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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第21章…修業

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おじい様が話を聞いてくれました

 ケガが治るまでの数日間、楓ちゃんはずっと俺のそばに寄り添ってお世話をしてくれた。助けてくれたし介抱もしてくれたしで、人生のすべてを支払っても返しきれないくらいの大恩だ。


……まあ、それで……とにかくすごく距離が近かったので性欲が溜まって溜まって溜まりまくって……ケガしてるからさすがにヤるのは自重したので我慢しまくって、ヘビの生殺し状態ではあった。

ムラムラ悶々状態ではあるが、俺はほとんど回復した。




 学校の日。

制服姿の楓ちゃんが支度を整えた。



「じゃあ涼くん、ケガはもうほとんど大丈夫だけど念のため今日まではお休みでいいから。明日から復帰ってことで」


「ああ、わかった」


「……私がいない時に外に出ちゃダメだよ?」


「わかってるよ」


「じゃあ行ってきます、涼くん!」


「行ってらっしゃい、楓ちゃん」



楓ちゃんは学校に行った。

俺は縁側に座って中庭を眺めていた。


外に出ちゃダメだって念押しされた。もちろんわかっている。あんな事件があったし静養中だし、行くわけがない。

ていうか、()()()()



ジャラ……

鎖の音。俺の首から伸びている鎖の音だ。


俺は今、首輪をつけられている。

もちろん首輪をつけたのは、楓ちゃんだ。


あんな事件があった直後だから仕方ないかもしれない。楓ちゃんはものすごく心配性で警戒心を極めて念には念をということで、楓ちゃんが家にいない時だけ首輪をつけられることになった。


首輪を外す鍵は楓ちゃんだけが持っている。楓ちゃんが帰ってくるまで外せない。

首輪なんてなくても俺はどこにも行かないが、俺の行動が原因であんなことになったから仕方ない。首輪をつけられることに俺は納得している。


楓ちゃんはいつだってやるなら徹底的にやる。一度起きてしまったことを二度とくり返さないよう、徹底的にきちんと対策している。

大企業の看板を背負う者として、失敗をくり返さない努力を怠らないというのはすごく大事なことなんだろう。


鎖は10メートル以上あるので食事やトイレは何も問題ないが、とにかく俺は首輪をつけられている。

最初からペットではあったが、本格的にペットなんだなぁって気持ちになる。



「……安村君……」


「あっ、賢三さん! おはようございます!」


「……ああ、おはよう」



賢三さんがやってきた。手には鯉のエサが持たれている。これから中庭の池にいる鯉にエサをあげるところだったのだろう。

首輪に繋がれた俺を見て、賢三さんは『お、おう……』といった感じだった。少しだけ哀れに思うような目をしていた。



賢三さんはエサやりを終えた後、俺のとなりに座った。


「……で、ケガは大丈夫なのかね?」


「はい、順調に回復しております」


「そうか、それは何よりだ」



ハッ! そうだ、賢三さんにもちゃんと言わなきゃいけないことがあるだろうが、俺。



「賢三さん、この度は本当にありがとうございました! ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」


俺は床に頭をつけて謝罪した。

賢三さんは静かに微笑んだ。


「気にするな、儂も久しぶりに暴れられて悪くない気分だったから」


「しかし、俺のせいで中条グループの皆様に多大なご迷惑をおかけしたのは事実です……なんとお詫びすればいいか……」


運転手さんも、調査員の人たちも、俺のせいで余計な仕事が増えたんだ……



「……安村君」


「はい」



「今のキミには、すごく溜め込んでいるものがあるようだな」



「……!」



今の俺が……溜め込んでいるもの……

……性欲……


……いや、性欲もそうだが、賢三さんが言うことだからもっと真面目な話だ。

確かに俺は、誘拐事件でたくさん溜め込んでいるものがある。

雲母にまた裏切られたこと。貝塚にボコボコにされて惨敗したこと。それらが大きく強いストレスとなって俺の中に蓄積されていき、減らすことができない。



「隠したって無駄だぞ、今のキミの顔を見ればすぐにわかる。心の中に黒いものをたくさん溜めて、辛そうに塞ぎ込んでいることが。

楓もキミの異変に気づいている。キミを気遣って気づかないフリをしているようだがな」


「……そう、ですか……」


「楓には見せられない心の内もあるだろう。今ここには儂しかおらん、少しずつでいいから溜め込んでいるものを吐き出してみなさい」


「―――っ……

……賢三さ、ん……」



ふと気づいたら、頬に生暖かいが伝っていき、手にポタポタと落ちる。

俺は、涙を流してしまっていた。一度出てしまったものは止まらない。



「……俺……悔しい……すごく悔しいです……!

