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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第21章…修業

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修業を開始しました

 賢三さんの弟子になった俺。今日からついに修業が始まる。

2週間みっちり修業して、1週間休み。それからまた2週間修業して、1週間休み。

それをひたすらくり返すというやり方になった。いつまでやるかはわからない。基本的に終わりはないと思った方がいい。病気やケガがない限りはずっとやるくらいの気持ちだ。


もちろん学校の仕事も通常通りやる。仕事と修業を両立する、どっちも手抜きしないでちゃんとやる、強くなるためには当然だ。


修業をする日は午前4時に起きるよう命じられた。寝坊したら厳罰、この時点で地獄だと思う。

朝修業して、学校に行って仕事して、帰った後の夜も修業だ。学校がない休日は一日中修業だ。

地獄だ地獄。だが、絶対逃げない。楓ちゃんのために俺は死ぬ気で頑張る。



 よし、支度はできた。さあ行くか。

まだ4時だしいつも早起きな楓ちゃんもさすがにまだ寝てると思うのでそーっと歩く。



「あれ、涼くん?」


ドキッ!



背後から可愛い声が。振り向くと楓ちゃんがいた。

楓ちゃんはピンク色のパジャマ姿だった。可愛い。

寝起きなのか、パジャマの着方に乱れがあった。胸元がはだけて谷間がちょっと見えてて、目のやり場に困った。



「おはよう、涼くん」


「おはよう」


「こんな朝早くからどうしたの?」


「ああ、それはな、えーっと……」



賢三さんの弟子になって修業をすること、まだ楓ちゃんには言ってない。

別に隠そうとしてるわけではないんだが、好きな女の子に頑張ってますみたいなことをわざわざ知らせるのもなんかかっこ悪いと思っただけだ。それと、楓ちゃんの知らないところで努力するのがかっこいいと思っただけだ。しょうもない男の意地というヤツだ。


