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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第20章…山奥

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楓ちゃんの無双です

 「メノウ、頑張って! あんな巨乳なんかに負けないで!!」


「おう、任せとけ雲母! お前がそばにいてくれれば俺は無敵、絶対に負けねぇよ」


「キャー、メノウステキ! 一生ついていくわ!」



ぎゃああああああ、あの二人の会話耳が腐りそうだ。

なんでお前らの方が正義のヒーローとヒロインみたいになってんだよ、ふざけんじゃねぇよバカどもが。


楓ちゃんは二人の会話など無視してゆっくりと近づいていく。

貝塚も雲母に応援されたら後ずさりしていた足がピタリと止まった。



「悪ぃな、中条楓。最愛の彼女が見ててくれてるから負けるわけにはいかねぇんだわ」


「そうですか、では彼女の前でいっぱい無様な姿を晒してください」


「お前がオッパイ晒せや乳女!!」



貝塚は両手をポケットに突っ込み、何かを取り出して楓ちゃんに突きつけた。

貝塚が取り出したものは……



大きな蛾だ。握りこぶしくらいのサイズがありそうな蛾を2匹、両手に持っている。



「ははは、こんなこともあろうかと思って念のため捕まえておいてよかったぜ!

中条楓、お前は虫が苦手なんだろ? 知ってんだぜ、中条グループ(お前ら)のことは徹底的に調べてあるからなぁ!

虫さえいればお前なんかに絶対負けねぇ! わざわざこんな山奥に来たのも、虫だらけの環境でお前を弱体化させるためなんだよ!!」



あの野郎、いつの間に蛾とか用意してやがったのか。

貝塚の言う通り、楓ちゃんは虫が苦手だ。ハチや蛾が出た時すごく怖がっていた。いつもは最強で完璧な楓ちゃんが、虫が出た時だけはか弱い女の子になるんだ。

これはマズイかもしれん……!


貝塚の手に持たれた蛾がバタバタと羽を動かしていて、虫苦手な人から見たらとてもキツイ光景だ。

虫を利用するとかなんて卑怯なんだ貝塚。



「せこいぞ貝塚! 汚いぞ貝塚!!」


情けないが俺にできることは貝塚を批判することだけだった。


「うるせぇぞ安村。俺に負けたお前に発言する権利はねぇ」


「くっ……」


本当に情けないがこの男に完膚なきまでにやられた俺は、何も言い返せず歯を食い縛って悔しがることしかできない。


本当に悔しい。悔しい……



「はははっ、どうだ中条楓! ホラ見ろ蛾だぞ! キモくて怖ぇだろ!? これなら手も足も出まい!

しっかり対策しておいた俺の勝ちだ―――」



―――ドムッッッ!!!!!!



「ぐふぁぅッッッ!?!?!?」



楓ちゃんは一瞬にして貝塚の間合いに入り、貝塚の腹部にパンチを突き刺した。

腹に風穴が開くんじゃないかと思うほどの強烈なパンチだった。



「うん、確かに私は虫が苦手だよ。

で、だから何なの? あなたが何をしようが一切関係ないから。許さないと言ったら許さないんだよ」


「ぐ……っ……が……ぁ!」



貝塚の手がピクピクと震え、蛾がヒラヒラと飛び立った。

蛾はそのまま夜空の闇へと消えていった。貝塚の対策が全くの無意味だと証明された、無情な闇であった。



「あ……あぁ……おえっ、っ……!!」


貝塚は膝をついて腹を押さえて悶絶、嘔吐した。

とんでもない重いダメージが入っているのがよくわかる。


楓ちゃんはそんな貝塚を見下ろす。どんなものも凍りつかせてしまいそうな冷たい瞳で。



「あれ? まだ一発しか打ってないのに、もう終わりですか?

中条グループ(私たち)にケンカ売っておいて、この程度? 困るなぁ……私、まだまだ全然殴り足りないんですけど」


「おえぇっ……げぇっ……げぁ……ぁ……!」


貝塚は会話もできないほどダメージを受けているようだ。痙攣と嘔吐をくり返している。



「……はぁ……中条家の令嬢として、敗者にムチを打つようなマネはしたくないんですよね……仕方ない、今日のところはこれだけで勘弁してあげますよ」


楓ちゃんはそう言って貝塚に背を向けて歩き出す。

雲母は、口をあんぐりと開けて停止していた。彼氏が瞬殺されたのが信じられないようだ。



楓ちゃんはピタリと歩くのを止めた。

そして貝塚の方を向き直して、スタスタと貝塚に向かっていく。



―――ドガッ!!!!!!


ミシミシッ!



