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第4話 剣の鬼嫁

第4話はニア=チャイルドとロラン=ファブニールです。まともと思われていたニアの昔のお話ですよ!え?全然まともだなんて思ってなかった?猫かぶってるのバレバレだったって?

 シルフィード領冒険者ギルドはいつも通り賑わっていた。

「ギルド長、霊峰アダムスに怪鳥ロックが発生したようです。」

「そうですか。被害が出る前にSランクのパーティーに声をかけてください。」

私はギルドの職員へと声をかけると、通常の業務を行う。この生活も今年で5年目であり、もう慣れた。

「ギルド長、セーラ様がお見えです。なんでもお連れ様のギルドランクの昇格試験をして欲しいんだとか。」

「分かりました。あとで行きますから待ってもらってて。」

 そういえば、娘のセーラが先日から要人の護衛をするという話を聞いた。セーラほどの騎士を護衛にだなんてどれだけの人を守るというのか。アレクセイ=ヴァレンタイン現王やこの前の戦争で活躍した「紅竜」ハルキ=レイクサイド程度の偉人でなければ納得いかない。それほど、私たちのあの子は自慢の娘だ。



「ニア、兄上が亡くなられた。お前に当主になってもらわねばならない。どうしても今の職業を続けたければファブニール家を出なければならなくなる。」

 夫にそう言われたのが5年前。当時13歳の娘のいた私たちにはファブニール家を出るなどという選択肢はなかったはずだ。だが、もともと冒険者としてSランクをもらっていた私が足の怪我で引退を決意した時に仕事を斡旋してくれた前ギルド長への恩もある。だが、そんな私の苦悩を知って手を差し伸べてくれた人がいる。夫の弟であるラルフ=ファブニールの妻、ベネチアだ。

「義姉上、私が当主を継ぎましょう。義姉上は旧姓を名乗られて、このままこの館で過ごされればいいんですわ。」

彼女には頭が上がらない。それほど、ここの前ギルド長には恩義がある。



 最初に前ギルド長であるダニエイルに出会ったのが約20年前だった。

「ロラン、紹介するよ。ニア=チャイルドだ。」

ダニエイルのパーティーにはロランがいた。他にも数人いたが、すぐに辞めてしまった。理由はレベルが低すぎて私たちに付いて来れなかったからだ。

「よろしく、ニア。ロラン=ファブニールだ。」

ロランはその頃は駆け出しの冒険者だった。ファブニール家は代々女当主であり、特に3男坊だったロランは武者修行のために冒険者をしていた。対してチャイルド家は生粋の貴族だったが、まあ、私はそんな世界が好きではなかったために外に出ようとしていた。

「ニアだ。よろしくな。」

私の口調に一瞬だけ驚いた表情をしたが、まだ10代だったロランはすぐに笑って返した。

「気の強い年上の女は好みだ。」

こいつは何を言っているのだろうかと思った。ついでに蹴りを入れておいた。吹き飛んでいくロランを無視してダニエイルは他のパーティーにも私を紹介していった。

「さあ、仲良くなったところで依頼を受けるとしよう。」

ダニエイルのこういう所にはかなり助けられる事になった。そして私はこのパーティーでかなりの日数を過ごすこととなる。


「ロラン、氷の魔法というのはだな。圧縮がどれだけできるかで硬度が変わる。そのイメージを常に保て。炎系の爆発魔法は魔力を込めれば込めるほどに範囲が広がって行くが、柔らかい氷がどれだけ大きくても、割れない小粒に貫通されてはおしまいだ。」

ダニエイルは後輩の育成に力を注いでいた。すでに年は60代であり、冒険者としては引退していてもおかしくない。

「ニア、お前はもっとおしとやかになれ。それでは男が寄り付かんぞ。」

「知るか。男なんてどれも大した事がない。」

「俺は違うけどな。」

そして私に吹き飛ばされるロラン。

「女は男と一緒になって初めて夫婦だ。男も同じだ。そして子供をなすことで次の世代に受け継がれる。子供がいなければ他の奴を教育しても良い。だが、その連鎖から逃れようとしても、人として不自然なだけだ。無理は良くない。無理をしていては高見にたどり着けない。」

初老の男の言葉には重みがある。子供ができなかった老人は今になって後輩の育成に力を注いでいるのだろう。


 私たちのパーティーはあっと言う間にSランクまで駆け上がった。私とロランがいるのだから当たり前だ。そのうち、私は「剣の鬼姫」という二つ名をもらう。

「二つ名をもらう事はいい事だ。素直に喜べないだろうがな。」

ダニエイルは私の心の奥を見透かしたかのように言った。

「いい二つ名じゃないか。よく似合ってる。」

そして吹き飛ばされるロラン。あいつは学習能力がないのか?

