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SEVENTH・WORLD  作者: Question
1/12

EP1

EPISORD1 

全ての始まり

「こんな・・・・・・!!僕が望んだのはこんな世界じゃない!!!!!!」

上も下も右も左もない、本当に何一つない空間でただひとり叫んだ。


神、それは人間にとって絶対的存在。ありとあらゆるところで人間を超越する存在。太古より人間は神を崇拝し自然に起こることすべてを神の所業としてきた。


450点。学年順位2位。ぼくは食い入るようにその結果が記された掲示板を見ていた。今見ているのは昨日やった高校初のテストの結果だった。点数も順位も満足のいくものではない。さらに不思議なことに全て解いたはずなのに500点まで50点も足りない。解答用紙に書いてある答えもすべてあっていたのに・・・。僕はその事実に衝撃を受けていた。掲示板をじっと見ていると唐突に後ろから声をかけられた。

「よお、クロエフ。テストの結果はどうだったかな?」

今後ろから声をかけてきたのは幼馴染、テスト499点学年順位1位現在はライバル?的存在の

ロストー・キャッパーであった。ぼくは、絶対にわかっていて言っているだろうその挑発的な物言いに少しばかり腹が立ったが言い返せずにうつむいてしまった。ロストーは見えていなかったがきっと得意げな顔をしてみていると思うとまた腹が立って次はささやかながら抵抗をしようと思い言い返すことにした。

「そっちだって1点落としてるじゃん・・・。」

そう言って顔をあげるとロストーは何か言いたいような顔をしていた。でもそれは僕が今言った言葉を気にしているようには見えなかった。ロストーは何食わぬ顔をしてぼくから目をはなし点数の書いてある掲示板にまた目を戻すとまた話し出した。

「実をいうと俺はだな・・・今回なぜおまえがこのような点数を取ったか知っているんだ・・・クロエフお前、・・・一番最後のページの裏の問題、やってないだろ?」

思わぬ指摘をされ僕は顔から血の気が引いてゆくのを感じた。それから5秒後、その事実を確認するため廊下からもうダッシュで教室に駆け込んだ。いきなり扉をあまりにも荒く開けたものだから周りの人がびっくりして全員こちらを向く。もともと人とかかわることが苦手なぼくは全員の視線が集まったことに対して一瞬たじろいでしまったが今はそんなことをしている暇ではない。早く事実を確認せねば。自分の机の中から解答用紙を取り出すとひっくり返し、ロストーの言っていることが正しければ僕が解いていない場所を見た。問題用紙を見てみると確かに一番最後のページの裏が白紙になっていた。ぼくがそのテスト用紙を見て白く固まっていると、遅れてロストーが教室に入ってきた。

「いきなり走るなよ!!びっくりしたじゃねえか!!」

そう言いながら近づいてくるロストーに視線だけを動かし、焦点の合っていない目でロストーを見た。

遅れて聞こえるかどうかわからないくらいの声でつぶやいた。

「ぼく、一番最後、解かないで寝ちゃったんだ・・・。」

途端に目が潤んできて目の前にいるロストーの顔がゆがみ始めた。そんな僕を見てロストーはとても困った様子だったが、そんなことは今の僕には関係ない。

過去の自分があまりに軽率に思えて、涙を抑えることは到底できそうになかった。

「ま、まあたまにはこういう事もあるさ、な?いいじゃないか、たった一回のテストぐらい・・・だから泣くなよ?(俺が泣かしたみたいじゃねえか、バカヤロウ)。」

まるで小さい子に飴ちゃんやるから泣くな、みたいな慰め方をされて腹が立つはずがそうではなくもっとクロエフは泣きそうになった。しかしそれは次のロストーのつぶやきで払しょくされた。

「中学の時はお前に毎回のごとく完敗したからな、しょぼいミスのおかげで勝つことができてよかったよ。

まあ昔からお前は詰めが甘いからな、まあ今回、そのつけがまわってきたんだろ。」

頭でプツンと何かが切れる音がした。椅子からから立って反論しようとした瞬間、後ろからぬうっと現れた大きな影に肩を抑えられ立つことができなかった。

「まあそう怒るな。クロエフ。ロストーもあんまり挑発するんじゃない。」

僕の肩を抑えたのは親友のロッキーだった。ロッキー・ニアス、身長195センチの大柄で体もしっかりとしている。ちなみに僕とロストーはともに身長175センチであまり大きくはない。体はロッキーに比べるとだいぶ細い。

「だってロストーが・・・」

ぼくがロッキーに向かって不服そうな顔をすると

そのロッキーが僕の耳元でささやいた。

「クロエフ。周りを見てみろ。皆が興味津々でお前らのことをみてるぞ?」

びくっと背筋をのばす。その言葉でぼくは今までどんな醜態をさらしていたのか気が付いた。ぼくにとっての醜態というのはクラスで目立つという事である。はっと周りを見渡すと皆(特に女子)がこちらを向いてニヤニヤいることに気が付いた。

テストの結果を見た時とは裏腹に今は頭に血が上っていくのを感じていた。その様子をじっと見ていた

ロッキーがさらに言葉を続ける。

「お、なんだクロエフ。顔が熱いな?冷やしてやるよ。」

ロッキーがにやりと笑ってまた口を開こうとした。いやな予感がする。非常にいやな感じがする。こういう場合のロッキーの発言はいいことがない。長年の経験でそう感じていた。案の定、次に出た言葉はぼくを地獄送りにする内容だった。

「おい皆聞いてくれ!!クロエフのペットが脱走して泣きそうなんだが今日の放課後一緒に探してくれる人はいないか!!?」

なんじゃそりゃ!!?と反射で言い返しそうになったが慌てて口をつぐんだ。まず第一にぼくは家でペットなんか飼っていない。第二に中学の時から目立たぬようひっそりと暮らしてきたぼくに協力してくれる人などいるはずがない。よってロッキーはともかく僕はここで大恥をかくであろうと仮説を立て最悪だー!!と内心で叫びながら目をぎゅっとつぶってどうしたらこの危機的状況から抜け出せるのか思考を巡らせた。この絶望的状況から逃れる方法は何かないのか、教室を猛スピードで出ようかいやそれはきっとロッキーのこの肩にのっている手がどかない限り不可能だろう。教室はしんと静まり返ってみんなが僕らの方を見ている。恥ずかしい。とてつもなく恥ずかしい。というかもう羞恥系の拷問だろ。コレ。ついにあきらめおそるおそる顔を上げると、まっていたのは意外な結末だった。

「別に今日暇だからいいよー。」

そういう男子の声が聞こえたかと思うとクラスのうち聞いていた人ほとんどが探してくれると言ったのだ。最悪の事態は免れた、大恥をかかなくて済んでよかったとは思うのだが同時に困ったことになった。まず探すペットがいないしみんなが家に来る分には僕は問題ないんだがとてつもなく大きな問題が・・・。思い切ってみんなに断ろうとした瞬間ロッキーが言葉を重ねた。

「おい、しかもこいつの家、兄ちゃんいるぞ。ノエル・キーマーっていう名前のな。」

言われてしまった。ぼくがこの学校に入ってから絶対に知られたくないこと。それはぼくにノエル・キーマーという兄がいることだった。別に兄がいる家庭は星の数ほどある。ぼくがきにしているのはそんなところではない多分これ以上は言わなくてもロッキー全て言ってくれるんだろうなあ。と半ばあきらめかけていたところであったけれど、案の定だった。

「みんなこの学校で起きたあの事件は知っているよな?こいつの兄ちゃんその張本人だぜ。」

教室が静寂に包まれる。全員黙り込んでしまった。僕にとっては思い出すのもおぞましい事件だった。さっとロッキーに顔を向けどうするのかという視線を送ったがロッキーはにやりとしてこちらを見て助けてくれることはなかった。無邪気だという事は時にとんでもなく冷酷なものだと心底思い知らされた。僕にとっては一秒が過ぎるのがとても長く感じられ、まさに発狂しそうになったその時、そんな静寂を破っていきなりドアがバンと開いた。同時に白衣に身を包んだメガネの男が入ってきた。

「出席とるぞー席つけー。」

入ってきたのは僕たちの担任のデジット先生。キッとみんなを睨むとみんなはそのまま口を開かず席に着いた。ロストーも自分のクラスに退散していった。微妙な空気を破ってくれたことはとてもうれしかった。というかほっとした。デジット先生はこの世界きっての科学者といっていいほど優秀だが性格に少々問題があるとぼくは思っている。まあそれよりも深刻な問題ができてしまった。ペット探しの件はもう片付いたと思う。なぜなら兄のことでそんな小さなことは上書きされてしまったことだろう。

そうして新たに出てきた問題が兄について知られてしまったことだった。まさか高1の時点でばれてしまうとは・・・先が思いやられる。ロッキーもあれだけ言っておいてフォローの一つもしてくれないなんてひどい奴なんだ。そう声には出さず心のなかで文句を言ってぼーっとしていると大きな声が聞こえた。

「おい、クロエフ聞こえてんのか?聞こえてんなら返事しろ!!」

ビジット先生の喝で現実に戻った僕は

「は、はい!!」

と返事をした。

「元気でよろしい。はい次~。」

まあ今日は高1の誰にとってもうれしい日だと思う。

なんといっても今日は運命のパートナーができる日なのだ!!といっても結婚相手ではない。よくわからない人もいると思うので手短にはならないけど説明しようと思う。今不明の前時代をのぞいて人類の大きな進歩が始まってから5000年に当たる。約3000年にこの世界に異変が起きた。いろいろな自然災害が起き、大地は割れ、大空はうなり、火山が噴火し、津波が町を飲み込んだ。そして、異世界につながる門が急に開いた。現在この門のことはワールドゲートと呼ぶ。突然の天変地異に人々は混乱し多くの死人が出たが自然災害も収まり不気味な何も起きないゲートのみを残して誰もがもう安泰だと思ったその時だった。地球史上最悪と言われた二つの事件の一つ、その名も・・・

「世界史の授業はじめマース。教科書56ページ開いて~。」

僕が思うデジット先生の問題点1、空気読めない、というか僕だけタイミング悪いというか。まあでもやることは世界史で一緒だからきっとぼくが言わなかったところを先生が説明をしてくれるはず・・・

