愛ゆえの嫉妬だと思いきや、元婚約者は浮気していました
「アメリア、さっきの男は一体誰だ? なぜあんなに親しげに笑いかける。僕という婚約者がありながら、他の男に鼻の下を伸ばすなど恥を知れ!」
ぎりっと骨が軋むほどの力で手首を掴まれて、私はその痛みにさえ胸を甘くときめかせていた。
目の前で美しい顔を般若のように歪めているのは、私の婚約者である伯爵家の次男レイナード様だ。
「っ、痛いですわ、レイナード様。あの方は従兄のトーマスです。先日、新婚旅行から戻ったので、そのお土産をいただいただけで……。」
「従兄だろうが男は男だろ! お前はいつもそうだ、警戒心がなさすぎる。僕がどれだけハラハラしているか分かっているのか!? 」
王宮主催の華やかな夜会。
その喧騒から外れた薄暗いテラスで、レイナード様は激しい呼吸を繰り返しながら私を睨みつけている。
そのあまりの剣幕に、周囲の令嬢たちなら怯えて泣き出してしまうかもしれない。
けれど、その当時の私は怒りを感じるどころか、ぽっと頬を赤く染めてうっとりと彼を見上げていた。
ああ、レイナード様は私のことでこんなに激しく嫉妬してくださっているのね。
お恥ずかしい話だが、私は彼に盲目だった。
絵に描いたような「脳内お花畑令嬢」だったのである。
我が家はしがない子爵家で、対する彼は格式ある伯爵家の次男。
私はいつも彼の意見に従い地味で露出の少ないドレスを選び、他の男性とは目も合わせないように気をつけていたが、それでもレイナード様はとにかく私への独占欲が強かった。
ある時は、少しでも他の男性と挨拶を交わせば「浮気をしているんじゃないか」と何時間も問い詰められ、またある時は、街を歩けば「男を誘惑するような歩き方をするな」と怒り狂う。
友人たちからは
「アメリア、流石にその束縛は異常よ?」
「大切にされているというより、監視されているみたいだわ。」
と何度も心配された。
けれど、私は頑なにその忠告を拒んだのだ。
「そんなことないわ。レイナード様は、私を愛しすぎるがゆえに不安になってしまうのよ。私はレイナード様を信じているわ。」
そう本気で信じて疑わなかった。
「ごめんなさい。私の不注意でしたわ。トーマスにはもう、私から連絡を控えるよう伝えます。お土産も、お父様に渡しておきますわ。」
「……ふんっ、分かればいい。お前は僕だけを見て、僕の言うことだけを聞いていればいいんだ。」
ぷいっと顔を背けたレイナード様。
その時、彼の視線が妙に泳ぎ額に薄っすらと汗が浮かんでいたことに、どうして私は気づけなかったのだろう。
心理学的に、やたらと恋人の浮気を疑い過剰に束縛する人間にはある共通のパターンがあるという。
それは、「自分自身が浮気をしている、あるいは浮気をしたいと思っているから、相手も同じように自分を裏切るのではないかと常に怯えている」という、極めて身勝手な自己投影。
私は知らなかった。
彼の激しい嫉妬の正体が、愛などではなく、ただの後ろ暗さの裏返しだったということを。
私のおめでたい脳内お花畑が、跡形もなく枯れ果てバリバリと音を立てて砕け散ったのは、それから一ヶ月後のことだった。
その日、私はレイナード様へのサプライズを計画していた。
普段は束縛ばかりされて自由に出歩けない私だったが、その日はたまたま王都で今もっとも入手困難と言われる超高級菓子店の予約枠をもぎ取ることができたのだ。
手に入れたのは、一ヶ月待ちが当たり前の王都で評判の焼き菓子。
香ばしいバターと最高級の蜂蜜を使ったそのマドレーヌは、貴族たちの間でステータスシンボルとされるほどの逸品だった。
「これをお持ちしたらレイナード様はどんなに喜んでくださるかしら!」
その日、レイナード様は「ひどい風邪をひいてしまったのでしばらく会えない」と私に連絡してきた。
