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第8話 壊れ行く心

第8話はマジェスターのお話です。彼を見る目が変わるかもしれません。

 私の存在意義は何処にあるのだろうか。いつしか主のために生きていたはずの私はその心を揺さぶられ続けている。すべて滅びればいい。そう思う。


 父が仕えていた主は父とともに毒殺されたらしい。私も気づいたら帰ってこられない任務に付かされ、同僚とともに魔物の群れに対峙していた。指揮は家柄だけで選ばれた貴族であり、あまり有能とはいえなかったが、それでも部隊の仲間を労う事のできる稀有な人物だった。

「お前の評価はおかしいと思ってるんだ。お前はいつも仲間のために怒ってるんだもんな。」

 彼と最期に話したのはそんな内容だった。彼も不当な境遇に置かれていたのだろう。よく見ると一癖も二癖もある人物で構成されている部隊のようだ。後で編成したのが騎士団長であると知って理解した。詰まるところ、あの無能に都合の良くない人物を集めて特攻させようという魂胆が見え見えだったのだ。但し、死人に口はない。


 魔物の大量発生の際に死んだ同胞は沢山いた。だが、無謀な作戦で死んだのは私の部隊だけだったろう。最初の突撃でグレートデビルブルの一撃を受けきれなかった私は意識を失った。次に気づいた時には救援部隊が生存者を探しに来た時であった。生き残りは私以外にいなかった。


「なんて無謀な作戦だ。」

 たまたま耳に入った言葉を発したのは救援に来ていた領地の騎士団の指揮をとっていた人物だった。彼らのおかげでそれ以上の同胞の死を免れる事ができるのは知っていたが、どうしても許容できなかった。死んでいった部隊の仲間は何一つ悪くない。それを強要した奴らこそが糾弾されるべきであるというのに。

「取り消せ!!」

 重症を負っていた私は彼に全く太刀打ちできなかった。彼は私がきちんと受け身が取れる場所で投げ飛ばしたあとに小声で「すまなかったが、立場上素直に謝ることができない。君らの無念は理解しているつもりだ。」と囁いた。


 傷心した私は騎士団の任務にも意欲が湧かなかった。あの騎士団長の下で何かをしろと言う方が無理というものだ。

「おい、狂犬。お前リヒテンブルグの後継ぎ探してこい。」

 主の主にあたる人物にそう言われたのはそんな時期である。主の家は断絶していたし、私の家は代々仕えてきた家を失っていたために存在意義がなくなっている。妻もいない私は身一つで旅に出る事にした。他の人間は何処かに移れるものは移し、金を渡して放逐したものもいた。私は心身ともに身軽になり、主の家系の生き残りを探した。


 仕えるべき主は想像以上だった。平民として育った彼は貴族の嫌な部分ばかり見てきた私には眩しく映った。彼のためを思えば何も考えないで済む。全てを彼に合わせれば自ずとやるべき事が決まる気がした。


 しかし、すぐに私の心を揺さぶる出来事が起こる。・・・正確には出来事ではない、人物だ。無論、主の他に主として認める人物が現れたわけではない。主は主だ。そういう意味で揺さぶられているわけではない。そいつの行動に平常心を揺さぶられているのだ。



 そいつは私を「マジェっち」と呼んだ。



 なんだそれは?私はマジェスター=ノートリオ、エジンバラ領の貴族だ。平民の女がそんな名前で呼んでいいとでも思っているのか?

「ふざけるな、そんな呼び方はよせ!」

「あは、すいませんー!」

 語尾を伸ばすんじゃない!


 彼女は私と主の目の前で仲間たちを全て魔物に殺された。意識を失っていた私よりもさらにきついに違いない。しかし、彼女は強く振る舞った。なんて心の強い女性なんだ。しかし、たまに泣きながら寝ているのも知っていた。私は彼女のために何かしてあげようと思うようになった。しかし・・・。


「シウバ様ってぇ、優しいですよねぇ。」

「シウバ様ってぇ、好きな食べ物はなんですかぁ?」

「シウバ様ってぇ、寝ている時に両手を頬っぺたの下につけますよねぇ。」

「シウバ様ってぇ、・・・。」


 シウバ様は私の主だ。主の良さを理解できるとは殊勝な事ではないか。何の問題がある?問題があるのは私の方だった。


「シウバ様には、ユーナ様という想い人がいらっしゃる。」


 何故、何故あんな事を言ってしまったのだろうか?私は何をしたいのだろうか?


「あ、シウバの部下の人たちですか?私、ユーナと言います!ちょっと色々と理由があってここにいる事になったんでよろしくお願いしますね!」

「マジですか!?あなたがあのユーナ様!?シウバ様の所に来たってことは!。きゃー!!」


 嘘だ。彼女は全く喜んでいない。ただ、ユーナ様を恨んでいるわけでもなさそうだった。何故だ?何故あのような態度をとる事ができる?当時の私は理解ができなかった。


 彼女はそれ以降はほとんど悲しい顔をしなくなった。唯一は、「奈落」の最深部が行き止まりだった時に一瞬だけ表情が曇ったのを確認しただけだ。しかし彼女はその行き止まりに手を当てると、その先に通路を作り上げてしまった。一瞬、分からなかった。私はそれを理解できなかったために見なかった振りをした。



「シウバ様ぁ!!!」

 シウバ様が青竜を討伐された時、かなりの重症を負った。

「死なせない!絶対死なせない!」

 小声で叫ぶエリナを見て、私はこんな時に思ってはいけない負の感情が沸き起こるのを感じた。主に対して持っていい感情ではない。死んでしまえなんて。


 彼女は主のために意識を失うギリギリまで回復魔法をかけ続けた。


「エリナ。見ていて、いたたまれない。」

 そして私の心が耐えきれそうにない。

「マジェスター様には分からないですぅ。これが私の幸せなんですぅ。」

「分かりたくもない。」

 だが、なんとなく理解できるようになっていた。私が、彼女をそう思っているのと同じなのだ。


「マジェスター、エリナ、ナノ、俺はユーナと結婚するよ。」

 ヴァレンタイン大陸へと帰ると、シウバ様は私たちにそう言った。

「おめでとうございますぅ!」

「おめでとうござい・・・ます。」

 様々な感情が入り混じる。これでエリナはシウバ様の事を諦める事ができる。しかし、それは良い事なのか?エリナがシウバ様と共に歩む事こそがエリナの望む事なのではないだろうか。私はそれに協力すべきだったんじゃないだろうか。


「マジェっち・・・。」

 その日、エリナは私の胸で泣いた。私は彼女を守っていこうと決めた。


 後日、私はついにエリナにこう打ち明けた。


「エリナ、私と一緒になってくれないか?」


 私の目を見て、エリナはこう答えた。




「え?さすがにマジェっちはないわぁ~。ごめん!」



 こうして私は玉砕した。この感情はエレメント魔人国の帝都包囲戦で発散する事にした。すべて滅びればいい。爆発しろ!!な、泣いてなどいない!私はマジェスター=ノートリオ、貴族だ!


まあ、そのうち良い事あるといいね(笑)

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