「はーい。じゃ、クロエフ君読み上げて~。」

「・・・・・・・・・。」

うん。大体こうなると思ってたよ。うんホントに。

深いため息を先生に聞こえないようにしてから僕は、教科書を読んだ。さっきこの白衣のメガネ野郎に阻まれてしまった部分を話そうと思う。ダーク・ネスト。世界史上最悪の事件の一つ。ワールドゲートが異世界につながっていると分かったのはこの事件があったからだ。突如ワールドゲートより大地と空を黒く埋め尽くす量の魔物が出現し地球を襲ったのだった。当時の人間は全力で戦ったがまるで歯が立たずどんどん追い詰められその人口は当時の人口の100億人の100分の1まで減ってしまった。それもそのはず今では普通に日常生活でも使われたりするが、魔物の鱗や鎧は非常に硬く、当時の人間には加工はおろか兵器を使っても、壊すことさえできなかったのである。しかし絶望とともに希望も現れた。ワールドゲートによってつながった世界は魔物の世界だけではなかったのである。第七世界、神の世界アスガルズの神がある条件付きに助けてくれると言ってきたのだ。その内容はいたってシンプルでこの戦いが集結したら国を一つに統合し世界名を決めよというものだった。アスガルズにとって利益がないのではないかと思うが、逆にそれで頭が上がらないのも事実である。地球側はその条件を飲み、援助してもらうことになった。地球に派遣された神は二神で順に重力の神アールガン、戦神アシュラさらに神ではないが高い戦闘能力を持つ神兵も来てくれた。援助はちらばった人類を一か所に集め、アールガンがその下の大地を丸ごと持ち上げ、その間の援護をアシュラと神兵がするというものだった。人間はそこで神という存在がどれだけ大きなものであるか知った。彼らの戦闘力は圧倒的だった。人間が歯が立たなかった魔物をあっさりとかたづけてしまったのである。作戦は見事に成功し、残った人類は助かったのであった。そしてここにあるのがイーストアイランド、ウエストアイランド、ノースアイランド、サウスアイランド、セントラルの五つの島からなる天空都市、エステルがある。魔物から逃れて人類が知ったことはいろいろある。第一次世界事変のよりつながった世界がこの世界を除いて六つあること。そして昔から伝説だの幻だのと言われていた生物や存在がたくさんいたこと。他にもいろいろあるが人間はこれらの生物や存在を一生に一体のみ互いの合意または強制にて体の内に取り込むことができるのであった。それが運命のパートナーである。長々とした説明になってしまったがご理解いただけただろうか。これが教科書の載っていることだった。要するに絶対絶命のピンチにあった人類を神様が救ってくれたよ、そのあといろいろ発展して人間のできることが大幅に増えたよ、という人間にとってありがたい話なのである。そうした出来事があってできたのがこの第一世界ヒューマノイズである。

キーンコーンカーンコーン。授業終了のチャイムがなった。最初のパートナーのこととかまだ話さなきゃならないことはたくさんあるが、あせらず順々に話していこうと思・・・

「きょうは特別日課だからな~わかってるとは思うがちゃんと確認しとけよ~次はVTルームだからな。

遅れんなよ!」

「・・・・・・・・・。」

ひとが話してるのに間割って入ってくるのやめてほしいな。全く。そう思った瞬間さっき朝裏切ったやつの声がした。

「なあなあクロエフ。さっきから誰に話してんの?ま、まさかさびしくて空想の友達作って話してたとか!!?」

「違うから。僕そんなかわいそう奴じゃないから。話してたのは読者の皆様だから。」

「ドクシャ?それ、うまいのか?」

「・・・・・・・・・。」

読者だし。普通間違えないから。もう突っ込む気力も失ってしまった。ロッキーは体がでかくて力も強い。馬鹿でもない。が、あほである。天性の。

「というか。よくも兄さんのこと言ってくれたなロッキー!!僕のトップシークレットだったのに!」

「まあそんなに怒るなよ。俺だって悪気があったわけじゃないんだし。」

口笛を吹くロッキー。悪意のない悪。一番問題だと思う・・・

「もういいや。とりあえず移動しよう。」

「おう。」

先ほどデジット先生が言ったVTルームというのはバーチャル・トレーニングルームの略で今でも小規模ではあるが上の上空と下の地面でゲートが開き魔物が発生することがあり、人間はそれに対抗するため

自らの身体能力にを計測しそれに一番適合した武装を装備して戦う、通称DECCSを作り出した。そして第一世界の自警団バスターズを結成した。この訓練は将来有望な兵士を見つけるためのものであるため、世界で一つのサーバーを作りサーバーの中で対人やら対魔物やらと戦うものになっている、だが普通にゲーム感覚でできる。戦っていけば強い武器も手に入る。本当にゲームみたいで武器、体についているパーツ、それぞれに細かくE、D、C、B、A、S,の順にランク分けされている。しかしサーバーに入るために必要な機材がとんでもなく高いので基本は機材が置いてある学校で高校1年生から始めるのだが、僕、ロッキー、ロストーはちょっと違う。これは兄と関係しているのだが簡単に言うと小学生くらいの時から僕たちはやっている。つまり今日はじめた奴らなんかに負けるはずがないという事なのだ。ルールは対人戦の時は普通は50人のチーム×3でつぶし合いをするといったところだ。装備のタイプは

高い攻撃力と機動力を持った接近戦闘が得意なライトアーマーとオールマイティーでバランスのとれたミドルアーマーと機動力はあまりないが高い攻撃力と鉄壁の防御力を誇るヘビーアーマーがある。武器も多種多様で上級者は戦闘によって武器をいちいち変える。そろそろ戦闘の時間なので後程説明しようと思う。カプセルの形をした機材の中に入ってふかふかのベットに横になる。両隣にはロッキーとロストーがいた。

「それじゃあお二人さんまたあとでな。」

ロッキーにそう言われ僕とロストーは短く返事をした。カプセルのふたがゆっくりと閉まり始める。同時に女子の軽い悲鳴が聞こえる。ふたが閉まると一切の音が聞こえなくなった。するとカプセルの中にデジット先生の声がした。

「あと1分後にはじめるよ~。わかってるとは思うけど遊びじゃないのでまじめにやってね~。それでは行ってらっしゃ~い。俺はコーヒーでも飲みながらゆっくり見物させてもらうよ。」

あんたが一番ふざけてんだろ。そう思ったまま僕の意識はコンピューターの世界へ落ちていった。

「ヴァーチャル・ワールドへようこそ!!」

急に視界が明るくなってから聞きなれた女の人の声が聞こえてモード選択に移った。

「本日のお客様はバトルコロシアムモードと設定されていますがよろしいですか?」

ピコンとYESとNOのアイコンが出てきて僕はYESのボタンを押した。視界がロード中という画面に代わる。バトルコロシアムモード先ほど説明した対人専用のモードで正直人と戦うことは現実ではないと思うのだが人型のモンスターが出たときや賢いモンスターと退治した時のためにスキルアップできるようにと作られたらしい。もう一つはクエストモードで魔獣や魔物を退治していくモードだ。倒す魔獣は倒すごとにどんどん強くなっていく。まあこのゲームみたいなトレーニングを開発したのはデジット先生でぼくも楽しんでやっているのでそれなりに感謝している。視界が装備選択の画面に代わって、

「装備を選択してください。」

というガイドの声が聞こえる。すぐに今日のフィールドとマッチングを見る。この学校は生徒一学年500人ほどでマッチングは250対250になっていた。味方にロッキー、敵にロストーがいる。ステージはステーションだった。ステーションは対人戦用フィールドの中でも最も大きい。地下、地上と高層ビルがあり架空の場所ではなく本物の駅を想定して作られている。高層ビルからの狙撃、地下と地上の高低差を利用した重撃戦、障害物を巧みに利用する高機動戦が

主になってくる。僕は基本いつもライトアーマーで

高機動戦を得意としているので今回もそれで行くことにした。ハンドグレネイド改良火薬強化の時間式と着発式を三個ずつと付着型地雷を二つセンサー型二つと貫通型ビームガンとビームブレイド二刀流、最後に小さなシールドを付けた。(もちろんすべてSランクの装備)装備確定ボタンを押すと戦闘準備の体制に入った。ライトアーマーはスピードが速い分防御が薄いので敵の攻撃にはよく気を付けなければならない。そう考えると一番使うのが難しいと言えると思う。だが今回は一方的な殲滅戦になりそうだ。実力に差がありすぎる。

しかし厄介なのはゲームが終わった後の強かった人探しだ。兄も苦労したと言っていた。先ほどの兄の事件というのはこのコロシアムで起きた。兄はこの250対250で一人で百人抜きし見事MVPになったのであった。いつもは優しくてとてもいい兄なのだが、戦っているときはほんとうに鬼神のごとき戦いぶりだった。しかもそれが世界大会だったからこのことは

僕の誇りになっている。つまり超有名人なのである。が、僕にとっては恐ろしい出来事の一つでもあった。後日毎日のようにマスコミに追い掛け回され、僕は人とかかわるのが苦手になってしまったのだ。

「はあ、やだな~。」

そのことを思い出してこれからのことを考えて深いため息をついた。

「何がいやなの?」

突然耳元で声がしてびくっとした。

「ちょ、デジット先生聞いてたんですか!!」

「うん。」

「何が「うん。」ですか!!盗聴は犯罪ですよ!!」

「そんなに怒るなよ。運営者に向かって頭が高いぞ?つーか、お前一言しかしゃべってないだろうが。で、何がいやなの?」

ほんとにいちいち腹の立つやつだな。

「これが終わった後の強かった人探しですよ。」

憂鬱そうに言ってみる。

「え、それって目立つからいいんじゃね?(笑)つーかそれならなんでSランクで固めてんの?」

「Sしか持ってないんですよ僕は!!ていうか今笑ってたでしょ!!」

というがデジット先生は取り合ってくれなかった。

「お、強者のセリフですね~。まあノエルの弟って朝言ってたし強いに決まってますよね~?SにEがかなうはずないからね。その辺はうまくやってね。以上僕とクロエフ君の生放送でした。ばいばーい。」

ブツッと回線が切れた。生放送!?という事はみんなに聞こえてしまった感じか?