私は彼をとても心配し、何か少しでも元気になるものを届けたいと考えそこで、たまたま予約枠をもぎ取ることができた王都で今もっとも入手困難と言われる超高級菓子店の焼き菓子を携え、彼の実家である伯爵邸へと向かったのだ。
一ヶ月待ちが当たり前の、香ばしいバターと最高級の蜂蜜を使ったそのマドレーヌは、病床の彼でもきっと喜んでくれるはずだと信じて。
伯爵邸に到着すると、出迎えてくれた老執事があたふたとした様子で私を止めた。
「あ、アメリア様……!?申し訳ありません、レイナード坊ちゃまは『風邪がうつるといけないから、絶対に誰も部屋に入れるな』と、我々使用人すら遠ざけておいでなのです。」
それを聞いた私は、なんて健気な人なのだろうと感動してしまった。
風邪をひいて心細いはずなのに、私や周囲の身を案じるなんて。
「それならば、私が直接お部屋の前に焼き菓子を置いておきますわ。ノックだけしてすぐに離れますから、案内は結構よ。」
婚約者として、邸の人間とも顔なじみだった私は使用人の制止を笑顔で振り切り一人で奥にあるレイナード様の私室へと向かった。
驚く顔が見たくて、足音を立てないようにそっと廊下を進みレイナード様の部屋の前でドアのノックをしようとした、その時だった。
しっかりと閉まっているはずの豪華な扉の奥から、くすくすと品のない妙に艶っぽい女の笑い声が漏れ聞こえてきたのだ。
「レイナード様ったら意地悪だわ。今日もあのお固くて退屈な婚約者に『風邪だから来るな』って嘘の連絡をしたの?」
「ああ、『レイナード様が病気だなんて大変だわ!』って、今頃部屋で僕を心配して泣いてるんじゃないか? そうやって遠ざけておけば、僕がこうして君と僕の部屋で朝まで遊んでいても、疑いもしない。」
聞き間違えるはずもない。私の愛しい婚約者の、軽薄な声だった。
「でも、あのアメリア様、いつも地味で退屈なドレスばかりですわね。婚約者とはいえ、よくあんなお堅い方とお付き合いできますわ。」
「あいつは本当に扱いやすいんだ。僕が少し怒れば『愛されてる』と勘違いして、僕の機嫌を取るためにどんどん地味になっていく。子爵家とはいえあそこは鉱山投資で金を蓄えているから、結婚したら適当に泳がせて、実家から金を引っ張るための道具にするさ。そんなことより、今日はこのまま朝まで僕を楽しませてくれるんだろ?」
頭のてっぺんから冷水を浴びせられたような、いや、全身の血が凍りつくような感覚だった。
愛されていたんじゃなかった。
自分が裏で泥沼のような浮気をし、我が家の財産を騙し取ろうとしている大嘘つきだから、私のことも「いつか自分を裏切るのではないか」と疑って縛り付けていただけ。
自分がクズだから、私のことも同じようなクズだと疑っていただけ。
気がつけば、私は無表情で扉を思いきり蹴り開けていた。 バンッ!!と凄まじい音が響き渡る。
頭のてっぺんから冷水を浴びせられたような、いや、全身の血が凍りつくような感覚だった。
愛されていたんじゃなかった。
自分が裏で泥沼のような浮気をしているから、私を泥棒扱いして縛り付けていただけ。
気がつけば、私は無表情で扉を思いきり蹴り開けており、バンッ!!と凄まじい音が響き渡る。
「きゃああっ!?」
「あ、アメリア!? な、なぜここに……っ!」
ソファーの上で、肌も露わにしがみついていたのは、社交界でも浮気性で有名な男爵令嬢。
そして、私の愛しいはずの婚約者。
泡を食って飛び起き、服をかき集めるレイナードを私は冷え切った目で見下ろした。
「お邪魔でしたわね。泥棒猫さんと、脳みそまで風邪でとろけたレイナード様。お風邪でお辛いようですから、王都で大評判の焼き菓子を差し入れに持ってきて差し上げましたのよ。」
「あ、アメリア、これは誤解だ! 彼女とはただのビジネスの話を――」
言い訳の途中で、私は腕を思いきり振り抜いた。
ずっしりと重量のある、最高級の木箱に入った焼き菓子一式がレイナードの顔面にクリティカルヒットする。
ゴッ!!!
