色の無限のような空間ばかり。こことそこが同じならなぜ僕には見ることができない??

『観測せよ。わたしがここにいると貴公が観測するのだ』

言われたとおりぼくは目をつぶって周りにすべての意識を集中させた。途端僕の後ろに気配を感じ、またそれが強大な気配であることを知った。

『よい。目を開けよ、クロエフ・キーマー、私は貴公に観測され、貴公は私の姿を確認することが可能になったはずだ』

ゆっくり目を開けて自分の背後を確認する。僕の背後にはとてつもなく大きな門があった。見上げただけでは一番上がどこにあるのかわからない。

『これはゲート。普段貴公らは目にしていないが、これは待ち人のところへと橋を繋ぐゲートだ』

今度は門を見ていたら後ろから話しかけられたのでパッと振り向く。黒い馬に乗り、黒い甲冑に身を包んだ巨大な騎士がそこにはいた。手には天秤を持っている。

『我こそは門の番人にして『全知』の眷属であり

『飢餓』を司る。貴公を望む者により橋を繋いだ。行くが良い』

『行くとは一体どこに??このゲートの先はどこに繋がってるんです??』

『知らぬ。それはわれの管轄ではない。我はただ行く手段を持たぬ貴公のために橋を繋いだに過ぎない。さあ早く行くがいい、お前が夢から覚めてしまえばこのゲートは自動的に消失しまた繋ぎ直さなくてはいけなくなる。それは避けたい』

『面倒くさいからですね。よくわかります』

『そうだ』

「そうだ」って・・・・・・・ええー・・・・・。

なんかイメージ崩れるなあ。なんかそれっぽい理由とかなかったのかな・・・・・・・・・・・・。後ろ手ギイイィィィィィィィと音がして門が開いたのが分かる。後ろを見るとゲート特有の真っ黒な何もない空間が大口を開けて僕を待っている。

『ゲートは開かれた。賽は投げられた、ゲームが、戦争が始まった。さあ早くいけ、何をしようともう後戻りすることはできぬ、逃げ出すことも、抜け出すことも放棄することもできぬ。後ろは崖だ、前へと進め、

そこに貴様が望む終末があるだろう』

言われるがまま門に片足を入れる。今日の時と同じ

暖かいとも冷たいとも言えないモワッとした感じの空気が僕の足を撫でる。

『あの・・・・・・・・・・・・』

と言って振り返ったがもうそこには誰もいなかった。彼の仕事はもう終わってしまったらしい。あとは自分で決めろということだ。ぼくはきっと夢だから死ぬことはないと自分に言い聞かせ意を決して門の中に飛び込んだのだった。ぐるぐると僕の体は回っている。

落ちているとも上がっているとも言えない体の感覚

・・・・・・・。途中遠くに光の粒が固まっているのがチラリと見えた。動いているようで生き物なのかと思ったが遠すぎて何なのかはわからなかった。何だか

体を揺られているようで気分がい・・・・・・・・

「痛っ!!コレ二回目!!」

フッと急に視界が色づいておしりからまた落ちる。一回目は石の上、二回目は樹の上だった。そのおかげか一回目よりは痛くなかった。まだジンジンと痛むお尻をさすりながら立ち上がる。上を見上げるとなんというかすごかった。大樹の中であろうこの場所には右も左も上も下も数え切れないくらいの本で埋め尽くされていた。

「ここは・・・・・・・・どこだ??」

地図でも写真でもこんなところは見たことがない。

こんな大樹が生えているあたり第二世界だろうか

本の山の中の隙間を一つ一つ確認してみるが誰もいないし気配もない。フラフラとしていると床に何個か大きな穴があいていて落ちたらそこの見えない奈落の底行きだった。穴を慎重に避けながら進んでいく。

「呼ぶんだったら待っててくれてもいいじゃないか・・・・・・。」

そう言いながら歩いていると少し開けたところに出た。窓から光が差し込み幻想的な空間を作り出していた。真ん中に立つと足の下で急に魔法陣みたいなものが展開し、僕が浮いた。上に上がっていくがどんどん加速していく。ついに景色を目で追える速度を超えた。

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

叫んでいる僕を無視してどんどん早くなっていると思ったら急に止まる。と同時に横に投げ出された。

「あでっ!!いったたたたた・・・・・・・・。」

なんというか一連の動作やここを見て思ったこと。

「雑」その一言に限る。ため息をひとつつくと僕はまた僕をここに読んだ人、学校でのあの声の正体を知るため捜索を再開した。最初にいた場所とあまり変わらない感じで本があちらこちらにうずたかく積み上げられている。これは探すのに骨が折れそうだ。窓の近くに行くとまた光が差し込んでいる。あれ?窓を見て思う。よく見るとすべての窓からいろいろな方向に光が差し込んでいる。こんなことありえないだろう。