「・・・デジットあの野郎!!」

リアルに戻ったら最初にぶっ潰してやる。とりあえずに憂さ晴らしで相手のチームもぶっ潰してやる。そう心に誓った。

その頃デジットはモニターに目をやりコーヒーを飲み一人にやにやと笑っていた。

「油断してすぐ負けないといいけどね~。」

ガイドの声がまた聞こえて、

「戦闘準備終了。戦闘を開始します。敵を先に殲滅、もしくは制限時間に残っている人数の多いチームの勝利となります。」

視界が明るくなってフィールドに僕と仲間が現れた。マップで僕たちは西にいるので敵チームは東かな。そう考えながらあたりを見回すE級装備に交じってとごつい装備の奴がいたのでそれが誰かわかった。皆ヘルメットを着けていて装備もかぶっているので誰が誰かわからない。皆プレイヤー名もまだ設定していないのでプレイヤー1とか2で表示されている。またガイドの声が聞こえて、

「戦闘開始まで残り10秒です。各員待機してください。」

戦闘が始まるまでは一定の範囲から出ることができない。5,4,3,2,1 心臓が高鳴る。

「START」という合図に合わせて僕は一気に飛び出した。すべてのステージにはレーダーポイントが存在し一定の範囲に入ることで制圧することができる。制圧されたレーダーポイントは勝負が終わるまで先に制圧したほうの物だ。レーダーポイントは戦ううえで

非常に重要になってくる。レーダーポイントが形成する範囲の中に敵が入ってくると自軍のマップに赤で表示されるが自分の位置は敵のマップには表示されない。つまり敵の位置を知りながら相手は自分の居場所を知らない、という事になる。そこから気づかれないように奇襲をかけたりして敵を倒すのだ。他にも味方に敵の位置を知らせるのはロックオンという方法と設置型レーダーがあるが敵に気づかれるたり破壊されたりするのでレーダーポイントをうまく使ったほうがいいと思う。レーダーポイントは東に5個、中央付近に5個、西に5個ある。東側のレーダーポイントのサークルの中にスライディングで滑り込む。

ステージによってはレーダーポイントは取り合いになるのでとりあえず障害物に身を隠して制圧する。基本的ルールであり僕にとってはもうクセになっている。制圧し終わる頃に皆が追い付いてきた。最初は中央のレーダーポイントを取らなければいけないが中央は5個とも地下に存在するため囲まれたりすると逃げ場がない。HPがなくなってあえなく観戦というのは嫌だがでも僕はここは率先してやらなければいけない。その時僕の回線に通信が入った。つないでみると陽気な声が聞こえた。

「こういう戦いも新鮮だね~クロエフ。東は全部俺ら西は全部相手が制圧して終わったのがほぼ同時だったから、中央は絞っていったほうがいいかもしれないね。上から3個ぐらいとれるとこの後の戦いが有利になるね。皆にはチャットで指示出しておくから。」

「僕は先導しなくていいの?」

「どっちかっていうとクロエフは他の連中よりも強いはずだから来る敵をビシバシ殲滅して味方守って戦線を押し上げてほしいかな。」

「りょーかい。」

短く返事をして次は中央に向かって走り出す。チャットでロッキーから指示が出ていたので上のほうに味方が集まっていた。中央に行ったら戦闘が始まるはずだ。生き返ることができないので慎重に戦わないといけない。でもあまりビビりすぎると何もできないのでその辺は駆け引きとなる。

どうやって戦おうか考えているとまた通信が入った。

「そーだ。一つ言い忘れてた。さっきの制圧の時なんだけど敵軍でお前とほぼ同時に制圧を始めている奴がいたんだよね。ロストーはミドルアーマーで来るはずだからおまえよりは早くない、強さはわかんないけど多分敵にお前ぐらいの速さをもった奴がいるとおもうんだ。気をつけとけよ。」

「じゃあ最優先殲滅目標でいいね。」

「あぁ。見つけ次第つぶしといてくれ。くれぐれも返り討ちには会うなよ。クロエフいないと結構こっち辛いから。」

「またまたご冗談を。楽勝ですよ。」

とは言いつつ頭の中で考えていることは違った。

僕と同じ速さ、ね。へえ、面白い。僕とおなじ速さで制圧を始めるやつが弱いわけがない。戦えるといいな。そんなことを考えていると、中央に着いた。

「ロッキー、こっち全然敵がいないんですけど。」

「お前が速すぎんだよ。すぐ来るから待っててやれ。」

敵がいないかあたりを見回し階段を一気に飛び降りて制圧を始める。その瞬間また僕とほぼ同時に制圧が下のほうで始まった。やはり誰かいる。僕ぐらいの実力を持つライトアーマーが。その時、向こう側の通路から走ってくる人影が二つ見えた。制圧は80%ぐらいできていたので後ろから来る人に任せて戦うことにした。一人がサークルに近づいた瞬間目にもとまらぬ速さで飛び出してブレードを突き刺した。体を守るアーマーと剣が大きく火花を散らせる。僕の剣は相手の胸に深々と突き刺さりHPゲージを一瞬でゼロにした。突き刺した人がガラス片のように砕け散りそこにDEADと文字が浮かぶ。僕のヘルメットには撃破の文字が浮かんでいた。そしてあまりに速い出来事で後ろにいた奴はひるんでしまったようだったがぼくは立ち直るのを待ちもせずもう一人も剣で撃破した。これがライトアーマーに付加された特殊機能パワーブースト。

一定の距離を一瞬で移動することができる。なので相手の懐に潜り込み剣などの攻撃力の高い装備で攻撃することがお勧めだ。戦闘が始まり敵も味方どんどん数が減っていく。脱落者はいろいろな人のヘルメットモニターで戦闘を見ることができる。制圧したレーダーポイントのサークルの中には敵を示す赤い点が大量に表示されていた。後ろから数人の仲間が集まってきて地下では戦いにくいので地上に出ようとチャットを表示して階段のところまで誘導した。しかし階段のところで敵が待ち伏せているのが見えていた。

「甘いなあ、待ち伏せのつもりかもしんないけどバリバリレーダーに映ってるし。」

そんな独り言をつぶやきながら腰の着発式のハンドグレネードを上に向かって放り投げる。爆発音が聞こえたのと同時にまずは僕だけ一気に駆け上がる。階段のわきには3人の敵がいたが初心者の装備ではなかった。さっさと倒しておかないと後々の脅威になると思いビームガンをもつ。被ダメージの一番大きいのに照準を合わせてトリガーを立て続けに引くと青いビームが敵を貫きHPゲージをゼロにする。その瞬間だった。ぼくの後ろにいたはずの数人の 味方を示すアイコンがすべて消滅した。本能的に危機を感じ思い切り前にとんだ。階段のほうを見るとゆっくりと誰かが上がってくる。

僕は言われなくてもそれがロッキーが言っていたやつだと分かった。ロッキーに通信を入れておく。

「最優先目標と遭遇。ちょっと応援来てくれる?」

初心者とはオーラが違う。絶対に勝てる。そんな感じのオーラをまとっている感じだった。

「オッケ。今から行くから死なないで耐えろよ。」

ロッキーから返信が来たのを確認し剣を構える。

相手も剣を構え、体にも力が入るのがわかる。剣が交わり僕のほうが剣が多いので優位に見えるが相手はその分一撃が重く鋭かった。いったん両者ともに下がると、ヘルメットのトークのボタンが光ったので通信を入れると敵からの声が聞こえた。

「クロエフ・キーマーか。なぜ貴様はそれほどまで強くなりまたそうしようと思ったのだ?」

女性の声だった。ついでに学校の風紀委員のアリエルだと思う。思わぬ人がこれをやっていたのでびっくりしたがそれは表には出さず剣を構えながら答える。

「別に強くなるのに理由なんていらない。まあゲームだから、本当はどうでもいいんだけどやるからには一本的に蹂躙されるのがいやだったから強くなっただけだよ。」

わざと相手を煽るように鼻で笑ってみせる。普段真面目な風紀委員のアリエルにとって今の発言が彼女をいらだたせたという事はすぐにわかった。

「ゲームだと?私はお前に信念を尋ねたのだ。いつかまた来るかもしれんダーク・ネストのための訓練だぞ。それをゲームなどと。貴様は学問においても非常に優秀だしまともな人間だと思ったのにな。がっかりだ。」

いきなりがっかりされても・・・。面と向かってそういう事をあまり言われたことのない僕にとっては結構ショックだった。だが相手の集中力をそいでロッキーが来るまでの時間を稼ぎたい。やや焦りを交えた声で反応する。

「えーっと、じゃああなたは何のためにそんなに強くなったんですか?」

少々暗くなった声で答えがかえってくる。こういったことを聞いてしまうと案外本当に大変な理由で戦いにくくなってしまうから嫌いなのだけれど。僕は

尋ねたからには聞かないわけにはいかなかった。

「妹を探すためだ。小規模なゲートの開放に飲み込まれて私の目の前からいなくなってしまった。あらゆる手段で探したが連絡が通じないことからわが妹が行ったのは第三世界タルタロスか第四世界ロストウィーク、第五世界ニブルヘイム、第六世界ムスプルヘイムのいずれかだ。どの世界も強い者こそ強く弱いものは生きていることすら許されぬ世界。行くのであれば強くなければ探すどころか生き残ることもできん。」

今の話を聞いてふと疑問に思ったことを口にする。

「そんな世界にいて妹さんは生きていられるんですかね?弱肉強食の世界でか弱い存在が一人で生きていられるとは思わないんですが。ましてや能力を持っていないのに。」

現実を突き付けてやって少し間が開き小さな声が返ってきた。

「それでもまだ生きているかもしれん。死んだと分からぬうちはまだ飽きらめられないのだ!!」

「まあ、頑張ってくださいねww。」

あ、いつもの癖でミスった、と思ったときにはもう遅かった。ゲームをやってる時に登録してある、いつものオートワードが発動してしまった。アリエルの声が怒りで燃え上がる。

「そうか。私の言っている事は望み薄で滑稽だったか!!」

多分聞いてくれないだろうが一応訂正しておく。

「いや、い・・今のはタイプミスで・・・・・ね?」

アリエルが剣を構える。

「今ここで貴様を倒す!!学校に戻っても一発殴ってやる!!」

そんな理不尽な・・・・!!・・・・・まあ僕が悪いのだけれど・・・・・。猛烈な殺気を感じ僕も背中に収めていた剣を前に構える。やるしかない。一回深呼吸をしてふたりの間に一瞬の静寂が生まれる。それを先に破ったのは僕の方だった。ダンと地面を強く蹴り前進し片方の剣をアリエル向かって投げた。剣を避けアリエルの体勢が崩れた瞬間にすかさずもう片方の剣を構えパワーブーストを使い一気に突っ込む。しかしそれはちゃんと読まれていたようでまっすぐ僕の頭めがけて剣が振り下ろされた。

