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第17話 3か月分の給料は必要ない

第17話はテトです あれ?フィリップとリオンを書くつもりだったのに……

「テト、今日は任務はないんですの?」

「これは奥方様にロージー様、本日は緊急で会議があるんです」

 中庭にはセーラ=レイクサイドが息子のロージー=レイクサイドが遊んでいるのを見守っているいつもの風景が広がっていた。テトは二度とこの光景に危険が及ばないように、次は必ず守り切る事を誓う。まだまだ最強には程遠く、レイクサイド領だけでも自分が敵わない人物が何人もいるという事実が彼に重くのしかかる時期もあったが、現在では最強という言葉にもっとも貪欲であるのはテトである。それは任務を放り出してでも訓練を行う事もある事があるほどであり、そんな隊長の想いを汲み取っているのは副隊長であるペニーのみであった。テトにとってペニーは兄のような存在となっている。

「そうですか、引き留めてしまってごめんなさい」

「いえ、そんな事はございません。奥方様たちを守るのも任務のうちでございます」

「ふふ、ありがとう」


 レイクサイド領レイクサイド領主館のある会議室では領主ハルキ=レイクサイドを始めとして、ほとんど全ての部隊長たちが集まり会議が開かれていた。しかし、本来会議であれば必ず出席するであろう筆頭召喚士フィリップ=オーケストラの姿が見えないのには理由があり、彼がこの会議の議題に大きく関わっているからでもあった。テトが会議室に入ると全員がそろったのだろう。会議が始められる。


「事態は思ったよりも深刻です」

 筆頭召喚士に替わって進行を務めるのは第2部隊隊長である「闇を纏う者」ウォルターである。その諜報能力を遺憾なく発揮しての情報分析には目を見張るものがあるが、今回ばかりはその事実に目を覆いたくなるというのが正直なところであろう。

「信じられないッス」

 第5部隊を率いるのはヘテロ=オーケストラである。先日第1部隊のミアとの結婚を発表した彼の下には国内外からの祝福を伝える報せが届いているが、本人は結婚式などを執り行うつもりがなく、オーケストラ家も貴族ではあるもののヘテロを養子に迎え入れている事もあり、本人の希望に任せている。新婦であるミア=オーケストラは完全に夫の意向に添うつもりであると言っており、形式だけの結婚式は領主ハルキ=レイクサイドと新郎新婦、その両親のみで執り行われた事にされた。いわゆる地味婚である。

「そう? 予想できたと思うんだけどな」

 第4部隊で隊長を務めるのがテトであった。成人の儀をしたばかりである彼は唯一領主よりも若い部隊長である。この作戦会議には副隊長のペニーを呼ぶべきではないかという意見もあったが、本人が出席を強く主張した。ペニーも出たくなかったために利害が一致したというか需要と供給が合ったというべきか。

「ですが、ハルキさま。外部からの干渉というのもどうかと思います」

 第3部隊隊長はヒルダである。部隊長の中では紅一点、そして常識においては最後の砦として機能している。そんな彼女がこの会議の意義自体に懸念を抱いたのも無理はない。しかし、領主の意向を無視する事はできないし、するつもりもなかった。

「うむ、干渉も直接的なものであれば逆効果だろう。しかし、ここまで手こずるとは思わなかった」

 領主「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは昨年ヨシヒロ神の暴走を止めたばかりであった。その戦いの爪痕はシルフィード領の霊峰アダムスから王都ヴァレンタインまでの経路の至る所に残っており、彼と神の戦いがいかに凄まじいものであったかを物語っていた。ここにいる部隊長たちを始めとして、彼の部下は誰一人としてヨシヒロ神に太刀打ちできず、苦渋を味わわされたのである。その死闘から生還したとはいえ、この領主はぶれない。今回の会議はハルキ=レイクサイドの中では最重要事項である。

 ウォルターの情報によれば相手が悪いわけではない。叩けば落ちるといったほうがいいのだろう。しかし、どんな貧相な砦でも攻めなければ落ちる事がないのと同じで、動かなければ、結果は出ないのである。



「ええい! フィリップのアホめ! 早いところリオンをものにしない限り、いつまで経ってもウインドドラゴンの契約素材すら渡せんではないか!!」


 会議の議題は「フィリップがリオンに告白するためにはどうすればよいか」である。すでに外堀は完全に埋めてある。リオンの気持ちも筒抜けだ。あとはフィリップが告白すれば、成功する。それだけの状態になってからすでに数か月が経っている。周囲の雰囲気から事態を察知したリオンがいつ告白されるかをドキドキしながら待つ時間はすでに終わってしまっており、フィリップのヘタレぶりに呆れ始めているという噂すら出回っていた。ちなみにフィリップはウインドドラゴンとの契約を望んでおり、それの条件も満たしているが素材を間違えて契約できていない。それをいい事に、リオンにフィリップの運転手を押し付けているのだ。何故か長距離の用事ばかりを押し付けられて不思議がっている筆頭召喚士の鈍さには呆れるばかりである。


