第17話『熱波の主と、無邪気な災厄』
「……は? ドラゴンを燃やさずに、だ?」
俺は眉をひそめ、目の前の青年――フィアンを見据えた。
燃えるような赤髪に、涼しげな目元。人懐っこい笑顔は、どこにでもいる好青年のそれだ。
だが、俺の「危機管理」センサーは、ガンガンと警鐘を鳴らし続けている。
彼が立っている足元の砂はドロドロに溶け、周囲の空気は陽炎のように激しく歪んでいる。
(……これを人間と呼んで良いのか……?まるで太陽じゃないか)
まともに会話をする環境じゃない。
俺はため息をつくと、冷蔵庫からキンキンに冷えた水の入ったコップを取り出した。
とりあえず、この熱源を少しでもクールダウンさせなきゃ話にならない。
「ほらよ。喉が渇いてるんだろ? 冷たい水だ」
「おや、ありがとう。気が利くね」
フィアンはニコニコと笑い、そのコップを受け取ろうと指先を伸ばした。
その瞬間。
ボッ!!
破裂音。
フィアンの指が触れた刹那、コップの中の水が一瞬にして消滅――いや、爆発的に膨張した。
「うおっ!?」
俺はとっさに顔を庇った。
真っ白な水蒸気の爆風が、周囲の砂を巻き上げる。
(……水蒸気爆発か!?)
水は気体になると、体積が約一七〇〇倍に膨れ上がる。
超高温の熱源に触れた水が一瞬で沸騰し、行き場を失った圧力が衝撃波を生んだのだ。
蒸気の膜が熱伝導を遮断する「ライデンフロスト効果」すら追いつかない、桁外れの熱量。
「あーあ。またやっちゃった」
もうもうと立ち込める蒸気の中で、フィアンは空になった(というか蒸発して消えた)コップの残骸を見つめ、困ったように笑った。
「気化しちゃったね。……物質って、どうしてこう脆いんだろう。これだから不便なんだよね」
悪気はゼロ。
こいつにとっての「常温」が、世界にとっての「灼熱」なだけだ。
どうやら彼は、自身の放出する熱エネルギーを「オフ」にできないらしい。
「……水も飲めないんじゃ、不便だろうな」
俺は呆れながら、今度は魔法で手のひらを冷却し、空気中の水分を凝結させて氷塊を作って投げ渡した。
これなら、爆発する前に多少は保つはずだ。
「で? そんなアンタが、ウチに何の用だ」
フィアンは氷を受け取ると(今度はジュウジュウと音を立てながらも溶け切る前に)、それを口に放り込んだ。
「うん、美味しい。……実はね、国境の向こうの山で、『炎竜』を倒したんだけど」
さらりと、とんでもないことを言った。
炎竜。災害級モンスターの筆頭だ。
「素材として持ち帰りたいんだけど、僕が運ぼうとすると、うっかり燃やして灰にしちゃうんだよ」
彼は困ったように肩をすくめた。
「せっかくのレア素材なのに、灰じゃ意味がないでしょ?
だから、君にお願いしたいんだ」
フィアンは俺の目をまっすぐに見つめ、無邪気な笑顔で依頼を口にした。
「君のその『冷やす箱』なら、燃やさずに帝都まで運べるかな?」
俺は天を仰いだ。
ドラゴン。しかも、この災害級の熱源付きだ。
普通の運送屋なら、裸足で逃げ出す案件だ。
こいつは、存在そのものがエントロピーの増大(無秩序への拡散)を体現している。
対して、俺の仕事は冷却と管理――つまりエントロピーの減少(秩序の維持)だ。
相性は最悪。
だが……物理法則を無視して暴れるエネルギーを見ると、叩き直してやりたくなるのが技術屋の性分だ。
「……いいだろう」
俺はニヤリと笑った。
「燃やすしか能がない天才様のお守りか。……面白え。
ウチの物流(冷却技術)が、お前の熱に勝てるか試してみようじゃねえか」
俺が答えると、フィアンは花が咲くように笑った。
「よかった! 話が早くて助かるよ。じゃあ、案内するね」
その笑顔の裏で、俺の危機管理アラートは「やめておけ」と叫び続けていたが……乗りかかった船だ。
俺たちは、熱波の元凶と共に、ドラゴンの眠る山へと向かうことになった。
水を触っただけで水蒸気爆発。
物質が脆いのではなく、フィアンの熱量が桁違いなだけです。
彼は「熱をオフにできない」という不便さを抱えた、歩く戦略兵器でした。
エントロピーを増大させる「最強の熱」と、
エントロピーを減少させる「最強の冷却」。
物理法則をかけた戦いが始まります。
次回、フィアンに案内され、ドラゴンの死骸がある山へ。
そこでケントたちが見たものは、想像を絶する「巨大すぎる荷物」でした。
次回、第18話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




