3.誰か、誰でもいい(ry
久々の更新。溢れるパトスをこの小説に……込めた結果、キャラが変人の巣窟になりそう。
まぁ、いいかと悟りを開きつつお送りします。
あれから、どれくらい眠っていたのだろうか。
俺はとある大部屋にて目を覚ました。
すると、何か、目の前にメイドさんっぽい人が立っていた。ちなみに、茶髪ポニーテールの物凄ぇ美人さんである。ミヤといい勝負すんじゃねぇの。ほんと。ちなみに、そのミヤだが……俺の隣でぶっ倒れている。口の端から涎が垂れていて、正にマヌケ面という感じだった。少し拭っといてやろう。
ゴシゴシ。
ポケットからハンカチを取り出し、ミヤの顔を拭いていると、メイドさんがこちらに話しかけてきた。……あぁ、存在を忘れてたわけじゃないですよ?
「ようこそ、勇者さま」
えっ? 勇者様? 俺が? 人違いなんじゃないですか。つーか人違いですよね。人違いに決まっている。
なんなら、俺としては勇者よりも農民Dくらいでありたい。農民Aだとセリフ多そうだし。クエストで勇者と少し顔見知りになって、勇者を激怒させるために死亡フラグ立たされそうだし。
「えぇっと……人違いじゃないですかね……?」
「えぇっ?!」
いや、メイドさん。何であなたがそんなに驚いてんすっかね? 寧ろ、俺の方が『えぇっ?!』だよ。衝撃のストレートぶち込まれた気分だよ。一発KOだよ。あと、マジになって俺をジロジロと見ないで。思わず照れちゃうじゃんか。
「……すいません。ジロジロと見られると……」
俺が自分の方を見つめているのを少し不快に思ったのか、頬を紅潮させたメイドさんがそう言う。
それ、こっちのセリフなんですけどね。それとあからさまに嫌がられると、こちらとしても生涯に残る精神的な傷が残りそうなんで止めてもらえます? 傷物にされると、よそにお嫁に行けなくなっちゃいますから。
――まぁとりあえず、女性をジロジロと見ることが失礼であるというのには変わりがない。メイドさんから視線を外して、辺りを見回す。
今俺がいる場所は、どっかの部屋みたいだった。少なくとも、俺がさっきまでいた自室じゃない。どちらかといえば、中世ヨーロッパの洋館によくありそうな部屋、と言えば分かりやすいか。
どことなく高級感が漂ってる。そして、目の前のメイドさん。普段着の俺。俺の場違い感が半端ない。
このまま消えてなくなっても良いですかね? いや、何となく嫌な感じがしまくってますので。
――やっぱ、何者かにさらわれたんだろうか。俺。
それにしては、体を縛れてるとかは無いんだけど。
夢か?
そう思い、ほっぺを引っ張る。
………。
「痛っ」
普通に痛い。
どうやら、これは紛れもない現実らしい。
……ってことはあれか。やっぱり俺は攫われたのかもしれない。
じゃあ、どこに?
再び、視線はメイドさんの顔へ。
目の前のメイドさんの顔つきは明らかに日本人の者じゃない。西洋人っぽさがある。あと、やっぱり途轍もない美人だ。オットリ系だ。
「……あの、そんなに見つめられると……」
「あ、すいませ――」
やはりじっと見つめられるは恥ずかしいのか、メイドさんが頬を赤く染める。
女性に不躾な視線を送るのは確かに失礼だ。なので謝罪の言葉を入れようと――
「――発情してしまいます」
――したけど、何かそういう雰囲気じゃなくなった。
「発情っ?!」
いや、何ですんの、発情。訳わかんなんだけど?!
「いえ。何でも有りません」
そう言いつつ、相変わらず頬を赤く染めているメイドさん。
でも、何故だろうか。その頬の赤らみが今までのそれとはまったく別の物に思えてきた。
そして、メイドさんから注がれる視線。
これはヤバい。体の芯から溶かされるような……とりあえずやばい。主に俺の下半身がヤバい。
普通に放送規制に引っかかる。
………。
……………。
と、ともかくだ。
今は俺がどんな状況下にあるのか。それを確認しようとしたその時――
「はっ……知らない天井だ。そしてメイドさんだよメイドさん! あ、レイ君もいるではないかぁ! ここは一体どこだっ! どこなんだーい!」
――ヤバい。俺と一緒に攫われたであろう、バカな幼馴染の存在を忘れていた。
俺の隣に倒れていたミヤがガバリと体を起こし、騒ぎ立て始める。
「いや、ミヤ、落ち着け」
「これが落ち着いていられるわけがないよ! 未知との遭遇だよっ!? アンノウンだよっ!? 逆に何でレイ君は落ち着いてるの!」
「まぁ、騒ぎ立てても仕方ないからな」
「仕方なくないよ! 騒ぎ立てようよ! 騒ぎ立てまくって近所迷惑になる事は恐れちゃいけないんだよ、なんたって、人は生まれ以て自由の権利を与えられているんだからね!」
「お前の自由は根本的に間違ってると思うぞ」
というか、興奮しすぎているのか知らないが、俺の服を掴んでぶんぶん腕を振るのは止めて欲しい。服が伸びちゃうだろうが。あと、お前が何を言っているのか、さっぱり俺には分かりますん。
『るっせぇわ! 少しは静かにしろやっ?!』
ミヤがワイワイ騒ぎ立てていると、別の方向から鋭いツッコミが割り入って来た。
声が聞こえてきた方を振り返ると、今まで気が付かなかったが、俺と美弥がいる場所から少し離れた所にもう二人、人が倒れていた。男女それぞれ一人ずつ。
その内の男の方がガバリと身を起こした。
見た所、俺とあまり年は変わらない。
髪はサラサラで金色。顔立ちは日本人のような気もするし、北欧の特徴も混じっているような気がする。もしかすると、ハーフか何かなのかもしれない。ともかく、爽やか系の途轍もないイケメンである事は確かだ。クラスにいれば、中心人物になるようなタイプだ。
全体的に爽やか指数が高そうな感じがする。
「お前ら、人が寝てるっていう時に騒ぎ立てるとか、アホの極みか!?」
……まぁ、この、彼の口から連射される関西弁が、その爽やか指数を急激に下げているんだけど。ところで、爽やか指数って何なんだろうか。
俺が下らない事を考えていると、関西弁の爽やかイケメンがこちらをギンッと睨みつけながら、こちらににじり寄ってくる。
近くで見ると、その関西弁爽やかイケメンはデカかった。そして、少しがっしりしている。こんな奴相手にガチンコの真っ向な殴り合いで勝てそうな気がしない。
ここは穏便に済ませたほうがいい……そう俺は結論付けたが――バカは期待を裏切らなかった。最早、本能で動いているミヤが声を上げたのだ。
「おうおうおう、何だってんだい!」
何故か腕まくりをしつつ、立ち上がるミヤ。
「お、おい、今は――」
「そっちがやる気なら、私だって黙っちゃらんないよ!」
出来れば一生黙っておいてほしかった。しかし、ミヤはもう止まらない。ついには、こちらへと近づいた関西弁爽やかイケメンと向き合い、互いにメンチを切り始める始末だ。
はぁ……もう、何でこんな事になったんだろうか。誰か、誰でもいい。俺にバカな幼馴染を制御する方法を教えてほしい。
――尚、この間、例のメイドさんは倒れていたもう一人の女子を起こしにかかっていた。
そして、何故か顔を赤らめて発情していた。あれか、ここには変な奴しかいないのか。