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千剣の魔術師と呼ばれた剣士  作者: 高光晶
第二十一章 新勢力の台頭
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第374話

 アルディスとヴィクトルが攻防を繰り広げる横で、ロナたちがダーワットと対峙する。


「ボクやアルと同じくらい強いからね。最初から全力を出しなよ」


 ダーワットを知るロナが他の三人へ警戒を促す。


「うん、わかった」


「アルディスやロナと同じくらい……、わかりました」


 フィリアとリアナは素直にその忠告を受け入れるが、ネーレだけは少し違った反応を見せた。


「惜しいことよな」


 その言葉の真意がわかるのはヴィクトルと対峙しているアルディスくらいのものだろう。


「とはいえ、あのようにうつろな目をしているようでは……」


 最後に口をつぐんだネーレが懐剣かいけんを取り出して構えるのと同様に、ダーワットも腰を落として攻撃態勢に入った。


「先手必勝!」


 相手の動きを読み取ってロナがその出鼻をくじこうと動き出す。


「よっと!」


 ロナの周囲が渦巻き、その中から半月状の刃が七つ生じる。

 それぞれの刃は奇妙な音を立てながら宙を駆け抜け、バラバラの軌道を取ってダーワットを半包囲するように襲う。


 ダーワットはその体格に見合わぬ俊敏さで軽やかに回避し、半月刃の包囲を切り抜ける。


「まだだよ!」


 回避された半月刃はさらに軌道を急激に変化させ、吸い寄せられるようにダーワットへ向かった。

 避けても無駄だと理解したのか、ダーワットは障壁を展開して半月刃を防ごうと試みる。


 だが障壁にぶつかった瞬間、刃はその形状を瞬時に変化させた。

 それまでの硬さと鋭さを感じさせる形状から、粘性の物体と変化して障壁へベッタリとへばりつく。


 異変を感じたらしいダーワットが次の行動に移るより早く、ロナはその粘液を爆発させた。

 さらなる追撃のため一歩踏み込みながらも、ロナは咄嗟とっさに回避行動を取る。

 反撃の気配を敏感に察知したからだった。


 ダーワットの頭上に小さな光が生まれたかと思えば、それを基点として無数の光球が四方八方へとあふれ出る。

 光球は途中で軌道を変え、的確にロナや他の三人に向けて攻撃の矛先を向けた。


 すぐさま攻撃から防御に意識を切り替えたロナは自らの身を厚い障壁で囲む。

 双子とネーレも回避困難と判断したらしく、同じように障壁による防御を選んだ。

 降り注ぐ光線を防ぎきり、最初に反撃の一手を繰り出したのはフィリアだった。


「お返し!」


 指先をダーワットに向けると、その先端から電撃を魔術で放つ。


 初見であろう電撃に対応しきれなかったのか、ダーワットの障壁展開は間に合わない。

 しかし直撃だと思われた一撃がダーワットに届いた瞬間、電撃が彼のまとう白装によって大部分を拡散されてしまう。


「何あれっ!?」


 ダメージが皆無というわけではなさそうだが、本来なら黒焦げになっていてもおかしくない電撃を食らって肌が赤く焼ける程度ですんでいるのだ。

 その理不尽さにフィリアが驚くのも無理はない。


「これならどうです!」


 今度はリアナが建物ほどの巨大な岩塊を空中に生み出し、ダーワット目がけて撃ち下ろす。

 膨大な質量を重力に乗せて加速させ、重さそのものを武器として叩きつけた。


 迫り来る巨大な岩塊にも動じずダーワットが手にした剣を横に一閃する。

 なんの変哲もなさそうな剣が岩塊に吸い込まれ、つながりを瞬時に断たれた大質量が豪快な音を立てて破片となった。


 岩塊は無数の大石へと姿を変え、周囲一帯へ雨のように撒き散らされる。

 石つぶてと呼ぶにはあまりにも物騒な音を立てるそれらが降り注ぐ中、ネーレはダーワットに休む間も与えず攻撃を繰り出す。


 三メートルほどの光球を作り出し、それ自体を破壊力のある攻撃としてダーワットへ放った。

 まばゆい輝きを放ちながら迫る光球に対して、ダーワットは障壁の四枚重ねがけで受け止める。


 光球の攻撃に対し、四枚重ねられた障壁は十分な強度を見せつけた。

 ネーレの光球は障壁を一枚、二枚と破ったところで止められてしまう。


「やはりこれでは抜けぬか……」


 予想通りと言いたそうにネーレはつぶやいた。

 ロナの言う通りダーワットの実力がアルディスと同等ならば、この程度の攻撃では防がれるのも当然だろう。


「来るよ、警戒して!」


 ロナの声が三人に向けられる。

 それぞれの攻撃をしのぎきったダーワットが動き出す。

 足の筋力だけでは到底なしえない速度で距離を詰めると、フィリアへ接近して剣を振りかぶった。


「嘘でしょ!?」


 反射的にフィリアが後ろに飛び退すさりつつ物理障壁を展開するが、ダーワットの一撃はそれすらいとも簡単に砕いてしまう。


「フィリア!」


 リアナが悲鳴にも似た声を上げる。


 いかにフィリアやリアナが突出した実力を持った魔術師であろうと、ふところに飛び込まれてしまえば弱い。

 相手が並の傭兵ならば無詠唱の攻撃と障壁展開で圧倒できるが、今戦っているのはロナですら油断ならないと断言するほどの敵である。


 しかもよそおいからわかるように相手は魔術師ではなく近接戦闘を得意とする戦士だ。

 武器の届く距離で戦うにはあまりにも相性が悪いだろう。


 物理障壁で勢いを削がれながらもダーワットの剣がフィリアへ襲いかかる。


「させないよ!」


 それを妨げたのは横から飛び込んできたロナだった。

 剣を持つダーワットの腕に噛みつき、自らを重石おもしにして斬撃の勢いを殺す。


「……!」


 直接的な傷を受けて、一瞬だけダーワットの表情に変化が起こった。

 だがその口からは苦痛のうめき声すらこぼれ出ない。


 フィリアが後退する時間を稼いだロナは、次いで駄目押しに至近距離から風の刃を放つ。

 さすがにその距離では回避することはできないだろう。

 ダーワットは障壁を展開して風の刃を防ぐ。

 同時に剣から片手を放すと貫手ぬきてでロナの首を狙った。


「っと」


 もちろんそれを易々(やすやす)と食らうロナではない。

 さっさと口を放して行動の自由を確保すると、貫手の攻撃もするりとかわしてダーワットから離れた。


 その瞬間、ダーワットの三方から強烈な光を放つ魔術の熱線が放たれる。

 フィリア、リアナ、ネーレの三人による魔術の同時攻撃だった。


 ひとつひとつが高温に達する熱線がダーワットに集約される。

 一点に集中した熱線がさらなる高温をもたらし、大地をも焼きはじめた。


 中心にいるダーワットはその熱量をまともに受けながらも、多重展開した障壁によって耐え凌いでいる。

 やがてネーレの熱線が途切れ、次いで双子の熱線が消えた後に残されていたのは、障壁によってかろうじて負傷を防いだダーワットの姿となかば溶けかけた地面だけだった。


 ダーワットのまとう白装は焼けただれてその輝きを失っている。

 あの多重障壁をしても防ぐにはギリギリの威力だったのだろう。


 その姿を見て、ロナはかつての戦友に現実をつきつける。


「様子見はこれくらいでいいかな? ボクと一対一だったならともかく、この人数差でどこまで耐えられる? お手並み拝見といこうか、ダーワット」


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