第17話 小さな火魔法
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翌朝、暖炉の前に立たされていた。
まだ火の入っていない薪が、静かに積まれている。部屋の空気は冷たい。
師匠が言った。
「今日は火の生活魔法をやる」
思わず振り向く。
「……まだ色石の修行、終わってませんよ?」
昨日のことが頭をよぎる。
森の火。焦げた匂い。
消えない炎。
パニック。
胸の奥が少しだけ冷える。
師匠は淡々と続けた。
「もうすぐ冬だ。暖炉の火ぐらい着けられるようになった方がいいだろう」
昨日のことには触れない。
何も言わない。叱らない。
それが逆に、少しだけ胸に刺さる。
「でも……」
言葉が続かない。
「色石の訓練も続ける。同時に進めるだけだ」
そう言って、暖炉の前へと手招きする。
私はゆっくり歩いていく。
師匠が短い棒を差し出した。
「これは制御するための魔法陣が埋め込んである杖だ」
受け取る。
「指先から出すのではなく、この杖を通して狙え。大きく暴走することはない」
軽い。でも、少しだけ重みを感じる。
守られているみたいだ。
私は杖を構える。
暖炉の薪を見つめる。呼吸を整える。
手から、少しだけ火の魔力を杖へ流す。
ぱちっ。
火花が散る。でも火はつかない。
「大丈夫だ。怖がらなくていい」
背後から静かな声。
「いつも通りに」
背中で支えられている感じがする。
もう一度。
さっきより少し強く魔力を流す。杖から火を放つ。
薪が少し焦げる。煙が上がる。
でも、火はつかない。
私は深呼吸する。
(怖くない)
(守ってくれてるから大丈夫)
昨日、枯れ葉に火をつけた時の感覚を思い出す。
あの時と同じように。でも今度は制御して。
魔力を杖に流す。少しだけ思い切って。
火を放つ。
バチッ。
火口から薪へ火が移る。赤い炎が、ゆっくりと広がっていく。
……ついた。
成功だ。
思わず振り返る。
師匠の顔がすぐ近くにあって、驚いて体が固まる。
距離が、近すぎる。
「……っ」
言葉が出ない。
師匠の表情は、いつもより柔らかかった。
ほんの少しだけ目元が緩んでいる。
「暖かいな」
低い声が耳の近くで響く。
顔が熱くなる。慌てて暖炉の火を見る。
「……はい」
火がぱちぱちと音を立てる。
しばらく二人で燃える火を眺めていた。そして師匠はいつも通りの無表情な声に戻る。
「悪くない」
短い評価。
それだけなのに、胸が妙に落ち着かない。
私は暖炉の火を見つめる。
火の暖かさと、少しの誇らしさと、よく分からない熱が胸に残っていた。
読んでくださってありがとうございます!
生活魔法、最初の一歩を踏み出しました。次回はもっと……