一体どうやって・・・・・・・

「ジャマ。」

突然背後の本の山から不機嫌そうな声が聞こえた。

が、僕は驚かない。なぜなら僕はこの声を探すためだけにかなり時間を使ったのだ。やっと見つけた喜びの方がはるかに上回っていた。

「だからそこに立たれるとジャマなの。」

「あぁ。ごめん。」

僕はそう言うとさっとどいた。本の山の間にその子はいた。学校で僕に語りかけた人物。本の山の間に差し込む少しの光を明かりにして本を読んでいる。

「ねえ君が僕をここに呼んだの??」

「うん。」

女の子はそう返事をしただけでほかには何も言わなかった。よく見ると多分だが髪の白い緑色の目をした女の子だった。女の子は僕を無視するような状態で本を読み続けている。僕はとうとうしびれを切らして武力行使に出ることにした。さっと近づくと僕は女の子の呼んでいる本を取り上げる。女の子は、あ、と声を上げ僕に取られた本を取り返そうとした。僕をそうして手を伸ばす彼女の細い腕を捕まえると本の山の間から引きずり出した。我ながら見事な手際だったと思う。

「きゃああああああ溶けるうぅぅぅぅ!!!!」

「君は吸血鬼か!!」

そんなことを言いながら必死に本の山の間に入り込もうとする彼女を押さえつけ落ち着くのを僕は待った。彼女が落ち着いてから僕は話し始める。

「ねえもう一回聞くけど君が僕を呼んだってことで間違いないんだよね??」

「はいっ!!間違いないです!!だからどうかいじめないで・・・・・・。」

さっき力ずくで引き出したことでかなり怯えられてしまった。彼女は震えている。そんなつもりはさらさらなかったんだけど・・・・・・。なんだか悪いことしたなあ。

「あの、ごめんね、急に引っ張り出したりして・・・・・・でも君が僕を呼んだのなら待っててくれてもいいと思うんだよね・・・・・・。」

「う・・・・それは・・・・・・だってせっかく呼んだのになかなか来てくれないから・・・・・・・・。」

申し訳なさそう赤面しながら俯く彼女の頭に手をぽんとおくと彼女は顔を上げてこちらを見た。目には涙を少したたえている。

「人をここに呼んだのは初めてで・・・・・・・・

楽しみに待ってて直ぐに来てくれると思ったのに、全然来てくれないからラザレスに頼んで迎えに行ってもらったんだけどラザレスも途中で見失ったって、でもすぐ来るだろうって、そう言ってたのに・・・・・・・そう言ってたのに・・・・・・・・・・!!」

彼女の目に浮かんでいた雫が大きくなり流れ出す。僕は慌てて手を引っ込めて慰めに入ったのだが時すでに遅しだった。どうしていいか分からずアタフタとしていると不意に僕の肩に手が置かれた。後ろを振り向くと立っていたのは街であったあの男。『死』のラザレスだった。

「これは、これは。またあったね君。・・・・・・まず何があったか説明してくれるかい?そうでもしてくれないと君がこの子をいじめて泣かしたようにしか見えないからね・・・・・。」

「いじめてませんよ!!?・・・・・・まあでも

僕が悪いというかなんというか・・・・・・。」

「そうか、そうか。なんとなくだけど話がわかったよ。

君が来るのが遅くてあいつは今拗ねてるわけだね。」

「学校の時はもっと大人っぽく見えたんですけどね

・・・・・・・・。」

「うーん。それは偽装したね。」

さらっとそう言ってラザレスは彼女に歩み寄って手を伸ばす。

「一体いつまでそうしているつもりなんだい??気持ちはちゃんと言葉で伝えなくては、いくらお前といえども伝わらないよ?」

「・・・・・・・・・・わかってるもん・・・・・

・・・・・。わかってるもん・・・・・・・・。」

そう言ってまだ微妙に抵抗する彼女の手をラザレス差し出してもいないのに無理やり引っ張って彼女を立たせた。僕もこんな感じで強引にやってたんだな

・・・・・・・・・。

「ねえ・・・・・・・・さっきは・・・・・・・・。」

「ひいぃぃぃ!!殴らないで!!いじめないで!!」

「殴ったりいじめた記憶もないしこれからそうする

予定もありません!!」

逃げて僕とかなりの距離をとっている彼女にそう言って反論する。彼女は遠くの本の山からジっと僕を見つめているのだった。ラザレスがふうとため息をひとつつく。

「面倒くさい子ですまないね。力ずくでもどうにかできるのだけど今後のためにはそれはあまりよくない。だから君の力でどうにかしてくれ、と言いたいところだけれど君にはもう時間がないんだよね・・・・・。

説得するぐらいなら私にもできるかな。」

ラザレスはそう僕に言うと彼女に歩み寄って何か

ゴニョゴニョとつぶやいた。途端に彼女の顔が見るからに明るくなった。一体何行ったんだろう。すくっと立って彼女が僕の方に小走りで向かってくる。彼女は両手を出して僕に飛びつこうとした。とたんにラザレスに少し焦りの表情が伺える。嫌な予感がしたが僕は逃げなかった。彼女の気がそれで収まるなら・・・・・・・。と思っていたので動かずにそこに立っていた。抱きつくその瞬間、ぬっと黒い影が僕たちの間に立ち塞がる。誰だ、僕たちの感動の仲直りをジャマする奴は。よく見るとそれは僕に仲直りするように促していたラザレスで、後ろだからよくは見えなかったが今見たときのように焦ったような感じだった。迫り来る彼女の頭をガシッとラザレスは掴むと問答無用で彼女の腹に蹴りを入れ本の山まで蹴り飛ばした。

