10月11日夕方 ~ ふたりめの到着 2/2
以前、家族学校の生徒数人で近くに外出した時、突然、雹が降り始めたことがあった。
猛烈な勢いで弾丸のように打ちつける雹は凶器そのものだ。右往左往して逃げ惑う中、全員が申し合わせたように瑠奈の後を追った。
そして、どこにあるかもわからなかった避難所に、場所を知っていたかのように最短距離で逃げ込んで、無事に戻ることができた。
まわりが目に入っていないような瑠奈が、自発的にみんなを誘導することはない。が、幼い頃から一緒に育った者たちは、とっさに後を追うほど、瑠奈と一緒にいると安全なことを経験から知っていたのだ。
外に一歩出たとたん、何が起こるかわからない。予測不能な危険にあうことを覚悟しなくてはいけない今の世界で、瑠奈の存在は周囲にとって安全の目印となっていた。
しかし、それは、瑠奈に危険を回避する能力がある、という意味ではなかった。もとより華奢で、誰かに庇護されているほうが似合っていたし、当人も、何が何でも生き抜こうとする気概は持ち合わせていなかった。
――瑠奈ちゃんは守られてるもんね。
いつしか自然に、まわりにいる者たちはみんな、口を揃えてそう言うようになった。
だから、家族学校の転校がある今年、受付開始後すぐに瑠奈が転校希望を申請した時は、大騒ぎになった。
「ここでの暮らしをやめるってことは、このあたりは危ないの?」
「どの範囲まで危険が迫ってるんだろう?」
「他の場所に避難しろってことか?」
みんなにつめ寄られた瑠奈が「別に――」と無表情に否定したことで、とりあえず騒ぎが収まると、今度は、スタッフたちが眉をひそめた。どうひいき目に見ても、協調性があるとは言えない瑠奈が、新天地でうまくやっていけるとは思えなかったからだ。
だが、少し落ち着くと、スタッフの受け止め方も変わった。
「瑠奈ちゃんは、きっと、どこに行ったって、これまでと同じよ」
「俺もそう思う。いつでも、どこでも、誰よりも安全にしてるさ」
「ひとりで幸せそうだしね」
結局、転校に反対する者は出なかった。
瑠奈は大丈夫だ――と誰もが確信したからである。
ただ、どうして突然転校したいと言い出したのか、なぜ縁もゆかりもない瀬戸内の家族学校を転校先に選んだのか――、謎は残った。
そんな兆しは微塵もなかっただけに、誰もが首をひねった。
「その家族学校の何がいいの?」と本人に尋ねても、「私も知りたい」と、まるで他人事のような反応で、ほんとうに瑠奈自身が転校を希望したのか、疑われる始末だった。
もちろん、転校希望の申請書には、新天地で新しい自分の可能性を試してみたい、とか、環境の変化に自分が対応できることを証明したい――など、それらしい理由が記されていた。が、それは、瑠奈を知る誰が見ても、瑠奈らしくない、まるで他の誰かが書いた模範解答を張りつけて、それらしく体裁を整えたかのように見えた。
そして、二か月の審査期間を経て、全国一斉に発表された家族学校の転校生リストの中に、青柳瑠奈の名前があった。
しばらくの間、瑠奈の転校の話題が生徒たちの間で再熱した。そしてその度に、それまで存在すら知られていなかった街の名前が、口にのぼることになった。
周囲の者たちが知るかぎり、瑠奈がバーチャル旅行をした形跡もない瀬戸内の街、広島県黎明市――。
そこに、瑠奈の新しい所属先となるビレッジ、家族学校飛鳥があった。
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