第6話 伝説の遺伝子
第6話はロージーでーす。
王都ヴァレンタイン貴族院は新年となると新入学生を受け入れる。
「分かっているわね?」
「は、はい、お母様。」
「ふぉっふぉっふぉ、ではいってらっしゃいませ。」
「うん、頑張ってくるよ。じい。」
入学の儀式から父兄は学院に入る事を許されない。優秀な教師たちが守るこの学院は一昔前までは騎士団よりも強い教師陣で固められていた。それほどに、この学院は価値を評価されていた。数年前までは。
レイクサイド領立レイクサイド騎士学校。辺境の都会レイクサイドにおいて設立されたこの学校は数年で王都の貴族院を追い抜いたと言われている。それほどに潤沢な資金を用意したレイクサイド領と、優秀な教師陣の中にはレイクサイド召喚騎士団の人員もおり、そもそも校長が第3部隊隊長の「聖母」ヒルダである。ヴァレンタイン最高戦力の教えを乞う事ができ、成績優秀者はレイクサイド騎士団もしくはレイクサイド召喚騎士団への入団を許可されるとして全国各地から優秀な若者が跡を絶たない。
最近ではアイオライ=ヴァレンタイン現王が学生の中でも優秀な人材を勝手にヘッドハンティングしていくとしてハルキ=レイクサイド領主に文句を言われているという噂すらある。それほどに教育に力を入れているのがレイクサイド領であり、他領地は完全に乗り遅れた形となってしまっていた。
そんな中、貴族の子弟は王都ヴァレンタインの貴族院へと通う事が決まっている。どちらかというとレイクサイド騎士学校に通わせたいと思う親も多い中、セーラ=レイクサイドはある提案を下す。
レイクサイド領立レイクサイド幼年貴族学校。つまりは貴族院に行くまで通う学校である。授業内容は大人とほぼ同じであるために完全エリートコース。ほとんどの物が途中であきらめるか将来を期待されるかどちらかの運命をたどる。そして、その中に行きたくもないのに強制的に行かされていた領主の息子がおり、本年ようやく卒業と同時に貴族院への進学が決まった。御年10歳の子供には少々きついが、これが英才教育というものだろうか。
「ようやく、あの地獄から逃れられたぜ!今日から5年は遊んで暮らしてやる!お父様だって勉強なんかしなかったって言われてたしな!・・・あれ?テツヤおじさんが周りの評価に騙されるなって言ってたっけ?あいつは死ぬほど勉強してたはずだって・・・。まあ、どっちでもいいや!俺は遊ぶぞ!」
ロージー=レイクサイド。完全に母親のスパルタ教育の反動で性格はねじ曲がっている。いや、父親の遺伝かもしれない。
貴族院は全寮制だ。ルームメイトは完全にランダムに決められる。王子であろうが下級貴族であろうがここでは平等に扱われる、しかし学生間で平等がなりたつはずもない。
「今年の寮長のソニー=シルフィードだ。よろしくな。新入生には2人一組で部屋が割り当てられる。誰がどこになるかは教師たちが決めていて変更は許されない。これから5年間同じペアで過ごすことになるから仲良くな。」
「こいつが宰相の息子か。今の所はこいつ以上の権力者の子供はいないようだな。」
割り当てられた部屋に行くとすでにルームメイトが入っていた。
「タイタニス=フラットだ。俺はフラット領の次期当主だ。俺と同じ部屋になるなんてお前は運がいい。将来は俺の部下にしてやろう。名前は?」
「・・・ロージー=レイクサイド次期当主だ。俺の代になったらフラット領には食糧を流さない事に今決めた。」
「なっ!?レイクサイド!!?」
「謝るってんなら俺の部下にしてやってもい・・・あるぇえ!?お母様!なんでこんな所に!いま、お友達ができたところなんだ!!ねえ!タイタニスくんってい言うんだよ!フラット領の次期当主なんだって!」
「ロージー、あなたが忘れ物をしたので先生への脅は・・ご挨拶を兼ねて届けに来たのよ。本当は父兄が入っちゃだめなんだけど、そこは権力にものを言わせてね・・・。それで?先ほどの会話はなんなのかしら?」
「いやぁ!ただの冗談だって!タイタニスくんとはすでに冗談を言い合えるほどに仲良くなったんだよ!一瞬で!ねえ!タイタニスくん!ほら!ね!ね!ね!」
「まあ、いいわ。タイタニス=フラット次期当主ですね。いつもお父様にはお世話して・・・お世話になってるわ。うちのロージーをよろしくね。」