「ハアァァ!!ここで朽ちるが良い。クロエフ・キーマー!!!!」

ところがそうも行かないんだな、これが。

「自動回避システム機動。軌道変更サイドステップ。」

「なにっ!!オートサポートシステムだと・・・!!」

僕の頭に直撃するはずだった剣を僕のアーマーに装備されたオートサポートシステムによって見事にかわし僕はアリエルに付着型地雷をくっつけた。もう一度振りかざされた剣を受け止めアリエルのほうに向きなおる。

「やるじゃないか。ひとをバカにするだけにちゃんと力はあるようだな。」

「いやだからバカにはしてないって。」

訂正し腰のビームガンを手に取る。

「だが惜しかったな付着型地雷はくっつけてから起動させないと爆発せん。所詮その程度だ。」

僕はヘルメットの中一人ほくそえみ言い放った。

「いや勝ったのはぼくだよ。いやあ結構時間長いからバレちゃうかもって焦ったけどいらぬ心配みたいだね。周りをちゃんと見ないと火傷するよ?ってことを君に教えてあげようと思って。ついでに足元のは君にあげる。僕からのプレゼント。」

はっとアリエルが地面を見るがもう遅い。時間式のグレネードが二つ起爆時間に達したところだった。突進した瞬間腰についていたグレネードを足で見えない死角に片方の手で二つ起動して落としたのだった。付着型は起動しなければ爆発しないが一定以上の衝撃が加われば爆発する。そうグレネードの爆風であってもそれは例外ではない。そして僕が先ほど投げた剣。投げる直前にビームの出力を停止しておいた。真後ろの液状エネルギータンクに突き刺さり液状のエネルギー物質がアリエルの足元まで到達していたのだった。爆発した三つの爆弾と膨大な熱エネルギーによって反応した液状エネルギーが上げる爆煙を見ていると煙の中からボッとアリエルが飛び出してきた。

「おのれこの程度で・・・!!まだ終わらん!!」

多分ブーストを使ってその場で回転し爆風によるダメージを軽減したのだろう。しかし、アーマー値レッドゾーンに突入していた。往生際わるいなあ。まあこうなるのも計算していた。

「僕だって強くなるのに一人で強くなったわけじゃないんだよね。悪いけど君にはここでチェックメイト。」

そういった瞬間アリエルを煙の中から飛んできた青いビームが背後から貫いた。アリエルのアバターがガラス片になって砕け散った。アリエルのいた場所にDEADの文字が浮かぶ。

戻ってから殴られないように言い訳をしっかり考えておこう。

「悪いなこれも戦いだからな。それに今はまだクロエフを失うわけにはいかないんだ。」

煙の中からガシャン、ガシャンとだいぶ重そうな装備を抱えたロッキーがこっちに歩いてきた。

「おー生きてたかー?死んでないか?」

「遅いよロッキー!!もうちょっと死ぬところだったよ。」

まあまあというしぐさをしながらロッキーはヘルメットを脱いだ。

「つーかお前チェックメイトって・・・・・・・・・

身元分かってのんに何やってんだよ。」

「・・・・・・・え??・・・・・・・・・・」

ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ。僕は頭の中で悲鳴を上げた。まずい。非常にまずい。中二病とか思われたり、帰ったあとにモニター見てた人に「中二病乙」とか言われたらもう生きてけない。まだアリエルに殴られほうがましだ!!・・・・・・マシじゃないな・・・・・。あぁロッキー僕をそんな悲しそうな顔で見つめないでくれよ・・・・。頼むから。ロッキーが素顔で僕を憐れむようにこちらを見ている。・・・・・・・・ん??

「あれ?ヘルメットってとれるっけ?」

「今回のアップデートでとることができるようになったんだ。今までは表情作るのが難しくてできなかったらしいけど担任が成功させたらしいよ。」

「あぁ僕のリアルでの最優先殲滅目標ね。」

「別にいいじゃないか。あんな生放送ぐらい。どっちかって言うと無口な方より明るいほうが素のお前だろうが。それにさっきのセリフのこともあるし。」

「なんで僕がこんなになっちゃったのかはロッキー知ってるでしょ。」

自然とあのトラウマともいうべき出来事を思い出し、表情が暗くなる。

「あれだろ?お前の兄ちゃんが凄すぎて毎日取材の嵐でお前も家の前で待ち伏せされてたんだよな。」

そうなのだ。そのせいで僕は人と話すのが苦手になったのだ。自ら心を閉ざすようになったのはあの頃からか・・・・・。装甲の上の砂利を手で払いながらロッキーが続ける。

「まあ確かにお前の兄ちゃんはすごかったよ。もちろん百人抜きしたこともそうだけど剣一本だけの装備でそれをやりのけたのは世間の度肝を抜いたからな・・・・・・・。つーか今お前の兄ちゃん何してんの?」

「大学生だから普通に学校行ってると思うよ。」

当たり前のことをいいロッキーの方を見ると急に何かを思い出したみたいな顔をした。

「そうだ!!こんなこと話してる場合じゃないんだった!」

慌てながら僕にマップを見せてくる。それを見て僕は愕然とした。味方がかなりやられていたのだ。75対112。あまり差がないように感じるが実際は絶望的な差だ。

「ロッキー、とりあえず西に行こう。でも多分ロストーが指揮してるから一筋縄じゃ行かないと思うんだ。」

「・・・・・・・しゃーねえなアレやるか」

そう言いながらロッキーはもう準備を始めた。

僕もそれに続く。手首の部分のパスワードのボタンを順番に押す。

「番号認証。スペシャルウェポン起動。ビームブレード安全装置解除。出力を大幅に上昇。追加装甲解除。速度上昇。」

僕の体に装備された防御用の装甲が全て剥がれ落ち・・・・僕の体はかなり軽くなった。ビームブレードからはものすごい量のビームの粒子が溢れ出している。横を見るとロッキーも起動していた。

「スペシャルウェポン起動。武装を解除しヘビーウェポンに転換。ヘビーウェポンへの転換を開始。ダブルビームキャノンとショットガンの装備を解除。フルアーマー、強化型シールド、ニードルミサイル、ポップガトリング、爆薬強化型ミサイルに転換。完了を確認。」

スペシャルブースト戦闘中のみ発動可能なもので一定の条件をクリアすれば発動可能となる。

発動すれば火力が恐ろしい程上がるが、その代わりアーマー値が低くなったり速度が落ちたりするデメリットもある。

「それにしてもロッキーいつ見てもほんとにごついよねその装備。」

趣味が悪いと言われたと思ったのか少しムッとした顔で言い返してくる。

「お前こそそんなにむき出しで寒くないのか?

なんだか見てるこっちが恥ずかしい。」

「いや別に裸じゃないからね。まあでも仮想世界だけど気温とかは感じるかな。」

確かに高速で動いていると少し肌寒い気もする。

この市街地はどれくらいの気温なのだろうか。

「お、クロエフだんだん日が暮れてきたぞ。」

「うんそろそろ頃合かな。一気に畳み掛けよう。味方に通信。今より敵本陣に向けて、総攻撃をかけます。各自建物を使って西を目指してください。できるかぎり地上を行かず建物使って移動してください。」

みんなの心配をしているわけではない。地上を行かれると僕達の邪魔になるのだ。間違えて切ったり撃ったりすると申し訳ないしサイドアタックは僕たちにもマイナス補正が掛かるので、避けたいのだ。ぼくたちは何もない大通りを進んでいた。ロッキーがふと思いついたように僕に言った。

「なあ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ロッキーがひそひそと僕に向かってつぶやいた。

「ええ!!!別にそれはしなくてもいいんじゃない?」

「いや、念には念をってことだよ。それに決まったらかっこいいだろ?」

「わかった、やっとくよ・・・・・。」

一通り話終えたあと僕たちはまた走り出した。太陽は西に沈む。つまり夕方は西日となり敵の姿を確認することが難しくなる。それを狙って夕方に作戦を開始したのであった。

「さあ行こうロッキー。ロストーに勝つ!!」

ロッキーが短く首を縦に振る。それから全員に無線で通信を流した。

「みんな聞こえてるか?今からの作戦はジャミングがかかってレーダーが使えなくなる。自分の目だけを信じて戦ってくれ。」

みんなから了解、と返事が来た。僕は内心驚いていた。

みんなは最初は全然何もできないと思っていたが、残った人たちはそうでもないようだ。ちゃんとこっちの思うとおりに動いてくれている。レーダーポイントを制圧し返していたのでロストーのいる場所は見え見えだった。少し大きめのビルのショッピングモール。

悪くない。障害物があればそれなりに勝負はしやすいからだ。時間制限まであと5分。消耗戦で逃げ切るつもりなのだろう。無論そんなことは僕が許さないが。ただとなりにも同じようなビルが隣接しているのはよくない。建物の壁にはそれぞれ耐久値がありそれをなくせば簡単に壊れる。奇襲攻撃が可能なのだ。でも駅のような市街地では建物が密集しているため独立してたっている建物はほとんどないのでしかたないのだが。しかし壊してる間の音は中々うるさいので、待ち伏せして入ってきたらあっという間に溶かす、多分そう考えているのだろう。

甘い。普通の装備であれば待ち伏せする時間もある。だが一瞬で耐久値を吹き飛ばすようなダメージの場合は強襲する側の有利になる。そうそれはロッキーのヘビーウェポンなら可能なことであった。

「二、三、四階20人ずつ準備完了しました。」

味方からの連絡があった。

「オッケ。じゃあ君たちは各階の壁が壊れたら突入して、それまでは待機。ロッキーもここで待機頃合見て壁破壊して。そしたらあとは敵の残党刈り。残りの十四人は正面突破。5秒後ロッキーのミサイルで作戦開始。あっそうだ・・・・・・・」

