2話…【悪魔の子】と【天使の子】。
〜【悪魔の子】、1番目の道化師 Antinomy。〜
「ねぇ、僕らはいつも一緒だよ?」
「うん。絶対にいつも一緒だよ?」
「眠る時も起きる時も」
「ご飯を食べる時も、××される時も」
「「ずっとずっと、一緒だよ?」」
……煌びやかなシャンデリア。
キレイなドレスに、キレイなスーツ。
美味しそうな料理に、楽しそうな会話。
僕らはそれを、眺めるだけ。
汚い僕らは、【悪魔の子】である僕らは、それらを眺めるだけ。
でも、哀しくなんてないよ。
だって隣に、君がいるから。
僕らは2人で1人。
一卵性双生児。
お互い何を望んでいるのか、何を思っているのか、何だってわかる。
鏡で自分を映したかのように、そっくりな容姿。
走る速さも、頭の良さも悪さも、何もかも一緒。
君が嬉しかったら、僕も嬉しい。
君が哀しかったら、僕も哀しい。
君が楽しかったら、僕も楽しい。
君が怒ってるなら、僕も怒る。
何もかも一緒。
だから、寂しくない。哀しくない。つらくない。
僕らは世で言う【貴族】。【貴族】の末っ子。
だけど……
この国では、《双子》という存在は、【悪魔の子】とされていた。
だから僕達は、虐待されていた。
そう。まるで奴隷と変わらない。
そんな扱いだった。
殴られ蹴られ、斬られ刺され、熱湯をかけられタバコを押しつけられ……
ボロボロだった。
だけど僕らは、お互いを励まし合った。
そのおかげで、僕らはまともでいられた。
名前はなかった。
そんなもの、【悪魔の子】に必要ないと言われて。
こんな日々がいつまでも続くんだと、それでもここで暮らせるんだと思っていた。
だけど、そんなの甘い幻想に過ぎなかった。
ある寒い日の夜。
僕らは捨てられた。
凍えるくらい、寒い寒い夜。
誰も汚い僕らを、【悪魔の子】である僕らを、拾ってはくれない。
嗚呼、僕らはここで終わるのか__。
そう、諦めかけた。その時。
とても低い声が、聞こえた。
「おい。……お前ら、捨て子か?」
「「だ、誰!?」」
「……行く当てがないのなら、俺についてこい。
そこで俺のことについても、教えてやろう。
……嫌なら別に構わんが……今宵はとても寒い。片寄り合って寝ても、明日の朝には2度と、目は覚めないだろう。
……どうするかは、お前らが決めるといい。」
その人は、声は低く、口調も男っぽかったが、外見は女性であった。
何とも不思議で、異様な人物。
そんな、不審者とも言える人間なのだから、ついて行かない方がいい。
……そうは思ったが、こんな僕らに唯一、声をかけてくれた存在でもある。
手を差し伸べられたのは、これが生まれて初めてだった。
僕らは少し悩んだが、その人物の言う通り、今夜はとても寒い。
このままいれば、僕らは死んでしまう。
だから、ついて行くことにした。
そこで、その人物は話した。
その人物の名前はイレーヌ。一応女性ではあるらしい。
そうして語られた、彼女の決意。
初めて、家族の温もりを知った。
初めて、愛を知った。
初めて、名前をつけられた。
初めて、頭を撫でて貰えた。
僕の名前は骸。
僕の名前は無雨亜。
僕らの名前は、1番目の道化師 Antinomy!
