全校集会で報告しました
全校集会が始まった。
今回も俺はマッサージチェアに座った。ていうか座らされた。前みたいに不満そうな視線は飛んでこないから別にいいけど。
いや、別にいいけどとか言うのは失礼か。すごく気持ちいいですありがとう。修業で蓄積した疲労によく効く。
校長先生の話とかはなく、最初からいきなり楓ちゃんが演台に立つ。
楓ちゃんの一存で急遽決まった全校集会だし、楓ちゃんのお話だけで終わるのだろう。
演台に立つ楓ちゃんの姿……壇上の光に照らされて長い金髪がふわりと揺れて、究極に美しい。
髪を耳にかけながらマイクに唇を寄せる仕草も……とても艶かしいと思った。
楓ちゃんの仕草一つ一つのすべてが、俺を狂わせる。
『えー、2年B組、生徒会長の中条楓です。本日は急に全校集会を開くことになり申し訳ありません。いきなりですがみなさんにご報告があります。
私、中条楓は、安村涼馬様と結婚を前提にお付き合いすることになりました』
本当にいきなりだ。最初からアクセル全開だ。
全校生徒の前で、まっすぐ前を見ながら大きな声で報告をした楓ちゃん。
本当に威風堂々としていてすごい。照れとか一切ない。メンタルが鋼鉄なのか。
―――パチパチパチパチ……
楓ちゃんの報告を聞いた全校生徒のみんなは、ほとんど落ち着いていて穏やかな笑顔で拍手をしていた。
祝福してくれてるのか……!? 俺、不覚にも嬉しくて涙が出そうになった。
ていうかみんななんかリアクション激しくないな。驚きとか衝撃とかないのか。
まあ前の全校集会の方がインパクトすごかったか。『結婚する』とか『子どもたくさん作る』とか言ってたもんな。ほとんどの子たちが『うん、知ってた』って感じで付き合う報告とか今さらだったか。
『みなさん、ありがとうございます』
楓ちゃんは深々と頭を下げた。
「あ……ありがとうございます!」
俺もマッサージチェアに座ってる場合じゃないな。急いで立ち上がって深く頭を下げた。
『私……10年前からずっと涼くんを愛していたので……ついに夢が叶って幸せです……!』
パチパチパチパチ!
拍手の音が大きくなった。体育館全体がほっこりした空気に包まれた。
『―――というわけですので、涼くんは完全に私だけのものなのです。
涼くんに好意を寄せている方が何名かおられるようですが、涼くんは私のものですから。絶対に誰にも渡しません。
決して涼くんに手を出さないでくださいね。もし涼くんに何かしようというのなら……わかってますよね?』
楓ちゃんの瞳が病みモードで真っ暗になり、ほっこりとした空気も消し飛んだ。
生徒たちの空気が悪くなったわけではないのだが、楓ちゃんの圧倒的な威圧感の前ではみんな黙らされるしかない。
楓ちゃんの愛が徹底的に重くて独占欲強すぎなのは重々承知の上だが、本当にガチのマジで怖い。俺も今まで何度も何度も怯えてきた。
でも、そんな重すぎて怖すぎる楓ちゃんに、俺は惚れたんだ。
『とにかく、涼くんは私のものです。涼くんは私のものなのです。涼くんは私のものなのですから』
何度も言ってる……念には念を入れて念押しした上にさらに念押ししている。
何度も言われて俺は著しく照れる。
『とにかく私が一番言いたいことは、涼くんは私のものだから絶対に誰にもあげません、ということです。
ではこれで、私の話は終わりとさせていただきま……』
「待ってください!!!!!!」
!?
体育館に響き渡る大きな声。
俺も楓ちゃんもよく知ってる声。楓ちゃんの瞳がさらに黒い闇に染まった。
座っている生徒たちの中で、1人だけ手を上げている女子生徒。
その生徒はスッと立ち上がる。
その生徒は、野田つばきちゃんだ。
つばきちゃんはスタスタと歩いてくる。そのまま俺たちがいる壇上に上がってきた。
楓ちゃんがあれだけ念押ししていたのに、楓ちゃんがあんなに怖い表情で圧力かけていたのに、それでもなお、つばきちゃんは土俵に上がってきた。
なんて凄まじい度胸だ。
つばきちゃんには全校集会が終わった後で話をして謝るつもりだったが、まさか集会中にここにやってくるとは……予定外の事態だが帰れとは言いづらい。
楓ちゃんは演台に立ったままつばきちゃんを強く睨みつける。
全校集会で、全校生徒の前で楓ちゃんとつばきちゃんのバトルが始まるというのか? 俺は胃痛がしてきた。
「私も、涼馬さんのことが好きです」
つばきちゃんの爆弾発言で、全校生徒たちがどよどよとざわつき始めた。
つばきちゃんのハッキリと言う性格は、全校生徒の前でも変わることはなかった。
「中条会長が涼馬さんとお付き合いしているということはよくわかりました。
私としてはとても残念ですが、それに関して文句を言うつもりはありません。
本当は私が涼馬さんの正妻になりたかったのですが、仕方ないです。中条会長が涼馬さんの正妻になること、本当はすごくイヤなんですけど譲歩して、私は許します」
ちょ……何言ってんだよつばきちゃん……俺すげぇハラハラするんだけど。
楓ちゃんをチラッと見ると、俺が危惧していた通り、楓ちゃんのイライラオーラが爆発的に増加しているのを感じた。
『あのですね野田先輩? なんで貴女が譲歩するんですか? 貴女、自分の立場わかってるんですか?』
マイクを通してるから爆発している楓ちゃんの怒りがさらに大きく響き渡っているじゃないか!
「落ち着いて楓ちゃん!」
全校生徒の前で楓ちゃんがブチギレモード発動するのは非常によろしくないと思い、俺は急いで楓ちゃんをなだめる。
「みんな見てるからケンカはやめよう。俺に任せてくれ」
俺はそう言って楓ちゃんの肩をポンと軽く叩く。楓ちゃんはちょっと頬を赤らめて少し落ち着いてくれた。
楓ちゃんとつばきちゃんのバトルは始めさせない。生徒たちのことも考え、できるだけ穏便に済ませる。
俺は楓ちゃんの前に立った。俺の正面にいるのは、つばきちゃんだ。
「涼馬さん……」
頬を赤らめたつばきちゃんに見つめられる。つばきちゃんは間違いなく絶世の美少女だ。光に照らされたこの舞台によく似合う。
ここまでの美少女に好意の目で見てもらえること、非常に光栄である。
だが、俺はもう二度と優柔不断にはならない。強い気持ちを魂に宿して、つばきちゃんをまっすぐ見る。