小さな声でさっきのことをみんなに伝える。それを聞き終えたみんなはちゃんと理解してくれたようだった。

「よおーっし行くぞー。」

ロッキーの掛け声とともに空高く向けられた砲台から一発の弾が出る。その弾ははるか上空で盛大に爆発した。全員のレーダーが一瞬で無効化される。

「作戦開始!!!!」

僕たちはショッピングモールの正面入口の方に向けて走っていった。正面入口ではふたりの男が警備していた。後ろの人たちを制止すると僕はふたりの方へ歩み寄っていった。二人は警戒したように銃をこちらに向けた。

「おい、そこのお前!!動くな!!味方か?」

逆光さえなければ僕が最優先殲滅目標だということも自分たちが誰に銃を向けているのかもわかることなのに・・・残念だ。僕は彼らのそんな言葉は気にせずゆっくり話し始めた。

「ねえ、君たち今ぐらいの時間帯のことをなんていうか知ってるかい?日が沈む頃それは昼と夜の境界線なんだよ?」

いきなり意味のわからないことを言ったのでふたりの男は困惑し少したじろぐ。

「それがどうしたと言うんだ。い、いいから止まれ!!それ以上動くと撃つぞ!!」

僕はまた彼らの声は無視して話しだした。日はほとんど沈みあたりはうっすら暗くなっていた。

「今ぐらいの時間は黄昏って言うんだよね。でもそれは本当は少し違う。黄昏は後から出来た言葉で『誰そ彼』っていうのが正しいんだ。すれ違った人が誰かわからない・・・そういう時間のことを指すんだよ。今ぐらいの時間は人が景色と同化しているからとなりを通った人の顔もよくわからないんだよねえ・・・・・・さっき君たち僕の仲間通しちゃったけどいいの?、ほら後ろ。」

二人がびっくりして後ろを振り返る。が、誰もいない。

勿論うそだ。話し終えた瞬間に剣を抜き定石通りパワーブーストで一気に距離を詰める。騙されたことに気づき振り返った二人が一気に距離を詰められたことに反応できずヒイッと声を上げたがお構いなくふたりの首をはねた。ガラス片となった二人が宙に舞う。

ちょっとムード出しすぎただろうか。それを見ていたみんなが駆け寄ってくる。みんなが来るのを確認してから僕はくるっと背を向け正面入口の方に向き直った。

「それじゃあみんな今からは・・・・・」

言いかけたところでバシッと背中を叩かれた。

「なんかお前すげーな!!さっきのセリフ、ゾクッと来ちゃったぜ!!言葉で惑わせて最後は卑怯に不意打ちだな。」

卑怯は余計だなあ。その一言だけに反応したもののいきなり、そしてかなりくだけた雰囲気で話しかけられるという行為に何が起こったか分からず僕が困惑した顔をしていると横に居たもうひとりも口を開いた。

「あぁ確かに今のはすごかったな。中学の時からノエルさんの弟だって知っててテストも運動もすごかったけどなんかパッとしないなと思ってたんだ。でも今やっと頭角を現したって感じだな。やっぱり血はつながってんだな!!」

え?中学の時から知ってるってどういうこと?中学生の時は特に誰ともその話をしたことはないんだけれど・・・頭のなかがごちゃごちゃのなって考え込んでしまった。一体どうなってるんだろうか。そこに女子が割って入ってきた。

「ダメじゃないそんなに畳み掛けるように話かけちゃ。クロエフ君は話すの苦手なんだから。男子はもっと自重しなさいよ!!」

その言葉に男子が不満そうな声を上げる。

「えぇー。でもかっこよかったじゃんよ。最後の『ほら、君たちの後ろにいるのはだーれだ?』とか。なかなか言えないぜあんなセリフ」

中身が少し地が様な気もするがそれでも自分のセリフを繰り返されるのは恥ずかしくて顔があかくなる。これ以上僕の羞恥を晒されないようにさっさといくことにした。

「い、今からは作戦通り各自行動!!さっき言ったことも忘れないでね。それじゃ!!」

その場からすぐにでも離れたかったので全速力で走り去る。一階に居た敵の兵士たちは僕にとってはいいカモだった。上でものすごい爆発音がする。ロッキーが建物の壁に穴を開けたのだろう。ジャミングはもう解けかけていた一階を制圧したら上に応援に行かなくては。そんなことを考えていると

「二、三、四階準備完了しました。」

とノイズ混じりに連絡があった。僕は一階にいる仲間を振り返る。彼らも頷いている頃合だ。

「じゃあみんな足早に撤退して。出たとこから戻ってそのまま・・・・・・」

と言い終えたところで向こうの方から嫌な音がした。

「う、うわああああぁぁぁぁぁ!!!!」

「ど、どうしたの?」

いきなりの断末魔のような叫び声にびっくりして聞き返す。だが応答なかった。きっと敵にやられたのだろうと諦めてその場を離れようとした瞬間回線を越えた向こうから聞き覚えのある声がした。

「よお、クロエフ。聞こえてるよな?悪いけど上の階にいた奴らは俺が全員始末しちまったよ。残念だな、お前のせいで上にいたやつ全員皆殺しだ。今からお前らも葬りに行ってやるよ。」

そこでプツッと通信が途切れた。全員始末したってことはもうすぐに来るだろう。しくじった。読みが甘すぎた。僕の読みが甘いせいで仲間が死んだ。これだけの速度で僕の味方を殲滅したということはロストーももうスペシャルウェポンを起動しているであろう。それなら一刻も早くこの場を離れなくてはならない。僕たちの上で何か大きなものの動いている気配がした。というかズン、ズンと建物が揺れている。その正体にいち早く気づいた僕が青ざめた顔でみんなに大声で告げる。「そこから離れて!!正面入口じゃなくて他の出入り口から出よう!!」

「さっき見たけどこのショッピングモール一階のここしか出入り口がないんだよ。」

はめられた。最初からこの場所で敵は戦うつもりだったのだ。残り人数15対86。彼らに今すぐそこを離れろという時間はなかったし言ってももう遅かった。

急に天井にヒビが入ったかと思うと凄い音ともに僕らの3倍近くの大きさのある巨体が天井を突き破って落ちてきた。真下にいた二人が押しつぶされ土埃とともにガラス片となって消えた。全員が急な出来事に呆気にとられて立ち尽くす。最初に開いたのは僕の口だった。

「全員退避っ!!今すぐ外へ!!!」

「どこへ行くんだ?戦えよ、お前らじゃあ俺から逃げることはできない。」

慌てて体勢を立ち直し入口へ走り出す。ミドルアーマー専用スペシャルウェポンだ。E・B・A(exterminate battle armor)殲滅戦用装甲だ。ミドルアーマーはライトアーマーやヘビーアーマーに比べ通常戦闘で特に突出したところがない代わりにスペシャルウェポンではE・B・Aを召喚しその圧倒的火力で敵を粉砕する。さらに屋内ではE・B・Aから逃げるところがないので無敵だ。E・B・Aはアーマー値を全損するか使用制限時間が終了するまでは止まらない。そしてE・B・Aとの戦闘は極限状態での戦闘を要求される。つまり一つのミスも許されない。一瞬の判断が大事なのだ。なので、その戦闘に自ら加わろうという者は少ない。だが僕は今頼られる立場だ。僕は逃げてはいけない。僕が戦って少しでも時間を稼いでみんなが逃げる時間を稼がないと・・・・・。ビームの粒子がものすごい勢いで溢れ出ている自分の剣を握り締めロストーのほうを向く。しかし僕の目に映ったのは退路を背にして僕の前で勇敢にも武器を構えるみんなの姿だった。さっき僕に話しかけてきた男子が僕に向かって叫ぶ。

「早くいけクロエフ!!!ここは俺たちが食い止めるからお前は外でロッキーと合流して広いところで体制を立て直せ!!ロストーさえ倒せりゃお前らに勝機があるだろ!!」

そういった瞬間E・B・Aの大剣の横薙ぎで彼を含める三人がガラス片となった。あぁ、なんと素晴らしい人たちだろうか。自分のためではなく他人のため、全体のために行動できる。僕の身の回りにはこんなにも素晴らしい人たちがいたのだ。

「仇は取るよ・・・・必ず・・・・・!!」

そう言って背中を仲間に預け、僕は入口に向け走っていった。ところが唯一の出入り口である正面入口は瓦礫の山で塞がれていた。出ることはできるがその前にロストーに追いつかれてしまうだろう。最悪のシチュエーションでの戦闘を想像したがそれは瓦礫の山とともに吹き飛んだ。ロッキーが吹き飛ばしてくれたのだ。急いで外に出る。入口を向きロッキーと並び剣を構える。瓦礫の山を越え巨体が僕らの前にそびえ立つ。僕らの2倍程度の大きさのはずなのにプレッシャーからかもっと大きく見えた。ザザッと音がしてナレーションの声が聞こえた。

「制限時間まであと3分です。両方できるかぎり敵の殲滅を続けてください。」

「あぁ、あと三分しかねえのか。初戦で2対86ってデジット先生マッチングミスだな?それともお前らの采配ミスか?なあクロエフ、ロッキー、どうなんだ?」

ロストーからそう通信が入った。相手は既に勝ちを確信しているらしい。まあこの人数差では認めざるを得ないが。ロストーが話を続ける。

「もうお前ら勝てねえんだから話でもしようぜ。いやあ、お前らまんまと罠の中にかかってくれたときは

ほんとに吹き出しそうになったよ。読みが甘すぎてさ。こんなゲームなんて最初に人数削ってあと守れば勝てる。定石通り、いつもどおり。」

カチンと来た。朝もそうだがロストーは知らぬうちに人を怒らせることがある。自覚がないのだ。確かに事実を言われているだけなのだが中々腹が立つ。ロッキーも同じことを考えているようだった。ロッキーが重い装備を持ち上げ戦闘態勢に入った。かなり怒りの混じった声が聞こえる。

「まだ負けてねえぞ、コノヤロー。」

結構本気で怒っているようだった。が僕は実際怒りよりもおかしくて吹き出しそうになっていた。戦闘態勢に入ったロッキーに対してロストーが警告の混じった声をかけた。

「おい、それ以上動くなよロッキー。後一歩でも前に出たら蜂の巣にしてやんよ。つーかクロエフ聞いたぞさっきの入口の前でやってたやつ。みんなの中でのお前に対するイメージがガラリと変わったな。」

一瞬の空白。

「・・・・・・・えええええぇぇぇぇぇぇっ!!」

死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ恥ずかしくて死んでしまう。そんなの羞恥系の拷問じゃないか!! あんなセリフを吐いているところを見られているとは・・・・・・。

