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第18話 勇者の師匠

新キャラ

 今日は久々に訪問客があったようだ。門の所で少し騒ぎがあったようである。その後、客は村長の家に入っていったようである。

「俺は久々に見たな」

「あぁ。俺もだ。だが、爺さんでもあれほどの者は見たことがないって言ってたぜ? 魔力が違うんだろう」

 親父が誰かと話している。隣のおじさんだろうか。しかし、その内容だけでは意味が分からない。魔力がどう違って何がどうなんだろうか。

「ルーク! お前、呼ばれてたんじゃなかったんか?」

「あぁ、今出るところだ」

 昨日、山の奥地の村から呼び出しがあった。この氷の村から歩いて普通ならば3日の所にある炎の村まで1日でたどり着くのは俺しかいない。

「行ってくる」

「気を付けるんだよ!!」

 母親に出立を告げて出る。今日は怪鳥ロックが出ているらしいから気をつけねばならない。


「召喚、ドリュアス!」

 相棒を紹介しよう。この子はドリュアス。樹の精霊である。この森で起こりそうなことはだいたいドリュアスが告げてくれる。そして森の力を貸してくれるのだ。長年連れ添った大事な相棒である。

『急ぐ』

「ああ、明日には炎の村に着きたい」

 荷物は軽装だ。弓と矢、それに短刀しか武器はもっていない。だが怪鳥ロック以外ならば狩る事ができる。あのデカいのは無理だ。出くわしたら逃げる。俺ならば逃げる事ができる。

「スピードアップ!」

 補助魔法を重ねてかける。こうする事で人の5倍は速く森を進むことができる。ドリュアスが危険なものを知らせてくれるからこそできる芸当であった。警戒しながらの徒歩行は無理だ。

「行くぞ」

 翌朝、俺は炎の村にたどり着いた。


「魔人族の侵攻の事は聞いたか?」

「ああ、だがレイクサイドの次期当主が返り討ちにしたんだろ?」

「我らの力を頼る寸前の所までいったらしい。ジギルの小僧があそこまで追い詰められる事態になるとは思わんかったと言っておったそうだ」

「それだけ、あちらさんは本気で、レイクサイドの次期当主はさらに凄かったって事か?」

「ふんぞり返っておったら時代に取り残されるぞ? 氷のにはそう伝えておけ」

 時代が変わったってことか? だが、俺たち若者にとってはそれは歓迎すべきものなのかもしれない。

「我らも協力するという姿勢を見せねばならん。今までは知識や魔法で優位に立っていたかもしれんが、そろそろ純人はエルフの知識を必要としなくなるやもしれん」

 100年生きてきて、こんな事態に陥ったのは見たことがない。しかしたかが100年だ。幼少の頃に魔人族に追いやられた長老の世代に比べれば何も見てこなかったに等しいのかもしれない。

「儂は、お前が代表として世界を見てくるのがいいのではないかと思ってる。この100年、炎の村からは誰も生まれてきておらん。ルークよ、次世代の頭領になるべくお前が皆を導くのがもっとも良い。以前も旅に出ておったじゃないか」

 たしかに数十年前に王国を回ったことはあった。十数年で帰ることになったが。その理由が祖父の腰痛が悪化したのを危篤と勘違いした親父のせいだった。しかし一度帰ってしまうと出ていきにくく、そのまま数十年が過ぎている。

「出て行ったらどこで死ぬか分からんぜ?」

「そうなればエルフは終わりよ。滅びを待てばよいだけだ」

 自分以外に適任と思われる若者もいるとは思うが、たしかに次世代の事を考えると自分が行くのがいいのだろう。エルフのくせに精霊すら召喚できない奴もいるのだ。


 炎の村からの帰りはゆっくりとした行程だった。補助魔法まで使って無理をする必要はない。この行動が良かったのだろう。あるものを見る事ができた。


『人間に呼び出されたのは何年ぶりなのであろうか。』

 そこにいたのは氷の大精霊「コキュートス」。我が村の神に等しい存在である。この数千年の間にコキュートスを召喚できたエルフはいないと聞いている。村の長老ですら無理だと思われていた。なにより怪鳥ロックの心臓を手に入れるのにどれだけの損害を覚悟すれば良いのか。

「では、召喚と維持の魔力と引き換えにできる範囲の事柄で契約を結ぶ。」

『ああ、召喚されるのを待っておるぞ。』

「契約成立だ。」


 声をかけたい。あなたは誰だ? こんなところで何をしているのだろうか。後姿からすると純人のようだった。二人いる。

「やりましたね! ハルキ様!」

「ああ、ありがとうセーラさん。ここまで頑張れたのは君のおかげだよ。」

「いえいえ、ほとんどハルキ様のお力ですよ。」


 ハルキ? 「紅竜」ハルキ=レイクサイドか!? 侵攻する魔人族から騎士団を救い、押し寄せる軍勢を薙ぎ払うその姿はまさに英雄だと聞いた。この人が「紅竜」!!