「は、は、はい・・・。」
「ロージー、分かってるわね。お父様のような成績でも取ろうものなら許さないからね。」
「ガクガクブルブル。・・・了解いたしました、お母様。」
「じゃ・・・。あ、第2部隊に言って見張らせてるから。」
「なにぃ!?ふざけ・・・いや、嘘です!分かりました!」
こうしてロージー=レイクサイドの貴族院生活は始まったのだった。
そしてすぐにも授業が始まる。
「フレイム!」
ぽすっと音がして極小の炎が出る。
「ロージー=レイクサイド君。私は君のお父さんには完全に騙されたバカな教師の一人である。もう、同じ轍は踏まない。きちんとやりなさい。君はできるはずだ。」
「いや、先生!それがこれでも5年以上特訓してこれなんですよ!シルキットに毎晩のように見てもらってこれなんすから!」
「いや、騙されん。もう二度とだ。」
「そんなぁ!!」
「レイクサイド領の次期当主は非常に成績が悪いらしい。」
「いや、だってあいつめっちゃアホだぜ?あれで幼年貴族学校出たっていうんだから信じられねえよ。」
「知識はともかく、魔法の実技が全くダメらしいな。」
「それって才能がないって事か?ある意味可哀想だけど。」
「でも、あいつと話してると可哀想なんてこれっぽっちも思わねえけどな。ボンボン街道まっしぐらだし。」
「はは、そうだな。」
「ごるぁあああああ!!!聞こえてるぞお前らぁぁ!!お父様に言いつけるぞぉ!!」
「やべぇ!ロージーだ!」
「逃げろっ!」
「ロージー!!」
「げぇ!ソニー!」
「君がお父様に言いつけるというのであれば、事の真相を僕の父上から君のお父様に伝えてもらうというのもありというわけだな?」
「いやいや!冗談だって!」
そんなこんなでロージーはそれでも元気に貴族院生活を送った。
半年が過ぎ、夏に差し掛かろうという所で貴族院は一旦休みに入る。
「マジか・・・。こんな成績で家に帰ったらお母様に殺される・・・。」
「だ、大丈夫ですか?ロージーさん?お母さん怖そうでしたからね。」
「そうなんだよ、タイタニス。この世で一番恐ろしいのはお母様だとお父様も言っていた。まじで恐ろしいわ。」
哀れタイタニス=フラットは完全にロージーの舎弟扱いである。
「大召喚士ハルキ=レイクサイド様ですら恐れるとは・・・。」
「だって、アイオライ王もお母様は怖いって昔言ってたし・・・。」
「えぇ!?アイオライ王と話した事あるんですか!?」
「え?普通領主館に来ないの?うちにはちょくちょく来るけど。」
「来ないですよ!来るなら領地あげて歓迎しないと!」
「え?お父様、全然歓迎とかしてないよ。「また来たのかよ!?」とか言ってたし。当たり前のように飯食っていくよ。来るときは自分の部下のワイバーンのくせに帰りはウインドドラゴン要求するからテトとかリオンがよく働かされてる。」
「さ、さすがはレイクサイド領・・・。」
そして逃げようとした所をワイバーンでレイクサイド領へ連れ去られ、半殺しにあったロージーは休暇が終わりなんとか貴族院に戻って来ていた。
「はあ、まじで死ぬかと思ったぜ。」
「よくその内容の教育というか拷問を受けて生きて帰ってこれましたね。」
「ほんと、我ながら慣れってすごいと思うよ。」
貴族院1年目、後半でようやく土の魔石が各自に配られ、召喚魔法の授業が開始される。
「よっしゃあ!!ついに俺の時代が到来だ!」
「あ、やっぱり召喚魔法は得意なんですか?」
「ああ!いや、まあ、うん。他に比べたらだけど。お父様の足元にも及ばないし。」
「そりゃあ、大召喚士と比べるにはおかしいですよ。」
「では召喚魔法の授業を始める。この中でノームの召喚契約を済ませているものは?」
「はいっ!!」
「さすがにロージーは契約してあるか。他にはいないか?では、ロージー、ノームの召喚でも他の得意な召喚でもいいから皆に見せてあげなさい。」
「へへっ!召喚!!」
そして召喚されたコキュートスで訓練室を破壊したロージー=レイクサイドは父親同様に貴族院の歴史に名を刻み、さらに呼び出しをくらったセーラ=レイクサイドにより説教を受けた事は言うまでもない。
セーラの母親化が激しすぎる。