2.バカな幼馴染はテスト勉強後もバカをする
「はぁ、とりあえず、今日の分は終わりって事で」
そう言いつつ、俺はすっかり凝り固まってしまった肩を回した。既に、部屋に置いてある時計の針は午後九時を指し示している。心なしか、結構眠い。
「いやー、レイ君のおかげで、基礎部分の三分の一は理解できたかもしれないよ。ありがとうね」
「あんだけ徹底的に教えたのに、基礎部分さえしっかり理解できなかった事が不思議でならないけどな。……まぁ、礼は受け取っとく」
「レイ君だけに?」
「黙ってろ」
そんな寒いギャグをかましてる暇があったら、分数の掛け算の公式を頭に叩き込めよ。分母同士と分子同士を掛け合わせるだけの簡単なお仕事さえできないって、どういう事だよ……いや、そもそも九九さえ完全に覚えてるのが怪しいところがあったんだけどな。
「これだけ勉強したんだもん、来週のテスト、目標の学年ワーストスリー脱却は十分見込めそうだね」
目標、低すぎるだろ。……いや、ミヤの学力を考えたら妥当っちゃ、妥当な目標ではあるんだが。
「まぁ、それはともかくとしてだな。どうする? 今日、うちで食っていくか?」
「………。」
「? どうした?」
返答を返さないミヤに視線を向けてみれば、ミヤは――
「……ねぇ、レイ君。空中にイルカが浮いていたら、どうする?」
――俺の背後の空間を茫然と眺めながら、そんなバカらしいことを質問してきた。
「真っ先に眼科に行くだろうな」
とは言え、ミヤのこんなバカらしい質問はもう慣れっこなので、適当に返しておく。
「それじゃあ、私、眼科に行った方がいいのかな?」
「は? どういう事だよ」
俺の質問に答えるように、ミヤは――スッと俺の後ろを指差す。
そして、反射的に振り向いた俺が見たのは。
――イルカ。
灰色に近い水色の体色を持ち、肌は鱗など無くツルツル。そして体の一番後ろに真横に広がった尾びれを上下に動かしている生き物。
――まさにイルカ。
空中を泳ぐように進み、「酒はどこじゃぁー」とおっさん臭い事を繰り返し喋っている生き物。
――イルカ……じゃねぇな。多分。
「………………………いや、これは脳内科にいくべきだろ」
突然現れた非現実的な光景に我が目を疑うが、おっさん臭いセリフを吐き、空中を泳いでいる体長一メートルほどのイルカが見えること以外、特に目立った不備は無い。
もう、これは一種の催眠術とかに近いのではないだろうか。多分、目に罪は無い。
よって、俺はミヤの言葉を訂正しつつ、再びイルカのような生物の方へと視線を向ける。
「さて、ここに取り出しましたのは、『バイソン』の掃除機――」
おいおい、待て待て。
何か、イルカが口の中から牛の頭みたいな物体を取り出したぞおい。
つーか、その取り出した奴、絶対にイルカの口から出せるような大きさじゃねぇよな?!「エグッ」とかえづきながら口から引っ張り出してたし。……そもそも、「バイソン」って野牛かよ。しかも、掃除機って『ダイソ○』かよ。絶対、その二つをかけてんだろ。
「――そして、スイッチを入れましてぇ~――」
俺のそんな内心のツッコミがイルカ(?)に届くはずも無く、胸ビレを器用に操って、イルカ(?)が牛の頭のような掃除機のスイッチを入れた。
「ブゥモォォォォォォォォォオオオオオオオオオ!!!」
すると、牛の顔のようなその掃除機の、牛の口のような吸い取り口が『ガポッ!』と開き、牛っぽい吸引音が発せられる。……いや、ダ○ソンとかけたんだったら、せめて吸引音は抑えろよ。そして、吸い取り口がどう見ても直径一メートルはあるんだけど、何故?
「――この掃除機でぇ――」
おいおい、まさか……
「――賢者様を吸い取っちゃう!」
そんなイルカ(?)の掛け声とともに、牛の口のようなバカでかいバイソン掃除機の吸い取り口が俺とミヤの方に向けられた。
「――っ?! ミヤっ! 逃げ――」
「ウッヒャアアア! 何だか、テンション上がってきた!」
そして、俺たちはバイソン掃除機の中へと吸い込まれていった……。
何か、ハチャメチャですね。
コメディ色だけを重視したら、こんな事になった。
……何故だ。解せぬ。