 ***


「つまりはきっかけが必要なんだと思う」

「ハルキ様、なんでコソコソしてるの?」

 会議が特に何も決まらなかった状態で終わったあと、ハルキ=レイクサイドはテトを引き留めて会議室に舞い戻っていた。

「うるさい、気にするな。そこで必要なのがあれだ」

 領主が中庭を指差す。そこには領主の妻がいた。しかし、その妻になんの意味があるのかが分からない第4部隊隊長。

「セーラ様?」

「セーラさんではない、その指にあるものだ」

 そこには領主ハルキ=レイクサイドがその潤沢な資金を公私混同して手に入れたダイヤモンドリザードの宝石が輝いていた。その価値は館一つ分では購えないほどである。

「男は給料の3か月分の指輪を贈るものだと古来より決まっている」

「聞いた事ないよ、そんな風習」

「つまりは、あれを手に入れれば結婚を申し込めるのだ」


 フィリップ=オーケストラは貴族であり、本来であれば平民との結婚は不可能である。しかしヘテロ=オーケストラも使った手ではあるが、相手をどこかの貴族の養子として迎え入れさせてそこと結婚するという形にしてしまえばもはややりたい放題だ。しかし、その相手がきちんとした人物でない限り、普通は貴族の家に迎え入れるという事はしない。だが、レイクサイド召喚騎士団の中でも優秀と言われているミアやリオンであれば特に問題なく養子として迎え入れてくれる家は多かった。リオンを養子に迎え入れるための準備はできている。レイクサイド領主であるハルキ=レイクサイドから脅は……打診されればたいていの貴族は承諾するというのだ。今回はローレンス家である。結婚式を行う場合には父親役として王都からダガー=ローレンスがやってくる予定となっていた。知らないのは本人たちのみである。


「ダイヤモンドリザードなんて、フィリップ様の給料3か月分じゃ買えないでしょ?」

「大丈夫だ、おいヨーレン」

 そこに呼ばれる「神と髪に見放された男」。この男は見た目に反して魔物に詳しいと言う一面を持つ。

「そういう事で呼ばれたわけですね。いつものように虐められるかと思ってヒヤヒヤしてました。」

「こら、一般兵に格下げするぞ?」

「ひぃ、ごめんなさい!」

「で? なんでヨーレン?」

「こいつがダイヤモンドリザードの生態に詳しい。テト、お前獲ってこい」

「えぇ!? ヨーレンが詳しいならヨーレンが獲りに行けばいいじゃないか!?」

「ダメだ、こいつには他に用事がある」


 現在同時進行で結婚式を適当に終わらされたミア=オーケストラのためのドッキリ新婚旅行を計画させていたところである。ヘテロに気づかれないようにこそこそしているのはそのためだ。第1部隊と第5部隊の合同でレイル諸島に行き、そこで二人を置き去りにするという計画にどうしても第5部隊の副隊長であるヨーレンの力が必要なのである。第1部隊の副隊長はミアであるし、フィリップは他に重要な役割としてリオンとともにいろんな場所に飛ばしている最中であるため、使えない。こっそり第2部隊が補助に回るためにこちらも手一杯だった。第3部隊はそういった任務には向いておらず、レイクサイド領の領地経営で常に大忙しである。

「そういう事か……」

「動けそうなのは第4部隊だったから、ペニーに聞いたら、暇なのはテトだけだとさ」

「ペニーめ」

「諦めて行け。それに、悪い任務じゃないはずだ。いつかは、お前にも必要になるぞ?」

「…………そうだね」



「リリス!」

 テトはヨーレンにダイヤモンドリザードの生態に関して詳しく聞き出した後に出かける事にした。しかも誰にもばれないように深夜にである。今回は仲の良いヘテロにもばれてはいけない。思うところがあったテトはリリスを召喚する。一人で行く気分にはどうしてもなれなかった。

「ご主人様! 私に会いたかったのですね!?」

「うん、誰でも良かったんだ」

 リリスを召喚して、さらにワイバーンを召喚するとテトの魔力はほとんど尽きてしまう。しかし、それでも良かった。テトはこの任務自体は嫌ではなかったが、いつか必要になるという言葉が嫌だった。会議に出席していた頃は筆頭召喚士をからかうような楽しい気持ちだったのに、まさかこんな気分になるなんて。


「必要にはならないんじゃないかな……」

 若い部隊長は召喚獣のリリスがいるから恋人はできないと思われている。仲が良くさらにはそういった事にも敏感なヘテロですら、そう思っている節がある。テトはそれは好都合だと考えていた。その想いを悟られるわけにはいかないのだ。

「ご主人様、私もダイヤモンドリザードの指輪が欲しいですわ」

「いらない」

「ご主人様がではなくて、私が欲しいのですわ」

「知らない」

 ワイバーンの上で繰り広げられる不毛な会話。

 しかし、この時にテト班で唯一置いてきぼりをくらったレイラがテトを追いかけてきており、エルライト領で追いつかれたために、それを撒くのにテトは苦労する事になる。エルライトの町である冒険者にぶつかりながらもレイラを撒いたテトは近くの安宿に入って一息ついた。気分が紛れていた事に気づいたのはこの時である。暗い雰囲気を吹き飛ばすかのように食事と酒を注文して、リリスを放っておいて食べ始める。

「だって、もう持ってるじゃん」

「私は持ってません」

「リリスにはいらないよ。だいたい送還されてる時にどうするんだよ?」

「それはご主人様が召喚する度に私の指にはめて下さればよろしいのですわ」

「アホらしい」

 

「あ、さっきの」

 振り返るとさきほど通りでぶつかった冒険者が宿に入ってきたところであった。

「さっきはごめんね。大丈夫だった?」

 この話題はやめよう。それに丁度いい、彼にぶつかった謝罪を含めて一緒に食事をしてもらう事にしよう。リリスだと、あの事を思い出してしまうような話題しか出さないから。

「えっと、はい。大丈夫です」

「ご主人様、こちらの方がさっきぶつかったって人ですか?」


 それからテトはダイヤモンドリザードの捕獲に成功した。すぐさまレイクサイド領へと戻り、ダンテに指輪を作ってもらったのだ。それを見た領主はすぐさま筆頭召喚士を呼び出して、3か月分の給料の代わりにそれを渡したという。


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