「ごふっっ!?」
「お口に合いましたかしら? 婚約は今この瞬間をもちまして、永久に破棄させていただきます。二度と私の前に姿を見せないでくださいませ。」
私は踵を返し、一筋の涙も流すことなく大股でその場を後にした。
あの修羅場から二週間。
婚約解消の手続きは、我が家の弁護士を通じて一気に進むかと思われた。
しかし、事態は思わぬ方向へと歪められていく。
ある日を境に、社交界で私の耳におぞましい噂が飛び込んでくるようになったのだ。
『聞いた? 子爵家のアメリア嬢、実はとんでもない浮気者だったらしいわよ』
『ええ、なんでも別の男と密会しているところを、婚約者のレイナード様に現場を押さえられたとか……』
『まあ、恐ろしい。レイナード様があれほど彼女を心配して束縛していたのは、彼女の不貞癖を知っていたからなのね。可哀想に、裏切られた伯爵家は被害者だわ』
完全に、天と地ほども真逆である。
だが、悲しいかな我が家は発言権の弱い下位の子爵家で、対する相手は社交界に強いコネを持つ伯爵家だ。
彼らは自分たちの息子の不祥事を隠蔽し、あわよくば我が家から違約金をむしり取ろうと、裏で莫大な金を掴ませて嘘の噂を流したのだ。
「すまない、アメリア……。私の力が足りないばかりに、お前を守ってやれない……。」
書斎で、父が髪をかきむしりながら涙を流していた。母もハンカチを握りしめ、ただただ咽び泣いている。かつて我が家を訪れていた貴族たちは、潮が引くように去っていき、お茶会の招待状は一通も届かなくなった。
「いいえ、お父様、お母様。悪いのはあのレイナード様です。私たちは何も間違ったことはしておりません。」
私は毅然と微笑んで見せたけれど、胸の奥は悔しさと怒りで張り裂けそうだった。
そして訪れた、王宮主催の大晩餐会。
これは王命に等しい強制参加の夜会であり、逃げることは許されない。
私たちが会場へ一歩足を踏みえた瞬間、きらびやかな広間の空気が一変しひそひそという耳障りな囁き声と、冷酷な蔑みの視線が容赦なく私たち一家に突き刺さる。
「まあ、よくも平気な顔で出てこられたものだわ。」
「恥知らずな子爵令嬢ね。」
遠くの雛壇近くでは、レイナードが例の男爵令嬢をこれみよがしに侍らせて、シャンパングラスを片手に勝ち誇ったような醜い笑みをこちらに向けていた。
「……お父様、お母様、申し訳ございません。気分が優れませんの。陛下への挨拶だけ済ませたら今日はもう切り上げたいわ。」
これ以上、大好きな両親が衆目で晒し者にされるのを見ていられなかった。
私たちは壁際を這うようにして会場の重い出口の扉へと歩き出すと、その哀れな後ろ姿を見て会場からはくすくすと下品な笑い声が漏れる。
万事休す。
私たちはこのまま、社交界の底へと沈むしかないのかしら。
そう絶望し、扉に手をかけようとしたその時だった。
「――夜会はまだ始まったばかりだというのに、我が国の至宝たる美しい令嬢がなぜこのような寂しい場所でお帰りになろうとしている?」
低く、チェロのように深く響く極上の美声。
その声が響いた瞬間、会場のすべての雑音がまるで魔法で消されたかのように一瞬で静まり返った。
驚いて振り返ると、そこには社交界の光をすべて集めたかのような輝きを放つ青年が立っていた。
月の光を紡いだような極上の銀髪。
すべてを見透かすような、深く冷徹な紫の瞳。
彫刻のように整った美貌に仕立ての良い豪奢な夜会服が恐ろしいほど映えている。
彼こそは、この国の最高権力の一角である公爵家の若き当主、ギルバート・フォン・マルガリータ閣下だった。
