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彼女に捨てられて仕事もクビになった俺は、ヤンデレ金髪巨乳女子高生に拾われました  作者: 湯島二雨
第19章…話

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山奥に連れて行かれました

 ―――ブオオオ……


鳩尾の痛みからやっと復活できたと思った頃にはもう手遅れ。

メノウが運転する車が高速道路に乗って爆速で走行していた。これでは到底逃げることなどできない。


もうすっかり夜だ。楓ちゃんはもうとっくに帰ってきてるだろうな……

俺なんでこんなところにいるんだろう……本当にマジでなんでこうなったんだ……


楓ちゃんに助けを求めるか? でも女の子に助けてもらおうだなんて……いや、そんなこと言ってる場合じゃない。


ズボンの中に手を突っ込んでスマホを取り出そうとする。

……あれ? スマホがない……!?

必死に身体中のいろんなところを探すが、ない。

なくした……!? 脊髄を氷でぶち抜かれたような絶望を覚える。


ふと助手席の雲母を見ると、勝ち誇ったような表情でスマホをちらつかせていた。俺のスマホだ。

俺が鳩尾をやられて悶絶しているスキにいつの間にか取り上げられていた。なくすよりはマシだが楓ちゃんに連絡することはできない。



「おい、どこに連れて行く気だ!?」


運転するメノウに問いかけた。メノウはバックミラーで俺を見てクククと笑った。


「教えるかよボケ。まあ、自己紹介くらいはしてやるよ」


「聞きたくもねぇよそんなもん!」


「そう言うなって。お前が中条家に住んでることを俺たちがなぜ知ってるか、知りたくねぇのか?」


……それは……気になる。

それがバレてるせいでこんなことになったんだから。



「俺は貝塚(かいづか)メノウ。

中条グループのライバル企業、貝塚グループの御曹司だ!」



……貝塚グループ……?

知らん。聞いたことないな。


中条グループのライバル企業なのか? だったら有名で俺も知ってるはずなんだが、そんな企業あったっけ?

中条グループのライバル企業といったらつばきちゃんのいる野田グループだ。貝塚グループなんて知らない。



「ライバルの中条グループの情報は徹底的に調べてある。もちろんお嬢様の中条楓のことも、だ!

中条楓が少し前に安村涼馬とかいう男を拾って星光院学園で働かせているという情報も調査済みだ。その安村涼馬が雲母の元カレだということを知ったのはつい最近だけどな」


……なるほど。金持ちで情報通の彼氏がいるから、俺が今どこで何をしてるかとかの情報がすべて雲母に把握されていたというわけか。


「中条楓が通うバイオリン教室にも参加してるんだぜ? 中条楓のバイオリンの演奏を審査するという偉~い立場でな」


楓ちゃんのバイオリンの生演奏を聴いてるのかこいつ。それは素直にうらやましい。俺も聴きたい。


とにかく、この男が上流階級なのはわかったけどさ。この男が金持ちだというのならどうしても納得できないことがある。



「おい雲母! 金持ちの彼氏がいるんなら俺みたいなのから金をぶん取る必要ないだろうが!」


「何言ってんのよ、メノウにお金を貢がせたりなんかするわけないじゃない。決して金目当てでメノウと付き合ってるわけじゃないし、純粋にメノウを愛してるんだから」


「俺はいいのかよ!」


俺だって一応元カレで、一応雲母に愛してもらっていた存在のはずなんだが、なんだこの扱いの差。



「俺的には金はついでなんだけどな。なんか知らねぇがお前は中条楓がとても大切にしてる人間らしいからよ、お前を利用すれば中条グループを弱らせることができるんじゃねぇかって思ったんだよ」


貝塚メノウは笑顔のまま吐き捨てるようにそう言った。


「……ゲスが……」


「あ? なんか言ったか?」


「ゲスだって言ったんだよ!」


「……てめぇ、到着したら覚えとけよ」


到着したらってどこに到着するんだよこの車は。



俺の不注意のせいで、楓ちゃんにも中条グループにも迷惑がかかると思うと心が痛んで苦しい。

本当に俺のせいで……この罪を償う方法が思いつかないな。死ぬしかないか。




 どこに行くかも知らないまま、車は走る。高速道路を下りてもしばらく走る。

心なしか、どんどん光が少なくなっていってるような気がする。


いや、気のせいじゃない。確実に明かりが減っている。代わりに増えているのは闇と自然。

人が密集している地域から離れ、山がある場所に来ている。


イヤな予感が強すぎて、心臓が不快な音を立てる。

脊髄を氷で押し潰されて、冷たい汗が滲み出てくる。



イヤな予感は完全に的中した。

車が止まった。目的地に到着したらしい。問題はその場所だ。


どこをどう見渡しても、木、土、岩ばかり。深い山奥であった。

死角が多すぎて、悪いことをするにはおあつらえ向きな場所。考えうる限り最悪な場所に連れてこられた。


まさか俺は……ここで殺されて埋められるのか……?