貝塚に手も足も出なくて、一方的にやられて……不条理の塊みたいな男に負けたのが本当に悔しい……!

ここまで弱い自分が、どうしても許せないんです……!!」


賢三さんは俺の目をまっすぐ見ながら話を聞いてくれていた。



「……楓に聞いたよ。今回の事件の原因は、以前交際していた女性だったんだな。

楓との関係がなかなか思うように進まなかったのは、その過去の女性を忘れられなかったからか」


「はい……俺が悪いんです……俺がすべて悪いから、楓ちゃんに悲しい思いをさせてしまった……

雲母に捨てられて仕事も家も失った俺を、楓ちゃんは救ってくれた。楓ちゃんは俺にすべてを与えてくれた。

なのに俺は雲母への未練をどうしても捨てられなくて、雲母と元の関係に戻れたらなんて甘いことを考える自分がいて、ハッキリしない最低な男になって、楓ちゃんへの恩を仇で返すようなことをしてしまって……

そんな最低な俺を、楓ちゃんはまた助けに来てくれて、救ってくれた。二度も楓ちゃんに救われた……それが本当に申し訳なくて、罪悪感がすごくて……

なんで俺なんかのために楓ちゃんはそこまでしてくれるのか……俺なんか、楓ちゃんに愛してもらう資格なんてないのに……迷惑しかかけない俺なんか、死んだ方がいいのに……」



「……安村君」


ビクッ!


賢三さんは変わらず俺をまっすぐ見たままで、表情の変化もない。しかし賢三さんの声色が低く重いものになって、俺は肩を震わせた。



「俺()()()、俺()()()って言うのはやめなさい」



「……!」


「そんなに自分に卑屈になったところで何になるというのだ? キミがそんなに価値のない男だというのなら、そんな男に惚れた楓の立場はどうなる?」


「っ……」


「自分なんか死んだ方がいいだって? 本当にそう思っているのなら、キミが一番楓を侮辱している」


「っ……! す……すいません……」



返す言葉などあるはずがない。賢三さんの言葉は何もかも俺に刺さった。

楓ちゃんを侮辱する……それだけは絶対にしてはいけないことだ。

自分が絶対許せないことを自分自身がしていると、ハッキリと自覚させられた。



「安村君」


「はい……!」



「今一度問う。キミは楓が好きか?」


「はい! 好きです! 大好きです!!」



以前聞かれた時にハッキリ答えられなかった問い。

こんな俺でも、今なら、その問いだけは迷わずにハッキリと答えを出せた。

これだけは、迷いのない澄んだ気持ちでいられる。



「そうか。だが、()()()()()()()では楓をやるなど絶対に無理だ。

大切な大切な孫娘なのだからな」


「はい……仰る通りでございます……」


当然すぎる。こんな弱虫泣き虫な俺では楓ちゃんと結ばれてハッピーエンドを迎えるのは不可能ということは自分が一番理解している。



「楓を幸せにできるのは()()()()だと、心からそう思えるような男になりなさい。

それが最低条件だ」



楓ちゃんを幸せにできるのは、()()()……

自分自身で絶対の納得と自信を持てる男になる……

……俺が……?


今の俺では自分がそんな男になれるか、ピンと来なかった。

だが、『絶対無理だよ~俺なんかじゃなれるわけないよ~』みたいな後ろ向きな感情は、不思議と湧いてこなかった。



「キミさえよければ、この儂がキミの弱っちい身体、心、根性を叩き直してやってもよいぞ?」


「!!!!!!」



あれだけ強くてかっこいい賢三さんが、俺を叩き直してやると言ってくれた。

その瞬間俺は迷わず、床にゴン! と頭を叩きつけて土下座した。



「どうかお願いします……! 俺を弟子にしてください!!」


賢三さんのフッと微笑む声が頭上から聞こえてきた。



「土下座などせんでも良い。キミが楓を任せるに値する男になれるかどうか、儂が確かめてやる」


「はい! よろしくお願いします!!」


「そうだな、せっかくならできる限りやる気を高めておくべきだな。

キミは高井雲母とかいう女性に二度も捨てられたんだってな。

ならば、強くなるついでに高井雲母を見返してやろうじゃないか!」


「!」


「キミを裏切ったこと、キミを捨てたこと、骨の髄まで後悔させてやれ!」


「はい!!!!!!」



俺は力強く返事した。

この悔しさをバネに、絶対に強くなってやる。

安村涼馬、24歳。誰に見せても恥ずかしくない立派な男になると魂に誓った。


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