楓ちゃんとカフェでイチャイチャしました
ラブホテル……!!
俺は今日、楓ちゃんとラブホテルに行く……!!
ラブホテルラブホテルラブホテル……!!
心の中に『ラブホ』『ラブホテル』『LOVE』『HOTEL』の文字が永遠にグルグルしている。何度意識しようがラブホテルはラブホテルだし、何度心の中で唱えても他のものに変身するわけでもないし何も意味はないが、どうしても強く意識してしまう。
楓ちゃんとはもう何度も身体を重ね合わせてるんだからラブホくらい今さらだろって話だが、やっぱりドキドキを鎮められない。
雲母に連れ込まれた時とはワケが違うんだぞ。大好きな女の子と行くんだぞ。これでドキドキしないなんてありえないから。
「どうしたの涼くん、早くおいでよ」
「あ、ごめん。すぐ行く!」
ラブホテルを意識しすぎて歩く速度が鈍くなっていた。楓ちゃんが先に行ってて手を振って待っててくれている。俺は急いで追いかけた。
落ち着け俺……ラブホテルを意識するのはまだ早い。その前にカフェに行くんだ。
俺たちはすごく高そうなカフェに入った。
あの日雲母と来た店と同じ店に入り、あの時と同じ席に座った。一番奥の席だ。
場所は全く同じなのに楓ちゃんがいるだけでこんなにも見える世界が違うんだなぁ。
この店がすごくいい店であることに今さら気づいた。
「お代は私が全部払ってあげよう」
「え? いやそれは……」
「―――と言いたいところだけど、それじゃ涼くんが気にしちゃうだろうから、私が預かってる涼くんの給料から引かせてもらって割り勘にしよう」
俺の給料高すぎるし、実質全部奢ってもらってるようなものだな。
何もかも楓ちゃんにお世話になりっぱなしだしこの限りなく大きな恩は必ず返すぞ。
楓ちゃんはメニューを開いた。
「それでさ涼くん、高井雲母はこの店で何を注文したの? 発信器じゃそこまではわからないからさ」
「え、同じものを注文するのか?」
「うん。好きなものを頼みたい気持ちもあるけど、注文も上書きしたい。で、高井雲母は何を注文したの?」
「えーっと、確か……」
あの日この店で、雲母が注文したもの……
…………
……
……なんだっけ……?
店も覚えてる。席も覚えてる。
でも雲母が何を注文して何を食ってたのか思い出せない。マジでなんだっけ。
俺の話を全然聞かずにたくさんおかわりしまくってたのは覚えてるんだけど、あいつ何を食ってたっけ……
あの時の俺はイライラして感情がグチャグチャになってたからなぁ。あの時のことを思い出そうとすると心の中が黒ずんでくる。
「うーん……」
ダメだ、唸ったり首を捻ったりしてみるがどうしても思い出せない。
「覚えてないの?」
「……ごめん」
やばい、怒られるかな。俺は内心ビクビクしながら身構えた。
しかし、楓ちゃんはものすごくニコニコしながら俺を見ていた。
「そっかぁ、高井雲母が頼んだもの覚えてないのかぁ。よかったよかった」
「……? 何がよかったんだ?」
「だってそれってさ、涼くんの中で高井雲母の記憶が薄まってきているってことでしょ? それでいいんだよ。あんな女のことなんて欠片も残さず忘れるべきなんだからさ。
もし涼くんがあの女の注文を完璧に覚えてたらちょっと複雑な気持ちになってたところだったよ。
いいぞ涼くん、この調子でどんどん忘れよう。涼くんが覚えるのは私のことだけでいいんだよ。さすが涼くん! ステキだよ涼くん!」
「っ……」
ただ物忘れしただけなのにステキって言われるとは思わなかった。俺は茹でダコみたいに赤く熱くなる。
まあ確かに雲母が好んで食ってたもんなんて死ぬほどどうでもいいな。思い出す価値もなし。
俺の心の中にいる自分が、雲母との想い出を塵も残さず徹底的に削除している。7年分もあるからすぐに全部消すことはできないだろうけど、全部消えるのは時間の問題だろう。
「じゃあ私の好きなものを注文して、それで上書きしよう! 涼くんも好きなもの頼んでね!」
「ありがとう楓ちゃん」
