明日へ向けて
小屋に戻ると、ルルが予想していた通り、ルルの制服姿を見てマラはとても喜んだ。
「素敵よ、ルル。もっとよく見せてちょうだい」
マラの前で、ルルはゆっくり回って見せた。
「こんな日が来るなんて、今日はなんて嬉しい日でしょう」
マラは、二人のやり取りを見守っていたエリメレクに近づき、深く頭を下げた。
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言ったら良いか」
エリメレクはマラに対しても、ルルと同じように謙遜に答えた。
「私はエリーサ様に頼まれた仕事をしただけです」
それからエリメレクはルルに向かって穏かな笑みを向けた。
「この度、音楽学校への入学、おめでとうございます。新たな生活が祝福されるよう、お祈りしております」
「ありがとうございます」
ルルも、それからマラと一緒になって、深くお辞儀を返した。
「それでは、私はこれで失礼いたします」
エリメレクが一礼して帰ろうとしたとき、突如、マラが呼び止めた。
「よろしかったら、このあと、夕食を召し上がっていかれませんか?」
ルルはびっくりしたが、ずっと二人だけの食卓だったから、エリメレクが加わったら楽しそうだと思い、ルルも賛成して言った。
「エリメレクさん、ぜひどうぞ。おばあちゃんの作る料理はとってもおいしいですよ」
エリメレクはマラとルルに微笑んだ。
「お誘いいただいて嬉しいですが、お気持ちだけいただきます。城に戻って、やらなければならない仕事がありますので。また今度、改めて夕食にご一緒させてください」
ルルはふと、エリメレクは独身だろうか? と気になった。
マラは、夫を早くに亡くしているため、独身生活が長い。
マラとエリメレクが結婚したら、お似合いの夫婦になるだろうなあ、とルルはぼんやり考えた。マラにはもっと幸せになってもらいたいし、エリメレクがおじいちゃんになるのは素敵なことのように思える。
「ルル」
マラに呼ばれ、ルルははっと我に返った。
見るとエリメレクはドアに立って、一礼し、帰るところだった。ルルは慌てて礼をした。
「エリメレクさん、今日は本当にありがとうございました。お世話になりました」
エリメレクは穏かな笑みを返し、そして去って行った。
「――さあ、食事にしましょうか」
マラは気を取り直すようにして言い、ルルも食事の準備を手伝った。
テーブルには、じゃがいものポタージュに、新鮮な人参とトマトがのったサラダ、そしてなんと、チョコレートケーキがある。
「昨日頂いたチョコレートを使って、ケーキを作ったのよ。ルルの入学のお祝い。おめでとう、ルル」
「ありがとう、おばあちゃん」
ルルはマラを抱き締めた。マラも抱き締め返してくれる。
「私、頑張るね」
「ルルならきっと大丈夫よ」
マラに背中を軽く励ますようにぽんぽんと叩いてくれたのを感じた。マラのためにも、一生懸命勉強しよう、ルルは心に誓った。
それから二人で食卓につき、感謝の祈りをしてから食事をした。チョコレートケーキはショコラのように濃厚で口の中に甘さが広がり、とてもおいしかった。エリメレクにもこのおいしいケーキを食べてもらいたかったな、とルルは思った。
それからルルは購入した品々を開け、マラに見守られながら、明日の準備をした。
「ずいぶん持っていくものがたくさんあるのね」
マラは、エリメレクが当日必要な持ち物を書いたリストを見て呟いた。それから教科書を覗き込み、またもや感心した。
「音楽学校の子は、こんなに勉強して、優秀な子たちなのね」
「うん、すごいね」
ルルは同意してうなずいた。
生半可な努力では追いつけないだろう。追いつけるレベルにまで行けるとも思えないけれど、それでも精一杯努力するしかない。
ルルは忘れ物をしないように、リストを何十回と確認しながら、一つ一つの持ち物を鞄に入れていった。