彼女は本の山まで体をへの字にしたまま突っ込んだ。長いあいだその本の山は放置されていたようで煙が舞い上がる。

「なっ何してるんですか!!?」

「げほっげほっ、あにふんの!!?」

本の山から出てきた彼女と僕の驚きの声が重なった。

ラザレスは上がった足を下の位置に戻した。

「・・・・・・・・・・まあ気にするな。」

「気にしますよ!!?さっき僕にいじめられていただのどうだのって話をしてたのに・・・・・・・・」

今のはひどすぎるんじゃないかと言う前に僕は口を閉じた。何かおかしい、そう心に疑問が引っかかる。それがなんなのかはすぐに気づいた。感じていた違和感。

なぜ蹴り飛ばされた彼女が何事もなかったのかのように、ごく普通に会話に参加しているのか。今のラザレスの蹴りの威力はあの飛び方からして人間だったら死んでしまうだろう・・・・・・・・・。そこで黙っていたラザレスが口を開いた。

「君、先に断っておくと床の穴を開けたのは彼女だよ。」

へえ・・・・・ふーんそうなんだ・・・・・・・・・・・・え?床の穴・・・・・・・あぁ一番初めのぼくがいたところのあの大きな大きな穴。・・・・・・・・・・・・・・えぇ!!?

「もうひとつ言っておくとあれは素でやったはずだよ。」

素・・・・・でね。僕はそんな彼女の両腕で挟み込まれようとしていたのか・・・・・・・・・・・。

フフフ、と僕は少し引きつった笑顔を浮かべてラザレスに向かって一礼していた。

「ありがとうございましたっ!!」

「・・・・・・・まあ気にするな。いつものことだからね。」

ラザレスはそう言うと彼女に向かって向き直った。

「クシャーナ。いつまでそこに居るつもりだい?別にすねているのはいいのだけれど早くしないと彼は帰る時間になってしまう。」

もう煙は収まっていてクシャーナ?と呼ばれる彼女は積み上げられた本の山の上に体育座りをして小さくなっていた。

「ムウ・・・・・・ラザレス、私のこと蹴った。別にけらなくてもいいのに・・・・・・・・。」

「仕方ないだろう、正直今のはかなり焦ったからね。いきなり抱きつこうとしてお前は彼の背骨をバッキバキに折りたかったのかい?」

クシャーナは人差し指を合わせながらバツが悪そうにしていた。

「別にそういうわけじゃないし・・・・・ちょっと

・・・・・ちょっと忘れちゃってただけだし・・・・」

「だめだ。契約を完了していない状態ではお前のちょっとは人間には致命傷だ。やりたいなら契約を結んでからにしたまえ。」

そう言われると彼女はその通りにすることにしたのかぴょんと身軽に飛び上がって本の山から木の床へ着地すると僕の方に歩み寄ってきた。手を前に出す。

「我が名はクシャーナ。我が名において目覚めよ

『終焉』アポカリプス。」

そう彼女が言い放つと大きく魔法陣が浮かび上がって彼女にも変化があった。両方の目に魔法陣が刻まれ

頭の上にも三つの魔法陣が浮いていた。僕の刻印が反応しているのが分かる。熱い。まるで本当に焼印

を手に押し付けられているような感覚だ。彼女は僕の近くまでよると僕の顔を引き寄せる。何がなんだか分からず戸惑っていると彼女は少し赤い顔をしながら

上目遣いで

「・・・・・・・・目、瞑ってよ・・・・・・・」

と文句を言われた。僕は彼女の言うとおりにした。彼女のてが僕の首に回される。その時、僕の唇に何か柔らかいものが触れた、ような気がした。目をつぶっていたので何が起きているのかはわからなかったが。。

とたん僕の体にものすごい力が湧き上がる。力が有り余っている。いまならベルセルクも一撃で倒せそうだ。

そんな気が起きてくるぐらい僕は強くなったように感じた。ゆっくりと目を開けると彼女は僕に向かって優しく微笑んだ。バラが咲いたような笑顔。つい見とれてしまった。

「いい雰囲気なところで悪いのだがもう時間がないから私に説明する時間をくれないかな?」

急に横から声が聞こえてはっと我に返る。一体僕は何をしているんだ。クシャーナもほおをピンク色に染め恥ずかしそうにしていたが僕から離れることはなく僕の横にくっついていた。さっきまでのが嘘みたいだ。ラザレスが僕を見てうなづく。

「ふむ。契約はうまくいったようだな。ではこれから君にクシャーナの能力について説明しようと思う。

彼女の能力は我々の中でもかなり貴重な能力でね。

我々の中でも活発に活動している『混沌』『深淵』『死』は破壊的な能力が全てなのだが彼女はそれに加え

創造することが可能だ。クシャーナの『終焉』アポカリプスは知識を具現化もしくは現実に反映させることができる。つまり物を出すことだって人を作ることだって人が自分の思いどおりになるようにすることだってやろうと思えばなんでもできるさ。」

「そんな・・・・・・なんて一方的な能力なんですか。」

そんな能力が存在するなら相手に勝ち目はない。

「当たり前だよ。もともとこの世界は平等になるようには造られてはいない。それはすでに君たち人間は

感じていることじゃないかい?」

確かにそうだ。僕たち人間は単体ではとても弱い。ほかの世界の存在の力をかりることができなければ生身で戦うなんて到底できない。第四世界でのあのベルセルクとの戦闘がいい例だ。ラザレスが続ける。

