第16話 クレスの魔力暴走(ヴァレリウス視点)
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森の魔力の流れが乱れた。
不自然な揺れだった。静かな水面に石を投げ込んだような、粗く制御のない波。
クレスだ。
すぐに分かった。
街から戻る頃の時間だ。距離はそれほど遠くない。
俺は森の奥からその方向へ歩き出した。
急ぐ必要はあるが、走るほどではない。
だが魔力の揺れは次第に大きくなる。
火の魔力。そして風。さらに土。
制御が崩れている。
――まずいな。
焦りが胸の奥に生まれる。
歩調を速める。
焦げた匂いが風に乗って届いた。
視界が開けた先で、炎が落ち葉を舐めていた。広がりかけている。
俺は片手を上げる。
空気を押し潰すように魔力を流す。
炎が一瞬で消えた。
煙だけが残る。
周囲を確認する。延焼はしていない。木もまだ生きている。
そして――
クレスがいた。
全身ずぶ濡れで、立ち尽くしている。肩が小さく震えていた。
「クレス」
声をかける。
動かない。
顔を上げない。
ゆっくり近づく。
焦げた落ち葉の匂いと、濡れた土の匂い。そして強い魔力の残滓。
「怪我はないか?」
クレスがゆっくり振り向く。
「はい……師匠、すいませんでした……」
声が震えている。
怪我はなさそうだ。大きな火傷もない。
俺は手をかざし、温風を作る。濡れた服を乾かす。
魔力の流れがまだ不安定だ。怖がっている。
……やり過ぎたな。
制御を優先させすぎた。クレスが願っていた生活魔法を、止めたままにしていた。
火を使いたがっているのは分かっていた。
だが、危険だと思った。
その結果がこれだ。
俺は手を伸ばし、クレスの頭を撫でた。
「大丈夫だ」
その瞬間、クレスの体から力が抜けた。
「うっ……」
涙が零れる。
「うっうっ……本当に、ごめんなさい……」
泣かせるつもりはなかった。
だが――無事でよかった。
本当に。
俺はそのまま何も言わず、煙の上がる地面をもう一度確認した。
火は完全に消えている。焦げ跡は残ったが、もう直ぐ冬だ。雪が隠してくれるだろう。
「帰るぞ」
まだ泣き止まないクレスの頭をポンポンと撫でた。
濡れて汚れた買い物袋を拾い、日暮の道を家へと急いだ。
読んでくださってありがとうございます。
次回はこの経験をどう活かすかの話です。ご期待ください。