人生最大の失敗だ・・・・・・・。がっくりと膝をつく。その動きにびっくりしたのかショッピングモールの全ての窓から僕たちに銃口が向けられた。そんなことは気にせずロッキーが慌てて僕の方に来る。

「こ・・・・・これは物理的ダメージではなく精神的ダメージ!!?ロストーめ、ルールの裏を取ったな!!早急に不具合通達しないと。」

正面から突っ込めばまず勝ち目はない。ロッキーの装甲もあまり意味を成さないであろう。だがそんなことは関係ない。全員地獄に落としてやる。僕の汚れた歴史の証拠隠滅だ。またナビゲーターの声が聞こえた。

「戦闘時間残り1分を切りました。」

そろそろだ。その時の僕はもう精神的なショックが大きすぎてもう何がなんでも良くなっていた。まるで人格が二つに分かれてしまっているようだった。

「・・・・・・・フフ・・・・・・アハハハハハハハハハハ・・・・・・・ねえロストー。もし目の前に自分の手のひらの上で勝ちを盲信して踊っている奴がいたらどんな気分?」

耳元でたからかな笑い声が聞こえ瞬時にそれが自分の声である事を悟る。そう聞かれたロストーは何を言っているのかわからないという顔をして答えた。

「はあ?そんなやつが目の前にいたら滑稽に決まってんだろ。どうしてそんなことを今・・・・・」

ロストーがはっとした顔で後ろを見る。

「おそーい。ロストー。ハイ残念✩。」

僕は握り締めていた筒状の棒の先端にあるスイッチを押した。各階並び地下の下の方で轟音がした。

建物のなかにいる人たちの動揺する声が聞こえる。ロストーの顔の血があっという間にひいていくのが見えた。隣のロッキーがニッと笑う。ロストーに向き直って話を続ける。

「そういえば朝、詰めが甘いって言われたっけぇ。なのに言った側がこんなことになるなんてね。ロストー達が待ち伏せてるってわかってるのに何の目的もなしにいくわけないでしょ。ロストーは読みが甘いね。」

自分でもこう喋っていて嫌な奴だということはわかっていたのだがもうひとりの僕は止まらなかった。僕がそういった瞬間ロッキーが建物に向けて2発ミサイルを撃ち込んだ。建物は自らの重さを支えきれなくなり建物にいた全ての人を飲み込み倒壊した。それをモニターで見ていたデジットは感嘆の声を漏らした。

「素晴らしい!!各階の柱と地下街の地上を支える柱を爆弾で折ったのか。そうすれば地下に落ちた時の衝撃と支えるところのない建物は自らの重さでつぶれ、なかにいる人間を一網打尽にできる。少々荒技だがこういう建物の倒し方は存在するからな。場所の状況と相手の心理を理解したいい戦法だね。」

「制限時間通過。どちらも殲滅することができなかったので残り人数で試合の判定をします。」

ナビゲーションの声が聞こえる。2対1。僕たちの勝ちだった。リザルトの入りロストーがヘルメットを取りながら吐き捨てた。

「ちっくしょー、絶対勝てると思ったのに。最後の最後であんなことになるとは考えてなかったな。」

ロッキーが誇らしげな顔でこちらを見る。そのおかげか僕は勝ったことを実感しようやく正気に戻った。僕はロッキーと目を合わせ少し微笑んでもう日の沈んだ空を見た。ロストー少々不満な顔をしながらもこちらに近づいてきた。そして三人で向き合ってハイタッチをした。いつも三人で絶対にやることだ。ろストーが言う。

「帰ろう。そろそろみんなも待ってるだろうからな。」

「うん。アリエルもきっとクロエフのカプセルの横で待機痛中だろうな。一発殴るために。」

げ、そうだった。あの状況でのタイプミスは言い訳として成立するのだろうか。それに試合終了間際に出てきた僕とはとても言い難い人格。僕と分離してるような感じであの時は歯止めが利かなかった。あれは一体・・・・・・・そんなことを考えているうちにロッキーとロストーは先に帰ってしまった。ここで考えていても仕方がない。あとは上に帰ってから考えよう。そう思い帰還と表示されたボタンを押して僕は現実の世界へと帰っていった。

 現実の世界に帰りカプセルの上の部分が開き外にでる。僕を待っていたのは拍手の雨だった。少し気恥ずかしい気もするがそこまで悪い気分ではなかった。意外だったのはあのアリエルが不服そうながらも僕達に対して拍手をしてくれていることだった。帰ってきた瞬間に一発殴られることを覚悟していたのだが。そんな拍手の雨の中ゆっくりと静かにあの白衣の男が近づいてきた。デジット先生だ。その顔には賞賛の色が浮かんでいた。

「よくやったなお前ら。一番最後のは俺もびっくりした。あんなやり方があるとは思いもしなかったよ。」

「ありがとうございます、先生。一回殴っていいですか?」

ニッコリと微笑みながら正面からデジット先生を見据えてカプセルから立ち上がろうとすると先生は目をそらしながら

「次は校門正面入口集合だからな~。遅れるなよ~。」

と言ったあと口笛を吹きながらどこかへともなく足早に消えていった。・・・・・もう帰ってこなくていいや。そう思った。しかし中々褒めてくれる人ではないと思うので僕は少し嬉しかった。カプセルにもう一度座り直すとすっと僕の前に水のボトルが差し出された。顔を上げて見るとロストーだった。僕が受け取らないでいるとロストーはぶっきらぼうに僕にポイッとボトルを投げて

「・・・・・おつかれ。」

と言った。ロッキーもボトルをもらいながらロストーをじっと見て

「・・・・まだ・・・悔しいのか?」

と尋ねる。図星を突かれたのかロストーの顔が赤くなった。

「べ、別にそんなんじゃねえし!!ただ喉が渇くだろうな、と思ってやっただけだからな!!絶対に召喚ではお前らの上を行ってやる!!」

そう言うとロストーは僕らに背を向けVTルームから出て行った。ロストーに続いてみんなも校門の前に行くために教室をでていった。

ロッキーがポツリと呟く。

「やっぱりロストーのやつ悔しいのかな。」

僕はボトルの水を半分位飲み干してから答えた。

「勝てると思っていた気持ちが大きい分負けた時の悔しさは大きいだろうね。まあ召喚は運だけで実力は関係ないし今後の生活に大きな変化を与えてくれると思うよ。」

ロッキーはうーんと考え込んだ。なにを考え込んでいるのかと思うとロッキーは深刻そうな顔をしてこちらを見た。

「クロエフ。美人がパートナーになるのってどれぐらいの確率だ?」

ほんとに何を考えているんだロッキーは。しかしまあパートナーが綺麗なほうがいいというのはロッキーらしいが。ロッキーがあまりに真剣な顔をしていたので

「あんまり考えてると禿げるよ。」

というと

「禿げても美人がいい。」

と言い返された。考えても所詮は運なので意味はないのだが、答えがでないとテコでも動きそうになかったので

「あまり欲しがってると物欲センサーに引っかかって女の子どころか男が出てくるかもよ。」

というとロッキーは慌ててカプセルから出て僕の手を引っ張りながらこういった。

「よし!この話はもう終わりだ。確かに考えても答えは出ない。俺の運に任せる!!」

そう言ってロッキーに連れられ僕たちは校門の方へと走って行った。僕たちが校門のほうに着くともうほとんどの人が集まっていた。そしてみんなは直径5メートルぐらいの円の形をした装置を取り囲むようにして立っていた。そして装置の横にはデジット先生が立っていた。授業開始のチャイムが鳴り僕たちの運命のパートナー決めが始まった。デジット先生がまずはじめにこの装置のことに付いて説明を始めた。

「えーっと、この装置はゲートがどのようにして開くのかを研究して人工的に私が作りました。今から君たちにはこの装置を使って他の世界より君たちのパートナーとなる存在を召喚してもらいます。はい。説明終わり。どんどん召喚していってね。あ~あと召喚するときに枠が光ってそれが大体の強さを表していると思ってね。力が弱い順に赤、紫、緑、青、黄色の五段階だからね。召喚は集中力が分散するとゲートが開かなかったりするのでめをつぶってやってください。周りもやじは出さないように。」

さらっといったがこのゲートを作ることはそう簡単なことではないはずだ。天才科学者の名を博しているだけのことはある。今まではセントラルの中央にある全世界へ続くゲートからいろいろな世界へ命懸けでパートナーを探しに行った。そこで人間が嫌いな種族やパートナーと契約を交わすための戦いで命を落とすものが数多くいた。人間と同じように他の世界でも個体によって強さが異なる。なので人間基準の強さのランク付けも存在する。弱い方から妖精級、精霊級、王族級、帝王級、神級、となる。当然個体の強さが強くなれば強くなるほど契約を結ぶのが困難になる。そして能力の使用についても制限がある。簡単に言うと気力を使うようなものでその消費量はパートナーの戦闘力が高ければ高いほど多くなっていく。能力を限界まで使用し続けると意識が飛んで二、三日は寝ていることになる。人間程度の強さでは武装をしていっても強い人で王族クラスに太刀打ちするので精一杯だった。しかしデジット先生がゲートを人工的に作ったおかげで死者は圧倒的に減り、契約をする人もほぼ全員になることができた。しかしそれなりに制約を受け相手が拒否をすればゲートからパートナーとなる存在は現れない。強い個体などの昔からの強力な存在は戦いでの契約を重んじるものが多く、このゲートから現れるものはほとんどいない。なので、より強い力を求めるものは自分で探しに行くのだった。僕の兄はそのタイプで自分で第六世界ムスプルヘイムへと足を運び見事に王族クラスの獄炎の悪魔フェンネルと契約をして帰ってきた。僕はそんなことをするつもりはない。苦労しなくていいのならそのほうがいいし、何より死にたくない。突然みんなから歓声が沸き起こった。何事かと僕もゲートの方を見る。ゲートの近くに立ち召喚を行っているのはアリエルだった。ゲートが緑色に輝いている。王族クラスの存在を引き当てたのだ。なんという強運だろう。ゲートから僕達の軽く二倍はありそうな大男が出現した。大男は四枚の羽をもち腕を組んでいた。大男はアリエルを見下ろし静かに言った。