「まあでも君がその力を使えるようになったといっても今は本来の力の破片ぐらいしか使えないと思うけどね・・・・・・・・。そうだね・・・・・・・今の君なら『command;』は発動できると思うよ。

『command absolute;』『塁上』『original』は多分使えないね・・・・・あと能力を使える時間は・・・・

・・・・多く見積もって5分と言ったところか。」

五分か・・・・・・短い。もし使うのだったら

かなり見極めて使わないといけない。

「もしもの話ですが五分以上能力を使って戦い続けたらどうなります?」

「能力の使用によって掛かる負荷によって気絶する。

大抵なら三日ほどで起きると思われるが起きられる保証はどこにもない。気をつけて欲しい。まあでも

五分以上戦闘に時間がかかることはないと思うけどね・・・・・・・・・・。」

その時僕は急に横からかかってくる重みが少しだけ増えたことに気づき横を向く。クシャーナは疲れたのか(疲れる要素はどこにもなかったが)僕たちの話がつまらなかったのか眠りについていた。(多分こっちが本当の理由である)不安定なこの体勢で頭をぶってはいけないので床に寝かせなおして正面から見ると天使が寝ているかのように思えた。ちょっとしたいたずら心で頬をつついてみると

「・・・・・・・・・・・ん・・・・・・・」

と少し嫌がるような顔をした。まるで小動物を相手にしているような気分で可愛らしさがこみ上げてくる。

可愛いなあ、タカさんの言っていたことが少しだけわかるような気がする。フフフフフ・・・・・・・

「君、止めたほうがいいかい?それとも席を外したほうがいいかい?私には目が見えないがかなり危険な感じがするのだけれど・・・・・・・・・。」

背中から声がかかりはっと我に返る。危ない、危ない、

何を考えているんだ僕は。タカさんと同レベルになるところだった。

「もう時間だ。君が夢から覚める時間。もう君は元々いた世界に帰らなくてはいけない。」

ラザレスが僕にそう言うとクシャーナがガバッと起き上がった。しかしまだ眠いようで目をゴシゴシとこすっていた。

「ムゥ・・・・・もう帰っちゃうの??」

そう言って僕の手両手で包み込む。彼女のやわらかい白い手は強く握れば壊れてしまいそうだった。実際

そんなことしたら僕が握りつぶされるのかもしれないけど・・・・・・・・・・・・・。納得がいかないクシャーナをラザレスが説得し始める。

「仕方があるまい。彼はこちら側の住人ではないのだ。

しかし、クシャーナ。もう二度と彼に会えなくわけでもないし彼がむこうから君を呼べばまた会える。」

そう言われたクシャーナは反論した。僕の手がぎゅっと握られたが全然痛くない。

「でもでも~、向こうにはたくさんの存在がひしめき合ってるんでしょ?やだなあ・・・・・・減らすこともできなくなっちゃたし・・・・・・・・・・・・・。」

「簡単に減らすという言葉を使うんじゃないよ。あれらは一応は主の持ち物なのだから・・・・・・・。

それよりお前は昔からほかの世界にある食べ物を食べてみたいと言っていただろう?彼を帰せば彼が君を周りから守り、君のしたいことを手伝ってくれるだろう。」

「ムゥ・・・・・・・・・・・・簡単に減らしてるのはそっちのくせに・・・・・・・・・・・・・・・・

って、えぇ!!?食べ物食べられるの??いいの??」

そう言って目をキラキラさせて僕のほうを向く。眩しい。目がキラキラしすぎて僕の目の前がチカチカする。

こんな無邪気な気持ちを否定するのは気が引けたし

これが最善策だったろう。後に僕は後悔する羽目になるが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「うん。いいよ僕が無事に元の世界に帰れたらどこでも連れて行ってあげる。」

僕の精一杯の答えで嘘もついていない。クシャーナはそれを感じ取ってくれたようで僕が帰ることに承諾してくれたようだった。

「ぜぇーったいすぐ呼んでね。」

クシャーナにそう釘を刺される。そのあとは本の間を駆け回り一人で大はしゃぎしていた。ラザレスが僕の近くに来て耳元で囁いた。

「ギリギリで間に合ってよかった。これで君と彼女の間に亀裂は生まれないだろうね・・・・・・・・・・。

ついでにこれは私からの頼みごとなのだけれど君が暮らしていた世界に戻るまではクシャーナは極力呼ばないで欲しい。言えば彼女についてのこともあまり話さないで欲しい。今の彼女に残っているのはある程度の身体能力と治癒力だけだ。つまりごく普通の少女であるということだ。戦いで生き残れる保証はない。

それに彼女をいつでも守れるのは君しかいないんだ。そこだけはよろしく頼む。」

そう無表情で告げるラザレスに僕は怪訝そうな顔をした。

「そんなに大事ならあなたが僕たちを手伝ってくれればいいのに・・・・・・・・・・・・・・・。」

「それは残念だができない。私は旧支配者ならびに外なる神々の封印の破壊と侵入を防がなくてはいけない。君たちを助けるために割ける時間はほとんどないのだ。」

「・・・・・・・・・・・そういうことなら分かりました。約束は守ります。」

ラザレスは小さくひとつうなづいて嬉しそうにしているクシャーナの方を見た。

「そうしてくれると助かる・・・・・・・・・・。

そうだ、言うのを忘れていた。『もし彼女を傷つけたりもしくは誰かから傷つけられた場合は君は生き地獄を味わうことになるだろう』と、『混沌』がそう伝えておいてくれと言っていたのを今思い出した。」