自分は死んだ方がいいとは何回か考えたが、本当に死ぬかもしれない状況に置かれると、生存本能が強く働いて行きたいと強く願うようになり強く恐怖する。



暗くてよく見えなかったが、近くに大きなワゴン車が停まっていた。

そこからゾロゾロと複数の男が出てくる。


最悪なことにそいつらは見えづらい場所でもハッキリわかるくらいの派手な刺青を刻み込んでおり、カタギには見えなかった。


暗闇、山奥、悪そうな男ども。最悪なものをいくつも重ねていた。



「雲母ちゃ~ん!」


刺青の男は雲母に手を振る。雲母も口角を上げながら手を振り返す。貝塚と雲母の2人は刺青男たちの輪に加わる。

こいつら全員、仲間か。



雲母……なんで……なんでこんな暴力団みたいな連中と……


つい最近まで本気で愛していた女だっただけに、ショックもかなり大きかった。

現在進行形で崩れ続けていた俺の中にいる雲母は、ついに砕け散って跡形もなく消えた。

俺が雲母に抱いてきた気持ちは、今この瞬間を以ってトドメを刺された。



「よーし、これから焼肉食いに行こうぜ~」


刺青の男たちのうちの1人がこの状況に似合わない発言をした。


「それがよ、安村のバカが金持ってねぇとかぬかしやがってよ」


貝塚に安村のバカとか言われたんだけど。


「はぁ!? そいつから奪った金で焼肉食いに行くって約束しただろうがよ!」


……こいつら俺から奪った金で焼肉食いに行くつもりだったのかよ。

ははははははははは、バーカ!!!!!! 笑えないけど笑うしかねぇよこんなもん。呆れ果ててバーカとしか言えねぇよ俺は。



「なぁ安村、お前が金持ってねぇせいで俺たち焼肉食いに行く予定がパーになっちまったんだよ。こいつら焼肉を楽しみにして腹を空かせてたのにこれじゃガッカリ感がハンパじゃねぇだろ。

お前のせいだよ、どうしてくれんだよ」


貝塚はすべて俺が悪いみたいな言い方をした。



「知るかボケェ!!!!!! お前金持ちならお前の金で行けや!!!!!!」


なんで俺のせいなんだ、何もかもすべてがふざけんな。言ってることがあまりにもメチャクチャだろうが。

俺はさすがにプッツンした。



「金ねぇならよ、焼肉の代わりにこいつらを楽しませてやるものが必要なんだよ。

女だったら身体で払わせることもできるんだがお前じゃ需要ねぇ。何も貢献できねぇ役立たずの無能ならせめてサンドバッグくらいにはなれや」



何も貢献できない役立たずの無能……

それが自分が一番よくわかっている。今のこの状況は、自分が無能でカスだから招いたものである。


だが、こんなカスの俺でもこんな不条理な出来事くらい跳ね返せるカスでありたい。


このままじゃぶっ殺される。やらなきゃやられる、やるしかない。

こいつら全員ぶっ倒すしかない。1ミリもできる気がしないけど、できないじゃなくてやるんだ。社会人時代だってこんな理不尽の連続だった。

男にはやらなくてはならない時があるんだ。


失禁しそうなくらいビビりまくっている俺だが、なんとか精一杯虚勢を張って貝塚を睨みつけた。



「なんだよその目、やんのか? ガキの頃から格闘技やってる俺とやり合おうってのか? いいぜ、多少抵抗してくれた方が派手なショーになるからよ。

オラ、こいよ」


「うおおおおおお!!!!!!」



ドカッ!


俺は全身全霊の力を込めて貝塚の顔面を殴った。


殴った……が、貝塚はビクともしない。一歩たりとも動くことはない。

俺の拳が頬にめり込んでいても、貝塚はニタリと不気味な笑みを浮かべて、俺は絶望の底に落ちた。



「え、これが全力? マジで? 弱そうとは思ってたけどここまで弱ぇんか、ウケるぜ」


―――ドゴッ!!!!!!


貝塚の拳が俺の顔面に突き刺さり、俺の身体は軽く吹っ飛んで、木の幹に叩きつけられた。


いてぇ……血が……鼻血が……引くくらい出てる。


何……この差は何?

俺とこいつは、身長や体格はそこまで変わらないはず。なのにこの差は何?

俺って、こんなに弱かったのか。ケンカなんて一度もしたことなかったから、自分がこんなに弱いなんて知らなかった。


はい、勝てません。

たった一撃で心もへし折られ、天地がひっくり返っても勝てないことを思い知らされた。



「うおおおおおお!!!!!!」


俺はまた貝塚に向かっていった。

勝てない、心も折られた。それでもやるしかないんだ。



ドカッ!!!!!!


今度は腹に強烈な蹴りを入れられた。また軽く吹っ飛ばされる。

無様に転がされる。生まれたての小鹿みたいにガクガクとしながらなんとか立ち上がる。男たちに笑われる。


雲母も……惨めな俺を見て腹を抱えて笑っている。



雲母……今はもう好きじゃないけど、本当に好きだったよ。

もう無理だけど、本当に愛していたよ、7年も。


7年間の想い出が、ただただ虚しかった。




―――――――――



※楓視点



 夜、道路を爆走する車。

その車の後部座席に座るのは、私、中条楓と、賢三おじい様。

そしてお抱え運転手の中山さんが運転する。



「急いでください、中山さん」


「かしこまりました、お嬢様」



中山さんは運転のプロ。凄まじいハンドル捌きでどんどん進んでいく。

普通の人なら目を回すような荒々しい運転でも、私とおじい様は微動だにせず座る。

目的地はもちろん、涼くんのいるところ。


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