第2話 大魔法士様の弟子を目指す!
『宮廷魔法士シリーズ』
豊かな魔力を持った少女が魔法士となり、国を支えて活躍する物語。
小説は確か10巻ぐらいまで出てたはずだけど、私は未読。コミックスは最新刊の五巻まで読んでいた。
人気声優の名前が並ぶ「アニメ化決定!」の帯を見て、密かに期待していた作品だった……けど始まる前におそらく世を去ってしまった。
ヴァレリウス様は序盤で活躍する大魔法士で、主人公リリアナの先輩に当たる人。全属性の魔法を操れるチートキャラだ。
宮廷魔法士筆頭だったけど、コミックス3巻の終わり頃に陰謀に巻き込まれて失脚。その後しばらく出てこない。再登場あるだろ、と思ってたけど、どうなったかはわからない。
自分の最推しは、そのあと登場する儚げな美貌のエリック王子だった。けれどヴァレリウス様も、間違いなく推しの一人。強いイケメン、いい。
しかしこれはなんという幸運。
前世記憶が戻ってから、ここは一体どういう世界なんだと不思議に思っていたが、なるほど。これが「転生」というやつか。
スライムやらモブやら悪役令嬢やら、いろんな立場の転生があると聞くけど、これはかなり当たりを引いた気がする。
だって、田舎娘だけど割といい感じの外見だし、魔力量チート。
そして今ここに、こんな山村の近くにヴァレリウス様がいるということは、あそこだ。陰謀に巻き込まれて失脚して、隠遁生活を送っている頃にあたるということだ。
そして出会った私の魔力は暴走寸前。これは……つまり展開的に、あれだ。美味しい感じになるやつ。
「この娘の魔力は、かなり大きいな」
そう、そうなんですよ。ですから
「このままでは村の生活に支障が出るだろう」
やっぱり、そうですよね!……じっと黙って流れを待つ。
「街の魔法士のところへでもやって、制御を教わった方がいい」
あれ? いや、そうじゃなくてですね。流れとしては……
「あの、あなたは一体……」
母さんナイス!ここは一旦、情報を確定させたいところ。
「私は、元宮廷魔法士だ。少々訳あって、この先の森で暮らしている」
やはり間違いない。本物のヴァレリウス様ご本人。
村人たちがざわつく。それはそうだ、宮廷魔法士なんてお目にかかる機会はほぼない。なんでこんなところに?ってなるのも無理はない。
でも今問題はそこじゃない。
「ともかく、この娘を放っておくのは危険だろう。早めにまともな魔法士に預けて、抑える方法を教わることだ」
そう言うと、ヴァレリウス様は背を向けて歩き出す。
まずい、そうじゃない!
「あのっ、魔法士様!」
「うあっ?」
追い縋ろうとしてつんのめって、ついヴァレリウス様の外套を掴んだが、そのままこけてしまった。ヴァレリウス様は引っ張られてそのまま尻餅をつき、抱えていた袋からりんごが転がり落ちた。
「あああっすいません!」
「……なんなんだ」
立ち上がり、裾を払いながら無表情から不機嫌な顔に変化する。
私はりんごを拾って差し出しながら、上目遣いで言った。
「魔法士様、私を弟子にしてくださいませんか?」
「は?」
「ご覧の通り、魔力がうまく使えなくて困っているんです。身の回りのお世話でもなんでもしますから、私に魔法の使い方を教えてください!」
父さんと母さんが慌てて止めに入る。
「クレシア、何を言ってるの、そんな急な」
「だって、街の魔法士に教わるなんて、そんなお金のかかることできないわ!宮廷魔法士様に弟子にしていただけたらきっと魔力も制御できるようになると思うの」
「しかし……」
両親の心配はわかる。
一人暮らしの男のところへ若い娘が弟子入りするなんて認めたら、噂が立ってもう嫁にはやれなくなる。私の未来を心配してくれているんだ。
「私の身を心配してくれてるのは嬉しいわ。でもね、それよりも私の魔力を抑える方が大事よ。誰かを怪我させるかもしれないなんて、耐えられない」
「おい」
ヴァレリウス様が不機嫌3割り増しの声で割って入ってきた。
「弟子にするつもりはない」
「そんなことおっしゃらずに。買い物も私が行きますし、食事の支度や掃除や洗濯もできます。後悔はさせません、どうか!どうか私を弟子に!」
粘る私に村のみんなも両親も驚いている、というか呆れている気配がビンビン伝わってくるが、この機を逃すわけにはいかない。
「一人で暮らせている。弟子は不要だ」
「でも、街の魔法士に通うお金はないんです。このままでは村に迷惑になるばかりです」
目に涙を浮かべて訴えてみる。
この人は無表情だけど本当はすごく優しい。それは知っている。だから押せばなんとかなるはず。
「どうか、お願いします。この村を助けると思って」
手を合わせて涙ながらに祈る。お願い、私を拾ってください!
魔力いっぱいあります!!
ヴァレリウス様はチラと私を見てから目を逸らした。
「…………好きにしろ」
よっしゃーーー!!心の中で盛大にガッツポーズをきめる。やった!推しの弟子。最高!
振り返って父母を見る。
「父さん、母さん。私、魔法士様についていくわ。村のみんなに迷惑にならないように、ううん、みんなの役に立てる魔法使いになるまで頑張ってくるから」
そう言い残すと、私はもう姿が見えなくなりそうなところまで歩いて行ってしまってるヴァレリウス様の後を必死に追いかけた。




