第18話『燃やすしか能のない天才』
フィアンに案内された場所は、国境の山脈にある巨大なクレーターだった。
かつて山頂だったはずの場所が、スプーンで抉り取られたように消失している。
そして、その中心に――「それ」はいた。
「……でかいな」
俺は思わず呻いた。
全長一〇〇メートル級。伝説の『炎竜』の死骸だ。
だが、死骸と呼ぶにはあまりに活動的だった。
息絶えているにもかかわらず、その巨体は数千度の熱を放射し続けている。
こぼれ落ちた血液はマグマのように煮えたぎり、鱗の隙間からは灼熱の蒸気が噴き出している。
生物というより、「形を保った山火事」そのものだ。
俺は慌てて周囲の空気の温度を下げ、ミナたちを熱波から守る『エアカーテン』を展開した。
これを維持するだけでも魔力が削られる。
「……すごい音量。鼓膜が震えるようです」
隣でシエラが耳を押さえて呟く。
彼女には、この熱エネルギーが轟音として聞こえているらしい。
「でも……やっぱり『悪意』はありません。フィアン様と同じ。ただそこにあるだけの『現象』……台風や地震のような音がします」
「違いない。災害そのものだ」
俺は額の汗を拭いながら、隣でニコニコしている元凶を見た。
「おい、天才様。一つ聞くぞ」
「ん? 何かな?」
「お前ほどの魔力があれば、『空間転移』で帝都まで飛ばせたんじゃないか? わざわざ運ばなくても」
帝国の筆頭魔道士だ。それくらいの高等魔法は使えるはずだ。
だが、フィアンは困ったように眉を下げた。
「うん、試したよ。でもダメだった」
「ダメ?」
「座標を指定して、ゲートを開いた瞬間……空間ごと燃えちゃって。転移術式そのものが消し炭になったんだ」
俺は絶句した。
空間が燃える?
物理的には意味不明だが、魔術的な理屈はなんとなく分かる。
電気回路に過剰な電圧を流せば、基板が焼き切れるのと同じだ。
こいつの魔力は出力がデカすぎて、魔法という「回路」の方が耐えきれずに自壊するのだ。
(……繊細な術式が組めない。ただひたすらに、出力を叩きつけることしかできないのか)
神は二物を与えずと言うが、極端すぎる。
こいつは、燃やすしか能のない天才だ。
「だから困ってるんだよ。僕が触ると灰になる。魔法で運ぼうとすると空間が燃える。
……ねえ、ケント君。どうすればいいと思う?」
フィアンが、無垢な瞳で俺を見つめてくる。
俺はため息をつき、一歩前へ出た。
「魔法でどうにかしようとするからダメなんだ。
熱を力で抑え込むんじゃない。『奪って、固定する』んだよ」
俺は熱波に耐えながら、ドラゴンの巨大な爪先へと近づいた。
表面温度は下がる気配がない。近づくだけで作業着が焦げ付きそうだ。
俺は右手をかざした。
――対象:炎竜の鱗、半径一メートル。
――プロセス:分子運動の強制停止。
魔力で熱を相殺するのではない。
熱とは、原子や分子の振動(運動エネルギー)だ。
俺はその振動そのものを、「止まれ」と命じて凍結させる。
これぞエントロピーの減少。熱力学への逆行。
パキィィィン……ッ!
硬質な音が響いた。
次の瞬間、赤熱していたドラゴンの爪先が、一瞬にして青白く変色し――分厚い霜に覆われた。
そこだけ、熱が「死んだ」のだ。
「……っ!!」
それを見たフィアンが、子供のように目を輝かせて俺に詰め寄ってきた。
「すごい! すごいよこれ!!」
「お、おい! 近えよ!」
フィアンが俺の顔を覗き込む。
距離が近い。そして何より、こいつ自身が熱い。
しかも何故かヒートアップしている。
「魔力をぶつけた感じがしない! なのに、熱が消えた!
どうなってるの!? 君の脳内はどうなってるの!?
僕の炎も消せる!? ねえ、僕も凍らせてみてよ!」
「近えっつってんだろ! お前がいるだけで暑苦しいんだよ! 離れろ!」
俺は全力でこの「歩く熱源」を引き剥がした。
無邪気な好奇心ほどタチの悪いものはない。こいつ、俺を「未知の研究対象」として見てやがる。
「……とにかく、だ」
俺は自分の右手を瞬間冷却して熱断熱の膜を作り、火傷しそうなほど熱いフィアンの手を振り払った。
「触んな! 作業着が焦げるだろ!」
俺はドラゴンの巨体を見上げた。
「こいつをこのまま解体するのは無理だ。中からマグマみたいな血が噴き出して、大惨事になる」
「そうだね。僕が剣で切った時も、山が一つ溶けちゃったし」
「……(こいつ、サラッと怖いこと言いやがる)」
俺は頭の中で輸送プランを組み立てた。
小細工は通用しない。
物理(熱量)には、物理(冷却)で対抗するしかない。
「方針は決まった。
こいつを丸ごと一本、『極低温冷凍』する」
俺は後ろで待機していたミナ、ルル、ベアトリス、シエラを振り返った。
「総力戦だ。
俺が熱を奪い、ミナが断熱し、ルルが密閉し、ベアトリスが積む。
この馬鹿でかいフライドチキンを、鮮度そのままお届けだ」
俺の宣言に、フィアンがパチパチと拍手をした。
無邪気な災厄と、最強の物流チーム。
奇妙な共同作業が、今始まろうとしていた。
「熱を抑えるのではなく、分子の運動を止める」
ケントの実演に、フィアンは大興奮。
距離感ゼロで詰め寄ってくる彼は、人間サイズの暖房器具そのものです(熱い)。
解体不能なマグマの塊。
これを運ぶ方法は一つ。「丸ごと冷凍」しかありません。
次回、最強の布陣で、100メートル級のドラゴン凍結作戦を開始します!
次回、第19話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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「フィアンくん、スペックが高すぎて不便そう……」
「分子運動の停止! 理系無双かっこいい!」
「丸ごと冷凍とか規模が違うw」
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明日も更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