「我をここへと引き寄せたのは貴公か。」

アリエルも凛とした表情を崩さず

「左様。私がそなたをここへと呼び寄せた。我が名はアリエル・ホハート。第一世界の出身だ。」

大男は理解したように頷きもう一度アリエルをしっかりと見た。周りはその圧倒的な存在感に気圧されてシーンとしていた。しかしアリエルは一切の動揺を見せなかった。大男は長いあいだアリエルを見つめていたが不意にその表情が柔らかくなった。そして大男はニッコリと微笑んだ。

「そんなに怖がらずとも良い。人間たちよ。我は人間は好きだが食物としてではない。とって食ったりなどせん。申し遅れた。我が名はエアロ。第二世界フェアリーガーデン出身。大気を司る風の王なり。この者との契約を結ぶことを承認する。」

そう言った瞬間、一瞬の静寂の後、みんなからワァーと声が上がった。

「今年は当たり年だな。去年よりも強い存在の出がいい。まあ当然か。」

耳元で聴き慣れた声が聞こえた。デジット先生が横に居るのは分かっていたので彼のちょっと皮肉を混ぜて返す。

「それは自慢していると捉えてもいいんですか

揚げ足を取るような質問に先生が少し苦笑いをした。

「痛いとこついてくるな、お前は。そうだ俺のおかげさ、おれは天才だからな、と言いたいところだけれど少し違う。俺のせいでもあるが直接は関わっていない。ゲートをつなぐことで他の世界に行く人間がすごい減ったから戦うことがなくなって寂しく思った古からの強力な存在がゲートに呼ばれると応じることが多くなったんだよね。

だからそうすると・・・・・お、刻印の儀式をアリエルがやるぞ。見とけ、見とけ。」

言いかけた途中でデジット先生にドンと背中を押され、やむを得ず話を中断してゲートがある場所の方を見た。パートナーとは契約が完了すると契約の刻印が体に刻まれる。その種類はパートナーごとに異なり、一つとして同じものは存在しない。そして刻印は自分が能力者であることの証明にもなる。エアロが組んでいた手を解きアリエルの前へ手を出した。

「我はここにこの者のその命が燃え尽きるまで力を貸すことを誓う。印として風の王の刻印をさずけよう。」

エアロの手から光をまとった蝶が飛び立ちアリエルの手に止まるとそのまますうっとアリエルの手の中へと消えていった。そしてアリエルの手には蝶の形をした刻印が刻まれていた。デジット先生がまた横に来て、

「刻印の儀式って中々綺麗なんだよなあ。」

とつぶやく。そういえばデジット先生が能力を使っているところを僕は見たことがない。見えているところに刻印もないので持っていないのだろうか。先生の科学力をもってすれば手に入れることは簡単にできるはずなのだが。召喚の儀式の方をぼうっと見ている先生を見て問いかけた。

「デジット先生って能力h・・・・」

「お、ロストーとロッキーが連続で召喚やるみたいだな。最初はロストーか。お前の数少ない友達だろ?見に行ってこいよ。」

言いかけたところを遮られてしまった。ただ今のはいつもより意図的な感じがして聞かれたくないことなのだと悟った。先生から目を離しロストーとロッキーがよく見えるようにゲートの方に近づいていった。

丁度ロストーが召喚を始める時だった。手を前に出しながらロストーはこちらを見た。

「見とけよ、クロエフ、ロッキー!!すっげえ強いの出してやるからな!!」

ゲートが開門し黒い空間が出来る。ロストーの時ゲートは紫色に光っていた。ゲートから中ぐらいのサイズの人の形をしたものが出てくる。体型から多分女性だろう。ゲートの示す数値が正しいのであれば戦闘力は精霊クラスの強さだ。基本は妖精クラスだと思ったほうがいいので満足するに値すると思う。ロストーがそう思っているかは別だが。出てきたのは白のレースに身を包んだ見た目は十代ぐらいの女の子だった。よく見てみるとすごく可愛い。周りの人もその姿に目を奪われた。女の子はみんなに見られていることに気づき頬を赤らめた。そしてわたわたとあちこち見回しどうしたらいいのかわからなかったようで目の前にいたロストーに顔を近づけると、

「あのぉ、貴方様が私をお呼び致したのでしょうか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

と囁いた。本来普通の男であれば緊張して話そうとしてもしどろもどろになるところであるがロストーにはそれは全く当てはまらないようだった。眉ひとつ動かさずロストーはまっすぐ女の子を見据えたままだった。超無愛想なのか、緊張しすぎて石になってしまったのか、多分前者だと思う。ロストーに愛だの恋だのという感情はひとかけらも存在しない。全く動かないロストーを前にして女の子は首をかしげた。そして何かを閃いたようで顔がぱっと明るくなった。

「あれ~もしかしてお人形さんですか?すごいなーこんなにきれいに作ってあるなんて。わかんなかったなー。」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

硬直したままのロストーを見回しながら一人でテンションが上がっている。そして女の子がロストーに触ろうとした瞬間、ロストーが口を開いた。

「まず、俺は人形じゃない。俺の名前はロストー・キャッパー。第一世界出身、お前は?」

急に話しだしたロストーに女の子はびっくりして後ろの方に飛び上がる。

「うっわあ。生きてたんですかあ?えーっと私の名前はレアルっていいます。第二世界・・・・でいいのかな?出身で光の精霊やってますよ!!」

ロストーが品定めをするような目つきでレアルを見る。

「お前は見た限り・・・・・かなりアホな感じがするけどな・・・・・・それに見ていて痛々しい。いきなり出てきたところに人形なんて置いてあるわけないだろ・・・・・・・・・。」

ロストーが深いため息をつき頭に手をやってやれやれとしながらそう言い放った。

えへへ、と笑ってレアルはロストーの手を握るとブンブンと上下に振った。握手をしているのだろう。それにしても強いパートナーでなければロストーは満足しないと思っていてロストーもがっかりしたような感じでしゃべっているがちゃんと二人の様子を見ていると案外そうでもないようだった。ロストーに不満の表情は見られなかった。問題なく儀式は終了した。次にゲートの前に立ったのはロッキーだった。さっきのロストーが可愛い子を引き当てたので少し不安のようだ。彼曰く

「百円のカードゲームで連続していいカードは出ない」、らしい。ロッキーの本気の雄叫びが聞こえる。

「美人、美人、美人こぉぉぉーーい!!」

ゲートが開門する。ゲートの大きさが今までの人よりも圧倒的に大きい。ゲートが青く強い光で輝いた。

それで一番興奮しているのはデジット先生だった。

「これはでかい!!帝王クラスの存在が呼びかけに応じるとは!!千を生きるものでもここまで間が空くとこうなるのか・・・。」

ゲートより出現したのは、軽く十メートルを越す巨大な体躯。その体から放たれる異様なまでのプレッシャー。桁違いに強いことは、一瞬で感じ取られた。轟くような大きな声がする。

「我は七帝王が一角、雷のインドラ!!雷帝インドラだ!!」

巨大な体躯から小さな電流が無数に迸った。インドラはロッキーを見て言い放った。

「小僧、運が良かったな。お前は私の機嫌がいい時に私を呼び寄せたようだ。」

ところがロッキーのがっかりした顔。美人どころか男だったことにかなりショックを受けたようだった。

「あぁ、うん、はい・・・・よろしくね。俺はロッキー・ニアス。第一世界出身・・・・・」

目をそらして明らかにテンションがダダ下がりになっているのがすぐわかる。

「どうした小僧。私では不満か。わたしはそこいらの者よりもお前に圧倒的な力をやれるぞ?」

その言葉にロッキーの目がカッと開き炎が燃え上がる。本気モードになった。

「違うんだッッ!!力じゃないんだ!!見た目が大事なんだよ!!俺が求めていたのは美人だぁぁぁぁぁー!!!」

ロッキーの魂からの叫びと内容にインドラが少々引いているように見えたが同時に納得したような顔をした。

「ほぅ、何だ、そのようなことか。我が世界ではそれを気にするものが少なくてな。了承した。これならいいか?」

パチンとインドラが指を鳴らすと、ポンという音とともに煙が出てインドラが見えなくなった。その後そこに建っていたのはロッキーの肩よりも頭一つ低いぐらいの背の美少女だった。少女はロッキーを見上げるとフフン、と得意げな顔をした。ロッキーの顔がぱあ、と明るくなる。

「よしその顔なら契約成立のようだな。では刻印を授けよう。帝王の印だ。大事にするがいい。」

ロッキーの手に刻印が浮かび上がり体から火花がバチバチと飛び散った。

「やったあああああぁぁぁぁぁぁ!!愛してるぞインドラァァァァァ!!」

そう言ってインドラを抱きしめようとするロッキーであったがインドラに「キモイ」とドン引きされロストーに蹴り飛ばされていた。あぁロッキーを見るみんなの目線が冷たい。もしこっちに来ても他人のふりをしよう。それでもロッキーはみんなからの歓声を浴びて満足したようだった。ふう、とため息をつく。ロストーもロッキーもだいぶ強いパートナーと出会うことができた。三人の中であとは僕だけだ。

「おい、もうお前の番だぞ、後はお前だけなんだから早く行ってちゃっちゃと終わらせてこい。」

え?少し戸惑ってからすぐに理解した。やってない人から召喚をしていったので最後まで残ってしまったようだった。装置の前に立ち目をつぶって深呼吸をする。そして手を目に出した。目をつぶっていたので見えはしないがゲートが開門したのは分かった。ゲートから出る風が僕の頬を撫でる。だんだん風は強くなっていっていつの間にか立っているのも辛いぐらいの強風になった。先生は風が収まったらゲートが閉門して召喚が終わったことを示すと言っていた。風が止むまでひたすら集中する。もう終わりかな、と思った瞬間僕の体が浮いた。ゆっくりと目を開け前方を確認する。しかし強烈な光の前に目をうっすらと開けることしかできなかった。光は何の色も持っていなかった。白く眩い光がゲートを覆っていた。

頭の中に女の人の声が聞こえた。実際に聞こえているのかもしれないが頭の中で反響するような声だった。

『誰ですかこんな時間に呼び出して・・・・・礼儀知らずですね・・・・・・・・・・・・・・・え??あぁ、あなたがそうなんですか。ふーん。』

相手がそう言い終わった後バキン、と装置が嫌な音を立てた。一気に光が弱まる。この声はなんだか聞いたことがあってとても懐かしく感じた。この相手とは以前どこかであったことがある。そう確信を持つことはできた。光はどんどん弱まっていきだんだん相手との接続が切れ始めていることは言われなくてもわかっていた。もう時間がない、だんだん景色が遠のいていく。薄れる意識の中僕はもがくように問いかけた。