王族さえも一目を置く雲の上の存在。
そんなお方が、なぜか真っ直ぐに私たちの方へと歩いてくる。
あまりの威圧感に、周囲の貴族たちが波が割れるようにして道をあけた。
「ギ、ギルバート公爵閣下……っ!?」
父が驚愕のあまり声を震わせ、慌てて礼をとろうとする。
しかし、ギルバート様はそれを手で制すると驚くべきことに私の目の前で優美な動作で片膝をつき、私の冷え切った手を取ってその大きな手のひらで包み込むと、手の甲へと深くリップ音を響かせて情熱的なキスを落とした。
「な、何を……っ!?」
「やっと見つけた。……目の下に隈まで作ってずいぶんと酷い顔色だ。一体どこの不届き者が僕の宝物をこのように虐げたのかな?」
その低く甘い声は、静まり返った会場全体に隅々まで響き渡った。
「え?」
「僕の宝物?」
会場中の貴族たちが、我が目を疑ってざわざわ混乱している。
もちろん、私が一番混乱していた。
そこへ、状況を理解していないあまりにも空気の読めない男が割り込んできた。
レイナードの父親の伯爵だ。
彼は公爵に媚びを売る絶好の機会だと思ったのか、下卑た笑みを浮かべてしゃしゃり出てきた。
「ギルバート閣下! お戯れがすぎますぞ。その女は、我が息子のレイナードを裏切り、別の男と不貞を働いて婚約破棄された、泥泥しくもふしだらな女です! 公爵家が関わるような相手では――」
ギルバート様は、ゆっくりと立ち上がった。
膝をついていた時の優しい笑みが一瞬で消え去り、その紫の瞳に、絶対零度の冷徹な光が宿る。
彼から放たれた凄まじい覇気と威圧感に、伯爵はひっと短い悲鳴を上げて一歩後退った。
「不貞、ね。……伯爵、お前の耳は飾りか? それとも、自分の息子が流したあまりにもお粗末で三流な嘘を本気で信じている哀れな脳みそを持っているのか?」
「な、何をおっしゃいますか! 事実、アメリアは他の男と……!」
今度はレイナードが色をなして反論しようとする。
しかし、ギルバート様は冷ややかな蔑むような笑みを浮かべ、懐から一通の王室の刻印が入った重厚な書状を取り出した。
「お前が男爵令嬢と、伯爵邸の私室で密会していた詳細な日時、および記録。さらには、避妊具の購入履歴からベッドの上での会話まで記録された、近衛直属の隠密による目撃証言書だ。……ついでに、お前の実家が『アメリア嬢が不貞を働いた』という嘘の噂を流すために、情報屋と新聞社に金を払った、決定的な領収書の写しもあるが。……全員の前で、読み上げてあげようか?」
「な、ななな……な、なぜそれを閣下が……っ!?」
レイナードの顔から完全に血の気が引いており、真っ白を通り越して、もはや土気色。
隣の男爵令嬢はガタガタと震え、伯爵は泡を吹いて卒倒しかけている。
会場は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。
「まあ、じゃあ、あの噂は全部嘘だったの?」
「伯爵家が自分たちの浮気を隠すために、子爵令嬢を嵌めたのね。なんて卑劣な……!」
手のひらを返したように、周囲の視線が伯爵親子を突き刺す。
「なぜって? 聞くまでもない。私はお前のような人間が彼女の婚約者という椅子に座っていることが死ぬほど不愉快だったんだよ。だから、お前が彼女を裏切る瞬間を、今か今かと、確実に社会的に抹殺できる証拠を揃えて、ずっと待っていた。」
ギルバート様の目が、獲物を追い詰めた肉食獣のように爛々と輝く。
そう、 彼は私がレイナードと婚約するずっと前に一度だけ王宮の庭園でお茶を共にしたことがあった。
あの時から、彼は私を……?
