第9話『襲撃者はスリップ注意』
拠点が繁盛すれば、悪い虫も寄ってきます。
武装した荒くれ者が30人。
普通なら大ピンチですが、物流のプロにとっては「在庫処分」の対象でしかありません。
「……美味い」
拠点「フローズン・ステーション」のリビング(兼・社員食堂)。
俺たちは、完成したばかりのシステムキッチンで夕食を囲んでいた。
メニューは、冷房の効いた部屋で食べる「熱々の鍋」。
外が灼熱の荒野だということを忘れさせる、最高の贅沢だ。
「はふっ、はふっ……お肉おいしい!」
「お野菜も甘いねー!」
ミナとルルが笑顔で頬張る。
平和だ。
……と言いたいところだが。
「――マスター。来ます」
箸を止め、ベアトリスが鋭い視線を窓の外へ向けた。
元王宮騎士の索敵能力は伊達じゃない。
「数は30……いえ、もう少し多いかも。殺気立っています。おそらく、近隣の悪徳商会に雇われたゴロツキかと」
俺は深くため息をつき、最後の一切れの肉を口に放り込んだ。
やれやれ。
この拠点が繁盛すれば、既得権益を侵された連中が噛みついてくるのは想定内だ。
だが、飯の時間を邪魔するとはマナーがなってない。
「営業時間外の来客か。……残業手当は出ないぞ」
俺はナプキンで口を拭い、立ち上がった。
◇
外に出ると、松明を持った集団が鬨の声を上げて突っ込んでくるところだった。
「ヒャッハー! ここが噂の氷の城か!」
「ぶっ壊せぇ! 物資を奪い尽くせぇ!」
典型的な「三流の悪役」ムーブだ。
統率もなく、ただ勢いだけで走ってくる。
「……足元注意。もっとも、気づいた時には手遅れだがな」
俺はポケットに手を突っ込んだまま、魔法を発動した。
――対象:施設前方の地面。
――プロセス:水分凍結、および表面の微小融解。
カキンッ。
荒れた砂地が一瞬で凍りつき、さらにその表面に「薄い水の膜」が張る。
スケートリンクと同じ原理だ。
これによって、摩擦係数(μ)は限りなくゼロに近づく。
「へっ? うおっ!?」
先頭を走っていた男が、マンガのように足を空転させた。
だが、体は止まらない。
『慣性の法則』だ。走ってきた運動エネルギーは保存されたまま、制御不能になった体は砲弾のように滑っていく。
「あ、アブねッ!? 止まれねえ!?」
「どけっ! ぶつかるッ!」
ドガアアァァン!!
後続の部隊も巻き込み、人間ボウリングのストライクが決まった。
壁に激突する者、仲間同士で頭をぶつける者。
阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
「な、なんだ!? 氷の魔法か!?」
「怯むな! 魔法使いは一人だ、囲んで殺せ!」
転ばなかった数人が、剣を抜いて俺に殺到する。
俺は動かない。
俺の前には、最強の「重機」がいるからだ。
「遅い」
冷徹な声と共に、銀色の疾風が舞った。
ベアトリスだ。
彼女は大剣を構えているが、その動きは人間の動体視力を超えていた。
「私の剣は質量ほぼゼロ……慣性モーメントを無視したこの連撃、貴様ごときに捉えられますか!」
ヒュンッ!
彼女の剣が、敵の剣を弾き飛ばす。
軽い剣に破壊力はない。だが、加速度(a)は桁違いだ。
質量(m)が羽毛ほどしかないため、わずかな筋力(F)で、爆発的な加速を生み出せる。
彼女は風よりも速く敵の懐に潜り込むと、剣の峰で手首を叩き、足を払った。
「ぐあっ!?」
「な、何も見えなかっ……」
一瞬で関節を極められ、地面に転がされる男たち。
彼女は不殺を貫いているが、その神速の体術は、もはや暴力の域だ。
「軽い……! 今の私なら、重力すら振り切れそうです!」
彼女は戦場を舞う蝶のように、次々と敵を無力化していく。
◇
地面に転がり、呻く30人の男たち。
さて、ここからは「出荷作業」の時間だ。
「ルル、ミナ。仕事だ」
「はーい!」
待機していた梱包スタッフが飛び出す。
「えいっ! 人間真空パックー!」
ルルが特大の『シャボン玉』を次々と射出する。
ボヨン、ボヨン。
男たちが一人ずつ、虹色の球体に閉じ込められていく。
空気穴は空いているが、強度は鉄並みだ。内側からは絶対に破れない。
「あはは、人間がいっぱい入ったー!」
「暴れる人は、こうだよー!」
中で暴れる元気な奴には、ミナが『綿』を注入する。
モコモコと膨らんだ綿が隙間を埋め尽くし、完全な拘束衣(緩衝材固定)となる。
ものの数分で、拠点の前に「梱包された荷物」の山ができあがった。
「……ふぅ。作業終了だな」
俺は怪我一つない体で伸びをした。
山積みになったシャボン玉のカプセルに、あらかじめ用意していた伝票をペタペタと貼り付けていく。
【品名:強盗傷害・器物破損の現行犯】
【取扱注意:不良品(返品不可)】
【お届け先:王都衛兵詰め所】
「よし、出荷準備完了。……ベアトリス、積み込みを頼む」
俺が指示を出すと、ベアトリスは汗一つかいていない涼しい顔で敬礼した。
「はい、マスター! 丁重に(放り)投げます!」
「ああ。そいつらは『壊れ物』じゃないからな。雑に積んでいいぞ」
俺たちは手際よく「荷物」をトラックの荷台へ放り込んだ。
送料は「着払い」だ。
たっぷりと賠償金を請求させてもらおう。
俺たちはトラックに乗り込み、夜の荒野へエンジン音を響かせた。
物流を舐めるなよ。
俺たちはいつだって、迅速・確実に「お届け」するんだからな。
「摩擦係数ゼロ」
氷の上に水膜を張ると、人は立てません。
どんなに屈強な戦士も、物理法則の前では無力です。
そしてベアトリス。
「慣性モーメント」の意味は分かっていませんが、
マスター(主人公)の口癖を真似して、キメ顔で叫んでいます。可愛いですね。
さて、邪魔者は出荷しました。
ついに、国王陛下からの「超特大の依頼(ムチャ振り)」が舞い込みます。
次回、第10話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




