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永遠の一輪の花椿

二話しかありませんが読んでくれたら幸いです。

一つの赤い椿が咲いた。


黒髪の長髪の女の子は一人でその花が尽きるのを

枯れるのをただ単に見つめているだけ―――...

赤い着物と白い着物を何枚も優雅に着こなし

手にはマリを持ちながら地面に枯れ行く儚い花を

哀れんだ瞳で見ていた。


「姫。津紅遊つくゆ姫、こんな所にいらしたのですか。」


夕夜ゆうや...」


14くらいになるだろう、まだ幼き顔の姫は城から少し離れた庭でマリで遊んでいたのだが。


「椿の花が...とても寂しそうに泣いていたから...一緒にお話してたの...」


「...花は...喋りません。姫、そろそろ夢から覚めてはいかがですか。」


津紅遊ひめの使い人となった夕夜は姫とおんなじ14歳。夢見がちな(と、言うより強い思い込みだと皆は思っている)この姫のお供であり、遊び相手であり、よき理解者である。


「貴方達は何も解ってないわ...」


彼女はその幼い顔とは裏腹に凛とした空気を漂わせ、キリッと鋭い表情をしながら静かに言い捨てた


「見ようとしないから何も見えない。聴こうとしないから何も聴こえないのよ...哀れね...」


「姫、やはり、貴女の言っている事は今でも解りません。ですが...私は...」


すると、彼女は静かに夕夜の元へ近ずき、手を差し伸べた。雪のように真っ白い肌と、花の匂いでも移ったのか、彼女の周りは甘い透き通る匂いが感じられた。

姫はゆっくり、しかし確実にほくそ笑みながら嬉しそうに口を開いた。


「貴方だけよ洸流来こうるらい夕夜...私を私として見て、親切に接してくれるのは...有り難う...もう少ししたら...貴方もきっと解るはず...」


その笑みに心奪われてか、彼は気ずかぬまま姫の手を握っていた。

そう、彼は姫の笑顔にメッポウ弱い。


「ほら、見て御覧なさい?あんなに悲しそうにしていた椿たちが...楽しそうに笑ってるわ...」


見れば少し萎れていた花が、張りを見せている。薄かった赤い色も少しだけ前の色を取り戻したみたいだった。ほんの少しだけだが。


「...姫、貴女の言う花が楽しそうに笑っていると言う表現、少しだけ解った気がします...」


そう言う言葉を聞いた途端、津紅遊ひめは驚きの顔になった。でも、すぐさま笑顔になった。それこそ、花のように優雅で、可憐で、美しい笑顔


「ずっと...同じ時を過ごす事は出来ないのだろうけど...」


すこし、悲しそうに言うが、また顔を上げながら笑顔のまま続けた


「違う時に、また一緒に...笑い合える事を...願うわ...」


それは、敵わぬ時間と過ぎ行く時を解っていた者の言葉だった。その言葉達が夕夜の心奥深く刻まれ、彼は決してその言葉達を忘れる事はなかった。


その言葉の意味する事が解ったのは...


...―――彼女が永遠に眠りについた後だけだった―――...



最初で最後の15歳の誕生日、彼女へのプレゼントに渡した椿の髪飾りと共に永遠の別れを彼、夕夜はボウっと見つめながら行なっていた。


ふと、思い出したこと...


『姫、何故に香りもしない、すぐ地面に落ちて朽ちてしまう椿の花がお好きなのですか?』


ある日、何となく聞いてみた事があった。そうしたら彼女は静かに微笑みながら、しかし、どこか苦しそうに、儚げに椿の花を見つめながら言った言葉


『...私と...同じだから...』


だから、好き。地味でも、自分だけの場所で、自分の思うまま花を咲かせる。たとえそれが一時の祝福だけであったとしても、きっとそれが本当の自分の時間だろうから...―――


だから、私は私が好きで、生きとし生ける全ての者たちも愛でるの。


あの時は何の事を言ってるのか見当もしなかったけど...


「姫、貴女の事は...忘れません。」


たとえ、誰一人として貴女を忘れてしまっても――...


たとえ、この身が朽ちて滅びようとも―――...


「私は...貴女のことを思い続けます...魂にこの思いと記憶を刻み、貴女の事を...」


ありがとう...


「!ひ、ひめ...?」


一瞬、そんな姫の声が聞こえた気がした。あの全てを包み込むような、優しいゆったりとした声...


しかし、過ぎるは一厘の風と...椿の花びらだけ―――...


嗚呼、もうあの声を聞くことは出来ないのだ...あの笑みも、仕草も全て―――...


楽しそうに青い清みきった空に舞う赤い花びらは宙を軽々上っていき、そして...地に着かず、そのまま風によってどこかへ運ばれていった...


いつから姫は自分が不死の病で先が遠くない事に気ずいていたのか...

きっと、最初からだろう...自分を愛していた人だから。

他の人より自分の時間が短くても、それを精一杯生きてた素晴らしいお人...人を妬まず、羨ましがらず、生きる物たち全てを愛した人だから。


そして、私に沢山の掛け替えのないものを残してくれたのだ...


姫の眠りから幾つか年を重ねた日、唐突に夕夜は空にいるであろう姫に語りかけていた。聞いているかどうかはまったく解らなかったが、彼は気にしていない。


「姫、書物を書こうと思いまする。貴女のくれた全てを、書き記しましょう。後世にも貴女がいたことを...貴女がいてくれたことを...その事についての感謝と私の気持ちを...さすれば、貴女はきっと思い出の中で生き続ける事でしょう...」


少し、馬鹿らしいですよね...それでも私は...


永遠に貴女を思い続ける―――...




(終わり。てか、儚すぎ!嫌だこんな終わり方!!と、言う訳で...違う短編で続編、書きます!!)


再び舞い降りる花びらへ続く


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