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転落少女  作者: 戸崎祐
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プロローグ

先にこの話はタグにあるとおりループものです。自分はループものの小説を読んだり、ゲームをしたことはありませんが、挑戦してみよう、の意気込みだけで書いて行きます。どうか温かい目で読んでいただければ幸いです。

 ある晩の事。何もやることがなく居間で家族と一緒にテレビを見ている時の事だった。

 奇妙な事件簿特集の番組がテレビでやっていて、小学5年生の少年が何度も自分が同じ行動をする夢を見たというもの。実際にその行動が現実になり、少年は夢が怖くなり部屋に引き籠る日が続く。

 理由を知らない家族は、わが子のその状況が心配でならなかった。

 そして、少年は事件に遭遇する夢を見る。

 家に押し入ってきた人間が家族を殴って、強盗を働くというものだった。殴っていた人物は黒く姿がぼやけ性別がわからなかった、と少年は後に語る。

 その後、少年は自分の夢が現実になる事がないと思いながらも、家族に話さなきゃいけない責任に追われる。その夢から数日経ち、少年は家族に夢の事を話す覚悟を決め籠っていた部屋から抜け出した。

 家族はわが子の話を真剣に聞き、『大丈夫』と言い聞かせた。

 少年の心配な気持ちは治まらなかったものの家族の言葉に頷き、これからは家族と一緒に過ごす時間を多くした。

 それから数日して、少年は同じ夢を見た。突然入ってくる男。顔もはっきりとわかる。その男は、よく家に遊びに来る隣人の男だった。

 少年はその夢での事実を家族に話した。だが、親しい近所なだけに家族は少年の言葉を真に受ける人はいなかった。

 家族は少年に『大丈夫』、そういうだけだった。

 結果的にその翌日、少年が見た夢と同じ事が現実になり事件が起きた。

 家族は殴られ気を失うだけで済み、最悪の事態は免れた。

 それから、家族はわが子の夢の話を思い出し、警察に隣人の調査を依頼すると正しく犯人はその隣人の男だった、というもの。

 テレビで見ている自分が、この事件こそ夢じゃないかと思った。それほど現実味がなく宙に浮いたような話だった。

 その番組を見たあと、寝る支度をして自分の部屋に戻りすぐに眠りについた。バカバカしいと思った、あの予知夢が自分にもできないかな、と小さな希望を抱いて。





 昨晩は何も夢を見ることもなく、いつも通り学校へ行き、ただくだらない社会の授業を頬杖つきながら受けていた。

 窓際の席ということもあり、教室の変わらない背景を眺めるよりも、窓の外で流れる雲を見ることで暇を潰すことができた。

 それを毎日続けているのに飽きない自分は前世が雲だったのだろうか。


「ここの59ページのとこだが、出席番号が最後の横山。空に心馳せてないで授業に集中してくれよ」


 横山!?

 

「え、あ!はい!」


 ガタン!

 勢い余って椅子を倒してしまった。てか、何故今自分に当てるの?

 突然あてられたことと椅子を倒したことで、心が恥ずかしさで一杯になって声が震える。

 一応、聞き流し程度に授業を聞いていたため、読むページの間違いがなかったからよかったけど。


 「はーい、ありがとう横山」


 無事に音読が終わり、席に着こうとした。


 ――その瞬間だった。


 黒く長細い物体とともに肌色のものが見え、それが窓の外の上から下へと落ちて行ったのだ。

 音読を当てられたとき以上に声、そして息がつまり自分のまわりの空気が重くなるのがわかるのと同時に、自分の席周辺の女子が悲鳴を上げ始める。

 周りの高い叫び声に巻き込まれながら、思考は徐々に止まり、そして緩やかに景色が動き出す。


「みんな、静かに!今状況を確かめてくるから」


 そう言って、担任の先生は教室を飛び出していった。勿論、先生の言葉むなしく教室は一瞬の静寂の後、騒がしくなる。


 教室の窓から落下した女子生徒を見下ろす男子に、事の重大さを空気で知ってか震えだす女子。

 各々が自分の心に従った行動をとり、もはや先生一人で統率をとれる状況ではなかった。

「おい、あれB組の早島じゃね?」


「くみ、……く、みちゃんが……」


「いやぁ―――――!」


 酷いことだ。人生の中でこんな事件に遭遇することはそう多くないだろう。その現実に今戸惑い、何もできない自分がいる。


 なにを、なにも、どうする、なにする?


