第22話『熱暴走(メルトダウン)』
地平線の彼方に、帝都の巨大な城壁がうっすらと見え始めた。
この灼熱の旅も、あと少しで終わる。
そう思った矢先だった。
ピーーーーーッ!!
車内の警報装置が鼓膜をつんざいた。
同時に、エアコンがガタガタと異常な唸りを上げ、冷風がぬるい温風へと変わる。
室温計の数値が、秒単位で跳ね上がっていく。二四度、二八度、三五度……!
「な、なんだ!? 故障か!?」
俺は慌ててバックミラーを確認した。
そして、血の気が引いた。
牽引しているドラゴンの「荷姿」が変わっていた。
ピンク色の綿と虹色のシャボン玉。その内側から、禍々しいほどの赤熱した光が漏れ出し、梱包材がドロドロに溶け始めているのだ。
「あ、ごめん。計算ミスだ」
後部座席で、フィアンがあっけらかんと言った。
まるで「砂糖と塩を間違えた」くらいの軽さだ。
「ドラゴンの心臓って、死後もしばらく動くんだよね。
冷却されたことで生存本能が刺激されて、再活性化しちゃったみたいだ」
「再活性化だと……?」
「うん。体内で熱暴走を始めてる。
もう止められないよ。あと数分で、小型の爆弾みたいにドカンと吹き飛ぶかな」
フィアンは窓の外の赤熱する荷物を眺め、涼しい顔で提案した。
「……逃げようか? 今なら僕の転移魔法で、君たちだけなら助けられるよ」
荷物を捨てて、自分たちだけ助かる。
合理的な判断だ。戦略的には正しい。
だが。
「ふざけんな!!」
俺はハンドルを拳で殴りつけた。
「逃げるな! 責任を取れ天才!」
「え? でも、爆発したら死んじゃうよ?」
「知ったことか! 俺は運送屋だぞ!
荷物を届けるまでが仕事だ! 俺の辞書に『配送放棄』の文字はねえ!」
俺は脳をフル回転させた。
冷却はもう間に合わない。熱の発生量が、俺の冷却出力を上回っている。
抑え込むのが無理なら、どうする?
熱とはエネルギーだ。消すことはできないが、移動させることはできる。
捨てる場所が必要だ。
大気中への放出じゃ追いつかない。もっと効率よく、膨大なエネルギーを消費できる場所――。
俺の視線が、計器盤のタコメーター(回転数計)に吸い寄せられた。
「……あるじゃないか。大食らいの消費先が」
俺はニヤリと笑い、フィアンに叫んだ。
「フィアン! 共同作業だ!
ドラゴンの熱を、お前の魔力で吸い出せ! パイプ役になれ!」
「え? 吸い出してどうするの?」
「全部、このトラックのエンジンにぶち込む!!」
俺のトラックのエンジンは、熱膨張を利用してピストンを動かす内燃機関だ。
原理的には、外部からの熱供給でも動くスターリングエンジンの応用が効く。
「通常ならエンジンブロックが溶けてオジャンだが、そこは俺が『温度操作』で耐熱限界ギリギリを維持する!
出てくる熱エネルギーを、全部『運動エネルギー』に変換して使い潰すんだ!」
フィアンが目を丸くした。
「熱を……動力に変える?
そんな事が……? ああ、破壊せずに、エネルギーだけを移動させるのか」
彼は身を乗り出し、子供のように目を輝かせた。
「わかった! やってみるよ!」
フィアンが両手をかざす。
後方のドラゴンから、目に見えるほどの「赤い熱流」が引き剥がされ、彼の体を通ってトラックのエンジンルームへと注ぎ込まれる。
ドクンッ!!
車体が大きく震えた。
エンジンの回転数が、レッドゾーンを一気に振り切る。
「燃やすな、吸い出せ! エネルギー保存の法則を教えてやる!」
俺は魔力をエンジン全体に行き渡らせ、融解寸前のピストンとシリンダーを強制冷却で保護した。
注がれる超高温と、俺の超低温。
その温度差が生み出す爆発的な膨張圧力が、クランクシャフトを狂った速度で回転させる。
ズガガガガガガガッ!!
排気管から青白い炎が噴き出した。
タイヤが悲鳴を上げ、硬い地面を削り取る。
「いっくぞおおおおおッ!!」
俺はギアをトップに入れた。
ドンッ!!
背中を巨人に蹴飛ばされたような加速G。
景色が線になり、後方に置き去りにされる。
「わあ、すごい! 僕の魔力が吸われていく! これが君の力かい!?」
フィアンが楽しそうに叫ぶ。
ドラゴンの熱暴走は止まっていない。だが、あふれ出る熱はすべてトラックの推進力へと変換され、爆発を防いでいる。
時速一〇〇キロ、二〇〇キロ、三〇〇キロ……!
装甲トレーラーが、音速に近い領域へ突入する。
衝撃波が撒き散らされ、周囲の砂漠が爆風で巻き上がる。
「マスター! 速すぎますぅぅぅ!!」
ベアトリスがシートにしがみつき、涙目で悲鳴を上げている。
シエラも蒼白な顔で手すりを握りしめているが、その口元はわずかに笑っていた。
「……すごい音。エンジンが、ドラゴンの咆哮みたいに歌ってます」
前方、帝都の城門が急速に迫る。
門番たちが慌てふためき、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑うのが見えた。
止まれない。いや、止まったら熱暴走で爆発する。
このまま熱を使い切り、走り抜けるしかない。
「どけえええええッ!! 特急便のお通りだあああ!!」
俺たちは爆音と共に、熱暴走するドラゴンを引きずりながら、帝都へのラストスパートをかけた。
「あ、計算ミスだ」
この期に及んでその軽さ。
最強の魔道士フィアンにとって、ドラゴンの爆発も「ちょっとしたミス」で済むようです。
しかし、ケントは諦めません。
「熱エネルギーを消せないなら、運動エネルギーに変換して使い潰せばいい」。
熱力学の応用。
ドラゴンの殺意(熱)が、そのままトラックを音速の向こう側へと押し上げる推進力に変わりました。
次回、ついに帝都へ突入。
音速で滑り込んだ広場で、人々が見たものとは? 「火力至上主義」が敗北する瞬間が訪れます。
次回、第23話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




