第20話『爆走、竜葬列』
サイドミラーに映る光景は、あまりにもシュールだった。
荒野を爆走する銀色の装甲トレーラー『ギガ・フロスト号』。
その背後には、全長一〇〇メートルを超える巨大な物体が連結されている。
伝説の『炎竜』の死骸だ。
ただし、今の姿に伝説の威厳は欠片もない。
ミナの緩衝材魔法でモコモコに膨れ上がり、さらにルルのシャボン玉魔法で虹色にコーティングされている。
見た目は完全に、「巨大なピンク色の芋虫」か、遊園地のパレード用バルーンだ。
「……葬列にしてはちと可愛すぎるな」
俺はハンドルを握りながら独りごちた。
最強のドラゴンの最期が、ピンク色の真空パック詰めとは。天国で泣いてるかもしれん。
◇
外は灼熱の荒野だが、キャビン内は室温二四度に保たれ、極めて快適だ。
だが、空気感だけはピリピリと張り詰めていた。
理由は明白。
後部座席の真ん中に、この世で最も危険なヒッチハイカーが座っているからだ。
「へえ、中はこうなってるんだ。この座席、ふかふかで気持ちいいね」
フィアンだ。
彼はまるで遠足に来た子供のようにキョロキョロと車内を見回し、視線を隣のベアトリスに向けた。
ベアトリスは今、後方に向けて『重量軽減』の魔法を維持するために全神経を集中させている。
数千トンのドラゴンを牽引可能なレベルまで軽くし続ける、過酷なタスクだ。
額には脂汗が滲んでいる。
「ふうん。君、すごいね」
フィアンが感心したように呟き、懐から手帳を取り出した。
「その細い魔力回路で、よくこれだけの出力を維持できるなぁ。
本来あるはずの重さを、どこへ消しているの? 『等価交換』の理をどう騙しているんだい?」
カリカリカリ……と、彼は猛烈な勢いでメモを取り始めた。
観察されている。それも、顕微鏡で覗き込むような熱心さで。
「……うぅ……やりづらいです……」
ベアトリスが悲鳴のような声を漏らす。
帝国最強の魔道士にガン見されながらの精密作業。胃に穴が空きそうなプレッシャーだろう。
「フィアン、あまりジロジロ見るな。集中力が乱れて荷崩れしたらどうする」
俺がバックミラー越しに釘を刺すと、フィアンは「おっと、ごめんね」と素直にペンを止めた。
そして今度は、助手席のシエラに顔を向けた。
「ねえ。君は、僕が怖くないの?」
唐突な問いだった。
「僕を見ると、みんな逃げるか、媚びるか、あるいは腰を抜かすんだけど。
君だけはずっと平然としている」
シエラは前を向いたまま、静かに答えた。
「……怖くありません。貴方からは『音』がしないからです」
「音?」
「はい。人は誰でも、心音に感情のノイズが混じります。恐怖、欲望、そして悪意。
でも貴方には、それが一切ありません」
シエラは見えない目で、フィアンの方を向いた。
「貴方の音は、台風や太陽と同じです。ただそこに在るだけの、巨大なエネルギー。
雨に濡れても、雨を恨む人はいません。それと同じです」
「……ふうん」
フィアンは目を丸くし、それから楽しそうに笑った。
「君の耳には、僕はそう聞こえるんだ。面白いね。
人間扱いされていないとも言えるけど、不思議と嫌な気分じゃないや」
彼は背もたれに深く体を預け、天井を見上げた。
「……ねえ、ケント君」
「なんだ」
「不思議なんだけど、どうして君たちはそんなに弱いのに頑張るの?」
悪意はゼロだ。
空を飛ぶ鳥が、地を這う蟻に「どうして飛ばないの?」と聞くような、純粋な疑問。
「山一つ消せない出力で、どうして生きていけるの?
寒ければ空気を燃やせばいいし、邪魔な山があれば消せばいい。
でも、君たちは山を消さずに穴を掘って通り抜ける。
コップの水を爆発させずに冷たくする。
力がないのに、どうしてそんなに器用で、快適でいられるんだろう」
俺はハンドルを切り、路面のギャップを躱しながら答えた。
「弱いから、工夫するんだよ」
「工夫?」
「ああ。俺たちには山を消す力はない。だからトンネルを掘る。
熱に耐える体はない。だから断熱材を作って、耐えられるようにする。
力任せに解決できないから、頭を使って別の道を探す。それを『知恵』って呼ぶんだ」
俺の言葉に、フィアンは瞬きをした。
そして、自分の手のひらを見つめ、ゆっくりと握りしめた。
「知恵……。力任せに解決しない方法、か」
彼は窓の外へ視線を移した。
そこには、俺たちが「工夫」して包んだ、ピンク色のドラゴンの姿がある。
「……うん。それは、僕の魔法よりも美しいかもしれないね」
車内に、穏やかな空気が流れた。
最強の災害が、最弱(人類)の生存戦略を認めた瞬間だった。
だが。
その安らぎは、シエラの鋭い声によって破られた。
「――ッ! マスター、上空!」
「なんだ!?」
「接近反応、多数! 羽ばたきの音……速い!
ドラゴンの死臭(魔力)に釣られて集まってきました!」
俺は空を見上げた。
遥か上空、無数の黒い点が、旋回しながら急降下してくるのが見えた。
ワイバーンの群れだ。死体に群がるハゲタカのように、獲物を狙っている。
パタン。
フィアンが手元のメモ帳を閉じた。
「大丈夫だよ、ケント君。僕が掃除してあげる」
後部座席で、フィアンが涼しい顔をして窓を開けた。
彼は夜空に向けて、指揮者のように優雅に指先を向ける。
「すぐに終わるから。ちょっと待ってて」
ヒュン、と空気が鳴いた。
次の瞬間、彼の指先に、直視できないほどの輝きを放つ「光の球」が生まれた。
小さい。ピンポン玉サイズだ。
だが、俺の肌が、本能が、そしてトラックの警報装置が絶叫していた。
あれは魔法じゃない。超高密度のプラズマ球だ。
「待て馬鹿野郎!! お前がやったら荷物ごと消し飛ぶ!!」
「え? 大丈夫だよ、手加減するから」
「お前の手加減は『山半分』だろうが! 座ってろ!
総員、対空戦闘用意! 物理で追い払うぞ!」
俺はアクセルを床まで踏み込んだ。
エンジンが咆哮を上げ、巨大なピンクの繭を引きずりながら、トレーラーが加速する。
旅はまだ始まったばかり。
そして俺の胃痛も、まだ始まったばかりだった。
ピンク色の芋虫を引いて爆走するトラック。
助手席には、ピンポン玉サイズの太陽を作り出すヒッチハイカー。
ケントの胃壁が限界を迎えています。
「弱いのになぜ生きるの?」というフィアンの問い。
それに対する「知恵があるからだ」という答え。
哲学的な会話で和んだ直後に、すべてを吹き飛ばそうとするのがフィアンクオリティです。
悪気がないのが一番の恐怖ですね。
次回、ケントが「物流屋流の迎撃」を見せつけます。
殺さず、燃やさず、ただ「落とす」。
物理法則を使った効率的すぎる害虫駆除です。
次回、第21話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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「ピンクのドラゴン可愛いw」
「フィアンくん、息をするように戦略魔法を使わないで!」
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




