第12話『視界ゼロの爆走(ブラインド・ドライブ)』
前回、視界ゼロの砂の回廊を突破するため、盲目の少女シエラをスカウトしました。
彼女の持つ「反響定位」は、この砂嵐において最強の「目」となります。
冷却・緩衝・密閉・積載。そして今回加わった「航法」。
全ての物流ピースが揃ったギガ・フロスト号で、いざ、灼熱の嵐へ突入します!
バチバチバチバチッ!!
凄まじい音が、装甲車『ギガ・フロスト号』のボディを叩いていた。
窓の外は、茶色一色。
猛烈な砂嵐だ。太陽光すら遮られ、昼間だというのに世界は夕闇のように薄暗い。
「視程距離」、ゼロ。
ボンネットの先端すら霞むほどの濃密な粒子。
普通のドライバーなら、恐怖でアクセルを緩め、あるいはブレーキを踏んで立ち往生し、そのまま砂に埋もれて死ぬだろう。
「ひぃっ……! な、何も見えません……!」
「おじちゃん、お外まっ茶色だよー!」
後部座席でベアトリスが剣の柄を握りしめ、ミナとルルが抱き合っている。
無理もない。断崖絶壁の続く渓谷で、目隠しをして走っているようなものだ。
だが、俺は不敵に笑い、アクセルペダルを踏み込んだ。
「関係ないね。この状況下において、肉眼なんてのは飾りだ」
航空機の世界には「計器飛行」という言葉がある。
外が見えなくても、計器の数値さえ信じれば、空は飛べる。
そして今、俺の隣には、世界最高精度の「計器」が座っている。
「……シエラ、状況は?」
助手席の少女――シエラが、ヘッドホンの上から両耳に手を当て、深く集中した。
艶やかな黒髪が、わずかに揺れる。
「……感度良好。ノイズ除去、完了」
彼女の包帯に覆われた目は、何も見ていない。
だが、彼女の脳内には今、『音』によって構築された精緻な世界が広がっているはずだ。
風の反響、タイヤの振動、岩肌にぶつかる砂の音。
それらが解析され、暗闇の中に緑色のワイヤーフレーム(三次元線画)として浮かび上がる。
彼女の唇が動いた。
「……右、30度。距離200に巨岩。今の速度ならかわせる」
「了解」
俺は疑わない。
前を見ず、彼女の言葉だけを信じてハンドルを切る。
ゴオォォォォ……ッ!
一瞬、右側の窓スレスレを、巨大な岩壁が流れていった。
あと数センチずれていれば激突していた距離だ。
「なっ……!?」
ベアトリスが驚愕の声を上げる。
「マスター、なぜ前を見ずに回避できるのですか!? 今、岩なんて見えていなかったはず……!」
「見ようとするな、感じるんだ。……次は?」
「……左、15度。緩やかなカーブ。その先、路面崩落あり」
「ラジャ。内側で抜ける」
俺とシエラの間で交わされるのは、必要最低限の符丁のみ。
ラリードライバーとナビゲーターのような、研ぎ澄まされた信頼関係。
健常者である俺たちにとって、この砂嵐は「地獄の盲目世界」だ。
だが、盲目であるシエラにとってのみ、ここは「全てが視える領域」へと反転する。
その時。
シエラの眉がピクリと跳ねた。
「……ノイズに異音。11時の方向、熱源接近」
「風の音じゃないのか?」
「違う。……生体反応。粘液質の音がする。……でも、おかしい。彼ら、こちらを狙っていない。ただ『逃げている』……?」
「逃げているだと? 俺たちのトラックからか?」
「いいえ。もっと遠く……『国境の向こう側』から来る、巨大な熱の波紋に怯えて、死にものぐるいで走っている。……来る、ぶつかる!」
俺は即座に叫んだ。
「ベアトリス、左舷迎撃! 距離50、高さ3!」
俺は叫んだ。だが、これは無茶な命令だ。
今、このトラックは300トンの荷物を積んでいる。
ベアトリスが座席を通して『重量軽減』をかけ続けているからこそ走れているのだ。
もし攻撃のために魔法を解けば、その瞬間、数百トンの質量が復活してサスペンションが砕け散る。
俺たちはミンチだ。
「くっ……無茶を言いますね、マスター!」
だが、ベアトリスは『玉座』から背中を離さなかった。
彼女は座席に深く体を預けて車体の軽さを維持したまま、器用に窓だけを開け、切っ先を砂嵐の中へと突き出した。
(集中せよ……! 意識を分割するのです!)