「僕の名前はクロエフ・キーマー。なぜだろう、僕はあなたのことを懐かしく感じる。なのに何も思い出すことができない。あなたの・・・・あなたの名前を教えてください。」

ただ、ただ、すごく懐かしくて今すぐ会いたいと思った。女の人がフフ、と笑ったのが聞こえた。

『そんなに急かなくてもいいですよ。クロエフ。

来る時が来ればあなたは私とまた会います。私はいつまででもあなたが来るのをまっています。ですからきっと会いに来てくださいね。』

その言葉を最後に僕の意識は途切れたのだった。目覚めた時にはそこは保健室でゲートの装置のある校門前ではなかった。僕が起きたあとに一番早く駆けつけてくれたのはロストーだった。ロストーは僕になにか痛いところはないか、と尋ね、大丈夫、と答えると先生を呼んでくる、と言って保健室から出て行った。

時計を見るともう午後の5時だった。かなり長いあいだ寝てしまっていたらしい。兄はもう学校も終わっているはずなので、迎えに来てくれるのかと思ったが起きた時にいなかったので今日は何かあるのだろう。保健室の扉が開いてデジット先生とロッキーが入ってきた。ロッキーの後ろには小柄な少女が続いていた。

ロッキーは僕を見るなりホッとした顔で僕に近づいてきた。

「起きたか、クロエフ。お前が倒れた時は結構ヒヤッとしたよ。ゲート開くときに倒れたもんだからみんな前の時間の授業で無理して倒れたんじゃないかって心配してたぞ。」

そうだ。僕の召喚はどうなっていたのだろうか。周りの人達からはどう見えていたのか気になってので聞いてみることにした。

「ねえロッキー僕が召喚した時って光がバアーっと出てたと思うんだけどわかった?」

ロッキーは首をかしげる。

「いや、お前はゲートを開く前に倒れたんだって。

光が出るどころかまだ開門すらしてなかったぞ。そういう夢でも見てたんじゃないのか。」

いやあれは夢などではなかった。でもロッキーが見ていないというのだ。それならあれは僕にしか見えていなかったのか本当に夢だという結論にたどりつく。ただ僕にはあれが夢だったとは思うことができなかったのであった。デジット先生がパン、と手を叩いた。

「よし、今日はもう終わりだ。ロッキー、俺はクロエフと少し話したいことがあるから先に帰っててくるか?」

ロッキーは頷き保健室から出て行った。小さな少女もロッキーのあとを追う。少女は保健室から出るときに「小僧の友よ、元気でな。」

というと軽い足取りで保健室から出て行った。デジット先生が保健室の扉を閉める。ふと、窓の外を見てみると、もう陽が沈みかけていた。先生の話とはなんだろうか。先生は僕の方を向き直るといつもでは考えられないくらい真剣な顔をした。

「クロエフ。まず言わなきゃいけないことはだな・・・。お前に起きたことは夢じゃない。あの召喚については俺もしっかりと見ていた。」

やっぱり夢ではなかった。ちゃんとあの人はいるのだ。そうわかった瞬間僕は安堵した。だがひとつ分からないことがある。

「先生、でもなんでロッキーはあの召喚について知らないといったのでしょうか。先生はみんなと一緒にいてそこにはロッキーもいたはずなのになぜロッキーは見ていないんでしょうか?」

先生が自分の白衣の袖を捲る。そうすると先生の腕には銀色の金属でできた機械が装着されていた。

「お前の召喚について見ていないという者はロッキーだけではないだろう。おれはたまたまこれをつけていたから効かなかっただけさ。」

先生が腕に付けられた機械を指さした。

「効かなかった、とはどういうことですか。先生以外は誰もあれを見ていなかったんですか?」

先生は自分の白衣の袖を元に戻すと僕の方をしっかりと見て話し始めた。

「見てなかったんじゃない。全員みてたさ 、ゲートから放たれるまばゆい光を、な。ただ全員忘れている。忘れているというより、記憶を改ざんされたという方が正しい。ゲートが閉じる瞬間全員の記憶をお前が呼び出した誰かが改ざんしていった。おれはオリハルコンの機械をつけていたから記憶を改ざんされなかった。そういうことだ。オリハルコンっていうのは第二世界で取れる超希少金属のことだ。装備していれば能力による干渉を受けない。言わなくても知ってるか。」

先生は結構いろいろな世界に行っている。それならあの人について何か知っているかも、と思って聞いていみる。

「先生、あれが誰だったかわかりますか。なんでもいいですから教えてください。」

真剣だったデジット先生の顔がいつもの調子に戻った。いつもの僕を小馬鹿にするようなニヤケ顔になる。そしてポンポン、と頭を叩かれた。

「なんだか随分といい子だなあ。朝のときはすごい目で見られてたのに。まあいいや。お前が召喚したあれは上級神の類だな。『混沌』カオス、『深淵』タルタロス、『死』ラザレス・・・・・それらの神々と並ぶ

程の力を有している。どういう能力かは知らないが周囲にいた全員の記憶の改ざん、目を開けていられないほどのゲートの光、相当強いことは確かだ。・・・・・・うーん、ただ現在知られている上級神は少ない。外なる神々や唯一神ではないと思う。唯一神はともかく外なる神々は俺らとつるむようなやからではないしな。」

先生が発した言葉の中に今まで教科書や本でも聞いたことのない単語が含まれていたので気になった。

唯一神と外なる神々という単語は生きている中で一度も聞いたことがない。先生はそのことになって知っているようだったので聞いてみる。

「先生、外なる神々ってなんですか?」

そういった僕の顔を先生がじっと見つめる。そののちみるみる先生の顔が青くなり、冷や汗をかいてきた。

なにかまずいことでも言っただろうか。先生が急に頭を抱えた。

「あぁー!!間違えていっちまった!!忘れろ!!いいかクロエフ今俺が言ったことは一切外では口外するな。というか俺が今言った言葉は今すぐ忘れろ!!!」

椅子を立ちすごい剣幕で迫ってきた先生をまあまあとなだめる。

「それは無茶がありますよ、先生。記憶力は僕結構いいほうですし。少しぐらい教えてくださいよ、誰にも言いませんから。」

先生が腕を組んで椅子に座る。ふう、一つため息をつき自分のポケットから出したハンカチで額の汗をぬぐった。

「外なる神々ってのは上級神の一部の呼び名だ。今はそれ以上は教えることはできない。」

「そうですか・・・・・「今は」ということは来るべき時が来たら教えてくれるんですね?」

「あぁ時が来れば俺が教えなくても知る事になるさ。」

あまり納得の行く回答ではなかったが妙に真剣な顔つきだったので今は良しとした。すべての世界はバランスよく構成されている。どこかの世界だけが飛び抜けているということはない。その中でたった一柱で世界の均衡を保つだけの力を持つ者たちのことを上級神と呼ぶ。そして圧倒的な力故どの世界にも属さないものが多い。不意に手の方に目をやると右手の手の甲には刻印が刻まれ、手首をぐるりと一周、見たことのない文字が刻まれていた。先生の方に目をやると先生は首を縦に振った。

「あぁ、それは契約の刻印だろうな。過去にその刻印の持ち主がいることがわかればそいつが何者か分かる。あとでその刻印にまつわる資料がないか学校の書庫をあさってみるよ。さあ体調も良くなっただろう。もう遅いから寮に帰れ。」

先生はそう言うと勢いよく椅子から立ち上がったが急にぴたっと止まると足を抱えて地面に転がった。

「いててててっ。足、足つったッ。」

そんな先生を見ていておかしくなって元気が沸いてきた。時計を見るともう6時を回っていた。おかしい。心配性であるはずの兄が僕をこんな時間までほうっておくはずがない。

「先生。大学の授業はもう終わっていると思うんですけど兄は一体どこにいるのでしょうか。」

先生が涙目になりながらこっちを見る。

「ちょ、おま・・・ノエルが来なくて不安なのはわかるけど、まずは俺を助けようとは思わないの?」

「えぇ。全然思いませんでした。そんなもの今日の僕への仕打ちに比べれば軽いものでしょう?どうせなら両方つってしまえば良かったのに。」

床の上でバタバタと暴れている先生は無視して、自分の靴を履いて帰る身支度をする。自分が寝ていた布団を片付ける。丁度片付けが終わるくらいに先生も治ったようだ。ずれたメガネをかけ直してふう、とまたため息をつく。

「ノエルは今日は帰ってこないと思うぞ。授業の途中でなんか連絡が入ったかなんかで教室飛び出していったつってたな。目当ての剣が見つかったとかで第二世界に行ってると思うぞ。あいつはゴッドフェアリーの数少ない友達だし命の危険はないだろ。明日には帰ってくるさ。」

そうなのか。どうりで全然来なかったわけだ。

「先生、僕が寝ている間にあった模擬試合はどうなってましたか?」

能力者同士の戦い、模擬試合。攻撃を先に三回受けたほうが負けという、いたってシンプルなルールだが攻撃の強さによっては普通に死んでしまうことだってある。まあ相手に障害を負わせるような怪我をさせた場合は一瞬で刑務所行きになるが。第一世界では中々メジャーな競技だ。年に何度か大きな大会も存在する。

先生が待ってましたとばかりに話し出す。

「すごかったぞ、模擬試合。特に決勝戦は興奮したなあ。ロッキーVSアリエルの能力のぶつかり合いだった。まあでもやっぱり帝王クラスの方が強かったけどな。ほかとは格が違う。威力も命中精度もずば抜けて高かった。ロストーは準決勝でアリエルとあたって負けてたな。三位決定戦は勝ってたぞ。あの能力は一対一よりも集団戦の支援役のほうに向いていると思う。てなわけで一位はロッキー、二位はアリエル、三位はロストーだな。映像データあるから持ってきてやるよ。寮に帰ってからゆっくり見るといい。あとさっきのことはくれぐれも内密にな?本当にあんまり知られたくないことなんだ。」

「えぇ、わかってますよ。今日はありがとうございました。」


初投稿です。高校の体育が辛すぎて最近憂鬱です。トランプさんの政治どんな感じになるかなぁ・・・。

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