第19話『史上最大の冷凍梱包(コールドチェーン)』
『史上最大の冷凍梱包』
目の前には、全長一〇〇メートル級の熱源。
伝説の『炎竜』の死骸が、マグマのような血液を垂れ流しながら横たわっている。
触れる空気さえ燃やす、数千度の巨体。
これを、丸ごと一本冷凍して運ぶ。
普通の運送屋なら「寝言は寝て言え」と断る案件だ。
だが、俺はプロだ。
そして何より、俺のプライド(と、背後で目を輝かせている無邪気な災厄)が、逃げることを許さない。
「……やるぞ。総員、配置につけ!」
俺はドラゴンの正面に立ち、両手を突き出した。
汗が顎から滴り落ちる。
これだけの質量だ。生半可な出力じゃ、冷やす端から解凍される。
――対象:炎竜の全構成物質。
――プロセス:分子運動の完全停止。熱エネルギーの地中誘導。
「おおおおおおっ!!」
俺は叫びと共に、全魔力を叩き込んだ。
熱を「消す」のではない。エネルギー保存の法則に反するからだ。
俺はドラゴンの持つ膨大な熱量を、地面の岩盤へと逃がしつつ、分子レベルでブレーキをかけた。
ジュワアアアアア……ッ!!
凄まじい蒸気が上がり、視界が白く染まる。
だが、俺は止めない。
赤熱していた鱗が、徐々に黒く変色し――やがて、白く凍てついていく。
パキィッ……ズズズ……!
数分後。
蒸気が晴れたそこには、カチコチに凍結し、霜を纏ったドラゴンの氷像が鎮座していた。
周囲の気温が一気に下がる。
「す、すごい……! あの熱が一瞬で……!
君、やっぱりすごいよ! 熱力学の法則をねじ伏せてる!」
フィアンが子供のように手を叩いてはしゃいでいる。
俺は肩で息をしながら、親指を立てた。
「……感心してる暇はないぞ。ここからが本番だ。
ミナ! ルル! 鮮度が落ちる前に包むぞ!」
「はーい! 任せてー!」
待機していた姉妹が飛び出す。
ここからは、ウチの梱包チームの独壇場だ。
「いくよー! もこもこコーティング!」
ミナが両手を広げると、ピンク色の『綿』が爆発的に膨れ上がった。
それはドラゴンの巨体を優しく包み込み、鋭い爪や角を覆い隠していく。
ものの数秒で、伝説の炎竜は、巨大な「ピンク色のぬいぐるみ」のような姿に変貌した。
「仕上げだよ! 特大、真空パックー!」
続いてルルが、巨大な『シャボン玉』を展開する。
虹色の膜が「ぬいぐるみ」全体を包み込み、シュウゥゥ……という音と共に空気を排出して密着していく。
断熱、防水、そして物理的保護。
完璧な梱包だ。
見た目は「巨大なピンクの繭」だが、中身は一生遊んで暮らせるだけの価値がある素材だ。
「よし、ベアトリス! 積み込みだ!」
「イエス、マスター!」
ベアトリスが跳躍し、ピンクの繭の上に飛び乗った。
「『重量軽減』――最大出力!」
彼女が触れた瞬間、ズズン……と地面に沈んでいた巨体が、フワリと浮き上がるような挙動を見せた。
数千トンの質量が、トラックで牽引可能なレベルまで軽量化されたのだ。
これで、準備は整った。
俺が汗を拭い、トラックへ向かおうとした時だった。
「ん~~、楽しそうだね! 僕も手伝っていい?」
それまで見学していたフィアンが、ニコニコと近寄ってきた。
嫌な予感が背筋を走る。
「おい待て、余計なことすんなよ?」
「大丈夫だよ。ほら、あれ、邪魔でしょ?」
彼が指差したのは、ここから数百メートル先にある、街道を塞ぐような巨岩だった。
確かに邪魔だ。トラックで迂回するには時間がかかる。
「見てて。……えいっ」
俺が止める間もなかった。
フィアンが、指揮棒を振るように軽く指を弾いた。
その瞬間。
ドォォォォォォォォォンッ!!
世界が揺れた。
岩山が砕けたのではない。消滅(蒸発)したのだ。
まばゆい閃光と共に岩山が消え失せ、一拍遅れて凄まじい衝撃波が襲いかかってきた。
「うわあぁっ!?」
「きゃあああっ!?」
俺たちはトラックの陰に伏せた。
トラックの窓ガラスにピキピキとヒビが入り、数千トンのドラゴン(梱包済み)が風圧でゴロンと転がる。
「……ッ!!」
砂煙が晴れた後には、一直線に貫通した、溶岩のようにドロドロに溶けた更地ができていた。
俺は立ち上がり、フィアンの胸ぐら(ローブ)を掴み上げた。
「馬鹿野郎!!」
「えっ? な、なに?」
フィアンは目を丸くしてきょとんとしている。
「荷物ごと吹き飛ばす気か!! あと少しズレてたら、ドラゴンもトラックも消し炭だぞ!!」
「でも、道はできたよ? これで早く帰れるね」
悪気ゼロ。
こいつにとって、岩山を消すのも小石を退けるのも、同じ感覚なのだ。
俺は頭を抱えた。
「……シエラ、こいつは……」
「……心音、一定です。本当に悪気がありません。ただの『親切』で山を消しました、ね」
シエラが遠い目をして報告する。
タチが悪すぎる。
こいつは歩く災害どころじゃない。歩く最終戦争だ。
「……いいか、フィアン。帰るまでは魔法を使うな。
お前はトラックの助手席で、指一本動かさず、息だけしてろ。分かったな?」
「えー、退屈だなぁ。……分かったよ」
フィアンはしゅんとして頷いた。
ベアトリスがドラゴンの背から降りてくる。
「マスター、連結完了です。私の力は、繋がっていれば維持できますので」
「頼むぞ。お前の力が途絶えたら、後ろの荷物に引っ張られて俺たちはペチャンコだ」
ベアトリスも車内の定位置(玉座)に戻り、俺たちは出発の準備を整えた。
運転席に座り、ひび割れたフロントガラス越しに、焼け焦げた道を見る。
目的地は帝都。
荷物は伝説のドラゴン。
助手席には、世界最強の時限爆弾。
俺は深いため息と共に、エンジンを始動させた。
「……出発だ。
史上最大の、そして最悪の輸送任務の始まりだ」
【第19話 後書き】
全長100メートルの伝説の炎竜が、まさか「ピンク色のぬいぐるみ」になるとは。
ミナとルルの梱包スキル、そしてベアトリスの積載能力。 物流チームの総力戦でした。
そして、フィアンくん。
「邪魔だから消したよ」という感覚で、地図から山を一つ削除しました。
悪気がないのが一番怖いです。
次回、この「世界一危険なヒッチハイカー」を乗せて、帝都へのドライブが始まります。
車内での会話、そして空からの追手……。
胃薬必須の旅になりそうです。
次回、第20話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
──────────
【物流×物理! 応援のお願い】
「ピンクのドラゴンの絵面がシュールw」
「山を消すなw」
「フィアンを助手席に乗せるの怖すぎ!」
と楽しんでいただけましたら、
↓広告の下にある【☆☆☆☆☆】から、評価ポイントを入れていただけると嬉しいです!
(皆様の★が、ケントの胃壁を守る防御力になります! 何卒よろしくお願いいたします!)
明日も更新します!
──────────
※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




