表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/35

第5話 弟子、個室ゲット

「……まず、そこを片付けろ」

師匠が指差したのは、机の横に積まれた本の山だった。

「床が見えるようにしろ」

「はい!」

弟子としての最初の仕事だ。腕まくりをして本の山に手を伸ばす。

部屋は思っていた以上に散らかっていた。紙片、書籍、衣類、文具、よく分からない魔法道具のようなものまで床に広がっている。収納らしい収納はほとんどない。

まず衣類を畳む。紙片はまとめて一か所に。道具類も種類ごとに寄せる。

本棚だけはあったので、そこに本を戻していく。

大きさを揃えて、背表紙の色順に並べる。見た目が整うと気持ちがいい。

やがて床が見えてきた。

雑巾を絞って拭き始める。思っていたよりも埃が多い。

しばらくして背後に気配がした。

振り返ると、師匠が本棚を見ていた。

「なんでこんなメチャクチャな並びなんだ」

「え?」

雑巾を持ったまま立ち上がる。

「おかしいですか?大きさと表紙の色で並べたんですが」

少し沈黙があった。

「……文字が読めないのか?」

「あっ……、はい。でも!自分の名前は書けます!」

思わず胸を張る。

前世の文字なら読めるし書けるし、なんなら国語の成績はいい方だった。漢検も準二級を取っていたくらい得意だった。……今は何の役にも立たないかもしれないけど。

「ならば、文字の習得も必要だな」

「はい」

「夜は文字を学べ」

「えっ、教えてくださるんですか!」

「それぐらいは自分でやれ。魔法の修行には入らん。教本ぐらいは用意してやる」

「ありがとうございます!」

もうちょっと寄り添ってくれてもいいんじゃないかと思うけど、追い出されるわけにはいかない。とにかく『素直で良い弟子』ムーブを貫く。

大丈夫。中学高校と柔道部であのしごきに耐えてきた私だ。この程度でめげたりはしない。


片付けが終わって改めて部屋を見る。

ここはワンルームの作りだった。

私はどこで眠ればいいのだろう。流石に床に転がるのは避けたい。

「あの、師匠。私はどこで休めばいいでしょうか」

「ん?ああ、そうか。部屋がいるな」

そう言うと師匠は外に出た。

地面に魔法陣を描く。

次の瞬間、ガチャガチャドカドカと大きな音が森に響いた。

数分後。

増築が終わっていた。

凄すぎる。村のみんなは20人の半日がかりで納屋一つだったのに。

中に入って確認すると、先ほどのワンルームの隣に廊下と四畳半ほどの部屋が追加されていた。

中には簡素なベッドが一つ。

「これでいいか」

「ハイっ!すごくいいです。ありがとうございます!」

個室。しかも立派なベッド。

クレシア、個室は初めてです。嬉しい……!

とはいえ、布団や着替えや収納、欲しいものはまだたくさんある。けれど部屋を一瞬で作ってもらったのだから、これ以上注文する度胸はない。前世の日本人気質というか、遠慮と忖度が顔を出す。

ヴァレリウス様の部屋にはふかふかした布団と枕があった。魔法で出したのか、街で買ったのかは分からないけれど……羨ましい。

部屋を見回していると、背後から声がした。

「殺風景だな」

ええそうですね。ベッドだけですからね。

「寝具は必要だな」

そう言って自室から布と薄い毛布を持ってきてくれた。

魔法では出ないんですね。

「とりあえず今日はこれで凌げ。明日、街へ買いに行けばいい」

「ありがとうございます!」

薄い毛布だけれど手触りがいい。高級品の気配がする。


その後、今日の買い出しで手に入れたらしいパンと干し肉を食べた。

硬いベッドと高級毛布。

森の夜は静かだった。

こうして、推しとの生活が始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