「子爵家への不当な名誉毀損、および王宮内での虚偽の流布、さらには我が国の大切な貴族令嬢への精神的迫害。……伯爵家、覚悟はできているね? 明日には君たちの資産の差し押さえと、爵位剥奪の審議が始まる。」
「あ、ありえない! 騙されるな! アメリアは浮気性なんだ! いつも僕を嫉妬させて楽しんでいたんだ!」
往生際悪く叫び、私に掴みかかろうとするレイナード。
私はその前にすっと一歩踏み出し、冷徹な笑みを浮かべて言い放った。
「レイナード様。あなたがやたらと私を疑い、束縛していたのは、ご自分が浮気をしていたから。……ただの、醜い同族嫌悪の投影だったのですね。他人も自分と同じように嘘をつくと思い込んでいたなんて、本当に、哀れで愚かな方。」
「ア、アメリア……っ!」
「さあ、アメリア。あんな薄汚い汚物は近衛に片付けさせて、私と踊ってくれるかい? 君の汚された名誉は、これから私の愛で、すべて最高に美しく塗り替えてあげるから。」
ギルバート様が、まるで宝物を扱うかのように優しく手を差し伸べる。
「喜んで、閣下。」
私はその手を取り、最高の笑顔で優雅に一礼した。
ちょうど、会場に華やかな円舞曲が流れ始める。
私たちがフロアの中央へと進む中、背後ではレイナードと伯爵、そして男爵令嬢が駆けつけた近衛兵たちに泥人形のように引きずられ、会場から連行されていった。
その姿は、これまでの鬱憤をすべて吹き飛ばすほど最高に滑稽で、最高にスカッとするものだった。
あの劇的な夜会から、数ヶ月が経った。
伯爵家は、流布した嘘だけでなく過去の公金横領や、我が子爵家に対する詐欺まがいの金銭要求など、すべての余罪がギルバート様によって徹底的に暴かれあっという間に爵位を剥奪されて平民へと没落した。
レイナードと例の男爵令嬢は、全財産を没収された上で、過酷な辺境の開拓地へと送られ毎日泥にまみれて働いているらしい。
自業自得である。
一方、我が子爵家は名誉を完全に回復。
それどころか、公爵家からの手厚すぎる庇護と経済的支援を受け、かつてないほどの繁栄を迎えていた。
父のやつれた顔はどこへやら、今では毎日ツヤツヤとした顔で新事業に勤しんでいる。
そして、私はというと。
「アメリア。今日のドレスは少し、ほんの数ミリほど胸元が開きすぎているんじゃないかい? 他の男に君の美しい肌を見せるなど、私の精神衛生上よろしくない。あ、窓の外を横切った庭師が、君の部屋の方を見た気がする。国家反逆罪で処刑してこようか?」
「ギルバート様! 冗談でもそのような物騒なことをおっしゃるのはおやめください!」
マルガリータ公爵邸の、薔薇が咲き誇る美しい庭園で、私は頭を抱えていた。
私は現在、ギルバート様と正式に婚約し彼の邸で花嫁修業をしている身なのだが……。
この公爵様、元婚約者のレイナードが塵に見えるほどの超絶ヤンデレ過保護・独占欲の化身だったのだ。
「冗談? 私が君のことに関して冗談を言うと思うかい? 君の髪の毛一本、視線一つ、吐き出す吐息に至るまで全て私のものだ。ねえアメリア、今日も明日も、一生、私だけを見て、私のことだけを考えて欲しい。」
ギルバート様は私の腰を強引に引き寄せると、誰もが見惚れる美貌をこれでもかと近づけ妖しく光る紫の瞳でじっと私を閉じ込める。
元婚約者の嫉妬は、「自分の罪悪感からくる八つ当たり」だった。
けれど、ギルバート様の嫉妬と束縛は「ただただ、私への質量が重すぎる純粋な愛」なのだと、肌が痛いほどに理解できる。
彼にどれだけ縛られても、不思議と嫌な気持ちにはならないのだ。
「分かっておりますわ。私は髪の先から爪の先まで、ギルバート様だけのものです。」
私が降伏の笑みを浮かべて答えると、彼は満足そうに目を細め、私の唇を深く、甘く奪った。
元・脳内お花畑令嬢の私は、今、本物の大輪の薔薇のように、激しくも愛おしい溺愛に包まれて、最高に幸せな毎日を過ごしています。
【完】