「ワイバーン召喚! さあ、乗って!」

 ハルキ=レイクサイドがワイバーンを召喚し、2人で乗り込む。完全に声をかけるタイミングを失った。しかし、なんて魔力のこもったワイバーンであろうか。その力強さは驚嘆に値する。そしてハルキ=レイクサイドをのせたワイバーンは氷の村の方へと飛んで行った。もしや先日の来客はハルキ=レイクサイドであったのかもしれない。その時に出会っていれば声をかけられただろうが、その機会は失われてしまった。


「ルーク! 帰ったか! さっきまで客が来てたんだ! 誰だと思う?」

 祖父が門のところにいた。村長自ら、こんな所で何をしているのだろう? ついに痴呆になって徘徊でも始めたのか?

「もしかして「紅竜」か?」

「むむっ! なんじゃ、知っておったのか」

「さっき、山の中腹で「コキュートス」様と召喚契約を結んでたぜ?」

「なぁっ!?」

 大精霊との召喚契約の話は祖父の予測をはるかに超えていたらしい。気を失いかけている。


「坊っちゃま…………」

 その時、村の池の方からずぶ濡れの純人が出てきた。どっかで見たことあるな。

「あれ? お前「鬼」のフランか?」

「そういうあなたは……もしやルークでは?」

 そこには数十年で老けに老けた冒険者仲間がいた。ただ、彼のパーティーは彼を残して全滅していたはずで、故郷に帰ったという事を聞いている。

「どうしたんだ? こんな所で、しかもずぶ濡れで」

「いやはや、これはお恥ずかしい」

「はぁ!? なんだ、その口調!? お前本当にフランか!?」


 現在、フランはなんとハルキ=レイクサイドの執事をしており、逃亡した主を追ってここまで来たそうである。そして捕獲に失敗して池に突き落とされたのだそうだ。フランをこんなにできる人物なんてハルキ=レイクサイドは本物だったのだろう。なにせコキュートス様と召喚契約を結んだほどの男だ。

 それにいいニュースも聞いた。マリーとアクバルはダメだったそうだが、ヨキは名前を変えて生きているという事だった。生きているのならばまた会いたいとも思う。


「それならば、レイクサイド領に来ませんか?」

 フランは現在レイクサイド領でかなり上のほうの地位にいるようだ。騎士団全員を鍛えているという。そんなフランの口添えがあれば騎士団に入団することも可能である。特にドリュアスなどの召喚魔法が使える俺は召喚騎士団に入ってもいいのではないかと言ってくれた。

「考えてみる。俺たちエルフも外の世界を知らないといけない時期にきたようだ。だが、今すぐ行っても足手まといになるから、また冒険者として修行して、勘が戻ったらお前を訪ねるよ」

「分かりました。お待ちしていますよ」

 それがフランとの約束だった。


 そして…………。



 ***



「勘が戻ったらすぐ来るのではなかったのですか?」

「え!? 結構早めに来たつもりなんだけど?」

「早めって、あれからすでに5年は経っておりますよ。……これだからエルフは」

 人手が必要だった戦争の時期は完全に過ぎていたようで、「大同盟」が発足したレイクサイド領はあの時以上に巨大な領地となってしまっていた。フランにいたってはエレメント魔人国の魔王を倒して「勇者」とまで言われている。

「それに、あなただけ全く変わらないのですね?」

「そりゃ、ルークはエルフですから」

 再開したヨキはレイクサイド騎士団の教官をしていた。名前も本名のマクダレイにもどっているようだ。

「一応、これでも変わったつもりなんだけど」

 そりゃ外見は変わってないさ。だけどだいぶ強くなったはずだぜ?


 こうしてSランク冒険者「森緑」のルークはレイクサイド領で過ごすことになったのである。

「所属は私の下ですよ」

「え? フランの!? なんかやだなぁ」

「こんど親衛隊を設立予定です。私の養女もいますので、一緒に鍛えなおしてあげますよ」

「待てよ、お前に冒険者のイロハを教えてやったのは俺だろ? 師匠を敬え」

「精神年齢はだいぶ下ですので、無理です」

「何をー!!」



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