この国を救う為に。
沢山の子供達を救う為に。
僕らを苦しめる、独裁者を倒す為に。
僕らは暗い闇夜を彷徨った。
片手の不思議な形をした、剣を持って……。
今宵も、【家族】と共に
悪を騙り正義を騙る愚かな大人達を、成敗する。
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〜【天使の子】、2番目の歌姫 Diva。〜
「あなたの歌声は、まるで天使みたい。」
「何度聴いても飽きないし、寧ろ癒されるわ。」
「容姿も可愛いし、婿には相当、良い家の出を選ばなければな。」
「何とも愛らしいお姿……どうぞ、私の妻となってはくれませんか?」
「まるで悪魔ね。」
「容姿も、男を誑かしてそうで、何とも厭らしい……」
「近づくな!この悪魔が!」
私は、公爵家の1人娘。
公爵の中では、2番目に地位を持っているそう。
私は歌が大好きだった。幼い頃から、毎日毎日歌っていた。
気づけば私の周りには、沢山の人々だけでなく、小鳥や犬、猫達も集まってきた。
女性の方は褒め称え、男性の方はこぞって求婚なさった。
私は毎日幸せだった。求婚については、私はよくわからなかったので、そこは両親に任せていたけれど。
だけどそんな幸せは、所詮皆父の権力に群がっているだけの、砂上の城でしかなかったのだ。
だからこそ、あの日から全てが狂い出した。
「アイシェ様、コズエ様。気を確かにお聞きください。
クローム様が____」
父が、亡くなった。
それも、最悪な形で。
父は、王子に逆らった。
王宮に仕える奴隷は、本当に酷い扱いだそうで、それを見兼ねた父は……奴隷を庇った。
それは、王と王子に逆らうも同義。
だからその場で、王子に殺されてしまった。
父はいつも、その奴隷の扱いについて、腹を立てていた。
だからいつか、こんな日が来るかもしれないことは、薄々感じていた。
だけどまさか……その場で処刑されるとは、思わなかった。
それから私達は、周りの方から酷く冷たくあたられました。
今まで褒め称えてくださっていた方も、求婚なされていた方も、皆……
掌を返し、私達に冷たくあたった。
私を「天使の子だ」と言っていたのに、今では「悪魔の子だ」と、罵られた。
母は、父のことを深く深く愛していた。
2人は幼い頃許嫁となり、そのまま結婚した筈だが、それなのに2人は当然のように愛し合っていた。
だからこそ、母はとても嘆き哀しんだ。
私は、上手く現実が呑み込めなかった。何かの夢にしか、思えなかった。
それでも母は、私を育てようとしてくれた。
没落しても、母は今まで使っていた貴金属や服を売って、生計を立てようとしてくれていた。
だけど……
母の心の傷は、相当深かった。
母は、自殺した。
家はめちゃくちゃだった。母が暴れたのだろう。
母は、父が死んでから、時々発作的に暴れていた。その発作が収まらぬままに……薬を大量に飲み、死んだ。
父も死に、母も死に
私には、何も残っていなかった。
雨の降る日。
行き場を失った私は、何処へいくわけでもなく、街を彷徨った。
今、雨が降っていて良かったと思う。
そうでなきゃ……この、涙が、周りに見えてしまったから。
「あっ……!」
《グシャ》
私は、水たまりに足を取られ、派手に転んでしまった。
お気に入りの服で転んだわけでないのが、唯一の救いだ。
「……う……うあ……」
どうして、こうなったんだろう。
どうして、父も母も、いなくなったのだろう。
そして
どうして私は、死にたくないのだろう。
父も母もいなくなり、周りに頼れる人もいない。
そうなってしまえば、もう死ぬしかない。
死ぬしか、ないのに……
私は、まだ死にたくない。
「うぁあああ……!」
私は泣き喚く。
これまで堪えてきたものが、一気に溢れ出した。
……すると、そんな時に
不思議な出会いが、訪れた。
「人間の子供は、すぐに風邪をひく。そんな雨に濡れて……風邪をひきたいのか?」
「ふぇ……?」
とても低い声が、私の心に響いた。
顔を上げると、そこにいたのは……
女性の体つきをした存在なのに、男性のように低い声の、異形の者。
体つきも、顔つきも女性で、とても綺麗な人なのに、声が……異様に低い。まるで、男性だ。
だけど、容姿と声が合っていなくとも、どこか人を惹きつけ、魅了する……そんな声だった。
「……そうは、言われましても、私に身を寄せる場所も、雨風を凌ぐ場所も……ございません。
風邪をひいても……誰も、困りません。」
私は、ありったけの強がりのセリフを、吐いた。
涙は一度引っ込んだが、自分がそのセリフを吐いていると、また泣きそうになり、私はその涙を押し殺しながら、その人にそう返す。
すると、その人は……
「……そうか。ならば、俺について来い。」
「え……」
連れられた先は、大きな家。
中に入れば、顔の半分に火傷を負った少年と
目を閉じている少年に
鏡合わせのようにそっくりな、2人の少年がいた。
そこで私は、説明された。
孤独を抱えているのは、私だけじゃないと。
両親の過度な期待を受けたからこそ、全てを壊してしまった少年に
本当の両親から捨てられた後、色んな大人に拾われ捨てられを繰り返した少年。
この国で双子は、【悪魔の子】と言われているからこそ、貴族の身分であったのに、虐待を受けていた少年達。
それらは全て、孤独だった。
私と、同じだった。
私をここに連れてきた人……イレーヌ様は、こう言った。
「この国は、もう腐り切ってしまった。
傲慢な王と王子に、それに異を唱えず、自らの保身の為に従う、愚かな貴族や公爵達。
俺は、それらを壊したい。
この義賊は、その為の組織だ。
そして、俺らは____【家族】だ。」
全てを失った、その数ヶ月後。
私はまた、大切なものが出来た。
私は、役目を貰った。
私の役目は、2番目の歌姫。
私の大好きな歌で、人々を惑わす。
大好きな歌は、今日も私を和ませる。
同じように、家族の彼らや、私達が守べき弱き者達を和ませる。
だけど、私達の敵である人間が聴くと、それは呪いとなる。
私は歌姫。
今日も闇夜に紛れ、大好きな歌を歌うんです。