彼女の額に玉のような汗が浮かぶ。
全身でトラックの質量をキャンセルしつつ、手元の剣だけに別の魔力回路を繋ぐ。
並列詠唱。
脳が焼き切れるほどの集中力を要する、変態的な魔力制御だ。
「車体維持、良し! ……シエラ殿の座標へ! セイッ!!」
彼女の手首がしなり、不可視の衝撃波が茶色の闇を切り裂いた。
ドスッ、という生々しい命中音。
「……撃破!」
トラックは一度も沈み込むことなく、滑らかに走り続けている。
彼女は涼しい顔をしているが、その神業に俺は震えた。
フォークリフト機能と迎撃機能の同時展開だと?
やはりこいつは、ウチの最強の重役だ。
静かに指示を出す、黒髪のシエラ(静)。
その指示を物理的な力に変える、銀髪のベアトリス(動)。
黒と銀。
対照的な二人の少女が、俺というドライバーを介して完璧に噛み合っている。
美しいコンビネーションだ。
「……敵影消失。ルート復帰」
「よし。……ん?」
シエラが急に、手すりを強く握りしめた。
緊張の色。
「……前方、断崖。道が途切れてる」
「距離は?」
「150。……落ちたくなかったら、ブレーキ踏まないで」
彼女は、俺の方を向いた(ような気がした)。
「……加速して。飛び越えて」
狂気的な指示だ。
だが、俺の足はブレーキペダルを蹴り飛ばし、アクセルを床まで踏み抜いていた。
「了解。……舌噛むなよ、飛ぶぞ!」
「ま、また空を飛ぶのですか!? 騎士の心臓が持ちません!」
「きゃー! ジェットコースターだー!!」
ベアトリスの悲鳴と、ミナ・ルルの歓声が重なる。
俺たちは茶色の闇を突き破り、虚空へと踊り出た。
◇
フワリ、という浮遊感の後。
ズドン! と重い着地音が響く。
サスペンションが軋み、タイヤが大地を噛む。
その瞬間。
窓の外を覆っていた茶色が、嘘のように晴れた。
「……あ」
目の前に広がっていたのは、抜けるような青空。
そして、遠くに見える巨大な石造りの建築物――国境の砦だった。
「抜けた……!」
俺はハンドルから手を離し、大きく息を吐いた。
隣を見ると、シエラがぐったりとシートに沈み込み、肩で息をしている。
「……疲れた。音の情報量が、多すぎて……」
「よくやった。いい仕事だったぞ」
俺はクーラーボックスから冷えた缶ジュースを取り出し、彼女の火照った頬にピタリと当てた。
「ひゃっ……」
「お前がいなきゃ、三回は崖下に落ちてたな。最高のナビゲートだった」
シエラは缶を両手で包み込み、少しだけ口元を緩めた。
「……悪くない乗り心地、でした。このトラックのエンジン音……心臓みたいで、安心します」
後部座席から、ベアトリスが身を乗り出してくる。
その表情には、純粋な尊敬の色があった。
「シエラ殿……。貴女こそ、真の『航法士』です。あの嵐の中で敵を察知するとは……騎士として感服いたしました」
「……ありがとう」
黒と銀の少女が、視線を交わす(シエラは見えていないが)。
どうやら、ここにも新たな信頼関係が結ばれたようだ。
俺はギアを入れ直した。
「さあ、休憩は終わりだ。
熱波で干からびてる連中に、待望の『氷』を届けてやろうぜ」
目の前の砦。
そこにいる元パーティ『紅蓮の牙』が、俺たちの到着をどんな顔で迎えるか。
楽しみで仕方がない。
「見えないけど、視えている」
シエラのナビゲートと、それを信じてアクセルを踏み抜く信頼関係。
そして、揺れる車上で精密斬撃を行うベアトリス。
チームワークの勝利で、無事に難所を突破しました。
さて、嵐を抜けたその先には……。
熱波で干からびかけている、懐かしの「元パーティ」が待っています。
次回、いよいよ彼らとの再会です。
泥水を啜る彼らの前に、キンキンに冷えたトラックで乗り付ける。
圧倒的な「格差」を見せつける展開にご期待ください!
次回、第13話は
【 明日の 18:10 】に更新します!
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【読者の皆様へのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
「シエラの能力かっこいい!」「トラックが飛んだ!?」「早く元パーティの悔しがる顔が見たい!」
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明日も全力で更新します!
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※本作品は、執筆の補助・推敲にAIツールを活用しています。




