EP3-3
「クロエフ。悪いが俺にできるのはここまでだ。お前が負けるとは思ってないが、そっちの奴に足を引っ張られないように気をつけろよ。」
ロストーはそう言うと、屋上の方へと歩き出した。
「シャオは僕の足なんか引っ張らないよ。ロストー、
君もAクラスの連中と同じなのか?」
クロエフはシャオのことを馬鹿にされたことに腹が立ち、ロストーに言い返すと、ロストーは足を止め、
こちらの方を振り向いて、うつむいているシャオの方に一瞥をくれると、
「・・・・・足手まといかどうかは決闘の時にわかることだ。」
と一言だけ言って屋上から出て行った。クロエフは
たまった怒りを深呼吸とともに吐き出すと、シャオの
所に歩いて行った。
「・・・ごめん。どうしてもあいつらを見返してやりたかったんだ。」
シャオは黙ったまま、抱え込んでいた紙の束を、大事そうに抱えると立ち上がった。
「・・・・・どうするんですか、決闘なんて。僕たちは二人ともろくに魔法を使えないのに。どうせまた
学校の笑いものになるだけですよ。」
シャオはクロエフに向かって珍しく声を荒げて言うと、はっと我に返って、
「・・・ごめんなさい。」
と言って、屋上の入口から走って出て行ってしまった。
その後、クロエフは教室に戻ったが、シャオのバッグはもう消えていて、どうやらすでに帰ってしまったようだった。クロエフは決闘のことなんかよりも、シャオとの間に何か亀裂ができてしまったような気がして、もう修復はできないのではないかと思うと、そのことが気になって仕方がなかった。何だか気分の良くないまま宿へと返り、いつもの通りに三人組を寝かしつけると、クロエフはアルファとランスロットからの提示報告を受けていた。魔法を使うことはできそうにないので、決闘では何とか理由をつけて、ランスロット達を使うつもりだった。周辺の地形についてはほとんどの集計が終わっていて、後はリライトの場所を
探し出すだけになっていた。
「クロエフ様。アルファとともにこの世界の魔法における術式の解析を行ったのですが、先ほど解析に成功しました。マナの変換がどのように行われているかまで詳しくわかりましたので、シャオ様との話題になるのではないでしょうか。」
「シャオとはしばらく話せそうにないよ。決闘は
三日後なのに僕にはどうやって誤ればいいのかわからないんだ。」
「我らをお使いいただければ、シャオ様の助けがなくとも勝つことは可能でしょう。」
「それじゃあ、だめなんだよ。僕はシャオと一緒に
戦って勝つことで彼に自信を持ってもらいたいんだ。僕だけで勝ってもそれは手に入らないだろう?」
クロエフは薄暗いランプの光を、眺めてから、すやすやと眠っている三人組の寝顔を見てあくびをすると、
ランプの光を落した。
すぐにまた明かりがつき、クロエフは枕元の置いてあった、アルファとランスロットをつかむと、
「もしかして、ランスロットって発動中の術式に干渉できたりする?」
と割と喰い気味に聞いた。
「可能です。自身のエネルギーを変換することによって、術式の解析を行ったので、それを応用すれば術式への干渉ができます。」
「・・・!!そうか・・・それなら・・・・・」
クロエフは満足そうに笑うと、再びランプの光を消して、眠りについた。
次の朝学校に行ってみると、学校ではクロエフ達の
決闘のことで話題は持ちきりだった。どうやら相手の生徒たちが、言いふらして回っているらしい。そもそもDクラスの生徒がAクラスの生徒に対して決闘を挑むことなど前代未聞なことだったので、興味を引いたという事もあるらしい。それに相手の生徒たちは
Aクラスの中でも上の方の成績を残しているので、生徒たちの間では、実技王者対筆記王者みたいなことまで言われていた。クロエフは周りの視線を気にしないようにしてクラスの中に入ると、シャオの机の周りには大勢の人だかりができていた。クロエフが何事もないように自分の席に付こうとすると、クロエフの机に
