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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第20章…山奥

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おじい様の無双です

※涼馬視点



 俺の名前を呼ぶ声がした。

いつも聞いてる、可愛い声だ。


楓ちゃんだ。

楓ちゃんが来てくれた。


賢三さんも来てくれた。


俺はとても嬉しかった。心強くて涙が出そうになった。

だが、それ以上に情けなさと申し訳なさを強く感じた。

俺がふがいないせいで、やっぱり迷惑をかけてしまった……



「は!? ちょっと、なんであの女がいるのよ!?」


楓ちゃんの登場に、雲母は焦りと動揺を隠せない様子だった。

貝塚は一瞬だけ驚く表情をしたが、すぐにニタリと笑う表情に戻った。



「へぇ~来たのか、中条楓! よくここがわかったな」


「涼くんをどこに連れてったって無駄だよ? 発信器をつけてあるんだから」



……ああ、発信器か……そういえばついてたな……大パニックになってたもんで、またしても失念していた。

じゃあ連絡する必要なかったな。スマホを取り上げられても別に大丈夫だった。



貝塚はニヤニヤしながら俺の方を見てきた。


「なんだよ安村、お前発信器なんてつけられてたのか? はははっ、中条楓もけっこうひでぇことするんだなぁ」


「お前が言うな!!」


まあ、発信器はさすがにやりすぎなんじゃないかと思わなくもなかったよ。

でもその発信器は今回の件で大きく役に立った。俺はもう二度と発信器を否定できない。



「そして……あんたまで来るとはな、中条グループの先代社長、中条賢三」


貝塚は賢三さんをギロリと睨みつけた。賢三さんは微動だにせず、睨んでいるというわけでもなく、ただ貝塚を見ていた。


「昔は名の知れた武道の達人だったらしいがなぁ、そりゃ過去の話だろ?

しょせん今は耄碌したただの老いぼれ。老いぼれがこんなところに来ちゃっていいのか? わざわざ足手まといを連れてきちゃうなんて、中条グループもお優しいんだなぁ」


貝塚は賢三さんを挑発した。賢三さんの目には恐怖とか動揺のようなマイナスなものは一切感じられない。俺なんかとは大違いだ。

至っていつも通り、鯉にエサをやっている時と同じ目をしている。



「……足手まといかどうか、試してみればよいではないか」


怒気や殺気のようなものも感じられず、賢三さんはお茶を飲んでいる時のような落ち着いた声色でそう言った。

怒るまでもない、威嚇するまでもない、そんな余裕を感じた。



貝塚は額にビキッと青筋を立てた。


「おいおい、今の状況理解してんのかよジジイ。自分が詰んでるってこともわからねぇくらいボケたのか、あぁ?」


貝塚がパチンと指を鳴らすと、ガラの悪そうな刺青男どもがゾロゾロと集まってきて賢三さんを取り囲んだ。

敵の男たちは、貝塚と雲母を除いても10人もいた。みんな刺青入れてるし屈強そうな男たちだ。数では圧倒的不利。

しかも男たちみんな鉄パイプや金属バットを装備してやがる。数が多い上に武器まで持つとかなんて卑怯な連中だ。


それでも賢三さんは何も動じない。食事している時と同じ目である。

楓ちゃんもいつも通り威風堂々とした圧倒的カリスマオーラを纏っていた。



貝塚はグッと立てた親指をビッと下に向ける。

その合図をした瞬間、男たちが一斉に賢三さんと楓ちゃんに襲いかかる。



「やめろォーーー!!!!!!」


喉が潰れてもいいくらい大声で俺は叫んだ。

賢三さんと楓ちゃんがものすごく強いのは知っているが、だからといって武器を持った大人数の男たちに襲われたりしたら……! こんなん勝負じゃない、リンチだ。

痛くて膝をついたままガクガクして動けない自分が、憎い……



―――ドガガガッ!!!!!!



!?

瞬きをしないでよく見ても、速すぎてよく見えない。なんだこれは。


賢三さんが、凄まじい速度で拳打を複数回打った。速すぎて俺の目では拳が見えないくらいだ。1秒間に何発打っているのかわからない。


そしてその拳打で、男たちが一気に3人ぶっ飛ばされた。

賢三さんに殴り飛ばされた男たちはまるでスーパーボールみたいに軽く飛んでいき、夜の闇に消えていく。

人間って、あんなに遠くまで飛ぶのか……


残った男たちが動揺するヒマも与えず、賢三さんの鉄拳の嵐が乱舞する。

圧倒、あまりにも圧倒。賢三さんは最小限の動きしかしていない。一切無駄のない美しい拳打で男たちを制圧していく。


敵を倒しているのは賢三さん()()()()である。

楓ちゃんは()()()()()()()。一歩も動いていない。緩やかな風で楓ちゃんの髪がふわりと揺れて、長い髪を耳にかける仕草をした。楓ちゃんの動きはそれだけだった。

