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第3話 破壊と殲滅に込められた想い

第3話目は「破壊の申し子」の名前の由来にまつわるエピソードです。

彼の性格と二つ名が合わないと思ってた人もいたかもしれませんが、こういう事だったんですよ。

 その人と初めて出会ったのは騎士団の宿舎の近くだった。


「最近、次期当主様が変な事を始めたらしいぜ?」

評判の悪い次期当主は変わり者らしい。貴族院での成績が非常に悪かったためにほとんど領主館から出てこないという噂は耳にしていたが、最近聞くのはもっと変な噂だった。

「常に何匹ものノームが周囲に召喚されているらしい。侍女が気持ち悪いって言ってた。」

騎士団の中では、そんな根も葉もないうわさが流れている。

「なんか、ノーム召喚担当ってのを設立するらしいぜ?フィリップ様がフラン様に連れて行かれちまった。」

ノーム召喚担当?なんだそれは?農業に従事させる?フィリップ様をか?彼はまがりなりにも貴族だろう?そんな事をさせるとは次期当主はひどい人なのかもしれないな。しかし、変わり者過ぎてて予想できん。

「シルキット!騎士団の訓練は任せた!儂は用事があるから出てくるぞ!」

騎士団長のトーマス様は、領主の弟というだけで上に立っておられるような人だ。我らがしっかりせねばなるまい。副団長も気付けばどこかへ行ってしまわれたようだ。仕方ない。

「では、訓練を開始するぞ。」

騎士団を集めて訓練だ。今日はどうするかな?私の得意な破壊魔法の訓練をする事としよう。手頃な崖を見つけて破壊魔法を撃ちまくるという何も考えてない訓練であるが、仕方ない。他の訓練法には金がかかるからな。


「おい、見ろ。フィリップ様だぜ?」

見るとフィリップ様がノームの召喚をしていた。周囲には数人他にもノーム召喚をしている人がいる。当然、中には次期当主ハルキ=レイクサイド様の姿があった。しかし、畑の隅に作られたテントでお茶しているだけだが・・・?

「完全にさぼっているようにしか見えねえな?」

「だが、あのノームの量を見てみろ?」

「なっ!?なんだあれ?」

そこには50匹を超すノームが農作業をしていた。水路の増設なんて力仕事までやっている。子供くらいの大きさしかないノームと言えども、50匹が一斉に作業をすれば畑一つなんてあっと言う間に作業終了だ。なにせ、本来なら家族数人でやる作業なのだから。

「あれは、ウォルターだな。それにヘテロもいる。」

召喚担当はハルキ様をのぞいて5人。中には女子供もいた。その女性は・・・あれは誰なんだろう?


 その日の訓練は何故か本気を出した。こんなにフレイムレインを使った事なんて初めてだ。崖がほとんど形を成していない。

「おい、今日のシルキットさんは鬼気迫る物があるぜ・・・。」

「何かあったんだろうか?」

何があったんだ?私も聞きたい。なんだこれは?


 その日から、毎日力尽きるまで破壊を繰り返した。なぜこんな事に?なにをどうやっても、あの召喚担当の女性の姿が脳裏から離れない。彼女は誰だ?


 思い切って、部下に聞いてみた。あれは誰だっけ?

「ああ、あれはヒルダですね。流行病で死んだウォレンの妻の。」

ウォレンの妻!彼女が!では、その子供も亡くなっているはずだ。そんな彼女がノーム召喚担当に・・・。大丈夫だろうか?夫の死からまだ1年くらいしか経っていない。いや、そういう時にこそ仕事があった方がいいのかもしれない。


 その後も、毎日力尽きるまで破壊を繰り返した。なぜこんな事に?なにをどうやっても、ヒルダの姿が脳裏から離れない。彼女は大丈夫なのだろうか?というか、収穫祭で求婚されてたな。くそっ!


 そうこうしている内に、私は騎士団の副団長になった。これで、権力を手に入れたわけだ。仕事の割り振りは私に任せられる。特にトーマス団長はあのような人であるためにほとんど私がやっても問題ないだろう。職権乱用?だからどうした?それが権力というものだ。


 ノーム召喚担当との連絡はほとんど私がやった。少しずつ、彼女と話す機会が増えていく。

「シルキット様、こちらが報告の木簡ですわ。」

「ヒルダ、私は平民です。様なんていわれるとむず痒い。」

「では、シルキット副団長ですね。」

「君なら呼び捨てで構わないよ。」


 その後も、毎日力尽きるまで破壊を繰り返した。何故だ?ニヤつきが止まらない!この気持ちの高ぶりはなんなんだ?うおおぉぉぉ!!ヒルダァァ!!・・・破壊する山がなくなってきた。力尽きるまで訓練したかったのに・・・。次の山に移動するか。


「最近、シルキット副団長が訓練中に冷たく笑うんだぜ?いつもはほとんど表情なんて崩さないのに。」

「は、「破壊の申し子」!?」

「もしかして、二つ名が?」

「そうなんだよ!シルキット副団長の訓練風景を見ていた新人たちの間で噂になっててさ。普段はあんなに温厚そうだろ?それなのに、何かを破壊している時は笑ってるんだ。まじで怖えよ。」