ジャンが駆け寄ってきた。
「おい、クロエフ!!お前らのことが学校中でうわさになってるけど、あれは本当なのか!!?」
「あぁ、うん。昨日Aクラスの生徒に決闘を申し込んだんだ。」
ジャンはクロエフの返事を聞くと信じられないというような顔をして絶句した。クロエフは自分の席を立つと、シャオの席まで歩いて行った。
「シャオ、決闘のことで話したいことがあるんだけど、
放課後、いいかな?」
「やめてよ、聞きたくない。どうせ勝ち目なんてないし、僕はボロボロに負けて恥をさらす前に決闘を破棄するよ。」
クロエフはシャオの返事を聞いて、うつむいたシャオの顔を見た後、唐突にシャオの胸ぐらをつかんで
持ち上げて、立たせた。
「君がしたくないっていうのなら僕一人でもやる。
だけど、その前に僕と勝負しろ。勝ったらシャオが
あきらめるのを認めるよ。ただし僕が勝ったら君には
決闘に出てもらう。魔法を使うことすらできない僕に勝つなんて簡単なことでしょ?」
「・・・・・君とは争いたくない。」
「それでは君は落ちこぼれのままだ。昨日僕は君に言ったはずだ。奪われたくないのなら奪う側に回るしかないと。その時に君が悔しいって言ったんだ。」
ジャンたち数名の生徒が言いすぎだとクロエフに反対しようとして、口を開きかけたが、ロッキーが
何も言わずにジャンたちを押さえつけた。普段は何を考えているのかわからないのがロッキーだが、こういった時には一番人の感情に敏感であるのもまたロッキーだった。
「・・・・僕が勝ったら、クロエフにも決闘をあきらめてもらう。本気でやるよ、君は友達だから、君にも
恥はかかせたくない。先生が来る前に始めよう。」
シャオは、クロエフを連れて魔法の実演習室に向かった。何もない空間に二人が立っていて、その間には
張り詰めた糸のような緊張感があった。
「クロエフ。先に言っておくけど、加減はしないからね。防御の魔法も張ることのできない君が魔法に当たったらどうなるかはわかるはずだ。」
「わかってるよ、時間がないから早く始めよう。」
クロエフに一切退く姿勢がないことを悟ったシャオは一瞬苦しそうな顔をした後、目の前に術式を展開した。
「『光の矢』(ライトニング)!!」
シャオの声とともに高速の矢がクロエフに向かって放たれた。クロエフは同時にシャオに向かって走り出し、飛んできた魔法をすれすれのところでかわした。
見るからに威力は最小限に抑えてあって、拳銃の弾丸ほどの威力でさえないように思われた。
「『三重魔法』(トリプレット・マジック) 『光の弾丸』(ライトニング・バレッジ)!!」
シャオの前に無数の術式が展開して、次は先ほどの
魔法が嵐のようにクロエフに向かって飛んできた。
とても人間が生身でかわしきれるような量ではなかった。
「使うつもりはなかったんだけど、仕方ない。
アルファ、シールドブレードに形態変更。」
ガキンという音がしたと同時に、クロエフの指輪が変形して、盾と剣が一体になったような武器が現れた。クロエフはよけきれない、魔法を盾ではじきながら
シャオの方へとまだ走っていった。
「本気でやるんじゃなかったのか?シャオ、君のそんな魔法じゃ蚊も殺せないよ。」
「・・・くっ・・・!!」
シャオはせまるクロエフに対して新たに術式を展開しようとしたが、クロエフはすでに剣の間合いにまで到達しようとしていた。
「本気でやると言いながら、君には覚悟が足りていない。手加減をしているなら余計なお世話だよ。今の君の攻撃なんて僕には当たらない。」
クロエフはそう言いながらシャオの喉元に剣を突きつけた。
「・・・クロエフはどうして僕に向かってこれるんだ!!?防御魔法も使えないのに、下手したら死ぬんだよ?」
クロエフは、シャオの喉元から剣を離し、アルファを
指輪に戻した。