僕はその時何も言わなかったが綺麗な女の子にはこう言う過保護な奴が一人はいるのかなあと呆れていた。

「もう時間だな。健闘を祈る。」

とたん僕の体が宙に浮くと意識が急に遠のく。この場所から僕のいる場所まで意識が引き戻され、この世界との距離はどんどん遠くなっていった。

「おーい、起きろ。・・・・・やっぱ昨日のことで疲れてんのかな、こいつ。」

耳にそういう声が聞こえさらに夢の中から現実の世界へと引き戻される。うっすらと目を開けて見ると

光球の光が直接目に入りもう一度目を閉じて横に寝返りを打った。もう一度からど揺さぶられる。

「だから起きろって。」

「・・・・・・・・うーん・・・・・。」

と言って今度はちゃんと目を開けて体を起き上がらせる。眩しいのでよく目を開けられないが多分目の前には昨日テーブルの左から数えて二番目に座り、ビールとパンを食べ、昨日は僕のところから数えて三ついったところのベッドで寝ていたであろう男の人が立っていた。ついでに三番目にベッドに入ってた記憶がある。寝起きだとこれぐらいしか思い出せないから困る。眠い目をゴシゴシとこすって眠気を追い払うと大きく伸びをした。

「起きたか。タカさんがあと一時間で出発するって。だからはやく朝飯食って準備しな。じゃ。」

男の人はそう言うと後ろ手に手を振って部屋から出ていってしまった。

「なんだか変な夢を見たな・・・・・・・。なんだったんだろ、あれ。」

入口の扉を見ながら先程まで見ていた現実のような夢のことをぼやく。そして僕はささっと着替えを済ませると、少し外に出てみた。朝の空気は爽やかで小鳥たちのさえずりが聞こえる。僕は昨日と同じようにお手頃なサイズの石をひとつ拾うと軽く振りかぶって湖の方へと投げた。なんだか今の石はとても軽かった気がする。いや今日は全体的に体が軽い。石は直線に近い軌道を取り・・・・・・・・・・・・向こう岸の草の上に着地した。届いた。軽く投げただけなのに向こう岸まで軽く届いてしまっていた。驚いて自分の右手を見る。

手首を囲むように刻まれていたはずの文字が消えていた。よく見れば手のひらの刻印がなんだか豪華な感じになっている。・・・・・・なにかの魔法陣のようだ。これは一体・・・・・・・・。

「おはよー、クロ。きのうはよく眠れた?」

「うっひゃあ!!」

背後からの襲撃に対応しきれず変な声を出してしまった。さっと右手を隠す。エリー

「何話しかけただけで驚いんてんの?」

「べべべ・・・・別に??き、昨日良く眠れたよ、うん。それで今日はいつもより体が軽いんだ。ほら!!」

その場を取り繕うように軽くジャンプしてみせる。

あれ・・??足がなかなかつかないな・・・・・。

気がついたときにはもう遅かった。軽くジャンプしたつもりだったが僕の足はじめんから3メートル以上離れていた。エリーが驚いた表情でこちらを見ている。

・・・・・・どうしよう??スタッと僕は着地すると僕とエリーは数秒間無言のまま見つめ合った。エリーの顔は驚いた時の顔のまま固まっている。

「・・・・・それじゃ。僕は朝ごはん食べないといけないから・・・・じゃ。また後で」

「お待ち。説明が足りないよ??」

そそくさと去ろうとする僕の首根っこを捕まえて僕を引き戻すとエリーは言い放った。そうですよねー。逃がしてくれませんよねー。

「うう・・・・僕にも何が起きたかわからないんだよ・・・・・。朝起きたら体がものすごく軽くなってて・・・・・・・・・・。」

「ふーん・・・・・・・それで朝起きて体が軽くなっているところでちょっとジャンプしたら3メートルも飛び上がっちゃたわけ??」

エリーが疑いの視線をこちらに向けてくる。これは夢であったことを正直に話したほうがいいのだろうか。いいや、ラザレスには元の世界に帰るまでは極力彼女のことには触れないで欲しいと言われた。

何かしら理由があるのだろう。ここは何かしら理屈をつけて切り抜けることにした。

「じ・・実を言うとね。最近第一世界で基礎筋力を増強できる薬が開発されてて・・・僕のこれは試験用なんだ。いつ力が出てしまうかとても不安定でこんなになっちゃんたんだよ・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・・・ふーん。そういうことにしといてあげる。」

エリーの疑いの目はまだ消えていなかったがなんとか急場はしのげたようだった。まだなれない体の感覚

を確かめながらエリーとともにガンシップになかに入る。中では人がせっせと動き、出撃に準備を整えている。そんな人たちにぶつからないように気をつけながら食堂に入る。軽く食べられるもので朝食を済ませると僕は格納庫に向かった。大量のDECCSが設置されすぐにでも出撃できるように武装している。僕はその中で立っているタカさんを見つけ出すと走って駆け寄った。