敵が乱れ飛ぶ光景が繰り広げられているとは思えないほど、楓ちゃんはいつも通りに気品のある振る舞いをしていた。



あっという間に敵は一人になった。賢三さんは最後の一人の頭部をガシッと掴み、地面に叩きつけた。土と落ち葉に頭部がミシミシとめり込んだ。



「確かに儂は衰えた。年には勝てん。

……だがな、貴様らごときに遅れを取るほど耄碌した覚えはないぞ」



たった一人で10人の敵を秒殺した賢三さんは、貝塚を見ながら不敵に笑った。



……すげぇ……すっげぇ……

賢三さん鬼強ぇ。超かっこいい。


俺は賢三さんの美しい戦い方に見入ってしまった。賢三さんに強い憧れを抱いた。

俺もあんな男になりたいと、強く思った。



貝塚も、賢三さんの圧倒的な強さに驚きを隠せなかったようだ。開いた口が塞がっていない。


「……なんだ、ジジイの今の動きは……!?

まさか……聞いたことあるぞ……40年くらい前、たった一人でヤクザの事務所を壊滅させた伝説の男がいたって……その男も目に見えぬほどの神速の拳打を打ったと言われている……!

まさかお前がその伝説の男だってのか、中条賢三!」


「……フン、そんな昔のことは覚えておらんな」


マジか、そんなヤバイ伝説があるのか……

そんな伝説があっても自慢もしない……ますますかっけぇ、賢三さん。



「……さて、楓。雑魚どもは儂に任せて、行きなさい」


「いやいや、任せるというか、もう全員やっつけちゃってるじゃないですか。ボケちゃってるんですかおじい様」


「ふむ、そうだったな。あの主犯の男はお前が自ら仕留めたいのだろう?

行きなさい、楓」


「うん、ありがとうおじい様」



ザッ、ザッ


一歩、また一歩と楓ちゃんが近づいてくる。

残っているのは貝塚と雲母の二人だけ。いや、雲母はもうビビりまくっているし貝塚の一人だけ。


ついさっきまでヘラヘラしていた貝塚からついに笑顔が消えた。ガチで警戒しているような表情をしている。



楓ちゃんと貝塚が対峙した。

貝塚を見る楓ちゃんの目は、人を殺しそうな目だった。

怖い……なんて怖い目だ。視線だけで多くの人を失神させそうな迫力だ。


楓ちゃんの暗黒オーラは全開で、間合いに入った者は塵も残さないであろう。とにかく修羅と化している。

このオーラ、俺に向けられているわけではないのに俺が萎縮してしまう。

このオーラを直接向けられている貝塚は、余裕こそなさそうだが怯みはしていない。

この男、腐っているゴミ野郎ではあるが自信と度胸はガチらしい。



「ははは……俺の仲間を全員倒すとは、中条グループもなかなかやるじゃねぇか。

それでこそ俺のライバルだぜ!」


「…………ライバル……?」


楓ちゃんは首を傾げた。


「そうだ、ライバルだ! 俺は必ずてめぇらを越える男だ!」



「……あのー……どちら様でしたっけ……?」


「なっ……!?」


貝塚の表情が歪んだ。ひどく屈辱を受けたような表情に変化した。

うん、俺も全然知らないんだ。



「いや顔は見たことあるんですよ。バイオリン教室で審査員として来てた人ですよね? でもそれしか知らないな。バイオリン教室に参加するくらいなら身分が高い人だってことくらいはわかるんですけど……

で、誰?」


「てめぇ……俺は貝塚メノウ! 貝塚グループの御曹司だ!!」


「貝塚……? ……ああー……そんな企業もあったような気がするなぁ……」


「ナメてんのかてめぇ!! ライバル企業の御曹司くらい覚えろや!!」


「そんなこと言われても、中条グループのライバルを名乗る会社なんていくらでもいるし、そんなのいちいち覚えてられませんよ。

本当にすごい企業ならちゃんと知ってるし交流もしてるんですけどね。ちゃんと知らないってことは、そういうことでしょ」


「て……てめぇ……!!」



ライバルというのは自称で、実際には中条グループの眼中にない程度のグループだってことか。俺もそんな感じじゃないかなとは思っていた。



「……まあ、そんなことはどうでもいいんですよ。あなたが何者だろうと一切関係ない。

あなたは涼くんを傷つけた。絶対に許さない」



―――ゴオオオオオオ……!


「っ……!」



楓ちゃんのブチギレオーラは、触れずとも相手を後ずさりさせてしまうほどの大迫力であった。

実際に貝塚もズルズルと後ずさりさせられていた。


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