「死ぬことは怖いよ。それでも、それぐらいやらないと、動かせないものがあるんだ。君の心を動かすことだって、僕には命を懸けるのと同じくらい価値があることなんだよ。」
シャオは、クロエフの顔を見ると何かに気が付いたかのような顔をしてから表情を暗くした。しかしそれは
何かにおびえているのではなく、何かを後悔しているかのような表情だった。
「クロエフ、決闘には出るよ。君とならどうにかなるかもしれない。でもその前に、僕の本気を見せてなかったね。」
シャオの背後には血で書かれた術式ができていて、
クロエフはそれに気づくと、後ろにとんだ。
「母なる大地よ、大いなる力を我に与えたまえ。我は
大地を守護するものなり。」
血の術式が輝きだし、そこからあふれ出した、シャオと同じ色のオーラが、シャオの体に吸い込まれると、
一気にシャオのマナの量が増し、シャオはクロエフに向かって手をかざした。
「我らが大地の威厳を示せ!!『大地の鉄槌』!!」
シャオの周りの地面から床を破って、土が巻き上がって、大きな拳の形になると、クロエフに向かって、
迫ってきた。
「ランスロット、全身装甲。アルファはツインブレード。」
ガキンという音がしたと同時に、クロエフの体の周りを鋼の鎧がおおい、クロエフは、ランスロットの機動力で土の拳をよけたのち、地面を蹴って飛び上がると、
二本の剣で、拳をばらばらに切り裂いた。
「『岩石の巨人』『不壊の鉄壁』!!」
次はクロエフが切り裂いた土が集まると、堕落の巨人と同じくらいのサイズの岩の巨人が現れ、その後ろには、大きな岩の壁が現れて、クロエフはシャオの姿が見えなくなった。
「熱源感知でシャオの場所を割り出してくれ。」
「承知。」
ランスロットが熱源感知を使い、クロエフの視界には
岩の壁の向こう側にいる所の姿をとらえることができた。
「アルファ。ライフルに形態変更。あの巨人ごと、
岩の壁を撃ちぬく。」
クロエフは巨人の拳をよけながら後退すると、ライフルで、まず巨人の足を撃ちぬいた。アルファから放たれたエネルギー弾は容易に巨人の足を砕き、巨人は
バランスを失って倒れたが、すぐに足に土が集まり始め、再び立ち上がった。クロエフはその後も巨人を撃ちぬいたが弱る気配は一向になく、ただ再生を繰り返すだけだった。
「しぶとさでは堕落の巨人よりもめんどくさいかも
知れないな・・・。アルファ。巨人を倒さずに後ろの壁だけを撃ちぬく。エネルギーの充填を。」
「承知。」
クロエフは鈍い動きの巨人の攻撃をかわし続けると、アルファの青い光が徐々に強くなっていった。
「クロエフ様。エネルギーの充填が完了しました。
いつでも発射可能です。」
「うん。」
クロエフは一言だけ返事をすると、シャオがいないことを確認してから、岩の壁を撃ちぬいた。ライフルから放たれた、青い閃光は、岩の壁だけでなく、実演習室の壁を軽々と貫通させ、そこからは撃ちぬかれた校舎の向こうの青い空まで拝むことができた。クロエフは岩の壁を破壊するだけだったと思っていたので、
人に当たってはいないかと肝を冷やした。
「アルファ。具体的なことを言ってない僕が悪いと思うけど・・・壁を撃ちぬくだけでいいんだ。」
「はい。ですので、すべての防壁を撃ちぬくために
エネルギー上限におけるセーフティーを外さない状態での限界出力まで充填しました。なお、セーフティーを外した状態であれば、十から二十倍の出力での
発射が可能となります。」
「まだ、上がるんだ・・・。アルファ、後で君に話さなきゃいけないことがあるよ・・・。」
「なんでしょうか?」
「君の知らない常識ってやつだよ。まあそれはこの勝負が終わってからにしよう。」
クロエフはアルファが開けた穴がしまったしまう前に壁の向こう側へとすり抜けた。
「アルファ、シールドブレードに形態変更。シャオを
絶対に斬るなよ。」