「タカさん!!僕の機体のほうはどうなってます?」

「順調だぜ。昨日の戦闘データをもとにしてプログラミングしてる。あと四、五分で終わるな。」

「ありがとうございます。それじゃ。」

自分の機体の確認を済ませるとその場を離れる。

昨日今日で作られた機体だ。僕には多分あまり合わないだろう。身体能力もなぜかこんなになっちゃたし・・

・・・・。とりあえずちょっと外で体を慣らそう。

力加減がどうも難しくてかなり厄介だ。僕が軽くやっているつもりでもそうでないかも知れない。ついでに

全力だとどんな感じになるのかも確認しておきたい。

帰ったらすぐに出撃できるように準備を済ませると、僕はガンシップから出て森の方へと向かった。エリー

以外の人にも見られたら大問題だ。昨日ここに来たばかりの僕の人間離れした身体能力を見られたらみんなから疑われることになる。僕でさえどうなっているのかわからないのに。手がかりは昨日見た夢だが、確かめるにはラザレスとの約束を破らなくてはならない。結果。元の世界に戻って確かめられるまでは

隠し通すというのが僕の結論だった。もうバレっちゃってるけど・・・・・・・・・・・・。湖から離れた森の少し開けた場所に来ると僕は真ん中に立った。

制限時間は残り二十分。その中で僕に何ができるようになったのか確かめなくてはいけない。手始めはジャンプからかな。今さっき飛んで見た感じだと枝まではもしかしたら届きそうだ。膝を曲げぐっと力を込める。一気に足のバネを戻すが恐ろしいことが起こった。

ドンと轟くような音とともに僕の体は上昇していく。

想像とは規格外だった。余裕でさっきの十倍ぐらい飛んでるなこれ。ぱっと下を見て気づく。地面も僕のとんだところを中心にクレーターみたいになっていた。

上昇する速度が弱まり、僕の体が枝に到達する。僕は太い幹に指をめり込ませ掴むと腕の力だけでもう一度上昇した。高い高い木に覆われた森の上に出る。

遥か遠くに、街があった方とは反対方向に空を突き破るようにして建つ一本の塔があった。あそこだ。多分。

今から目指すのは。枝にぶつからないようにして降下する。地面に降りると僕の足はじめんにめり込んだ。めり込んだ足を引き抜いてクレーターの上に上がる。

ジャンプはこれくらいか。次は・・・・・・・走る速度と蹴りとかパンチとかかな・・・・・・。さて

モノは見よう見まねで正拳突き!!木の幹に向かって生まれて初めての正拳突きを繰り出す。ズドンといい音がして僕の腕はそのまま木に刺さった。腕をズボッと引き抜く。まあ案の定の威力だ。蹴りも一緒だろう。次は幹に指をめり込ませる。ぐっと腕に力を込める。ミシミシと木が嫌な音を立てる。これなら抜けるな。そう感じたところで抜ける前に僕は手の力を緩めた。全力だとどれくらいのものなのか大体わかった。僕がこんなになってしまったのにはやはりあの夢が関係しているのだろう。今は確認できないが真実である可能性は高いと思う。じゃないと僕のこの今の状態を説明できないからだ。

「とりあえず戻るかな・・・・・・・・・・・。

もうそろそろ時間だし・・・・・・・・。」

僕はひとりでそうつぶやくとガンシップの方へと向けて歩いていくのだった。船に戻ってみればもうDECCSの基本アーマーを装備した状態でいる人がちらほらいる。作戦開始まで残り五分。失敗は絶対にできない、犠牲が出るかもしれないことが重なってが空気はピリピリとしている感じだった。

「よっ!!クロ!!さっきまで見なかったけどどうしたの??」

後ろを見ると僕よりも頭ひとつ小さいDECCSの基本フレームを装備している人がいた。ヘルメットが声を遮っていて、声がくぐもり、見た目だけだと誰なのかわからない・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・見た目でわからないってどういうこと!!?別に見てとは言わないけど・・・・・・・・・わ・・私は女だよ!!?」

女??あぁエリーか。同じぐらいの身長の人が何人かいるからわかんなかった・・・・・・・・。

「ごめん。エリー。でもヘルメットとってくれないとわかんないよ・・・・・・・。」

「いや、その前に気づいてよ!!」

さっきわかんなかったといったが実を言うとわかってはいたのだ。ただ人間違いだったら嫌だし・・・・・・・・・。そうあれは中3の夏・・・・・・僕とロッキーとロストーでプールに行ったときのこと。階段を登っていると上で女の子が僕のほうに向かって手を振っていた。僕にはその子なんて見覚えがなかったが女の子は僕の方に手を振っている。その時僕はよく考えもせずに何かその子と関係があるんだなと思い、手を振り返してしまった。その瞬間の女の子の不思議そうな顔。夏休みで僕は人に視線を向けられるのがどういうものなのか忘れてしまっていたのだ。明らかにさっきまでの視線と今僕に向けられている視線が違うものだとわかったときにはもう遅かった。女の子が手を振っていたのは僕の後ろから登って来ていた人で僕ではない。そして僕は女の子と女の子が手を振っていた人との間に挟まれているのだった。お分かりいただけるだろうか。前後ふたりの視線。更には両隣からの冷たい視線。穴に入ってそのまま死んでしまいたい気分だった。以来、僕はその人だと完全に認識できるまでは認識しないと心に誓っているのだ!!