 教室内のざわめきを劈くようにサイレンの音がこだまする。やがて2、3台のパトカーが到着し転落死した女子生徒の回りを大きく黄色のテープで囲み、現場をブルーシートで覆っていった。その傍では先生方と警察の人が何か話をしていた。

 自分を落ち着かせるように両手でお腹を抱え込むように交差させる。そして、力を込め震えを小さくするように自己暗示をかける。


「大丈夫、大丈夫……」


 同じ言葉を5回程繰り返した時には、事故当時に比べ震えは収まりつつあった。

 息を大きく吸い込み深呼吸をする。

 また、大きく息を吸い込み深呼吸をした。

 体の中のざわつくような何かが外に出された気分になり、少しの脱力とともに震えは消えていった。

 これから、どうなるのだろうか。学校内での出来事なのだから、全校集会があるのだろうか。このまま、授業が行われるのだろうか。いや、それとも下校だろうか。

 そんなことを考えているところに、校内放送がかかる。


「全校生徒の皆さん、校長の稲垣です。落ち着いて話を聞いてください」


 突然の校内放送に、教室内のざわつきが少しずつ静まっていく。


「今学校内で事故が起こりました。その真相を確かめるためこれから警察の方とお話をします。皆さんは、各教室の担任の先生の指示に従って、自分の家に帰宅してください。くれぐれも、校外にいる記者の人などに、この事件については話さないようにしてください。それでは、みなさん落ち着いて行動してください」

 

 放送が終了すると、さっきより大きく教室内がざわついた。

 それもそう。こんな事態にすぐに適応できるほど賢くはないのだから。


 「――――そう。誰もが他人事」


 「え!?」


 自分のすぐ横から聞こえた女性の声に驚き振り向く。しかし、すぐ近くには誰もいなくて、クラスメイトも声がすぐ近くから聞こえるほどの距離にはいなかった。


 いったい、誰?


「他人事なんだね、君も」


「他人、……事?」


 まただ。さっきと同じ女性のような声が聞こえた。それに、他人事ってなんだ?


「君は、何も知らない。だから……だ、い……ね……」


「なんて、言ったんだ?」


 はっきりしていた女性の声は、霞のように消えていった。


 そして――――。





「さぁ、社会の授業を始めるぞ」


 聞き覚えのある声が教室から聞こえる。いや、聞き覚えのあるではなく担任の教師の声だ。




 で、ここは?



 廊下で一人立っている自分。どこにいるのかはハッキリとわかる。

 自分のクラスの外で立っているのだが、今は授業中みたいだ。

 つまり、このまま外にいれば遅刻扱いになってしまう。何故、教室内から廊下にいるのかはわからないが、教室に戻らなければ。

 だが、ドアに手を掛けようとしても手が透けたように取っ手を掴むことができない。何度もドアを引こうとしても手は掠めるだけだった。


「なぜ!?」


 いっそ、ドアを開けずにはいるか。少しこわばりながら、ドアの壁に手を近づけ透けることを確認する。そして、そのまま壁に吸い込まれるように教室の中へ入っていった。

 担任の先生は滞りなく授業を進めている。てことは、自分が先生から見えていないのか?

 ドアを開けずに教室後ろの席から入ってきた事に気づいている様子がない。視界としては十分開けているのだが。

 先生の授業を進める声を聴きながら、ゆっくりと教室内を見渡す。そこには、窓側の席で外の雲を眺めている自分がいた。


 これは、まさか――。


「ここの59ページのとこだが、出席番号が最後の横山。空に心馳せてないで授業に集中してくれよ」


「え、あ!はい!」


 そうだ。


 そうに違いない。


 俺は実体がない状態で、少女が転落する前の時間に戻っていた。



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