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グロテスク・ラブ   作者: 津田椿
序章
4/28

001

 芥川憩について、誰かにあれこれ教える。

 現実問題、僕の都合を考えて、それは絶対にないことである。

 もちろん、彼女がぼくの妹であるから、それが第一の理由だ。でも――それでも、他にも理由はある。数えきれないほどある。

 なんだって理由になるのだから、無限と言っていいだろう。

 何しろ、この情報化社会のご時世である。

 

 情報の価値が下降し続ける現代である。

 高度化していく情報に反比例してか、情報は低価値に成り下がる。金さえ払えば個人情報は売買されている。

 だから、芥川憩の家族であり、実兄であり、護衛的な立場にもある僕が――芥川黒が、彼女の情報を渋るのは至極当然だ。単純明快であり、それが普通なのだ。

 求める人間がいるのなら、そう理解していただきたい。

 

 僕の家族で、妹。

 芥川憩。

 一二月一〇日生まれの一五歳。中学を泣きながら卒業し、今年度からは晴れて高校生となる少女。


 前髪を除外して、散髪を滅多にしないため、艶のある黒髪はすでに腰のあたりまで伸びている。教師に目をつけられないように、学校内ではポニーテイルで通している。不変主義なのかは知らないが、憩が前述の二種以外の髪型をしている姿を、僕は未だ目撃していない。


 兄であるところの僕でさえも、彼女の変化を目にする機会はないのだ。

 比例してか、はたまた因果関係は無いのにか、顔の造りにも、れっきとした変化は表れない。


 大人しそうなタレ目に、ぱっちりとしたつぶらな瞳。小さな鼻と薄い唇、そして真っ白な肌。それらから女性的――というよりも少女的な可愛らしさを蓄えてた顔立ちである。小柄な体型も手伝って、実年齢よりも幼く見える。物静かそうな、触れれば折れてしまいそうな儚さを人に与えるのである。


 ――が、容貌通りの性格かと言えばそうではない。説明するのも嫌なくらいにエキセントリックなのだが、どうやらそれは、僕の前のみらしい。

 普段――つまり学校生活内では、容貌通りに物静かで喋らない。儚さは現実となっている。


 喋らない、のではなく。

 喋れない、のである。


『とある』事件の後日より、一度も喋っていない。心的ストレスからの『失声症』らしい。その症状の名を、当時は初めて知った僕だけど――僕に限らず、症状の概要を瞬時に理解できるとは思う。


 二週間、一度も言語を発していない彼女。

 手話を使用できる人間が減少してきた今、彼女はスマホで言語を行使する。



 常人よりも劣る人間がどういう扱い受けるかも、誰だって、概ね想像はつく。

 イジメ。

 主に疎外とか。

 主なストレスの要因がそれでないとしても、加担していないことはない。


 だから憩はそのままなのだ。

 同情。

 公共機関でのサービスとか。

 それがストレスを削減してくれるかと訊かれれば、そうではない。

 だから憩はそのままなのだ。


 彼女はいつまでの成長できないし、失声症を解消できないし、

 彼女を護る人間が必要なのだ。

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