第15話 小さな焚き火
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街での買い物を終えて、私は森の家へ続く道を歩いていた。
両手には食料の入った袋。夕方の空気は思った以上に冷たい。
風に落ち葉が舞う。枯れ葉が足元で音を立てている。季節はいつの間にか秋の終わりを迎えていた。
もう少しで家だ。そう思って歩いてきたけれど、我慢していた寒さが限界だった。
風が冷たい。もっと厚着をしてくればよかった。
手が悴んで、指先の感覚が鈍くなっている。
「……ちょっとだけ」
思わず独り言が漏れる。
魔力の制御はかなり進んだ。
まだ生活魔法の許可は出ていないけど、小さな火を起こすぐらいなら問題ないはずだ。
湿った地面の上に枯れ葉を少し集める。しゃがみ込んで、指先に魔力を集めた。
ほんの少しだけ。慎重に。
指先から火の魔力を飛ばす。
ポッ、と枯れ葉に火がついた。その火が周りの葉に燃え広がる。
(うまくいった)思わず笑みが出る。
翳した手を、はっきりした熱が温めた。
「ああ~沁みる……あったかい~」
肩の力が抜ける。
その時だった。
ぴゅう、と強い風が吹いた。
火のついた枯れ葉が舞い上がる。空中で散って、森のあちこちに落ちていく。
そして――
それぞれの落ちた先で火がついた。
「えっ?」
小さな炎があちこちで広がる。
これは、まずい。
木々は乾燥している。落ち葉も多い。火は想像以上の速さで育ち、燃え広がっていく。
「止めないと……!」
慌てて水魔法を放つ。
でも焦って魔力が乱れて、狙いはめちゃくちゃだった。
水は自分にも降りかかり、一瞬で全身ずぶ濡れになる。
火は消えない。
むしろ風に煽られて広がっていく。
さらに突風が吹いて炎が走る。
「やだ……!」
恐怖で頭が真っ白になる。
土魔法で砂を巻き上げる。けれど砂より高く舞った枯れ葉が火を運び、炎はさらに大きくなった。
もう完全にパニックだった。
水魔法を手当たり次第に打つ。息が荒くなる。視界が揺れる。
その時。
シュッ、と音がして。
火が消えた。
さっきまで燃えていた場所には、黒く焦げた落ち葉と木々。
細い煙が静かに立ち上っている。
「クレス」
低い声がした。
師匠の声だった。
助けてくれたんだ。
でも、怖くて振り返れない。
まだ許されていない火魔法を使ったことも、消そうとして余計に燃やしてしまったことも、習っていない魔法を次々使って失敗したことも。
……全部、分かっているはずだ。
焦げた匂いの中で、私は顔を上げられない。
「怪我はないか?」
はっとして振り向く。
「はい……。師匠、すいません、でした……」
声が震える。
師匠は近づいて、手をかざした。
温かい風が生まれて、ずぶ濡れの服がゆっくり乾いていく。
それから。
頭を、軽く撫でられた。
「大丈夫だ」
その言葉と温もりで、胸の奥が一気に緩む。
「うっ……」
涙が溢れた。
「うっうっ……本当に、ごめんなさい……」
安堵と、無力さと、恥ずかしさと、申し訳なさに師匠の優しさが沁みて、涙が止まらなかった。
怖かった。森と、村も、焼いてしまうかもしれなかった。
私は、何も、できなかった。
読んでくださってありがとうございます。
次回はヴァレリウス視点での焚き火事件をお届けします。