「あのシルキット副団長がか!?」

「最近の訓練地の山がえぐられてるのはほとんどシルキット副団長1人でやってるみたいだぜ?」

「ええぇぇぇ!!??」


「ヒルダ、私の妻になってくれないか?」

遂に私は想いを伝える決心をした。言葉は単純でいい。想いが伝わればむしろ邪魔だと思っている。

「私は、未亡人ですよ?」

「私には関係ない事だ。一緒になってくれ。」

「・・・えぇ、よろしくお願いします。」

ヒルダは泣いて喜んでくれた。私は彼女を一生守りきると決めた。



 そんな中、魔人族の襲撃があったという話が出てきた。ヘテロが他領地にいるハルキ様を呼びに行く。私たちは出陣の準備だ。士気を上げるために先陣式を行うという。トーマス団長は怖気づいたのか、総指揮をフィリップ様に渡してしまった。騎士団としてそれは了承できることではないはずなのに。仕方ない、お手並み拝見としよう。


 帰ってきたハルキ様を交えての先陣式は見事なものだった。フィリップ様を中心にさまざまな召喚獣が召喚されていく。われら騎士団も負けてはいられない。全員で破壊魔法の花火を上げる。どうかな、ヒルダ?私たちも捨てたものじゃないだろう?


 しかし、騎士団だろうが、召喚騎士団だろうが関係なかった。その後にハルキ様が召喚されたものにとっては。


 「死の代名詞」レッドドラゴン


 開いた口が塞がらないとはこの事だ。なんだこれは!?

「さすが、副団長は驚かないんですね?」

部下がバカな事を言っている。違う。これが私の驚いた顔だ。


 しかし、なんだこの胸の高鳴りは?ヒルダを見た時は全く違う。

「「レイクサイド!レイクサイド!レイクサイド!」」

歓声が鳴りやまない。そうか、誇りだ!レイクサイド騎士団であることの誇りが私の胸をたぎらせている!

「「レイクサイド!レイクサイド!レイクサイド!」」

これは、私も叫ぼう!いや、叫びたい!

「レイクサイド!レイクサイド!レイクサイド!」

大量のフレイムレインを花火にしながらレイクサイドコールに混じる。

「えぇ!?副団長もそういう事するんですね!!?」

「何を言っている!?君は本当にレイクサイド騎士団か?」

「わ、分かりますよ!俺もレイクサイド騎士団です!レイクサイド!」

「「レイクサイド!レイクサイド!レイクサイド!」」


「まさか、あなたのあんな姿が見られるだなんて。」

あとでヒルダに笑われてしまった。だが、後悔なんてしていない。

「私もレイクサイド領の人間だ。熱くなるさ。」

「ふふっ、そうですわね。」


 魔人族の襲撃はすでにフラット領に達している。先発隊が組まれることになった。具体的にはレッドドラゴンとワイバーンでいく少人数だけだ。私は破壊魔法担当でその中にいた。ヒルダは後発隊だ。ヒルダの安全のために先に全て破壊しておこう。


 奇襲は完璧だった。レッドドラゴンの威力は格別だった。ヘテロの後ろに乗った私は上空からフレイムレインで次々に魔人族を燃やし尽くしていく。

「さすがッス。」

いや、ヘテロのワイバーン操縦もかなりの物だ。これは帰ったら訓練法に取り入れなければ。これからの時代はワイバーン騎乗と上からの破壊魔法での殲滅も考えなければならない。

 先陣隊は人類史上最高と言ってもいい戦果を上げた。


 ヒルダたち後発隊がやってきた。最高の戦果を挙げたというのに、われらレイクサイド領の陣営の空気は最悪だ。まさか、ハルキ様を悪く言う輩が存在するとは。誰がお前らの命を救ったと思っているのか。ヒルダも激昂していた。ウォルターと2人で大量の召喚獣を野営地に放っている。ハルキ様の事となると、皆子供のようになってしまうな。これも人徳なのだろう。


 次の上陸作戦も上手くいった。レイクサイド領の名は全国に響き渡った。掃討戦にはフィリップやウォルター、ヘテロなど暴れたりない者だけが参加した。私?もちろん、参加したに決まっている。実は殲滅数はフィリップ様やヘテロより上だ。要所や見せ場は全部取られてしまったけどね。

 レイクサイド領はなにがあっても引かないアイアンゴーレムの召喚士「鉄巨人」フィリップ=オーケストラ、その戦闘スタイルから「闇を纏う者」ウォルター、フェンリル騎乗で鋭く冷徹に切り込む「フェンリルの冷騎士」ヘテロなど、数々の二つ名をもらう者が多かった。特にシンプルで最強を示すのが「紅竜」ハルキ=レイクサイドだ。誰が聞いても分かる二つ名であり、それはもちろんヴァレンタイン大陸中に広まった。私はレイクサイド領を誇りに思い、一生ハルキ様についていく決心をした。


「戦争も終わったし、帰ったら式を挙げよう。」

「えぇ。他の方にもお知らせしないとね。」

私たちは新年明けたら結婚する事にした。騎士団と召喚騎士団がそろって祝ってくれるだろう。私は幸せ者だ。



 そして式当日。

「えー、ハルキ様は失恋旅行中ッス。今日は来られませんッス。ヒルダには「幸せになってくれ」と伝言をもらってるッスよ。」

なんと!?ハルキ様が出席されないと!?なんてことだ、一生付いて行くと決めた方が当日にいないなんて残念だ。

「失恋の相手はもちろんヒルダッスよ!最初にばらしたのはフィリップ様ッス!」

「なぁ!!??」

「あらまあ、もっと早く言ってくださればよろしかったのに・・・。」

え?ヒルダ!?え?



 こうして私は常にハルキ様に名前も憶えてもらわなければ何かといじられるという重要な役職につく事になった。それはハルキ様がセーラ様と結婚されてからも当分続いた。



初期のレイクサイド領は意外とスラスラ書けますね。設定作り込み過ぎでしたから。


脇役最高

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