「そうですね。無用な殺生は好まれるものではないと、
ランスロットと情報を共有しました。」
「・・・そういうことじゃないんだけどなぁ・・・。
まあ、それは後々話すこととして、シャオ、自慢の
巨人も、こっちに来られないんじゃ役に立たないよ。
ここ数週間過ごしててわかったけど、魔法使いは強力な魔法を使っても、肉体はそんなに強くないらしい。
つまり、この状況で僕が君に負けることはない。」
「クロエフ。教科書しかやってない君は知らないかもしれないけど、魔法使いは自身の身体能力の貧弱さを知っているから、肉体強化魔法もあるんだよ。」
シャオの体から、オーラがあふれ、地面から一本の剣が現れた。シャオは地面を蹴ってクロエフに近づいた。
確かに普通の人間の速度ではなく、最初の蹴った勢いだけで、クロエフにまで届いていた。クロエフは、シャオの振った剣をのけぞって躱すと、その勢いでそのまま剣を蹴りあげた。剣は空中で、土になり、シャオは新たに地面から現れた剣を手にした。
「『限界突破』(リミット・ブレイク)なのか・・・?それは。」
「なんだ、肉体強化魔法のことは知ってるんだ。でも僕が使ってるのはそれの下位魔法。『限界突破』(リミットブレイク)は
最上位の魔法なんだ。」
「ふーん・・・。」
「クロエフこそ、面白いね、その鎧。身体能力を底上げしてるみたいだけど、マナが一切感じられない。何か特殊な加工でもしてるの?」
「あぁ、これは違うよ。ランスロットとアルファはマナとは違う動力で動いてる。まあ、勝負が終わったら話してあげるよ。」
「うん、そろそろ時間だから、僕も大技で行くよ。
『大地の栄光』(グランド・グロリア)。」
クロエフの下の大地すべてが波打って揺れ始めた。
どうやら、ここ一帯の地面全てを操っているらしい。
「クロエフ様。装置の開発は完了していますが、いかがなさいますか?」
「そうだね、ちょうどいい機会だし、使ってみようか。」
「承知。武装変更。敵術式の解析完了。エネルギー充填完了。『浄化』(パージ)システム起動します。」
クロエフの左手の形状が変わり、ぼんやりと青白く光っている。
「効果範囲決定。誤差調整、修正可能範囲です。いつでもどうぞ。」
「『浄化』(パージ)。」
クロエフは、左手を前に出すと、シャオの方に向かってそう言った。クロエフの左手から、青白い光が、球状に広がっていき、シャオの体まで届くと、シャオが使っていたすべての魔法の効果が消滅した。空中でバランスを崩したシャオの所まで、クロエフは壁を蹴ると、落ちていくシャオの体を受けとめて地面に着地した。
「これは、僕の勝ちってことでいよね?シャオ。」
「完敗だよ、クロエフ。まさか、クロエフがこんなに強いなんて思わなかった。それに、最後の術式を破壊されたのにはびっくりした。」
「それについては、後で全部教えてあげるよ。僕もシャオがここまで戦えるなんて思ってなかった。試験では使ったことないよね?その力。」
「うん・・・僕もクロエフには話しておこうと思う。」
クロエフとシャオは向き合ってしっかりと握手をした。シャオの目からは影が消え、強い意志の炎がともっていた。Dクラス全員が、二人に駆け寄って、二人を祝福した。しかし、騒ぎを聞きつけて駆けつけてきた先生に、実演習室をめちゃくちゃにしたことはこっぴどく叱られた。そして、やる気になった二人は放課後、決闘の時の作戦を、ジャンの家で建てることになっのだった・・・。
「つーか、なんで俺の家なんだよ・・・・。」
そう言いながらも、飲み物とお菓子をしっかりと持ってくるあたり、本当に迷惑しているようではなかった。
「いや、僕とクロエフだけじゃなくて、ジャンみたいな人の意見も聞けると、うまくいくと思ったんだけど・・・。」
「あー、そうかそうか、確かに、シャオは守りに出すぎる部分があるからな、いつも攻撃的な魔法を使う俺のことは参考になるな、きっと。」