「お前は一生二つ名なんてつけてもらえねえよ!」

この時はそう言ったが、ロランがものすごい男だという事は知っていたし、私が誰よりも認めていた。ロランの二つ名は私が決めてやろう。「マジシャンオブアイス」とかいいんじゃないか?あいつは将来、誰よりも氷魔法の扱いが上手くなるはずだ。ダニエイルがいなくなれば、ロランが最強の氷魔法使いに違いない。


「ニア、お前はもっと素直になれ。」

ダニエイルは事ある毎にそう言った。素直に生きているつもりの私に何を言ってるんだ?その時はそう思った。チャイルド家を飛び出して、好き勝手しているんだ。



 ダニエイルが引退を決めた日、私とロランはこう言われた。

「お前たちはまだ未熟者だ。2人とも欠けている所がある。2人で冒険者を続けるな。他のパーティーに入れてもらえ。」

だが、その言葉は私にとってもロランにとっても耳に障る物だった。

「私だってSランクだ!最近じゃ、あんたの方が足を引っ張ってるじゃねえか!」

「ダニエイル、俺もニアの意見に賛成だ。これまで3人でやってきたんだ。2人でも行けるさ。」

しかし、ダニエイルは続けた。

「戦力の問題じゃねえさ。心の問題だ。」

心の問題?私のどこが未熟者だと言うのだ?


「ロラン、ダニエイルはああ言ったが、これからは私について来い。」

「ああ、分かった。それはプロポーズと受けとっ・・・ぐばぁ!」

そして私たちはSランクの依頼を受理し続けた。ギルド長となったダニエイルはそんな私たちを見て、悲しそうな顔をしていた。


「怪鳥ロックの討伐をしてきた!」

ひさびさにギルドに帰ると、たまたまダニエイルが1階に降りてきていた。

「どうだ、ダニエイル!私たちは2人でもやっていけているぞ!」

「・・・ニア、お前たちはこれ以上上には上がれない。上がりたければ私の話を聞け。」

「話なんか聞いてもどうだってんだ!?」

「すぐに分かる。話を聞け。」

その圧力に押された。特に弟子のロランには耐え難かったらしい。

「分かりました。まずは話を聞きましょう。」

「私は聞かないからな!」

私は意地になって外に出た。


ダニエイルの話を聞いたロランが宿に戻ってきた。

「ニア、大事な話がある。」

「ダニエイルの話か!?そんなのは間違いだったと証明できたじゃねえか!」

「違う!」

「じゃあ、なんだってんだ!?」

「俺たちはお互いにサポートがなってない。ダニエイルの言うとおり、このままじゃ高見は望めない。」

「ダニエイルの話じゃねえか!」

いらついた。これ以上ないほどにイラついた。だが、ロランは話は終わってなかった。

「そうじゃない、その先の話だ!」

「その先?」

やけにすがすがしい顔をしたロランに不覚にも鼓動が鳴った。まあ、よくある事だったが。

「ニア、俺の子を産め。」

「は?」

「俺の妻となり、俺を補助しろ。そして、俺の子を産め!」

「な、な、なんで私がお前の!?」

「嫌なのか!?」

「嫌なわけねえだろ!?・・・あ!」


ダニエイルはたんなるおせっかいじじいだった。結婚の報告をすると、それだけが心残りだったと言った。数年後、依頼で足を怪我した際に私にギルドの職を押し付けてきた。それが意外にも忙しく、シルフィードの町に居ついてしまったタイミングで娘を身ごもった。


 ダニエイルはセーラの誕生を見届けると翌月に眠るように死んだ。私をギルド長へと推薦する手紙を残して。だが、セーラを生んだばかりでしかも若すぎた私はそれを辞退した。シルフィード領冒険者ギルドは10年くらいの間ギルド長代理の男が切り盛りするようになった。そして5年前に私が正式にギルド長へと就任したのだった。

 ダニエイルがいなければ私はロランと結ばれてなかっただろうし、家に入ってセーラを生む事もなかっただろう。彼のためにも、私はここのギルド長を続けていたかった。周りの人間には感謝だ。夫のロランはジギル=シルフィード領主に引き立てられ、いまではアイシクルランス団長を務める大陸最強の魔術師だ。これも、私たちが単なるパーティーであれば補佐をする人間がいなければ成し遂げられなかったかもしれない。まあ、私が最強になって、ロランがギルド長でも良かった気もするが。



 そういえば、セーラが変な奴を連れてきていると言ってたな。昇格試験だったら、Bランクの輩でも十分だろうが、Aランクを用意してやろう。そして、そいつを見極めたあとは領主館に行って、あの小僧に文句を言ってやる。ついでにロランにも会ってこようかしらね。今日はもう仕事する気がなくなったわ。



縁の下の力任せ的な?ニアでした。その性質はしっかりと娘にも受け継がれています!


ヨーレン「なんで俺だけ恋話がないんだ!!?」

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