「・・・・・・・ということです。」

「この船で女は私だけなんだけだからそこでわかると思うんだけど・・・・・・・・・。」

「目的地が設定されました。全自動モードにて飛行を開始します。乗員は振動に注意してください。離陸三十秒前。」

無表情なアナウンスが鳴り響く。僕とエリーは慌てて近くにあった椅子に腰掛ける。アナウンスが切り替わって聴き慣れた声が聞こえてくる。

「全艦聞こえてるか~??離陸後作戦の最終確認をするから各艦にてやっといて。・・・・・・お前ら、この作戦が泣いても喚いても最初で最後。そして俺たちのここで生き続けてきたたった一つの希望だ。気、引き締めてけよ!!それじゃ帰るぞ!!元の世界へ!!」

「オオオオオオォォォォォォーーーー!!!!」

艦内に掛け声が響き渡る。普段の僕なら迷惑極まりないと思っているだろうが今はそうではなかった。

タカさんの放った言葉で僕の心にも何か感じるものがあった。

「・・・・・・・・・・・・・・・クロ。」

そう言ってエリーが拳を突き出す。僕はエリーの意思を直ぐに汲み取ると拳をコンとぶつけた。神対人間。僕たちの戦いの始まりだ。

僕たちが言った頃にはホールにはかなりの人が既に集まっていた。僕も先ほどDECCSの基本フレームを着用した。みんなも同じ格好をしている。

「よし全員集まったな。今からこれからの作戦の最終確認を始めまるぜ・・・・・つっても特に話すようなことはねえんだけど・・・・・・・まあもっかい見ろ。」

タカさんがそう言うとスクリーンに僕がさきほど見たとうが表示された。タカさんが一番下のところを指さす。

「俺たちが今いるのはここだ。最下層。このあと

当の上層部をガンシップのミサイルで破壊して船を捨て中階層に登る。中階層についたら上に既に用意されているはずの車に乗り換え中央の上層部につながるゲートを目指す。最上階についたらあとはワールド・ゲートを目指せ。そこに入れれば元の世界に帰れる。予想される大規模な戦闘は三回。最下層塔付近

中階層ゲート付近、最上階ワールドゲート付近。

上に行くにつれて警備の数は増え、強さも上がっていくことが予想できる。」

一度タカさんがそこで話を区切る。みんな黙って真剣に話を聞いていた。

「ここからは敵の分析だ。最下層にいるのは第四世界の近衛兵に加え最近はベルセルクがいるらしい。

ベルセルクは軍神マルスの祝福を受けた鎧でディスティニーの要請でここに配備されたみたいだ。近衛兵はそこまで強くないし、かなり敵対してる関係でもない。極力殺すことは避けてくれ。麻痺弾を使えば一時的に奴らの動きを止めることができる。どうしようもないときは俺たちで言う心臓の部分を狙え。そこが奴らの急所だ。次にベルセルク。あいつらは動きが素早いし力も強い。油断すると体を真っ二つにされる。生きてないから本気でいって構わない。徹底的に鎧を破壊すれば動かなくなる。注意としてはひとつだけだ。決して近づくな。死にたくなけりゃあな。次中階層。ここには天使がいる。推測されるに中位三隊ドミニオン、ヴァーチャー、パワーだと思われる。戦闘力は皇帝クラスにも匹敵する奴が居るらしい。こいつらには

適切な対処法はない。簡単な説明になるが力で押しとおれ。奴らの人間に対する敵対心は非常に薄い。

中階層にいる奴らも仕事でやってるだけだ。通っちまえば追いかけては来ないはずだ。厄介なのは最後だ。

最上階。敵の数種族は未知だ。ひとつ分かっていることはディスティニーがいること。やつは人間が大嫌いだ。虫けら以下だと思ってる。ただ本気で殺しに来るぞ。やつの能力は時空に関するものだ。一定の範囲の時間を止めたり空間をつなげて移動したりする。

奴がいるときには360度注意してくれどこから攻撃されるかわかんねえからな。最後は俺にもどうなるかわかんねえけど戦おうと思うな。ワールドゲートに行くことだけを最優先にするんだ。そこに行けば元いた世界に帰ることができる。じゃあ各自解散。」

静まり返っていた空気が一瞬でざわつき始める。みんな映像を表示して何か話し合ってるみたいだ。

「おーいクロエフ。話がある。ちょっとこっち来い。」

ヘルメットはつけずにスーツだけ来ているタカさんから手招きされる。僕は腰を上げるとタカさんの方に歩いていこうとした。

「どこいくの?クロ??そっちは出口じゃないよ??」

「え・・・・・どこって今タカさんに呼ばれちゃったから真ん中に行くつもりだけど??」

「あっホントだ、手振ってる。よく気がついたね。クロ。」

「うん。まあ、たまたまかな??」

ん?エリーは気がつかなかったのか。そうかてっきり上がったのは筋力だけだと思っていた。よく聴いてみればいろんな人の声がはっきりと聞こえているのだ。目もあまり気にしていなかったが遠くのものがよく見える。食事のときは特に何も感じなかったけど

・・・・・・・。おかしいな、なんで味覚は特に変化がないのだr・・・・・・・・わかった。料理できない理由、納得。・・・・・・・・・・とにかく一部を除いて全ての身体能力が飛躍的に向上しているみたいだ。

「呼ばれてるみたいだから行ってくるね。じゃあまた後で」

たくさんの人の間すり抜けてタカさんのところに歩み寄る。

「クロエフ。スーツはどんなもんか見たか??

