第28話『氷の架け橋(アイス・ロード)』
港の突堤。
海に突き出したその先端に、一台の装甲トラックが鎮座していた。
『ギガ・フロスト・ドラグーンカスタム』。
銀色のボディには紅蓮のラインが走り、炎竜の素材を用いた装甲は、強烈な潮風を受けても錆ひとつ浮かせない。
対塩害コーティングも万全だ。
「……準備はいいか、技術顧問」
俺はハンドルを握り、助手席側のルーフハッチから身を乗り出している女性に声をかけた。
「いつでもいいわよ、運送屋」
潮風にさらされて痛んだ銀髪をなびかせ、サリナが不敵に笑う。
彼女の手には、改造された魔導計測器が握られている。
「計算通りね。アンタの冷却機関と私の塩分操作術式、リンクは良好よ。
……理論上は、落ちないはずだわ」
「落ちたら全員で海水浴だ。……総員、配置につけ!」
俺の号令に、後部座席のベアトリスが居住まいを正す。
窓際には、ミナとルルが張り付いて応援の構えを取っている。
助手席のシエラが、ヘッドホンを押さえて頷いた。
「前方、障害物なし。……海は凪いでいます」
「よし。行くぞ!」
俺はアクセルを床まで踏み込んだ。
強化されたエンジンが、猛獣のような咆哮を上げる。
トラックが飛び出す。その先には、道はない。ただ青い海が広がっているだけだ。
だが、俺たちには「システム」がある。
1.前方展開:『塩分操作』
「道を開けなさい! 淡水化!」
サリナが叫び、手を突き出す。
トラックが踏み込む直前の海面から、塩分が瞬時に弾き飛ばされる。
不純物が消え、ただの「真水」となった領域が生まれる。
2.路面生成:『急速凍結』
「固まれ! 氷結舗装!」
俺は間髪入れず、真水になったエリアを凍結させる。
塩分という邪魔者がいない水は、俺の魔力に素直に従い、0度で凝固する。
バキキキッ!
硬質な音と共に、分厚い白銀の氷が海面に現れる。
3.荷重制御:『重量軽減』
「浮力を維持……衝撃、殺します!」
ベアトリスがトラックの総重量を極限まで軽くする。
数トンの鉄塊が、羽毛のような軽さになり、生成されたばかりの氷の上を滑るように駆け抜ける。
ドォォォォン……ッ!!
ダイヤモンドダストのような氷煙を上げ、トラックは海へ沈むことなく加速した。
バックミラーを見れば、そこには俺たちが走った軌跡――一本の白い氷の道が、陸地から伸びていた。
◇
「ひゃっほーう! 海の上走ってるー!!」
「見て見てミナちゃん! お魚さんが下に見えるよ!」
ミナとルルが大はしゃぎしている。
透明度の高い氷の下には、驚いて逃げ惑う魚たちの姿が透けて見えた。
「信じられません……。海の上を走る馬車など、神話の戦車です」
ベアトリスも、窓の外を流れる青い景色に目を奪われている。
三六〇度、見渡す限りの水平線。
その真ん中を、俺たちは時速一〇〇キロで爆走していた。
「素晴らしい効率……! 塩分乖離と凝固のタイムラグが〇・一秒以下!」
サリナは景色そっちのけで、計器の数値に興奮していた。
「見てよこの熱交換サイクル! 美しいわ!
アンタの冷却排熱を利用して、私の術式を加速させてる……完璧なエネルギー循環よ!」
「エンジンも絶好調だ」
俺はタコメーターを睨み、ニヤリと笑った。
海水を凍らせる際に奪った莫大な熱エネルギー。
本来なら捨て場に困るその熱を、すべてエンジンの燃焼室に突っ込んでいる。
外気との温度差を利用してピストンを回す、俺たちのトラック独自の駆動方式。
名付けて『淡水凍結・超伝導システム(Freshwater Freezing Drive)』。
海という無限の冷却材と、無限の熱源がある限り、このトラックは永久機関に近い効率で走り続けられる。
「これなら、どこまでだって走れるぞ!」
物流が自然の摂理に勝利した瞬間。
俺たちは「無限の氷道」によるランニング・ハイに酔いしれていた。
――しかし。
その高揚感は、シエラの静かな警告によって冷水を浴びせられた。
「……ッ! マスター」
シエラがヘッドホンを強く押さえ、顔をしかめた。
「音が、変わりました」
「変わった? どういうことだ」
「波の音が消えて……深いです。
海の底の深い所から、泡が弾けるような……巨大な何かが動く、重たい音がします」
俺はアクセルを緩め、前方を見据えた。
穏やかだった海面が、不気味に盛り上がり始めている。
ただの波じゃない。下から何かが押し上げているのだ。
「……お出ましだな」
俺はハンドルを握り直した。
「この海を封鎖している原因が」
凪いだ海の向こう。
物流を阻む「壁」が、その姿を現そうとしていた。
次回は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