楓ちゃんが注文したパフェが到着した。
でかい……特盛だ。特盛パフェだ。とにかくでかい。
パフェもでかいけど……テーブルの上に乗った楓ちゃんの豊満な乳もたぷんとしていてでかい。テーブルの上に乗せられるとボリューム感が強調されている。深い谷間も少し見えやすくなっている。
今はパフェに注目するべきなんだが、やっぱり俺は楓ちゃんのでかい胸に視線が吸い寄せられてしまうのであった。
「ん~、おいしい~!」
パフェをすごくおいしそうに食べる楓ちゃんを見て、俺も自然と顔が緩む。
「楓ちゃんは甘いもの好きか?」
「うん、大好きだよ」
「そうか、それは何よりだ」
可愛い女の子がスイーツをおいしそうに食べる……目の保養になる。修業疲れによく効く。しかも俺の彼女だ。回復効果は抜群だ。
「涼くん、はい、あ~ん」
楓ちゃんはパフェが乗ったスプーンを俺に差し出してくれた。イチゴも乗っている。すごく甘そうだ。
「いいのか?」
「もちろん。涼くんと一緒に食べたくて特盛にしたんだよ」
「あ、あーん……」
パフェをあーんで食べさせてもらった。
食べさせてもらった瞬間にこのスプーンが楓ちゃんが使っていたスプーンであることに気づいた。
間接キスだ。イチゴや生クリームの味、そして楓ちゃんの甘美な味……
ああ、甘い。甘い甘い。血がシロップになりそうなくらい甘い。
「おいしい?」
「おいしい」
「ふふっ、どんどん食べてね」
どんどんパフェを食べる。
ここは空の上。わたあめでできた甘い雲の上で、楓ちゃんと二人きりで甘い甘いイチャイチャラブラブ……
そんな甘い至福の世界をじっくりと堪能した。
パフェが食べ終わったあと、俺が注文したものがそろそろ届くはずだ。
「涼くんは何を頼んだの?」
「ちょっと恥ずかしいけど、見てのお楽しみってことで」
恥ずかしい気持ちもあるが勇気を出して注文した。
これはデートで、俺たちはカップルなんだから、どうしてもやりたいと思っていたことがあった。
「お待たせしました~カップル限定のラブラブジュースです」
来た! 俺はドキドキが最高潮に達した。
届いたものを見て、楓ちゃんもちょっと頬を赤らめた。
俺が注文したのはカップル限定のトロピカルジュースだ。
ハートマークがついたストロー。これは1人じゃ飲めないようになっている。2人で距離を近くして一緒に吸わないと飲めないカップルのストローだ。
「……涼くん。私と一緒にこれ、やりたかったのかな?」
楓ちゃんはストローの片方を人差し指と親指でそっと持つ。持ち方も色気があった。
手で持ったストローを魅惑の唇にそっと寄せて、クスッと妖艶に微笑んだ。
仕草や表情が何もかも艶かしくて、俺はドキッと心臓を強く高鳴らせる。
「ああ。楓ちゃんとこれやりたい」
「嬉しい、私もやりたい。さっそくやろっか」
俺たちは少しずつゆっくりと、ストローに寄っていく。
特に合図とかしたわけではないが、ほとんど同時に動いていた。
ドキドキしすぎて心臓を口から出しそうだ。これからジュースを飲むというのに、出してどうするんだ。
同時に唇につけて、同時にストローを吸う。
チュー……
飲む。吸い上げられたジュースが口の中に広がる。
甘い。パフェにも劣らないくらい甘い味。おいしい。
ここは南国の海。フルーツに囲まれて、フルーツがいっぱいの世界に楓ちゃんと2人っきりでイチャイチャラブラブする。
楓ちゃんの唇も瑞々しいフルーツで、楓ちゃんの胸もメロン。フルーツいっぱいぱいだ。
そして近い。神に愛されているとしか思えないくらいに整った、楓ちゃんの顔が超至近距離に。
顔が真っ赤で、可愛い。俺も相当真っ赤だろう。
ドキドキ、ドキドキ
心臓の音とジュースを吸う音だけが響く。
楓ちゃんしか見えない。フルーツの世界にいても楓ちゃん以外何も見えない。
楓ちゃんに夢中になりすぎてジュースの残量が今どれくらいかもわからない。
楓ちゃんの味がするジュースはさらに甘くて、脳が蕩ける甘さだった。




