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アルバイト先の同級生が気になってしょうがない  作者:


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2/2

近すぎる距離

弁当屋の前で、瀬古は足を止めた。


昼の熱気がまだ舗道に貼りついている。店先から漂ってくる揚げ油の匂いに、あの日の記憶がじわりと滲んだ。視界が白くなって、膝が抜けて――気づけば見知らぬ男に抱えられていた、あの情けない瞬間。


(また倒れた人って覚えられてないかな)


ほんのりとした恐怖が、足首に絡みつく。けれど、財布の中身はその恐怖よりずっと現実的だった。一人暮らし、仕送りなし、バイトは急募。選り好みしている余裕なんて、どこにもない。


瀬古は小さく息を吸い、暖簾をくぐった。


――思っていたより、ずっと雑然としていた。


厨房の奥では鍋が鳴り、カウンターの端には積み上がった弁当容器。整っているとは言い難いが、不思議と居心地が悪いわけでもない。むしろ、妙に生活感があって、拍子抜けする。


「いらっしゃい……あ、面接?」


声をかけた男は店長らしく、エプロンを肩に引っ掛けたまま、のんびりとした目をしていた。


「あ、はい……」


差し出した履歴書は、ほとんど見られなかった。ぱらりと一枚めくっただけで、店長は頷く。


「大学生何年生?」


「1年生です」


「ふーん、週、どれくらい入れる?」


「えっと……3日くらいなら……」


「じゃあいいよ。明日から来れる?」


――それだけだった。


あまりにも軽い採用に、瀬古の方が置いていかれる。


(え、本当にこれでいいのか……?)


不安が、胸の奥で小さくざわつく。けれど、ここで「やっぱりやめます」と言えるほどの余裕もない。結局、曖昧に頷いてしまった。


面接は5分とかからず終わった。


店の外に出ると、夕方の風が少しだけ涼しい。瀬古は肩の力を抜き、息を吐いた。


(……決まっちゃったな)


現実感が遅れてやってくる。その中で、ふと別のことが浮かんだ。


――あの人。


あの日、自分を支えた、距離の近い男。


(もう会わないかもな……)


ぼんやりとそう思った、その瞬間。


「あ!」


背後から、やけに明るい声が飛んできた。


反射的に振り向くと、そこにいた。


「あ、やっぱりこの前の人だ」


宮野尾結城は、まるで偶然を歓迎するみたいに笑っていた。


距離が、近い。


一歩、いや半歩。気づけばパーソナルスペースに踏み込まれている。瀬古は無意識に後ずさるが、その分だけ相手も自然に詰めてくる。


「この前、大丈夫だった?あれ結構やばそうだったけど」


軽い。声の温度が、あの日と同じで、妙に軽い。


「は、はい……もう大丈夫です……」


(なんで覚えてるの?)


それがまず、驚きだった。倒れた客の顔をこんなふうに覚えているなんて。


「よかった。ああいうの、あとで響くからさ」


宮野尾は気にした様子もなく続ける。その視線が自然に瀬古の顔をなぞるのが、妙に落ち着かない。


「……あの、お買い物ですか?」


「いや、今日はバイト」


さらりと答えた。


「えっと……俺、ここで働くことになって……」


言いながら、なぜか報告している自分に気づく。


「へえ、マジで?」


宮野尾の目が少しだけ丸くなる。


「じゃあ、これから普通に会うじゃん」


――当たり前みたいに言った。


瀬古は言葉を失う。


(また会う前提で話されてる……)


ここで働く以上、顔を合わせる可能性は高い。それでも、その距離感のなさに、胸の奥がざわつく。


「……そう、ですね」


かろうじて絞り出した返事は、どこか頼りない。


宮野尾はそれを気にも留めず、ふっと笑った。


「じゃあよろしく。店員さん」


その一言が、やけに近くで響いた。

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