うまく乗せられたジャンから、目をそらし、クロエフはシャオの方を見た。シャオはどうかしたのかといった表情でこちらを見返してきたので、クロエフはシャオが無意識のうちにやったことを怪訝そうに認めると、ジャンの方へと視線を戻した。
「じゃあ、クロエフ。約束通り、クロエフの鎧と武器について話してもらおうか!!」
シャオはクロエフの方にわくわくとした視線を向けてきた。魔法に関するようなことになると、普段のおとなしさとは違ってどこまでも食いついてくる。それがこのシャオ・ホーキンスなのだ。クロエフは自分の指輪と、イヤリングを外すと、床の上に置いた。
「ランスロット、アルファ。自立型に変形。」
クロエフがそう言うと、指輪と、イヤリングがガキンと音を立てて、人の形をとった。そして次の瞬間には
金属の体の表面をホログラムが覆い、二人の執事の格好をした男が現れた。
「紹介するよ。こっちが鎧のランスロットで、こっちが武器のアルファ。動力はマナじゃないけど、そのことは二人の方が詳しいから、二人が教えてくれる。」
「初めまして。クロエフ様のご友人でいらっしゃいますね。それでは、少し長くなるかもしれませんが、我々の身の上話をお聞きください。我々はここからとても遠く離れた地ではるか昔に生み出されました。我らは
古代超兵器『DIVA』。動力源はDIVAエネルギーと呼ばれるもので、この金属の体から、半永久的に生み出されます。そして、マナの代替をすることはできませんが、マナに干渉することが可能です。それを利用したのが『浄化』(パージ)システムであり、先ほど見せたように、
一定範囲内の魔法の発動、または維持を無力化することができます。」
「魔法を無力化・・・。魔導師にとっては天敵じゃないか、それに加えてあの機動力と攻撃力。・・・クロエフって実はものすごい人だったりするのかな?」
「肯定します。クロエフ様は我々が今までに仕えた主人の中では、最も慈悲深く、さらに、最も力のあるお方でございます。」
クロエフは少し照れくさそうに笑うと、ランスロットとアルファをもとの形に戻した。
「それじゃあ、僕のことも話したし、次はシャオの番だよ。」
「そうだそうだ!!なんだったんだよ、お前の今朝の奴。あんな魔法は俺たちDクラスどころかAクラスの連中だって簡単に使える物じゃないぜ?」
シャオは、首の後ろに手を回すと、ネックレスを取った。ネックレスには黄色に光る宝石が埋め込まれた物だった。その瞬間、シャオの体から、黄色いオーラが
あふれ出した。しかしそれはシャオと初めて会った時の弱弱しいオーラではなく、超人たちを想像させるような強いオーラだった。
「クロエフは見たと思うけど、自分の血で魔方陣を書くか、このネックレスを外すと、僕にかかっている
制御が外れるんだ。」
確かに、普段のシャオとは思えないぐらいの、マナの
オーラがあふれ出している。シャオが再びネックレスを首につけると、いつものシャオに戻った。
「おいおい、なんで、戻すんだよ、シャオ。お前の
その魔力があれば、Aクラスにだって行けるじゃねえか。それに、Aクラスの奴らに馬鹿にされることもないし、お前のやりたい魔法の研究だってもっとできるだろ?クラスからお前が居なくなるのはさみしいけどよ・・・。」
「この力は僕の物じゃない。これは大地の加護なんだ。
ネックレスを付けていなければ、大地が僕に無限に
マナを供給してくれる。」
「じゃあ、何で、それをいつも使わないんだ?」
「大地の加護を受けている間は、僕は大地の魔法しか使うことができない。僕は別に強くなくたっていいから、いろんな魔法が使いたいんだよ。だから、普段は
このネックレスで加護を受けないようにしてるんだ。」
「そうか。じゃああんまり心配ないね。」
「何が?」
ジャンが首をかしげてクロエフに尋ねた。
