第16話『英雄の破産と、熱波の彼方からの来訪者』
前回、国境の砦に物資と「冷凍された元英雄たち」を届けたケント。
仕事が終われば、次は「お支払い」の時間です。
Sランク冒険者の命を救ったのですから、その請求額は……推して知るべし。
そして、彼らに下される社会的制裁と、熱波の向こうから歩いてくる「規格外の存在」。
新たなる物語へ繋がる第16話です。
砦の司令官室。
空調の効いたトラックから離れたこの部屋は、サウナのような蒸し暑さだった。
だが、司令官の背筋を凍らせたのは、俺が提示した一枚の紙切れだったようだ。
「……ケント殿。この請求額は……」
「適正価格だ。内訳を見てくれ。『緊急物資輸送費』『危険手当』……そして、これだ」
俺は指先でトントンと項目を叩いた。
【生体搬送費(Sランク特別割増)】
【精神的苦痛慰謝料および、虚偽報告による業務妨害賠償金】
「Sランク冒険者様の命だ。一般人の百倍の価値があるんだろう? 当然、輸送料も何倍にもなる」
「……なるほど。それはそうだな」
司令官は重々しく頷き、書類に決済印を押した。
「彼ら――元『紅蓮の牙』の任務失敗と、ギルドへの虚偽報告については、既に本部へ通達した。
彼らの冒険者ランクは剥奪。装備および預金は全て凍結・没収し、この莫大な請求への支払いに充てることとする」
つまり、破産だ。
地位も名誉も金も、全て失う。
物理法則(メンテナンス不足)に負け、社会のルール(契約)に裁かれる。
プロ意識を欠いたアマチュアの、当然の末路だった。
「毎度あり。ああ、彼らへの取り立ては厳しめで頼むよ。社会の厳しさを教えるのも、教育的指導というサービスのうちだ」
俺は涼しい顔で、請求書の控えをポケットにねじ込んだ。
◇
砦の裏庭。
そこには、かつての栄光など見る影もない一団がいた。
「くそっ、重い……! なんで俺がこんなガレキ運びを……」
「爪が割れたわ……最悪よ……」
「腹減った……」
粗末な麻服を着せられたグレイたちが、炎天下で復旧作業に従事させられていた。
装備はすべて没収され、その手には剣の代わりにモップやスコップが握られている。
俺がトラックへ戻ろうと通りかかると、グレイが血相を変えて駆け寄ってきた。
「け、ケント! 待ってくれ!」
彼は泥だらけの手で俺に縋り付こうとした。
「俺が悪かった! 謝るから! やり直そう!
俺にはお前が必要なんだ! お前のメンテがないと、俺は何もできないんだぁぁ!」
必死の形相。
だが、俺は歩みを止めなかった。
怒りもしない。嘲笑もしない。
ただ、通路上にある「障害物」を見るような目で、彼を一瞥した。
「邪魔だ、どいてくれ。荷積みの時間なんだ」
「……あ」
俺は彼を避け、そのまま通り過ぎた。
罵倒されるよりも、無視されること。
「お前にはもう、怒る価値すらない」という無関心こそが、元英雄への最大の断罪となる。
「ケントぉぉぉ……ッ!!」
背後で絶叫が聞こえたが、俺は振り返らなかった。
プロ意識のない人間に割く時間は、一秒たりとも持ち合わせていない。
◇
「……終わりましたか、マスター」
トラックの前で待っていたベアトリスが、気遣わしげに声をかけてくる。
「ああ。不良在庫の処分は完了だ。これですっきりしたな」
俺は気持ちを切り替え、助手席のドアを開けた。
そこには、また別の「契約」を待つ少女がいた。
「シエラ。降りてこい」
黒髪の少女が、おずおずと降りてくる。
俺は一枚の書類を彼女に手渡した。
「研修期間は終了だ。正式にウチで働いてくれ」
【雇用契約書:役職・航法士】
シエラは、見えない目でその紙の感触を確かめ、震える声で言った。
「……私で、いいんですか? 目も見えない、こんな……」
「お前じゃなきゃダメだ。あの砂嵐を抜けられたのは、お前の力があったからだ」
