1話…0番目の過去。
……気づけば俺は、そこにいた。
そこは、何処かの人体実験施設。まだ3歳くらいのことだ。
俺の他にそこには、女の子1人、男の子が2人いた。
1人の女の子は、俺や他の2人にこう聞いた。
「皆、名前ってある?」
……名前など、あるものか。ここでは皆、番号で呼ばれるのが当然のことなのだから。
もしかしたら、ここに連れて来られる前には、あったかもしれない。けれどそんなもの、覚えていない。
1人の男の子も、そのことを言った。
すると女の子は……
「よかったぁ……私だけじゃなかったんだ。
でも、番号なんて哀しいじゃん。だからさ、私達で名づけ合わない?」
……と、言った。
あっけらかん。名前など、なくて当然だと思ってきた俺達は、そいつの提案に唖然とするしかなかった。
男の子の1人が……その提案に乗った。もう1人の男の子も。
だから……俺も賛成する他なかった。
そしたらいきなり、俺から女の子に名前をつけてと、無理難題を押し付けられた。
急すぎて、暫く考え込む。
その時、その女の子の服に書いてある番号に、目がいった。
No.30。
確か、遠い東の島国に、その数字に当てはめた言語があった筈だ。
それは確か……確か……
「み……お……。ミオ、なんてのは、どうかな?」
……我ながら、過去の俺と今の俺は、似ても似つかない。何があって、あんな女の子らしいんだ?恥ずかしいな。俺の黒歴史だ。
まあ、俺は女であるが……。
人とは時が経つと、変わってしまうとはいうが、俺は変わり過ぎてしまった。
この声になってから、本来の性格を封じるように、振る舞っているのだから。
「ミオ?可愛い名前!ありがとう。これから私は、ミオって名乗るよ!
それじゃあ、今度は私が、君につけてあげる!」
こうして、後に知る人ぞ知る名前となる。
ミオが男の子の1人に、エレンと名づけ
エレンがもう1人の男の子に、ナイトと名づけ
ナイトが俺に、イレーヌと名づけた。
笑い合った。最高の笑顔だっただろう。
きっと、純粋に笑えたのは、それが最初で最後だろう。
それから俺達は、様々な実験を受けながらも、互いがいるからと、頑張れた。
だけど……
段々と、痛みの酷くなる身体。
意識が混濁する日々。
それに対して、俺は恐怖を抱いた。
このままいけば、俺らは死んでしまう。殺されてしまう。
自分自身が死ぬことには、そこまでの恐怖はない。
だけど、皆が……名前を付け合った、家族のように親しくなれた彼らが死ぬこと。それが何より、怖かった。
だから……
「……ここから、逃げ出そう。」
「「「え……?」」」
俺はそう、皆に提案した。
「このまま、ここに居続けたら……私達は、生きていけない。きっと、殺されちゃう……」
「ま、まさか……。そんなこと、ないよっ……!」
「それに、どうやって逃げ出すの?大人達だって、逃げ出すことが不可能なのに、子供の僕らが逃げ出すなんて、無理だよ。」
エレンは冷静に、そう分析する。
だけど俺は、そんな分析すらどうでもよかった。
「なら、このままでいろって言うの!?」
「イレーヌ……」
「このままいけば、私達は確実に死ぬ。殺される。
私は、自分が死ぬのはいい。でも、皆が死ぬのは……耐えられない。
そうならない為に……そうさせない為に、逃げ出すしかないの……。
お願い、わかって……」
俺は、必死だった。
皆を救うのに。皆を生かすのに。
すると、その俺の願いを受け取ってくれた1人がいた。
「……そう、だね……。
僕は、イレーヌに賛同する。」
「ナイト……!?」
「イレーヌの、言う通りだよ……。このままいけば、僕らは間違いなく死ぬ……殺される……。
僕……毎日身体が痛いんだ……。意識が保てないくらい、つらい時もある……。
この痛みから解放されるなら、死ぬのもありかもしれないなんて、思ったこともあるけど……僕も、僕が死ぬのはいいけど、皆が死ぬのは嫌だよ……。」
「ナイト……」
「……わかった。私も、イレーヌに賛成する。」
「ミオまでっ……!」
「私も、皆が死ぬなんて嫌だ。それなら、逃げ出すしかないよ。」
「………」
「エレン。皆で、ここから逃げ出そう。
そして……4人で、この世界を生き抜こう。」
俺はそう、エレンに畳み掛ける。
エレンは暫く、悩む素振りを見せたが、その後……
「……はあ。わかったよ、僕の負けだ。僕も、賛成する。
でも、それなりの覚悟も持たなきゃ、ダメだからね。」
「!うん……!」
こうして俺らは、逃げ出そうと脱走計画を企てることにした。
だが、問題がある。
それが、俺らはそこの敷地についても、外の世界についても、何もしらないということだった。
それについて、話し合おうとした時。
どこからともなく、白衣を着た男がやって来た。
「いやぁ、話は聞かせて貰ったよ。」
「!?……誰……」
「僕?僕が誰であろうと、そんなのどうでもいいじゃないか。
……まあ、ここの研究員、とだけ認識しておいてよ。」
この施設の研究員だと名乗った男。すぐさま俺らは、身構えた。
子供が身構えたところで、意味などなかったが、それでも反射的に身構えた。
きっと、俺らの計画を聞きつけ、処分しにきたのだと俺らは思った。だが、男は意外な言葉を口にする。
「君達が逃げ出したいの聞きつけて、それを助けてあげようとする、救世主みたいなもんだよ。」
「そんな言葉、誰が信じると思う?」
当然のことを、エレンは問い質した。
こんな状況で、俺らを助けてくれる大人など……研究員など、居ない筈だ。
それなのに……
「うーん、疑り深いねぇ。でもね、僕は君達に協力したい。それは、嘘偽りのない本心だよ。」
「ほ、本当に……?」
「本当さ。だから、僕が今日から君達に、ここの設備や敷地について、教えてあげるよ。
あ、でも逃げ出せても、僕が協力したのは、秘密にしててね?僕にも立場ってもんがあるからさ。」
……この男が、悪魔だろうと何だろうと構わない。俺はそう思った。
そして、利用出来るものは、何でも利用してやろう。そう決意した。
「ふふ。そう言うと思ってた。それじゃ、今日から宜しくね。」
そうしてその日から毎日、時間が出来る度に男は俺達の元へやって来ては、俺達に色んなことを教えてくれた。
俺達はそれを暗記していく。
絶対に、この脱走を成功させてみせる。
そう意気込みながら、時を待った。
この時から、全ての歯車は廻り出していたのだ________。