「いや、Aクラスの人たちがどれくらい強いのかは知らないけど、僕とシャオが本気で戦ったら多分相手にならないって話。正直なところ、シャオか僕の一人でも勝てると思うけど、それじゃあ意味がないからね。
さすがに、決闘の時はしっかり大地の加護を受けてくれよ?シャオ。」
「もちろんだよ。朝の勝負でクロエフに負けたら本気で決闘に出るって約束したからね。」
クロエフは、今朝のことを少し考えて、シャオが作り出していた土の巨人のことを思い出した。
「ねえ、シャオ、あんまり簡単に勝っても面白くないから提案があるんだけど・・・。」
クロエフはシャオに向かって決闘での作戦を伝えた。
決闘という場を借りて、シャオとクロエフにかかった
汚名をすべて返上する。シャオの本を使い物にならなくした責任はしっかりと取ってもらう。クロエフは
これこそシャオに言わなかったが静かに心の中で決意していた。次の日になり、クロエフはいつものように、三人組を起こすのに苦労しながらも、インドラに
預けると、学校に向かった。学校では、決闘のことがもっぱら噂になっていて、上級生でさえ、Aクラスに挑む愚か者のDクラス生徒は誰かと休み時間に見に来るほどだった。放課後になり、クロエフとシャオは
作戦の最終確認をすると、校庭に向かった。校舎でぐるりと囲まれるような位置にある校庭なので、すべての校舎が決闘を見学しようとする生徒であふれかえっていた。クロエフ達が到着すると、Aクラスの二人はすでに準備をしてあるようで、何やら動きやすそうな服を着ていた。クロエフ達が魔障結界の内部に入ると、歓声とも、冷やかしとも、何とも言えないような
生徒たちの声が聞こえてきた。
「シャオ。じゃあ後は手筈通りで。」
クロエフはランスロットとアルファも準備ができていることを確認すると、外にいる先生に準備ができたと報告した。
「それでは、これから、拘束に則り、決闘を開始します。ルールは、魔障結界内部での相手への魔法が無効化された時、つまり、致命傷になりうる魔法を受けたと判断された時が三度先にあった方のチームが負けとなります。それでは両者とも下がってください。後、
一分で開始します。」
クロエフがランスロットに形態変更させようとすると、Aクラスの二人が冷やかすように話しかけてきた。
「おい、逃げずにここに来たってことは、俺たちにどうやって、負けるかしっかりとはなしてきたんだよなぁ?」
「うん、ちゃんと君たちに勝つように話し合ってきたよ。まあ、失望はさせないからさ。」
嫌味たっぷりに言われたその言葉を跳ね返し、クロエフの体はランスロットで覆われた。
「アルファ、シールドブレード。ランスロット、
『浄化』(パージ)システム起動。シャオの準備ができるまで
時間を稼ぐ。」
「承知しました。」
「・・・時間になりました。決闘開始!!」
合図とともに、クロエフとシャオのあいだに巨大な土の壁がしゅつげんし、Aクラスの二人と、クロエフだけになった。
「ふっ・・・何秒持つか楽しみだな。『呪いの炎』(カース・フレイム)」
紫の炎球がクロエフめがけて迫ってきた。
「アルファ。」
「温度、規模ともに耐久可能範囲です。」
『浄化』(パージ)システムは再装填に若干の時間がかかるので、できる限り、よけるか、受けるかでしのぎることにしていた。クロエフの目の前にまで、炎球が迫ると、
シールドにぶつかる前に消えてしまった。
「魔障結界の発動を確認!!Aクラス一ポイント先取です!!」
校舎から歓声が上がり、クロエフは逆に何が起きたのかわからなかった。
「アルファ、ランスロット、何が起きたかわかるか?」
「解析不能。考えられることは炎に我々の知らない未知の性質が存在するか、決闘のルール上、我らの行為になにかしらの問題があったかです。」
クロエフはその瞬間になぜかを察した。
「くそ・・・これだから、発展の遅い文明は・・・!!