まるで鋭利なナイフのようだった。それほどに鋭く速い楓ちゃんの蹴りが放たれた。

楓ちゃんの殺人キックが貝塚の脇腹を突き刺し、遠くまで蹴り飛ばした。


……なんか貝塚のアバラが砕けたような音が聞こえた気がするんだが、聞こえなかったことにしたい。



「ぎゃひーっ!?!?!?」


アホみたいな貝塚の断末魔の叫びが山奥に響き渡る。楓ちゃんに蹴り飛ばされた貝塚の身体はアホみたいによく飛ぶ。



ガンッ!


ガンッ!!


ゴンッ!!



吹っ飛ばされた貝塚の身体は木や岩にぶつかりまくって、ゴロゴロと激しく転がりながら暗闇に消えていった。



「……ああ、ごめんなさい。一発だけで勘弁してあげようかなと思ったんですが、やっぱり怒りが収まらなかったので文字通り死体蹴りさせていただきました。

前言撤回した上に死体蹴りなんて令嬢として恥ずべき行為かもしれませんが、どうかお許しください」



楓ちゃんの完全勝利、完封勝利。

ここまでの圧勝を決めても楓ちゃんの表情に驕りのようなものは一切見られなかった。


俺が手も足も出なかった貝塚を、瞬殺……

俺なんかとは比べものにならないくらい強いのは知っていたが、楓ちゃんは本当に強くてかっこいい。


……そして、俺の弱さがハッキリと際立つ……本当に情けなくて恥ずかしくて弱い男だ、俺は……


楓ちゃんと賢三さんが助けてくれた。命を捧げてもいいくらい感謝している。でもやっぱり、ひたすら自分の弱さが、悔しい……


……まあとにかく、楓ちゃんと賢三さんのおかげで全員倒されて、これで一件落着、か……?



……いや、まだ雲母がいる! 雲母は!?

ついさっきまで雲母がいた場所を見るが、そこにはいなかった。


どこに行きやがったと思って探してみると、貝塚が吹っ飛ばされた方向とは逆方向にこっそり逃げようとしている雲母の姿があった。


雲母! と名前を呼ぼうと思った時には、もうすでに楓ちゃんが動いていた。

ガシッと肩をしっかり掴むことで、楓ちゃんは雲母を捕まえた。

その手に掴まれた肩にヒビが入りそうなほど力が入っていた。



「高井さ~ん? 何逃げようとしてるんですか?」


「痛いわね、離しなさいよ乳女!」


「彼氏さんがあっちに吹っ飛ばされましたよ? 心配しないんですか?」


「いや、女に負ける男にもう用はないわ!」


雲母……貝塚も切り捨てるのか……ついさっき一生ついていくって言ってただろうが。



「へぇー、どうしようもないカス男とはいえ新しい彼氏をもう見捨てちゃうんですか? あなたも大概カスですね」


「うるさい! 離しなさいって言ってんでしょ!!」



ギリギリギリッ


「ぐえええぇぇぇっ!?!?!?」



楓ちゃんは雲母にヘッドロックをかけた。うわっ、あれはキツイだろうな。

首を絞められて雲母がもがき苦しむ声が山奥に響く。雲母のこんな声初めて聞いた。


雲母はあっさりとアワを吹きながら失神した。

ドサッと雲母が地面に倒れて、地面の落ち葉が静かに舞った。



「―――涼くんっ……!」



雲母が倒れた瞬間、楓ちゃんは俺に駆け寄ってきた。

雲母を倒す瞬間まで冷酷だった瞳は、光が戻って涙で溢れていた。



ぎゅっ


「わっ……!!」



楓ちゃんは俺の身体を抱きしめた。

傷ついた俺の身体を、楓ちゃんの柔らかな身体といい匂いが包み込んで癒していく。



「ごめんね……! 涼くんっ、ごめんね……!!」



俺の胸に顔を埋めて、楓ちゃんは泣きじゃくる。

楓ちゃんの大粒の涙は、俺の心を締めつけた。



「なんで……なんで楓ちゃんが謝るんだよ……

どう考えても謝るのは俺の方だろ……! ごめん楓ちゃん、本当にごめん……」


「ううん、涼くんを拾ったのは私なんだから、涼くんがケガしたら私の責任なんだよ……私のせいで涼くんが、ひどいケガを……」


「楓ちゃんのせいじゃねぇし、このくらい大したことないよ……」


貝塚に殴られたケガなんかより、楓ちゃんを泣かせたことの方が万倍痛い。



「涼くんのお顔にも、大きな傷が……」


俺の顔が、しなやかな両手で優しく包み込まれる。まっすぐ見つめ合ってドキッと心臓が高鳴った。


「あー……これは雲母に引っ掻かれた傷かな……」



チュッ


「!!!!!!」



頬の、雲母に引っ掻かれた部分が、楓ちゃんの甘いキスで塞がれる。

雲母の固い爪でできた傷に、楓ちゃんの柔らかい唇が上書きする。



「~~~……!!!!!!」



ついさっきまで張り詰めていた心を溶かされるような優しい感触で、俺の顔はマグマのように熱くなりあっさりと気絶したのであった。


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