いい仕上がりだと思うぜ。」

「いえまだ見てないですけど・・・・・・・・。

ありがとうございます。昨日の今日で準備してくれて

・・・・・・・。」

「余ってたからいいんだよ。ところでクロエフ。お前にはどこで戦ってもらうか伝えてなかったな。お前は俺と一緒に戦ってもらう。最前線でだ。」

「さっ最前線ですとっ!!?」

「口調変わってんぞ・・・・・・・。いきなりで悪いとは思ってんだけど。お前昨日見る限り近接戦闘型だろ??どう考えても前で戦わなきゃならんし・・・・

本当はお前らみたいな年のやつはついてくるだけで

いいと俺は思ってんだけど・・・・・・・世間体的にそうはいかないからな・・・・・。お前昨日の戦いで俺といい勝負しちゃったからな・・・・・・。だから俺と一緒に来い。一番死ぬ確率は低くなるだろ。」

僕はこの時ライトアーマーを選んだ小学生の僕と

昨日普通に実力を出して戦っていた僕が恨めしかった。

「・・・・・・・・・エリーはどうなりますか?

僕がそれを承諾するかどうかはそれで決めます。」

「やっぱな・・・・・。お前はそういうと思ったぜ。

安心しろエリザベスはお姫様ポジションだ。隊列の中央。支援が主な役割だ。」

「・・・・・・分かりました。それなら・・・・・・

タカさんと一緒に行きます。」

「決まりだな。よかったぜお前がびびんなくて。

フッフッフ実を言うとだなクロエフ。最前線が一番危険なわけじゃないんだぜ?」

僕は一瞬何を言いたいのかわからなかったが、タカさんのニヤリとした顔を僕の心が見つめていたくなっかったのか答えはすぐに閃いた。(僕の心の意見であって僕が意識してやっていることではない。)

「E・B・Sですか・・・・・・・・。まさかそんなものまであるなんて・・・・・・・。」

E・B・Sはヴァーチャルではミドルアーマーしか装備できないことになっているが現実世界ではそうでもない。全クラス装備可能だ。火力は圧倒的。DECCSなど比にならない。ただE・B・Aはエネルギーの消費が著しく長時間の使用はあまりむいていないのだ。

さらにDECCSを着込んで搭乗するためDECCSの装備はどうしても心もとないものになってしまう。

「エネルギーの心配してんならそれは無用だぜ。通常じゃなくて改良版だからな。長時間戦闘向きにしてある。ちっと機動力が落ちてるけどな。」

「それなら問題ないですけど・・・・・・・というかなんでそんなものが直前まで余ってるんです??僕がここに来たのは昨日ですけど・・・・・

・・・・。」

「わかんねえ。ただ一人分なんでか空いてたんだ。名簿を確認したのに人数合わねえのも昨日の夜気づいてな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

まあ発注ミスか何かだろ。多分。E・B・Sの最終確認行くからついてこい。」

そう言ってタカさんは僕に背を向けると歩き始めた。

おいていかれないように僕も後ろからついていく。

さっき行った格納庫に入るとさらに奥へと進み、奥の扉の向こう側へといった。そこには2機のE・B・Sが設置されていた。なんだか全体的にごつい。ロストーがいつも使っているのとは全然違うみたいだ。

「大型ガトリングガンにミサイルランチャー、大型ビームブレード。それに加えて長時間活動できるようにエネルギーパックを装備してる。パックはやられないように注意しろよ??そしたら装備する意味ねえからな。乗り方と操縦の仕方は知ってるよな??」

「えぇ、一通り記憶してます。問題はないかと。」

同時に警報がなる。

「高エネルギーの接近を確認、着弾まで残り三十秒。

エネルギーシールドを展開。各員衝撃に備えてください。E・B・A搭乗員は出撃の準備を。エネルギーの後方に高エネルギー反応をレーダーにて確認。敵影六体です。データ照合完了。アークエンジェル四体と

パワー二体と判明。到達まで残り十五秒。」

「出番だな、クロエフ。まさか最下層に天使が来てるのは予想外だったぜ・・・・・・。今はそんなこと言っても仕方ねえ。急ぐぞ船を落とされちゃ本末転倒だからな。」

まさかこんなに早く出撃するハメになろうとは思ってもみなかった。天使など相手にしたことないし、

無論僕の世界で直接見たことなどなかった。そう思いながらもグズグズはしていられない。タカさんがコックピットのほうに回って見えなくなったのを確認して僕は自分用であろうE・B・Sのコックピットまでひとっ飛びした。そのまま流れるような動作で腕の力を使って暗いコックピットの内部に入り込む。ぼくが操縦桿を握ると光が点って中が明るくなった。艦内に衝撃が走り、画面が揺れる。鮮明になった画面を見るとレーダーに六つの影が表示されこっちに高速で接近していた。ハッチが自動でしまって僕の体も自動で固定される。僕は自分の鼓動が高まっていくのを感じていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