アルファ、自立型に変形!!壁に飛んでくる炎球を防いでくれ!!どうやら、マナのない僕らは今の攻撃は
生身で受けた判定になるみたいだ。ランスロットと僕は奴らに近づいて動きをかく乱させる!」
「承知しました。」
ガキンと音がして、アルファは自立型に変形すると、
表面にホログラムを表示させることもなく、飛んできた炎球を切り裂き、掌から放たれたエネルギーで弾き飛ばした。クロエフは地面に着地すると、二人に向かって一気に距離を詰めた。
「ちぃっ!!魔法が使えないからって、接近戦かよ!!『光の剣』(ライトニング・ブレード)!!」
二人の手に光の剣が現れ、クロエフを切りつけようとしたが、一般人の身体能力ではランスロットを着ている、クロエフを捕まえることはできず、軽くいなされてしまった。クロエフは二人の手首を返して、地面にたたきつけ、ぱっと、審判の方を見たが、魔障結界が
発動した様子はなかった。
「魔障結界発動!!Aクラス二ポイント目獲得です!!Aクラスが後一ポイントとった時点でAクラスの勝利となります。」
クロエフがぱっと二人に目を向けると、一人の剣が消えて手首がこちらを向いていた。どうやら剣が鎧に当たったのを取られてしまったらしい。クロエフは歯がギシギシ言うほど歯を食いしばるとこのくだらないシステムなど壊して目の前にいる二人を殴り飛ばしてしまいたいという気持ちを抑えて、後ろにとんだ。
つまるところ、この決闘というのは名ばかりで、魔法での力比べだという事だ。大したことのない魔法で
二ポイントも取られてしまったことは悔しいがルールなのだから仕方なかった。
「よし、あと一ポイントだな。お前のパートナーが
壁の後ろで何をたくらんでるか知らないけどよ。
後お前から一ポイントとってこの決闘は終わりだ。
やっぱり、DクラスはAクラスには手も足も出ない
ってことが、よくわかるな!!『火炎連鎖』(ファイア・チェイン)!!
『炎竜の咆哮』(フレイムドラゴンブレス)!!」
よけることができないほど巨大な炎球がクロエフに迫ってきた。
「『浄化』(パージ)システム。」
「エネルギー充填完了。範囲決定完了。スタンバイ。」
「『浄化』(パージ)。」
クロエフが静かにそうつぶやくと、青白い光が魔障結界中に広がって炎をかき消した。観客からどよめきが上がり、肝心の放った二人は何が起きたかわからないといった顔で、クロエフを見ていた。その時、地面が
脈打って、クロエフの下の地面が割れると巨大な
土人形が出てきた。
「ごめん、クロエフ。思ったより時間がかかったよ。
それにしても、君が二点も取られるなんて、相当強かったの?」
「いや、どっちも僕の不注意だよ。圧倒的に勝つつもりだったのに、ごめんよ、シャオ。」
「だいじょうぶ、 それじゃあ行くよ。エンチャント
『金剛』。」
ゴーレムの下に魔方陣が展開し、ゆっくりと上がっていくと、ゴーレムの体を魔方陣が通過した部分から
透明に透き通りながらも、光を受けて強烈に光る鉱物へと変えていった。
「ゴーレムよ。二人を同時に押しつぶせ。」
シャオがゴーレムに命令すると、ゴーレムはゆっくりと動きだし、二人の前まで来ると、巨大な腕を振り下ろした。二人は防御魔法を張ったようだったが、それも強大な拳の前では無力なものだった。
「魔障結界の同時発動を確認!!Dクラス二ポイント連続獲得です!!」
魔障結界が発動したことによってゴーレムは土の塊になってしまった。クロエフはゴーレムの体の中から手ごろな石を見つけると、シャオに手渡した。
「それにエンチャントかけてくれない?散々馬鹿にされた気分だからさ、とどめは僕が差したいんだ。」
「それはいいけど・・・そんな石ころでどうやって
決着をつけるの?」
シャオは石にエンチャントをかけると、クロエフに投げてよこした。
「いや、魔法で致命傷になるような攻撃だったらいいわけだから、このエンチャントのかかった石を人が
死ぬ速度で投げつければいいだろ?」
クロエフは大きく振りかぶると、片方に向かって、ものすごい速度で石を投げつけた。石はAクラスの生徒の目の前で消滅した。
「魔障結界の発動を確認!!Dクラス三ポイント先取!!よって今回の決闘はDクラスの勝利に決定しました!!」
予想外の展開に校舎中から歓声が上がった。永久に変わるはずのなかった上下関係がたった今、魔法学校の歴史上初めて破られたのだった。クロエフはその歓声を心地よく感じながら、シャオとしっかり握手をした。