俺が言うと、横からミナとルルが抱きついた。
「シエラちゃん、一緒にお仕事しよー!」
「アイスはんぶんこするー!」
「……ふふ。シエラ殿、歓迎しますよ。貴女の力は、我が社の守りの要です」
ベアトリスも優しく微笑む。
シエラは包帯の下から涙を零し、契約書を胸に抱きしめた。
「……はい。……このトラックのエンジン音、心臓の音みたいで……ここが、私の居場所です」
これで、チームは完成した。
俺の冷却、ミナの断熱、ルルの気密、ベアトリスの積載、そしてシエラの航法。
完璧な布陣だ。
だが。
物流の世界に、安息はない。
◇
日が暮れかけても、砦の気温は一向に下がらなかった。
むしろ、じりじりと上がり続けている気配さえある。
「……おかしい」
再び顔を合わせた司令官が、脂汗を拭いながら空を見上げた。
「この熱波、ただの自然現象ではないかもしれん。
噂では、国境の向こう……帝国領の『大魔道士』が、実験でヘマをした余波だという話もあるが……」
「大魔道士だか何だか知らんが、迷惑な話だな。エアコンの出力上げとかねえと」
俺がトラックの出力調整をしようとした、その時だった。
「……っ! 誰か来る」
シエラが鋭く顔を上げ、耳を澄ませた。
「すごい魔力……熱い音がする。……でも、足音に『悪意』がない。ただ純粋な……力?」
「悪意がない? じゃあ客か?」
シエラの視線の先。
揺らめく陽炎の向こうから、一人の青年が歩いてきた。
燃えるような赤髪。
すらりとした長身に、整った顔立ち。涼しげな目元で、分厚い本を抱えている。
だが、何かが異常だった。
彼が歩くたびに、周囲の空気が陽炎のように揺らぎ、地面の砂がジュッと音を立てている。
まるで、人間サイズの「太陽」が歩いているようだ。
「おい待て! 何者だ!」
兵士たちが槍を向けるが、青年は気にする様子もなく、ニコニコと俺たちのトラックへ近づいてきた。
「やあ。君が『冷やせる』人?」
青年は人懐っこい笑顔で、トラックのボディに触れた。
「わあ、すごい! ひんやりしてる! この鉄の箱、どうなってるの? ねえ、分解してもいい?」
「あ? ふざけんな。商売道具だ」
俺が凄むと、青年は「あはは、冗談だよ」と笑い、とんでもないことを口にした。
「はじめまして。僕はフィアン。 ……君に、ちょっと相談があるんだけど」
フィアンと名乗った「熱源」は、悪びれもなく言った。
「僕のドラゴン、燃やさずに運べるかな?」
「怒る価値もない」
最大の復讐は、暴力を振るうことではなく、「関心を持たない(無視する)」ことです。
彼らはケントにとって、もう元仲間ですらなく、ただの「道端の障害物」になりました。
そして、破産した彼らと入れ替わるように現れた、とんでもない「客」。
帝国の宮廷魔道士、フィアン。
歩く活火山のような彼からの依頼は……「燃えるドラゴンを、燃やさずに運べ」。
次回から新たなる物語がスタートします。
最強の火力を誇る天才と、熱力学を駆使する物流屋。
水と油……いや、火と氷のタッグにご期待ください!
次回、第17話『熱波の主と、無邪気な災厄』は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「請求書でスカッとした!」「無視するのが一番効くよね!」「次の依頼もやばそう!」
と思っていただけましたら、
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(皆様の応援が、次の「ドラゴン輸送」への燃料になります。何卒、★5つ応援をよろしくお願いいたします!)
明日も全力で更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