でも出かけるところを楓ちゃんに見つかった以上、ウソはつかない。ちゃんと話す。


賢三さんの弟子になって修業をすることを楓ちゃんに話した。



「え、涼くん修業するの? 涼くんは私が守るんだから、涼くんは今のままでもいいんだよ?」


「いや、よくない。俺は胸を張って楓ちゃんのとなりに立てるような、そんな男になりたいんだ」


「……そう、なんだ……」


楓ちゃんは頬を赤く染めた。可愛い。



「……まあ、おじい様が一緒なら安心だね。

うん、わかった! 頑張って涼くん! 応援してるよ!」


「ありがとう楓ちゃん」


「そっかぁ、涼くんもおじい様の弟子になるんだ。あ、私もおじい様の弟子なんだよ」


「うん、わかるよ。楓ちゃんの強さはちゃんと見させてもらったから」


「ふふっ、修業懐かしいなぁ。私も小さい頃たくさんおじい様に教わったよ」



賢三さんの修業、どんなことをやるんだろうな。

どんな修業をやるのかは何も聞かされてない。ここで楓ちゃんに聞こうかなとも思ったけど、始めてからのお楽しみということにしておこう。



「あ、早く行かなきゃ。じゃあ行ってきます楓ちゃん! 朝食の時間までには帰ってくるから!」


「うん、行ってらっしゃい涼くん」



笑顔の楓ちゃんに見送られながら、俺は出発した。



 家の門の前。

そこにはいつも送ってもらってる車と、運転手さんと、そして賢三さんがいた。



「来たか、安村君……いや、涼馬」


「はい!」


俺、弟子だからな。安村君なんて他人行儀な呼び方はしないだろう。



俺は運転手さんにも目を向ける。


「こんな朝早くからすみません、運転手さん」


「中山です」


「あっ、すみません中山さん」


いつも学校まで送迎してもらってるのにちゃんと名前知らなかった。


「事件の日も本日もありがとうございます」


「いえ、これが仕事ですのでお気になさらないでください。徹夜で運転させられることもめずらしくありませんので慣れたものです」


そう言って中山さんは運転席に乗った。

賢三さんはギロリと俺を睨みつける。俺は萎縮しながらも気を引き締める。



「最終確認だ、涼馬。儂の弟子になったからには甘えなど一切許さんぞ。儂の弟子になった者は多いが、ほとんどがすぐに音を上げてやめていった。

キミが泣き喚いて許しを請うたとしても、儂は容赦なく踏みつける。それでも行くかね? やめるなら今のうちだぞ」


「行きます!!」


俺は迷いのない返事をした。


「よろしい、ならば乗りなさい」


「はい!!」


わかっている。修業はとんでもない地獄だ。生半可な覚悟でやったら斬首されるような、そんな地獄だ。

生半可な修業だったら最初からいらないんだ。今までの自分を塵も残さずぶっ殺すほどの地獄じゃないと意味ないんだ。



俺と賢三さんも乗車して、まだ暗い早朝から車が発進した。



ブロロロ……


しーん……


静かだ……日も出てない早朝だから外も静かだし、車内も静かだし、エンジンの音だけが響く。


後部座席に座る、俺と賢三さん。

賢三さんは全然喋らない。どっしりと座っていているだけで威圧感がすごくて怖い。


緊張するし気まずいな……早くも『楓ちゃん助けてー!』なんて情けなく叫んでる自分がいる。

ダメだぞ俺。楓ちゃんに甘えてばかりじゃダメだ。楓ちゃんがいないと生きられないような生き恥晒す男には絶対ならん。楓ちゃんの方から頼ってくれる、甘えてくれるような男になるんだ。



「涼馬」


「は、はい!」


喋らなかった賢三さんが喋った。低く重い声に、俺はビクッとして背筋をピンとする。



「……キミは、前に勤めていた会社で上司からパワハラを受け続けていた。そのせいで自己評価がかなり低くなっているようだな」


「……はい……」



クビにされる前の社会人時代を思い出す。

ほとんどが上司に怒られていた記憶だ。


『なぁ、なんでそんなこともできないの!?』


できなくて怒られる。


『そのくらい自分で考えろよ!』


質問したら怒られる。


『あのさぁ、わかんねぇことがあったら早く聞けよ! なんで聞かないの!?』


質問しなくても怒られる。


……前の上司を思い出すと頭痛しかしない。



「『自分なんかダメだ』と一度思い込んでしまうと直すのはなかなか難しい。どんな修業をしようが、強い気持ちを持ってないと意味がない。まずは精神を鍛えて、自分の意識を改革しよう」


「はい!」



俺は無能だ。だからこそ気持ちだけは誰にも負けないようにしたい。

最初の目標は、俺はできる、俺は絶対にできる男だと強く思い込むことができるようになることだ。



 ……ところで、この車はどこに行くのだろう。

行き先は知らされてない。聞いても教えてくれない。


高速道路を走っている。つまりけっこう遠くに行っている。

高速道路を抜けると、自然が多くなっている気がする。山がある場所に来ている。

このあたりの景色、知っている。そんな昔の記憶ではなく、直近の記憶が……


……まさか……

なんとなくイヤな空気が出てきた。背筋がゾワゾワして冷たい水を注がれているようだ。冷たい汗が伝う。



俺の予感は完全に的中した。

貝塚メノウや高井雲母に連れ込まれて暴行を受けた山奥。

修業初日で来た場所は、俺にとって最大最悪のトラウマの場所であった。


俺は賢三さんをチラリと見る。賢三さんは冷酷な目で俺を見ていた。



「降りなさい」


「は、はい」



貝塚たちが停めたところと同じところに停車し、俺は車から降りた。


降りた瞬間から心臓がイヤな音を立てて冷たい汗が流れていく。

この山奥、トラウマだ……本当にトラウマだ。貝塚の顔、雲母の顔が強く脳裏に浮かんできて気分が悪くなってくる。俺にとっては自殺の名所みたいな雰囲気がある。胃液が口から出そうだ。



「どうだ、涼馬。逃げ出したくなったか?」


「……いえ、大丈夫、です……」


くっ、迷いなく乗車した気合いはどこに行ったんだ。早くも消え入りそうな声になってるじゃねぇか。



「この場所がキミにとってとても辛くキツイ場所であることはわかっている。

だからこそあえて、儂はキミをここに連れてきた。苦手なものを克服し、精神を鍛えるためにな。当分の間、ここで修業してもらうぞ。

甘えは許さぬと言ったはずだ、異論はないな」


「……はい!!」



俺は気持ちを振り絞って大きな声で返事した。


あの忌々しい事件があってからまだ日が浅い。肉体のケガはほぼ治ったが心のダメージはまだまだ残っている。修業開始早々、特大地雷を踏み抜くようにトラウマを刺激してくる。

わかってはいたが、やはり賢三さんは……鬼だ。


貝塚に殴られた顔が、貝塚に蹴られた腹が、ズキズキと痛む。気持ち悪くて吐きそうなことばかりフラッシュバックしてくる。


……だが、いいぞ。これでいいんだ。受けた屈辱を跳ね返すにはうってつけの場所ではないか。

コンディションは最悪の最悪だが、俺はフフフと笑った。そんな俺を見て賢三さんもフッと笑った。


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